連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第40回
世界各地のホラー、ゾンビ映画など様々な映画を発掘する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第40回で紹介するのは『アンデッド・ドライバー 怒りのゾンビロード』。
ホラー映画に登場するモンスターたちには、お約束のルールが存在します。それを利用してモンスターから逃げのび、いかに退治するのか。またそのルールを破る方法を探すのも、物語の幅を広げるアプローチです。
そんなモンスターの一つ、ゾンビのお約束が「噛まれるとゾンビになる」です。ゾンビになるまでの時間に何をするか、ゾンビになった時にどうするのか。このシチュエーションが様々なドラマを生んできました。
これから紹介する作品もそんなゾンビ映画の一つ。残された時間を希望を求めて爆走!ゾンビロードの先に、果たして何が待っているのでしょうか…。
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CONTENTS
映画『アンデッド・ドライバー 怒りのゾンビロード』の作品情報
【日本公開】
2021年(タイ映画)
【原題】
The Driver
【監督・原案・撮影・製作】
ウィッチ・カオサナヤンダ
【出演】
マーク・ダカスコス、ジュリー・コンドラ、ノエラー二・ダカスコス、ケイン・コスギ
【作品概要】
ゾンビに支配された世で、生存者が暮らすコミューンで治安を守る男”ザ・ドライバー”。ゾンビに噛まれた男の残された時間を描くサバイバルアクション映画。
アントニオ・バンデラス主演の『バリスティック』(2002)を”カオス”名義で監督し、ハリウッドデビューを遂げたウィッチ・カオサナヤンダ監督の作品です。
小池一雄と池上遼一が手掛けたコミックを実写映画化した、『クライング・フリーマン』(1996)のマーク・ダカスコスが主演。その後もアクション俳優として活躍し、『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019)ではキアヌ・リーブスを追いつめる殺し屋を演じました。
マーク・ダカスコスと『クライング・フリーマン』で共演し、その後彼と結婚したジュリー・コンドラ、そして2人の娘ノエラー二・ダカスコスが出演した、家族での共演を果たした作品です。
映画『アンデッド・ドライバー 怒りのゾンビロード』のあらすじとネタバレ
最近、あまり眠れていない。最後にぐっすり眠れたのはいつか思い出せないと語る”ザ・ドライバー”(マーク・ダカスコス)。
あの日以来誰もが同じ状態で、善良な人々は死に絶え嫌な人間だけが生き残ってしまった。俺のパートナーのような奴だ。ドライバーは今、パートナーのジョーの乗せ彼の愛車の青いBMWを運転していました。
ジョーは車のトランクから響く物音に気付きます。トランクに押し込まれたトニーが、何の罪を犯したかジョーは尋ねますが、リーダーから説明されていないと答えるドライバー。
実際にはドライバーは、トニーが密造酒を作るために人々が暮らすコミューンから水を盗んだと知っていました。彼は人の好いトニーが好きですが、リーダーの命令には忠実に従うしかありません。
ドライバーは林の中の開けた場所に車を停めます。2人は拳銃を手に車を降り、トランクの中からトニーを出しました。
猿ぐつわを取るとトニーは叫びますが、ジョーは突き飛ばして黙らせます。トニーに自由な身になり逃げるか、それとも射殺されるかを選ばせるジョー。
トニーが逃げることを選ぶとドライバーは運転席に戻ります。ジョーは別れを告げ空に向け発砲します。
ジョーが乗り込むと車は走り出します。助けてくれと叫んで車を追うトニー。彼は銃声を聞いて集まったゾンビに囲まれます。トニーの絶叫が響き渡りました。
2人は車を停め外に出ます。自分は罪人に運命を選ばせるのが好きだと話すジョー。
それは運命を選ばせる行為ではなく、ジョーの悪趣味な遊びだとドライバーは知っていました。ゾンビで溢れた世界でコミューンの外で生きるのは不可能でした。ジョーは嫌な奴だ、とドライバーは思い知ります。
野外に建てられたスピーカーから放送が流れ、周囲に音楽が鳴り響きます。それを聞いたゾンビがスピーカーの周囲に集まります。音に引きつけられるゾンビは2人に興味を示しません。
ゾンビに噛まれた者は死んでゾンビになります。一度でも噛まれれば多くの者は12時間以内に死に、長く持ってもせいぜい1日でした。
感染者はまず発熱し徐々に動きが鈍り、水を求めやがて死にます。死ぬとすぐに目覚めてゾンビ化します。
世界にゾンビが満ち溢れましたが、騒音が彼らを引き付けます。理由は判りませんが、それが残された人々に生き残るチャンスを与えました。
暗くなる頃にドライバーとジョーの車は、バリケードで囲まれたコミューンに戻ります。車から降りると発電機は順調に運転中で、燃料も半年は持つ報告を受けたドライバー。
コミューンの生活には電力と水と食料が不可欠で、ゾンビやよそ者の襲撃に備え見張りが立っています。ドライバーが念入りに整備する愛車のBMWには、ナンバープレートの代わりに「ユニコーン」の手書き文字が描かれていました。
内部で野菜など作物を栽培しているコミューンは、充分な食事を住民に提供していました。しかし妻と娘以外で信用できる人間は、2人だけだとドライバーは語ります。
1人は寡黙だが頼りになる男リー、もう1人はゴキブリの様に逞しく善良な心を持つ男DJ。器用なDJは外部と連絡を取ろうと無線装置を組み立てます。しかし外部にコミューンの存在を知らせるのは良い行為か、その結論は出ていません。
DJはトニーの死を惜しんでいました。トラブルを起こす奴だがそれでも好きだったと語るDJ。
コミューンのルールには従うしかない、と答えるドライバー。前向きなDJは、今後も短波放送で生存者に呼びかけるつもりです。
セキュリティの責任者であるドライバーは、コミューンのリーダー・ガブリエルに面会します。処刑したトニーを神の名の下に断罪するガブルエル。
外部との交流より現状維持を望み、ルールで住民を縛るリーダーのやり方にドライバーは不満を持っていました。
我々は冷酷になったと訴えるドライバーに、家族と会い幸せな時間を楽しめと告げるガブルエル。勝手なことをするなと警告し、コミューンの生活を少しでも長続きさせようとドライバーに訴えます。
自分は子供たちにもう一度平和な世界を与えたいと祈るだけだ、と答えるドライバー。
リーダーのやり方に疑問を覚えつつ、兵士のように感情を殺し行動するドライバーも、希望を求める信仰だけは棄てずにいました。
しかしドライバーはトニーの母親に責められます。彼の立場を理解する者もいましたが、冷たい目を彼に向ける者も多く心は晴れません。
彼の食事を持ってきたジョーは、トニーとトニーの母に悪態をつきますが、ドライバーは深く語らず自室に向かいます。
部屋には彼の妻シャロン(ジュリー・コンドラ)と、1人娘のブリー(ノエラー二・ダカスコス)がいました。絵を描くのが好きで、犬の見た事のない子供のために犬の絵を描いているブリー。
シャロンから父の絵はどうなったと聞かれ、ブリーはもうすぐ完成だと答えます。しかしコミューンを守る仕事に追われる父は、中々モデルになってくれないとこぼします。
家族で食事をしたいと言う娘に、母はコミューン全体が一つの家族だと言い聞かせます。それはリーダーのガブリエルの言い草と同じだ、と反論するブリー。
そこにドライバーが現れます。親娘3人は共に食事をとり、久々に家族だけの時間を過ごします。部屋の壁にはブリーの描いたユニコーンの絵があり、ドライバーの愛車のプレートもブリーの描いたものでした。
食事を終えると、ドライバーは後でブリーの絵のモデルになるので、5分だけ母と2人で話させてくれと頼みます。
2人になるとシャロンは、処刑されたトニーはコミューンの住人に好かれていたと話します。ドライバーに対する恨みの視線は、私や娘にも向けられると話すシャロン。
コミューンを棄て北にある楽園、ヘブンを目指そう。そのために車と水、食料に銃も準備したとドライバーは語ります。
ドライバーの語るヘブンとは、行き倒れの見知らぬ男が口にした場所でした。ユニコーンを信じる12歳のブリーのように、夢物語を信じられないとシャロンは反論しました。
DJも信じていると言っても彼女は納得しません。夫婦は黙ったまま見つめ合い、ドライバーは謝罪の言葉を口にします。その後キスを交わす2人。
そこにブリーがやって来ます。冗談めかして良いタイミングで来た、とドライバーは語り娘のために絵のモデルになります。
シャロンがもうお父さんを休ませましょう、と言いに来ました。続きは明日にして、娘にキスをしてお休みと告げるドライバー。
その夜コミューンに襲撃者の一団が迫ります。彼らをジョーが手引きしていました。密かに迫る襲撃者は、見張りの男をボウガンで射殺します。
続いて機関銃が掃射され、爆発が起き見張り台が破壊されます。眠っていたドライバーは目覚めました。
爆発は襲撃者のリーダーにも計算外の出来事です。妻にブリーと共に荷物を持ち逃げるよう告げ、部屋から飛び出すドライバー。
爆発音はスピーカーに引きつけたゾンビたちの注意を引きました。ゾンビはコミューンを目指し走り出します。
襲撃者はコミューン内に乱入し住民を襲います。無線放送していたDJも騒ぎに気付き、襲撃を受けたとマイクに叫びます。ここには近寄るな、北にあるヘブンを目指せ。私はヘブンを信じていると叫ぶDJ。
襲撃者は抵抗する住民を殺害します。拳銃を抜いたドライバーは、確実に襲撃者を射殺しました。
騒音で集まったゾンビはコミューン内に侵入します。襲撃の報告に現れたリーに、自分を守れと叫ぶリーダーのカブリエル。
娘の寝室に現れ、逃げるため荷物をまとめるシャロン。ブリーは父がどこか尋ねますが、必要な場所にいるとしかシャロンには答えられません。
リーは住民の避難を誘導しますが、襲撃者との銃撃戦となります。ゾンビがコミューンの施設内に侵入し混乱は増していきました。
コミューンと襲撃者とゾンビの三つ巴の戦いが続き、ジョーはガブリエルの前に現れ銃を突き付けます。裏切者と叫ぶガブリエルを、お前の神はどこにいると叫び射殺するジョー。
逃げ出したジョーを見て裏切りを悟り、彼を追うドライバー。シャロンは娘をかばって逃げていました。
ジョーはゾンビに襲われますが、そのゾンビをドライバーが射殺します。ゾンビに噛まれたジョーに、ドライバーはなぜ裏切ったと叫びます。
お前が車を運転させてくれなかったからだ、と叫ぶジョー。あまりに身勝手な理由に怒りを覚え、ジョーを射殺したドライバー。
リーは襲撃者と銃撃戦を交え、ドライバーは格闘で敵を倒します。そこへゾンビが乱入してきました。
ドライバーを押さえつけた男がゾンビに襲われ、逃れたドライバーはリーの元に駆け付けますが、既に彼は噛まれていました。暗黙の了解の上でドライバーはリーを射殺します。
シャロンと逃げるブリーは、親とはぐれた子供を助けました。しかしゾンビが迫って来ます。娘を先に逃がしゾンビに抵抗するシャロン。
ドライバーが駆けつけますが、シャロンはゾンビに首を噛まれていました。ブリーは止血しなければと泣き叫びますが、彼はもう手遅れだと告げます。
シャロンは自分のブレスレットを形見として娘に渡します。別れを惜しむブリーに、もう行く必要があると告げたドライバー。
ブリーは愛していると母に告げ、その場から離れます。ドライバーとシャロンも別れを終えました。ブリーは鳴り響く銃声を耳にします。
ドライバーは娘を抱え通路を進みます。周囲には多くの死体が散乱していました。ガレージについた彼は愛車のBMWに娘を乗せました。
裏切者のジョーに死は生易しい、ゾンビの餌食にするんだった。奴を撃った時は気分が良かったが、と振り返るドライバー。
これまで自分は生活のため人を殺してきた、今後は生きるために死者を殺すのだ、と自らの運命を嘆きます。バリケードを撤去し、ゾンビを殺し彼は車を走らせます。明るくなった林の間を進む青色のBMW。
人々は北にある楽園ヘブンは、噂に過ぎないと語っていましたが、彼は存在を信じていました。コミューンの外で事故を起こし死んだ家族を見た。家族の男は、息を引き取る前にヘブンを目指していたと言い残します。
ドライバーは娘のためにヘブンを目指し車を走らせます。それは噂かもしれないが、それが私たちの希望だと信じるドライバー。
彼は川の側に車を停めました。息を潜めて川に向かうと父娘は体を水で拭きます。襲撃者が現れた理由を聞かれ、ドライバーはジョーが裏切ったと教えます。
ブリーには理解できない行為でした。奴は報いを受け死んだと告げますが、友人や多くの人々、そして母も死んだと叫ぶブリー。
大声を出すとゾンビを引き寄せる、とドライバーは注意します。ブリーは父の左腕の傷に気付きます。ドライバーは銃弾がかすめた傷だと説明します。
娘をその場から去らせると、ドライバーは傷口を確認します。それはゾンビに付けられたものでした。
彼は自分の運命を悟ります。しかし戻って来たブリーには笑顔を見せました。
近くにゾンビがいるので、親娘は音を立てぬように車に戻ります。ブリーは母は死なれ、自分もいずれゾンビになる、それは12時間後か、もう少し先だと考えるドライバー。
残された時間でヘブンを見つけ、娘に生きるチャンスを与える。それが自分の最期の使命だ、銃弾の最後の1発は自分のために取っておこう、と彼は自分に言い聞かせます。2人を乗せたBMWは走り出しました…。
映画『アンデッド・ドライバー 怒りのゾンビロード』の感想と評価
ゾンビに噛まれやがて尽きる命。残された時間は我が子のために使う。という胸熱展開のゾンビ映画です。
邦題が『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)みたいな本作、調べると製作費は『マッドマックス~』の1/100以下だと怒ってはいけません。
『マッドマックス~』との共通点の検証はさておき、本作の見どころはマーク・ダカスコス、ジュリー・コンドラ、ノエラー二・ダカスコスの実の親子が、ゾンビ・アポカリプスの世を生きる家族を演じる事にあります。
泣ける家族の話を本物の家族が演じた、究極の「ゾンビ・ファミリー・ムービー」の登場です。さあ、映画の展開を思い出してもう一度泣きなさい!
ゾンビ映画にダカスコス・ファミリーが結集!
インタビューで妻と娘との仕事は楽しかった、まるで浮気してるような気分だった、と笑いながら答えたマーク・ダカスコス。
もちろん映画の中の登場人物は実際の人物と違いますが、それでも娘と妻の関係を演じるのは簡単で、楽しく貴重な経験だと振り返っています。
親友でもある監督、ウィッチ・カオサナヤンダ(カオス)の映画に参加するために、ロケ地のタイに向かったダカスコス一家。脚本を読んだ彼は、本作の娘役は自分の娘が出来ると提案し監督もそれを了承しました。
ジュリー・コンドラとの共演は『クライング・フリーマン』以来、しかも彼女にとって映画出演は10数年ぶりです。妻の復帰作での共演は、本当に光栄だとダカスコスは語っています。
実に微笑ましいお話で、その家族愛の姿は劇中でも発揮されました。低予算映画だからのキャスティングだとの指摘はごもっとも。
この低予算映画ならではの”アットホーム感”、時には”いい加減感”とも呼ぶべきムードは、本作の様々な部分で発揮されています。
ダカスコス・ファミリー以外にも気になる人々が出演!
参考映像:『Paradise Z(Two of Us / Dead Earth)』(2020)
本作にはカオサナヤンダ監督の常連俳優が多数出演しています。例を挙げるとリーを演じたチャーリー・ルドポカノンはスタントマンとして監督の作品を支える人物で、本作では少し大きな役に抜擢されています。
コミューンの指導者、ガブリエルを演じたアダム・ザカリー・スミスは、カオサナヤンダ監督作品を何本も製作したプロデューサー。頼まれれば出演もする人物です。
唐突に現れる助っ人美女2人、ローズを演じたアリス・タンタヤノンと、シルビアを演じたミレーナ・ゴラムは、同じカオサナヤンダ監督の映画、なぜか複数題名が存在する楽しそうなゾンビ映画『Paradise Z』(2020)に、本作と同じ役名でダブル主演しています。
本作のDJ役のマイケル・S・ニューも、同じ役名で『Paradise Z』に出演しています。この映画は『アンデッド・ドライバー』の姉妹編か、ひょっとするとニコイチでまとめて撮影した作品でしょうか?
予告編をご覧の方は、全員同じ疑問を抱くでしょう。ミレーナ・ゴラムはホラーコメディ映画『ブラック・ルーム』(2017)で、エッチな夢魔として有名な”サキュバス”を演じ、好事家の注目を集めています。
マーク・ダカスコス主演・カオサナヤンダ監督作『One Night in Bangkok』 (2020)には、アリス・タンタヤノンとチャーリー・ルドポカノン、マイケル・S・ニューが出演しており、製作はアダム・ザカリー・スミスです。
B級映画人脈による、別の意味の”アットホーム感”が漂ってきました。こうした発見もB級映画の楽しみでしょう。
まとめ
以上、B級映画的見どころを中心に『アンデッド・ドライバー 怒りのゾンビロード』を解説してきました。
とはいえストーリーを純粋に楽しめる方なら、ゾンビ溢れる終末世界で描かれた家族愛の姿に、それを演じた実の家族の姿に、ハートを大きく揺さぶられるでしょう。
と感動的に紹介を終えたいのですが、本作は唐突に助っ人美女2人が登場した後に、さらに大本命の助っ人が登場します。そう、ケイン・コスギです。
映画館で鑑賞した際、最後の最後に現れた彼の姿に気付いた場内の全員が、「やっと登場かよ!」と思わず吹き出しました。この愉快な一体感、映画館でしか味わえません。
やはり、映画は映画館で観たいものです。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…
次回第41回、最後の作品として紹介するのは旧ソ連の宇宙開発の現場に、地球外から現れた恐るべき生命体が現れた!SFサバイバルアクション映画『スプートニク』を紹介します。お楽しみに。
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