映画『孤狼の血 LEVEL2』は、2021年8月20日(金)全国ロードショー。
映画『孤狼の血 LEVEL2』は、柚月裕子原作の広島の架空都市を舞台に警察とやくざの攻防戦を過激に描いた、白石和彌監督による『孤狼の血』(2018)の続編です。
前作で無残な死を遂げた役所広司演じる大上省吾からその意思を引き継いだ新人刑事の松坂桃李演じる日岡秀一が主人公。前作から3年後の広島県を舞台にした物語が完全オリジナルストーリーで展開します。
原作小説3シリーズは『孤狼の血』『凶犬の眼』『暴虎の牙』。そこへ豊田美加が手掛けたノベライズ版も登場しました。
映画公開に先駆けて、『小説 孤狼の血 LEVEL2』を、ネタバレありでご紹介します。
CONTENTS
『小説 孤狼の血 LEVEL2』の主な登場人物
・日岡秀一(映画版のキャスト:松坂桃李)
広島の呉原署勤務のマル暴刑事。暴力団と接する独特の操作方法で、アウトローな一匹狼。
・上林成浩(映画版のキャスト:鈴木亮平)
3年前に日岡によって衰退させられた暴力団五十子会系の組員。刑務所から出所し、復讐に燃える‟悪魔”の構成員。
・近田幸太(映画版のキャスト:村上虹郎)
日岡の情報屋として五十子会に入り込んでいるチンピラ。愛称はチンタ。
・近田真緒(映画版のキャスト:西野七瀬)
チンタの姉で小さなバー「華」のママ。日岡の恋人。
・瀬島孝之(映画版のキャスト:中村梅雀)
元公安の老刑事。嵯峨警視からの依頼で日岡とペアを組む。
・嵯峨大輔(映画版のキャスト:滝藤賢一)
県警本部のトップ。県警刑事の弱みを握る日岡をこころよく思っていない。
『小説 孤狼の血 LEVEL2』のあらすじとネタバレ
昭和63年、暴力団・尾谷組と五十子会系の加古村組の抗争は、五十子正平殺害事件によって、尾谷組と五十子会の親分格の広島仁正会が手打ちをおこなって終止符が打たれました。
安泰が訪れたかに見える広島県呉原市ですが、抗争事件から3年がたった平成3年でも、表向きは終息した尾谷組と五十子会の抗争はくすぶっていました。
ある夜、尾谷組の幹部・橘を狙って五十子会の構成員4人がショーパブに乗り込みました。
拳銃を振り回し、店の客から橘を探そうとしますが、間違えて声をかけたのが、広島県警きっての不良刑事・日岡秀一でした。
実は情報が警察に洩れ、この店にいた客は全員がマル暴の刑事。あっけなく、五十子会メンバーは取り押さえられました。
捕り物が終わったと安心した日岡ですが、その背後から隠れていた五十子会一番のチンピラのチンタが襲い掛かり、隠し持っていたナイフで日岡を刺しました。
逃げ出したチンタはすぐにつかまり、取調室へ。そこへ傷の手当てをおえた日岡がやって来ました。
他の取り調べ官を退け、チンタと2人になると、日岡は「このクソボケ、誰がナイフを使えと言うた、チャカ使う約束じゃろうが」と怒鳴ります。
チンタは日岡のエスと呼ばれる情報屋だったのです。日岡は防弾チョッキを着ていたのですが、チンタが咄嗟に使ったのはナイフで、細いナイフの刃先はチョッキの隙間から日岡の身体に刺さったのです。
思い切りチンタをののしりながらも、日岡は心底彼を憎めません。
3年前の抗争事件で、先輩の大上刑事が無残な死を遂げ、その意思と大上直伝の県警の秘密を書いたノートを引き継いだ日岡は、今ではすっかり大上そっくりのアウトロー刑事になっていました。
実は、日岡は尾谷組と広島仁正会の手打ちを裏で仕切っていたのです。
丁度そのころ、徳島刑務所に服役していた五十子会系列の上林成浩が出所しました。
この上林という男、親父である五十子正平以外何者も信用せず、人を人とも思わない筋金入りの冷血漢でした。
上林が出所して一番にやったこと。それは刑務所の神原看守に対する報復でした。
服役中、神原看守から暴行を受けていた上林は、報復として、神原の実家を襲い、家でピアノ教師をしていた妹・神原千晶を襲いました。
女性ピアノ講師殺人事件捜査本部と称された会議に日岡が呼ばれていくと、以前の上司嵯峨大輔警視がいました。
日岡が脳裏に浮かぶ苦い想いをかみしめている間も、会議は進みます。
頭部、腹部、鼠径部に激しく殴打された損傷があり、眼球も抉り取られ、強姦されたという千晶の遺体に、さすがの日岡も眉を顰めました。
「ガイ者の親族から有力情報を得て、本件は五十子会の組員らによる犯行とも考えられる。五十子会周辺の捜査は、日岡くんに担当してもらおう」と言う嵯峨。
「いったい何を企んでいるのか……」。日岡は不快そうに嵯峨を見つめました。
『小説 孤狼の血 LEVEL2』の感想と評価
原作小説『孤狼の血』は、暴力団と癒着の噂のある大上刑事と組むことになった新米の日岡刑事が、大上と共に暴力団員がらみの事件に関わっていき、大上の無残な死で幕を閉じました。
その続編の映画企画と共に新たにオリジナルストーリーが作られ、ノベライズも発売されました。
本作『小説 孤狼の血 LEVEL2』は、衝撃的な終わり方をした前作から3年後の呉原市を描いており、くすぶり続ける暴力団抗争が一人の悪魔の構成員の出所によって爆発するさまを描いています。
原作小説シリーズの第2弾とは大きく違う続編となったのですが、尾谷組と五十子会の果てしない報復合戦のなりのはてに驚くばかりです。
極道を極めた冷酷非情な悪魔のような男・上林の社会復帰によって、なんとか均衡が保たれていた尾谷と五十子のバランスが大きく崩れます。
また、警察上層部の薄汚い本性を知った日岡は、刑事でありながら裏社会で生きるしかない人々の存在を陰で支える役を担います。それは先輩刑事大上が自分の死をもって日岡に託したものでした。
大上そっくりの捜査方法で警察仲間からは不良刑事と呼ばれ、暴力団からは手打ちにするために両方の組頭を騙したと卑怯者扱いされ、全くの孤立状態の日岡。
周りはすべて敵と思える状況は、日岡の‟甘さ”が作り出したものでした。裏社会の薄汚さと非情さを知り尽くし、その道の人ににた風格も得た日岡ですが、もとはと言えば、広大出身のエリートです。
そしてまだ、アラサー世代。まだまだ甘い人生観を持っていたとしても不思議ではないでしょう。
日岡に比べて、壮絶な幼年期を過ごしたと言えるのが、上林でした。アル中で働かず、子供に暴力を振るうしかない不甲斐ない父親と成す術もなく父に従う母親を持つ上林は、地獄とも言える家庭から逃げ出すために、悪魔になったのでしょう。
「いったい、どうすりゃあがいな人間が生まれるんか……」と言う神原看守の言葉からは、その恐ろしさと哀憐の気持ちが伝わってきます。
自分を唯一認めてくれた五十子親分に全てを捧げるという上林。それが本心なら、暴力団とはそんな寂しがり屋で律儀な人間の集まりと言えるのかも知れません。
人に迷惑をかけ人の命を奪うがゆえに、社会からはじき出される暴力団ですが、それを取り締まるべき警察の内部もかなり怪しいことがいっぱいです。
刑事の身で本当は警察内部にメスを入れたいと思う日岡は、警察にとっても鬱陶しい存在だったのです。
孤独な狼は、強くなれば排除の対象……。けれども、狼にもプライドがあります。たった一人で暴力団と警察内部を相手にする日岡からは、孤高の狼の姿が見えるようでした。
映画『孤狼の血 LEVEL2』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
柚月裕子
【ノベライズ】
豊田美加
【監督】
白石和彌
【脚本】
池上純哉
【キャスト】
松坂桃李、鈴木亮平、村上虹郎、西野七瀬、音尾琢真、早乙女太一、渋川清彦、毎熊克哉、筧美和子、青柳翔、斎藤工、中村梅雀、滝藤賢一、矢島健一、三宅弘城、宮崎美子、寺島進、宇梶剛士、かたせ梨乃、中村獅童、吉田鋼太郎、戸倉毅、播戸竜二
映画『孤狼の血 LEVEL2』の見どころ
映画『孤狼の血 LEVEL2』は、昭和63年の尾谷と五十子の抗争から3年後の広島を描いた物語です。平穏が保たれている暴力団の間に、刑務所から悪魔のような上林が出所し、再び激しい抗争が始まろうとします。
主役の日岡は前作に引き続き、松坂桃李が務めます。前作以上にパワフルかつ冷酷で、外見も大上そっくりに不良っぽくなった日岡。その瞳が見つめるのは、相変わらずジッポーの狼の姿なのでしょうか。
悪魔のような上林を演じるのは、長身でたくましい鈴木亮平。体格からしても上林を演じるのには最適な役者です。
上林はただの暴力団員ではなく、非情極悪、人を人とも思わない所業を平気でやる悪魔です。柔和な笑顔の鈴木が、一変して悪魔の形相をする様は見応えあることでしょう。
このようにライバル級のキャラを挙げただけでも、激しいアクションが予想されます。
見応えありそうなバイオレンスアクションに加え、ストーリー全般に散りばめられた、義理、人情、正義にも注目。そして真実と向き合う日岡の矜持もお見逃しなく。
まとめ
映画『孤狼の血LEVEL2』は、白石和彌監督による『孤狼の血』(2018)の続編です。
映画のオリジナルストーリーから生まれた『小説 孤狼の血LEVEL2』をネタバレありでご紹介しました。
原作小説の3シリーズとは展開が異なります。原作をお読みの方でも『孤狼の血』の大上死後の暴力団抗争がこうなるかもしれないと、また違った視点から見つめ直すことができるでしょう。
原作以上にハードなアクションやバイオレンスがありそうな映画『孤狼の血 LEVEL2』。カシラのためなら命を投げ出す組織の恐ろしさをたっぷりと堪能できそうです。
映画『孤狼の血 LEVEL2』は、2021年8月20日(金)全国公開。