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Entry 2021/04/29
Update

『鳩の撃退法』映画化の原作あらすじネタバレと感想評価。小説のラスト結末の謎に見た藤原竜也の役柄解説も

  • Writer :
  • 星野しげみ

映画『鳩の撃退法』は、2021年8月27日(金)全国公開

直木賞作家佐藤正午の小説『鳩の撃退法』を映画化した『鳩の撃退法』が、2021年8月27日(金)より公開されます。

藤原竜也、土屋太鳳、風間俊介、西野七瀬、豊川悦司らの豪華キャスト陣を、『原宿デニール』(2015)のタカハタ秀太監督がまとめあげます。

しがない元小説家の男が、偽札事件に巻きこまれ、更に一家三人神隠し事件も絡んで複雑な様相になっていく物語の『鳩の撃退法』。

映画公開に先駆けて、原作小説をネタバレありでご紹介します。

小説『鳩の撃退法』の主な登場人物

津田伸一(映画版のキャスト:藤原竜也)
直木賞受賞経験のある作家。現在はデリヘル嬢の送迎ドライバーをしていますが、後にスナック・オリビアで働きます。

幸地秀吉(映画版のキャスト:風間俊介)
スピンという店を経営。ドーナツショップで津田と出会いますが、その日に家族で失踪。

幸地奈々美
晴山との間で妊娠、秀吉に知られた日に娘の茜と共に家族で謎の失踪をします。

房州書店の老人
古本屋を営む老人。幸地家失踪から1年2カ月後に亡くなります。

沼本(映画版のキャスト:西野七瀬)
ドーナツ店の店員。津田のズボンにコーヒーをこぼすほどそそっかしい。週末はちきちきでアルバイト。

倉田健次郎(映画版のキャスト:豊川悦司)
本通り裏のあるひと。

鳥飼なほみ(映画版のキャスト:土屋太鳳)
津田の小説の熱狂的なファン。オリピアに通い詰める編集者。

デリヘルの社長
津田の雇い主。事件と絡む津田を解雇します。

晴山
郵便局員でコンパニオンから頼まれた津田に深夜の無人駅まで送ってもらい、その後失踪。幸地奈々美の浮気相手。

まえだ
床屋を営む。津田に倉田から逃げるように勧めます。

小説『鳩の撃退法』のあらすじとネタバレ


『鳩の撃退法 上』書影

かつての売れっ子作家津田伸一は、旬を過ぎ今はデリヘルのドライバーも兼業しています。

2月28日の明け方、津田伸一はドーナツ店で幸地秀吉と出会い、津田が持っていた古本屋の「房州書店」で買った『ピーターパンとウエンディ』の本の話に花が咲きました。

今度会ったらピーターパンの本の続きを話そうと、その日2人は軽い約束をして別れますが、店を出る前に津田は定員の沼本からズボンに熱いコーヒーをかけられてしまうという、オチがつきます。

幸地秀吉は妻の奈々美と娘の茜の3人暮らしで、「スピン」というバーを経営しています。

幸地は2月28日に津田と会った後、体調のよくない奈々美に代わって幼稚園へ茜を送りに行き、その時に妻のママ友である慎改美弥子から、夕方から茜を預かる約束になっていると聞きました。

家に帰ると、奈々美が秀吉に妊娠を告白します。

驚く秀吉が詳しく話を聞こうとした時に、本通り裏の男・倉田健次郎から3万円が入った封筒を2、3時間預かってほしいと電話がかかってきました。

秀吉は妻と話し中だったので、「スピン」従業員の岩永に連絡し、手提げ金庫の中に入れるよう指示しました。

けれども、「スピン」では従業員の佐野が封筒を見て、頼んでいた前借の3万円と勘違いして倉田の3万円を持ち出し、友人の大学生に渡しました。

その大学生はデリヘリの高峰秀子の客でした。大学生は佐野から貸してもらった3万を秀子に渡します。

高峰秀子は、大学生から受け取った3万を借金の返済として津田に渡しました。津田はそれを、ピーターパンの本の中に栞がわりに挟みます。

そして、デリヘルで働こうと面接に来ていた奥平みなみを自宅へ送り、ピーターパンの本をそこへ置いて来てしまいます。

奥平はピーターパンの本を津田に返そうと、勤務先のホテルに宿泊した房州老人に預けました。

房州老人は、津田に3万円貸していたので、本にはさんであった3万を取り、うち1万をホテルの支払いに充て、残り2枚は自分のキャリーバッグに入れてしまいます。

一方、幸地秀吉は、奈々美に「妊娠が事実なら、お腹の子の父親は僕じゃない」と言い切りました。

このようにして、2月28日の夕方、幸地秀吉は、妻の奈々美が不貞を働いたことを知りますが、しかしその夜を境に、幸地秀吉と妻、娘の茜の家族3人は行方不明になってしまいました。

それから1年2カ月後、古書店を営んでいた房州老人が亡くなり、津田は形見のキャリーバッグを受け取りました。

バッグの中には、数冊の絵本とピーターパンの古本、それに3000万円を超える現金が入っていました。

喜んだ津田は、キャリーバッグの中から無造作に取り出した1万円を散髪代の支払いに当てますが、その後偽札であることが判明。

一方、本通り裏の男・倉田健次郎一味が周辺をうろついているのを知ったデリヘルの社長は、この街で起きた事件には必ずあの人が1枚噛んでいると津田に警告します。

一家3人が失踪した事件、デリヘルのコンパニオンが失踪し、おまけに彼女のリピーターだった郵便局員が神隠しのように消えてしまっていたのです。

実は、津田は2月28日深夜にコンパニオンから頼まれて、郵便局員・晴山を無人駅まで送っていました。そこで、津田は、幸地奈々美が晴山と合流するのを目撃します。

一家3人失踪事件と郵便局員失踪事件の両方とも、津田が深くかかわっていたのです。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『鳩の撃退法』ネタバレ・結末の記載がございます。『鳩の撃退法』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

その頃、倉田健次郎からの攻撃で身の危険を感じたデリヘルの社長は、津田を解雇します。

5日後、散髪に行った津田は、散髪屋のまえだから、東京の中野ふれあいロードにあるオリビアという店でバーテンダーの働き口があるのですぐ行くように言われました。

まえだの店に本通り裏の倉田健次郎が姿をみせ、偽札の話こそしませんでしたが、ピーターパンの本を探していたと言います。

まえだは、津田があまりに倉田の関わる出来事に絡んでいるので、危険だから早く逃げたほうが良いと津田に忠告したのです。

まえだの忠告に従って、中野に引っ越し勤め先も変えた津田は、倉田に本を渡すため、津田は幸地の店「スピン」や他のバーで聞き込みをします。

その流れで泊まったホステスの家に翌日、倉田の配下の男たちがやってきました。

津田はその中の大河内という男に、ピーターパンの本と金を隠したコインロッカーの鍵を渡しました。

津田が中野フラワーロードにきて3カ月がたちました。

スナック・オリビアで働く津田のもとに、ある日NLH事務局の職員という男が訪ねて来て、「寄付金受領証明書」と記念のバッジを渡されます。

コインロッカーに入れていた大金が大河内経由で寄付されたのでした。

あの大金は全て本物だったのでしょうか? 

中に偽札が混じってなかったのでしょうか?

小説を書く津田の側に、津田の小説の熱狂的なファンで、オリビアに通い詰めている、編集者の鳥飼なほみがいます。

津田は鳥飼なほみにハッパをかけられつつ、自分が経験した2月28日の物語を書き上げていきました。

小説『鳩の撃退法』の感想と評価

主人公が直木賞作家という設定の小説『鳩の撃退法』。

作家が小説を書くのは当たり前ですが、その小説の主人公に自らがなっているという、フィクションと現実が混ざったなんともわかりにくい構成の作品です。

作家・津田伸一は、ドーナツ店で知り合った幸地秀吉に本を貸す約束をしますが、その後、秀吉は妻と娘と3人で行方不明になります。

妻は秀吉に妊娠したと告げますが、秀吉には自分は父親ではないという確証があり、妻の不貞を確認します。そして一家そろって消息が絶えた後、妻の浮気相手である郵便局員も姿を消します。

翌年には、津田の懇意にしている古本屋の老人が死に、形見として津田は老人のキャリーバッグをもらいますが、その中には驚くような大金が入っていたのです。

小躍りする津田ですが、床屋で使用した1万円が偽札とわかり、今度はその大金の処理に困ります。

偽札を掴まされて、様々なトラブルに巻き込まれていく小説家・津田伸一。その内容を小説に仕上げていき、それを読者が読むという現在進行形で物語は展開していきます。

独特な語り口調、小説の中の小説と現実との交錯、2月28日という日の時系列を行きつ戻りつするストーリーと伏線

まるでタイムループするかのように、小説は過去と現在を行き来しますが、実際のところ失踪事件も偽札事件も、真実は解明されないままラストを迎えてしまいます

伏線がすっきりと繋がらず、ラストがどうなるのか全くわかりません。謎解きのために、また最初から読み直したくなる不思議な作品でした。

また興味深いタイトルにも注目します。作品タイトルの「鳩」は偽札を意味しているそうです。

『鳩の撃退法』となると「偽札を掴まずにすむ方法」とでも解釈すればよいのでしょうか

小説の巻頭には、以下のような一文が記されています。

『この物語は、実在の事件をベースにしているが、登場人物はすべて仮名である。僕自身を例外として。津田伸一』

この文章に、すべて一連の出来事の謎が含まれていると言っても過言ではないでしょう。

映画『鳩の撃退法』の作品情報


(C)2021「鳩の撃退法」製作委員会 (C)佐藤正午/小学館

【公開】
2021年(日本映画)

【原作】
佐藤正午

【監督】
タカハタ秀太

【脚本】
タカハタ秀太、藤井清美

【キャスト】
藤原竜也、土屋太鳳、風間俊介、西野七瀬、豊川悦司

映画『鳩の撃退法』の見どころ

小説『鳩の撃退法』は、小説家津田伸一目線で最初から最後まで描かれています。

映画『鳩の撃退法』と大きく違うのは、第三者目線で物語が展開するところでしょう。

津田があるバーで、担当編集者の鳥飼なほみに書き途中の新作小説を読ませているところから物語は始まります。

富山の小さな街で経験した“ある出来事”を元に書かれた津田の新作ということですが、鳥飼なほみは話を聞けば聞くほど、どうにも小説の中だけの話とは思えなくなります。

「大量の偽札」「囲いを出たハト」「一家失踪事件」「裏社会のドン」。鳥飼は津田の話を頼りに小説が本当にフィクションなのかと検証を始めます。

小説は、2月28日の24時間の出来事が津田伸一の自慢ともおごりとも取れる世間話も合間にいれ、行きつ戻りつ描かれていました。

一方の映画では、津田の書く小説をフィクションか事実かを突き止めようと、編集者の鳥飼なほみが動き出すようです。

小説では事件の謎はグレーになっていますので、鳥飼なほみがどこまで小説の真実に迫れるのかと期待は高まります

映画では、小説家の津田伸一を演じるのは藤原竜也。活動的な編集者の鳥飼なほみには土屋太鳳が扮します。

真実がどこにあるのかわからない津田伸一。これまで様々な癖のある役をこなしてきた藤原竜也には、ハマり役でしょう。

鋭く追究する土屋太鳳演じる鳥飼なほみを、どうはぐらかすのかも見ものです。

まとめ


(C)2021「鳩の撃退法」製作委員会 (C)佐藤正午/小学館

『月の満ち欠け』で第157回直木賞を受賞した佐藤正午の小説『鳩の撃退法』をご紹介しました。

小説の中でタイムループのように過去と現在が入り乱れ、なおかつ小説家・津田伸一が小説を書いているという劇中劇を用いたややこしい構成の小説です。

その一方では、「鳩」という謎めいた隠語を用いて、読者をミステリアスな世界へ導いていることも間違いない作品です。

映画版では、『デスノート』(2006)『バトル・ロワイヤル』(2000)「カイジ」(2009~2020)シリーズなどの藤原竜也が津田伸一を演じ、『トリガール』『PとJK』(2017)の土屋太鳳が鳥飼なほみに扮します。

キーマンとなる鳥飼なほみには、ぜひとも小説の中の事件の謎を解いてもらいたいものです。

映画『鳩の撃退法』は、2021年8月27日(金)全国公開







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