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Entry 2021/07/20
Update

『流浪の月』原作小説ネタバレと結末の感想考察。誘拐事件の被害者と加害者というレッテルを貼られた‟ふたり”の真実の愛

  • Writer :
  • 星野しげみ

映画『流浪の月』が広瀬すずと松坂桃李主演で2022年5月13日(金)に全国公開!

2020年の本屋大賞に輝いた凪良ゆうの小説『流浪の月』は、誘拐事件の“被害女児”だった女性と、その事件の“加害者”とされた当時19歳の大学生の物語。

いつまでも消えない“被害女児”と“加害者”というレッテルを貼られながらも惹かれあう2人を描いた作品です。

小説『流浪の月』が広瀬すずと松坂桃李主演で映画化決定! 監督・脚本を『悪人』(2010)『怒り』(2016)の李相日が務め、2022年5月13日(金)に全国公開!。

映画化決定に伴い、原作小説のネタバレあらすじをご紹介いたします。

小説『流浪の月』の主な登場人物

・家内更紗(かないさらさ)
9歳のときに父を亡くし母は蒸発、伯母の家に引き取られた少女。伯母の家に帰りたくという気持から、優しく声をかけられた青年の家に2ヵ月同居します。そのことで誘拐事件の被害者とされました。

・佐伯文(さえきふみ)
ある理由から大人の女性を避けるようになった青年。公園でみかけた行き場のない更紗を家に住まわせ、幼女の誘拐犯人となってしまいます。

小説『流浪の月』のあらすじとネタバレ

(c)2022「流浪の月」製作委員会

家内更紗(かないさらさ)は、幼い頃は両親の元で平和な暮らしをおくっていました。

浮世離れしていると噂される母と、そんな母を愛する優しい父。2人の馴れ初めは、ある野外フェスに行って隣同士になり、意気投合したからと言います。

浮世離れの意味がわからない更紗が図書館のお姉さんに聞いてみると、「マイペースすぎてやばい人」という答えが返って来て、更紗は納得します。自由奔放でやばい母ですが愛情を一杯受けて、自由気ままに更紗は育っていました。

けれども父の病死と母の蒸発と立て続けに不幸に見舞われ、9歳の更紗は母方の伯母の家に引き取られることになりました。

自由な雰囲気の両親と比べ、伯母は「常識的な人」で窮屈な家庭でした。おまけに伯母の家には従兄の中2の息子・孝弘がいて、更紗に興味を示し、何かといえばちょっかいをだしてきます。

両親に買ってもらった空色のカータブル(布製横長ランドセル)が「普通じゃない」と新しい学校で失笑され、皆と同じ重くてかたいランドセルに代えた更紗。

学校が終わると真っ直ぐに伯母の家に帰るのが嫌で、帰宅途中の公園で毎日友人と遊んでいました。

帰宅時間が来て友人と一緒に公園を出ても、更紗はひとり公園に戻って、暗くなるまで本を読んで時間をつぶします。

そんな時、同じように公園のベンチで時間をつぶす一人の青年がいるのに気がつきました。

伯母の家に自分の居場所などないと感じる日々が続いた日、公園で急に降り出した雨にぼんやりしていると、その青年から「帰らないの?」と声をかけられました。

「帰りたくないの」「うちにくる?」「いく」。

こうして、更紗は19歳の大学生・佐伯文のマンションに行きました。

文のマンションでは、文は更紗の好きなようにさせてくれました。居心地の良い場所をえた更紗は、「ずっとここにいていい?」と文に尋ねます。

「いいよ」という返事に喜ぶ更紗。好きな時に起きて食事して寝て。何の気兼ねもない毎日は更紗に楽しかった両親との毎日を思い出させ、更紗はそのまま文と一緒にマンションで2ヶ月ほど暮らしました。

「9歳の小学生家内更紗ちゃんが下校途中にある児童遊園で友達と遊んだ後、忽然と姿を消しました」。

突然テレビニュースで更紗の名前がでました。更紗は自分の名前が出て驚きます。知らない間に、家内更紗は誘拐事件の被害者となっていたのです。

伯母一家が自分を探していることに安堵した更紗ですが、従兄にあたる孝弘が夜になると部屋に忍んできて自分の身体を触ることを思い出すと、とても帰る気になれませんでした。

梅雨がきても更紗はずっと文のマンションに籠っていましたが、ある日パンダが見たくて、文に動物園に連れて行ってもらいました。

動物園で誘拐された家内更紗と分かってしまい、文はその場で誘拐犯人として逮捕されます。

誘拐された小学生が警察官に抱えられ、泣き叫ぶシーンは居合わせた人の携帯電話で撮影・拡散されていきました。

保護された更紗は警察からの質問を終えると、伯母の家に戻りました。その夜、更紗の部屋に入り込み執拗に迫る孝弘に、更紗は隠し持った伯父さんの酒瓶を振り下ろします。

物音に驚いた伯母夫婦に更紗は叫びます。「前から夜になると私の部屋に来るのよ」。

更紗の言い分は、表に出されることはありませんでした。内内で処理され、更紗は児童養護施設に行くことになりました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『流浪の月』ネタバレ・結末の記載がございます。『流浪の月』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

更紗は児童養護施設で育ち、高校を卒業した後、事務員として就職。恋人もできますが、その後も更紗は「家内更紗ちゃん誘拐事件」の当事者であることがついてきます。

そして事件から15年過ぎ、24歳になった更紗。今一緒に暮らしている亮くんはとても優しい人。結婚も視野に入れているほどです。

幸せそうな毎日のなかで、パート先の送別会に出席した更紗は二次会のカフェに行きました。

初めて入ったそのお店のマスターは、なんと、文でした。

文が更紗をわかったかどうかはわかりませんが、15年たって34歳になっているはずの文なのにあの時と少しも変わらず、更紗には文とはっきりわかりました。

亮の両親に会うために田舎へ行く話がでていますが、更紗はどうも気が進みません。もちろん亮くんは更紗の過去の事件のことを知っています。

「あんなにひどい目にあったけれども、しっかりと前をみている強い子」と親に言っている亮の言葉に、「ひどい目って何だろう。文は何もしていないのに」という思いがこみ上げてきます。

「みんな何か誤解しているのじゃない?」「ねぇ、文、私のこと覚えている?」

事件から数年たったのに、インターネットでは、19歳の少年が逮捕され、1年後には少年刑務所を出たらしいという情報が流れていました。

あれから15年もたつのに、実際にはまだ更紗が「傷モノにされたかわいそうな女の子」であり、文は「ロリコンで凶悪な誘拐犯」というレッテルを貼られ続けられているのです。

こっそりと文の店を訪れた更紗は、文に「私のこと覚えています?」と聞きますが、文の答えは「最近よく店に来てくれますね」ということのみ。

その後更紗は文につき合っているような女性がいることを知ります。更紗は文の今が幸せなことを願って、文に会う前の暮らしに戻ろうとします。

その頃、更紗はパート先のシングルマザー安西さんの娘・8歳の梨花を2、3日預かりました。

亮と3人で楽しい外出をした夜、亮は梨花を連れて町へ出ました。次の日、更紗は自分たちの事件のその後が更新されているサイトで、文の店に梨花らしき少女が座っている写真を見つけます。

「幼女誘拐犯の店に、少女の写真。誰かが現在の文の生活を脅かそうとしているの?」「この写真を投稿したのは、亮くん?」

驚く更紗。ちょうど帰宅した亮にサイトへの投稿のことを尋ねて、喧嘩になりました。

文に対する嫉妬に狂って暴力を振るう亮の頭に、更紗は花瓶をたたきつけ、暴力を受けた痕跡が残る顔のまま、家を飛び出しました。

何処にも行く所のない更紗の足は、自然と文の店に向かいました。

突然訪れた更紗の様子に驚く文ですが、静かに更紗を迎え入れてくれました。やはり文は更紗だと気がついていたのです。

静かにこれまでのことを話す2人。そこへ、「更紗がここにいるんだろう」と亮が駆け込んできました。

激しくドアをノックされ動揺する更紗。全てをきちんとしてくるために、更紗は一度亮の元へ戻る決意をします。

「もうあんなことしないから」と異様に優しい亮のもとで、何事もないように2、3日過ごし、更紗は家を出る計画をたてました。たまたま空いていた文のマンションの隣の部屋を契約することに成功し、こっそりと一人の引っ越しを済ませます。

しかし、黙って家を出た更紗を追って、パート先まで亮がやって来ました。

亮との話し合いをしても、事件の文と2ヵ月の同居のことを‟傷モノにされた”と誤解されたままの話はどこまでも平行線で、更紗の心はどんどん冷え切って行きました。

文は彼女と思しき女性とも別れ、更紗も亮ときっぱりと別れました。

しばらくして、更紗はまた安西さんの娘・梨花を預かることになり、今度は文と一緒に3人であちこち出かけます。

その後、過去の幼女誘拐事件の犯人とその被害女性が一緒になって、友人の娘を預かっているということが噂になりました。

「被害女性は洗脳からまだ解けていなくて犯人と一緒にいる」「知人の娘まで傷モノにされるのだろうか」

文と更紗は、好奇心満載の世間の目にさらされ、窮地に追い込まれました。

世間はみなうわべだけのことを見て本当のことを理解してくれません。実は事件当時、文は第二次性徴がこない病気でしたので、大人の関係などありえないことでした。

けれども、何もなかったという真実は、当事者の2人しかわかりません。

世間から隠れるように、2人はひっそりと暮らし始めました。

それでも、何処で暮らしていても、年に一度だけ、梨花に会いに来ます。梨花は2人のことを理解してくれているのです。

その頃から、口癖のように2人でする会話があります。

「あの事件の2人だとバレたら、今度は何処に行く?」

「どこだっていいよ。どこへ行こうと、ぼくはもう1人ではないのだから」

小説『流浪の月』の感想と評価

2020年の本屋大賞を受賞した『流浪の月』。表紙を飾るのは美味しそうなアイスクリームの写真です。

なぜ、アイスクリームなのでしょう。実は、アイスクリームがこの作品のコンセプトを表しているのです。

更紗の両親は、体調が悪いときの食事にはアイスクリームも許してくれていましたが、伯母さんの家では絶対に‟夕飯にアイスクリーム”は認めてくれませんでした。すでにその時から更紗の心は傷ついていたのです。

‟夕飯にアイスクリーム”という更紗の主張を、文は「好きにすればいいよ」と認めてくれました。何も詳しいことは話さなくても更紗の気持ちを分かってくれるような答えに、更紗は安心感を抱きます。

アイスクリームをご飯替わりにするのは、確かに常識から外れている行為でしょうが、問題はなぜアイスを夕飯に食べたいか、にあります。

体調が悪く熱っぽいから、冷たくてそこそこ栄養価が高いアイスなら食べられるという気持を理解してくれる人が、両親以外に更紗の肉親にいなかったのが不運の始まりでした。

アイスクリームの件からもわかるように、更紗の言葉の奥にある本心を分かって初めて、更紗のことを理解できるというもの。自分のことを理解してくれない伯母の家は更紗が心を許して住む家ではなかったのです。

自分から進んで青年の家に居続けた更紗。そうなるには更紗の家庭の事情というものがあったのですが、物事のうわべだけを見るのが得意な大人たちは、更紗の気持ちを理解しようとはせず、否応なしに「誘拐された可哀想な被害者」にしてしまいました

それは現在同居している恋人であった亮にも言えること。亮も誘拐事件に関する更紗の話をまともに聴こうとしませんでした。一見幸福そうに見える成人した更紗ですが、真実を分かってくれる人は周りに誰もいない状況は、幼い頃と変わりません。

一方の青年、文。彼は正常な男性になれない病気でした。そのことで悩み、大学入学を機に実家を出て一人暮らしをしていました。更紗の寂しい心に気がついたのも、彼が同様の寂しさを持っていたからでしょう。

文が病気だったため、幼い更紗に悪戯することも性的暴力をすることもなかったのですが、世間はそうは見てくれません。

好奇の目にさらされ、誘拐事件の被害者と加害者という烙印は、事件が解決してもずっと2人についてまわりました。

しかし、事実と真実は違います。更紗と文は、本当に大事な部分を周りに理解されずにいる苦しさを長い年月味わってきました

性愛でもなく家族愛ともいえませんが、お互いを大事に思う温かな思いやりや言葉はなくても分かり合える心と心の触れ合いは理想的な絆。

それを2人の愛のカタチとするなら、それは苦悩のはてに掴んだ2人の生きる術です。

こんな愛のカタチもあるのかと驚く反面、それはこの2人にとっては大事なものだから、大切に育んで行って欲しいと願わずにいられません。

映画『流浪の月』の見どころ


(C)2022「流浪の月」製作委員会

広瀬すずと松坂桃李の共演に注目!

誘拐事件の被害者と加害者とされた2人の生き様を描いた『流浪の月』。

不幸な家庭事情で誘拐事件の被害者とされる家内更紗を広瀬すず、誘拐事件の加害者になってしまう青年を松坂桃李が演じます。

海街diary』(2015)や『怒り』(2016)で多くの賞を受賞し、最近では『一度死んでみた』(2020)や『いのちの停車場』(2021)などで演技の幅を広げている広瀬すず。

一方の松坂桃李も、2019年の『孤狼の血』、2020年の『新聞記者』で主要賞を受賞。最新作に『いのちの停車場』(2021)、2021年公開待機作に『孤狼の血 LEVEL2』、『空白』などがあり、こちらも俳優として幅広い活躍をしています。

すでに『いのちの停車場』(2021)で共演している2人ですので、お互いに気心はしれているでしょうが、気になるのは言葉数が少ない更紗と内向的で物静かな文の、被害者と犯人という微妙な位置関係

当事者同士にしかわからない2人で過ごした幸せな時間や突然やってくる破局とその後の絶望感をどう表現するのでしょう。

いやいや、心配は要らないのかもしれません。実力派の広瀬すずと松坂桃李のことですから、きっと、視線を絡ませたり、些細な仕草を用いて、‟孤高の2人”を演じ切ってくれることでしょう。

映画『流浪の月』の作品情報


(C)2022「流浪の月」製作委員会

【公開】
2022年(日本映画)

【原作】
凪良ゆう:『流浪の月』(東京創元社刊)

【監督・脚本】
李相日

【キャスト】
広瀬すず、松坂桃李、横浜流星、多部未華子、趣里、三浦貴大、白鳥玉季、増田光桜、内田也哉子、柄本明

まとめ

2020年の本屋大賞に輝いた凪良ゆうの小説『流浪の月』。

誘拐事件の被害者と加害者というレッテルを張られた当事者たちの真実の姿を描いた小説が、映画化されることになりました。

事実と真実は違う。けれども周りはそれを理解してくれません

過酷な運命と抗いながらもやがて一緒に生きていくことを決意する、更紗と文。

心底惹かれあう被害者と加害者を演じる広瀬すずと松坂桃李の好演が期待されます。

映画『流浪の月』は、2021年5月13日(金)全国公開!

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