連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第37回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第37回は、映画『ヴァンプス VAMPS』は、ロシアの小説家A・K・トルストイが1841年に発表した、ゴシック小説「吸血鬼(vurdalaki)」が原作です。
映画『ヴァンプス』の舞台は18世紀のロシア辺境の村です。この村には古くからヴァンパイア伝説が残り、墓から蘇る死人グールに悩まされていました。
冤罪にもかかわらずロシア皇后によって、追放された神父のラヴルは、村人を守るためグールを撃退し、村の美しい女性を巡るヴァンパイアと戦う物語です。
映画『ヴァンプス』はロシア映画では珍しい、ホラーを製最新VFXを駆使して描いています。
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CONTENTS
映画『ヴァンプス VAMPS』の作品情報
【公開】
2017年(ロシア映画)
【原題】
Vurdalaki
【監督】
セルゲイ・ギンズバーグ
【原作】
A・K・トルストイ
【脚本】
アレクセイ・チム 、ティホン・コルネブ、アレクセイ・カラウロフ
【キャスト】
ミカエル・ポレチェンコフ、コンスタンチン・クリウコフ、アグラヤ・シロフスカヤ、アンドレイ・ルーデンスキー、ミカエル・ジガロフ、イゴール・フリプノフ
【作品概要】
A・K・トルストイの「吸血鬼(vurdalaki)」を題材に、脚本をてがけたのは『魔界探偵ゴーゴリ 暗黒の騎士と生け贄の美女たち』(2019)、『フライト・クルー』(2017)のティホン・コルネブ、同じく「魔界探偵ゴーゴリ」シリーズ、『ザ・コレクター』(2016)のアレクセイ・カラウロフが務めます。
映画『ヴァンプス VAMPS』のあらすじとネタバレ
雨の降る深夜の森で神父が1人の女性に祈りを捧げます。その女性はすでに死んでおり、しばらくするとグールと化し神父ラヴルを襲います。
そんなある日、1台の馬車が棺を乗せて、廃虚となった城に向かいます。150年の年月を越え、邪悪な城主が眠りから覚めようとします。城主はヴァンパイアのビシュテフィ・・・。
ビシュテフィには果たしたい野望があり、150年に一度の皆既日食の日に儀式を行うため、人間の下僕テゥルクを従え城へ戻ってきました。そしてその儀式にはある者の“血”が必要でした。
村で一番美しい娘、羊飼いのミリェーナは、放牧中に子羊が行方不明となり追いかけていくと、森の中で墓石が傾き、盛り上がった土に足を取られているのをみつけます。
ミリェーナは助け出そうとしますが、子羊は墓の下へと引きずり込まれてしまいました。
ミリェーナはラヴルにそのことを報告し、死者の魂を鎮めないと、再び家畜を襲うと心配します。ラヴルはグール(ヴァンパイアのでき損ない)は、人の血を求めるはずだと、彼女とともに祈りを捧げます。
そのころ神父ラヴルの元に向かう使者、アンドレイがいました。ラヴルは君主から村の修道院に左遷されましたが、冤罪とわかり皇帝からの帰還命令を渡すためにやってきました。
しかし、ラヴルは君主の無慈悲で追放され、今さら戻れというのは気まぐれで、ここに来た理由は神の導きで、村人と運命を共にすると言います。辞退の返事を明日取りに来るようアンドレイに言い追い返します。
修道院を出たアンドレイ達は休憩で立ち寄った沼で、水浴びをするミリェーナを目撃し、彼はその美しさに一目ぼれします。
ミリェーナは人の気配を感じ石を投げると、召使の額にあてケガをおわせます。彼女がアンドレイ達を家に連れて帰ると、彼は家中にニンニクが吊るしてあり不思議に思います。
ミリェーナの甥ミシカが「1日1個ニンニクを食べれば、ヴァンパイア知らず」と教えます。そして、祖父にグールもニンニクが嫌いか聞きますが、母親に話しを慎むよう小突かれました。
映画『ヴァンプス VAMPS』の感想と評価
ヴァンパイア伝説は主に東欧に広く伝わっていて、西欧に吸血鬼が伝わったのは、1819年にジョン・ポリドリが発表した短編小説「吸血鬼」によって、広まったと言われています。
欧米のヴァンパイア小説や映画は主に、このジョン・ポリドリの原作が、アイデアになっていると言われています。
ロシア映画は重厚な文芸路線の作品が多い・・・というイメージが強く、映画『ヴァンプス』のような、ホラー映画はあまり馴染みがありません。
そこでロシア産のヴァンパイア映画を作るなら、ロシア人作家“A・K トルストイ”の小説を基にする、というのが必然といえるでしょう。
映画『ヴァンプス』は81分という時間に、吸血鬼の基本中の基本が描かれ、ヒロインとヒーローのラブロマンスもあり、またロシア製VFXを駆使するなど、大衆向けのエンタメ要素が凝縮されています。
ロシアのヴァンパイア伝説とA・K・トルストイ
ロシアの吸血鬼伝説はスラヴ民話の中に登場しますが、罪を犯し教会を追われた者、干ばつや疫病を広める邪悪なものとして考えられていました。
また、ヴァンパイアのでき損ないという“グール”は、イスラム圏に伝承される怪物で、墓をあさって人間の死体を食べ、人間の姿に変身できると言われています。
映画『ヴァンプス』の舞台になっている、ロシアはイスラム圏に近い地域もあります。従僕トゥルクもイスラム系の衣装のように見えまました。
原作者アレクセイ・K トルストイは3つの吸血鬼小説を書いています。「vurdalaki(吸血鬼)」は1841年に発表されました。
物語のアイデアを1838年に滞在したイタリアで得ました。既に発表されていたポリドリの「吸血鬼(1828)」からも、インスパイアされたかもしれません。
アレクセイ・K トルストイの描く“吸血鬼”の物語は、もし愛する者が吸血鬼になったら、その家族や愛する人の血を与え、回心させなければならないというものです。
ラヴル神父は罪を犯し(実際は冤罪)、僻地へ左遷させられますが、皇帝が彼を赦免したことで慈悲の気持ちを表しました。
また、村では家族がグールになれば、その親族の手で逝かせるのが愛、最強のヴァンパイアに変異したミリェーナも、愛するアンドレイの血によって浄化されました。
アレクセイ・K トルストイの3つの吸血鬼小説の中で、「Vourdalak(吸血鬼)の家族」の内容からも、この作品の基になっていると見ることができます。
ところでミリェーナとアンドレイのラブロマンスは、唐突に急展開しますがそれは、脱文芸感を狙ったからかもしれません。
注目される、ロシアのエンタメ映画
近年のロシア映画にもVFX映画の波がやってきてます。映画『ヴァンプス』もその1つと言えるでしょう。
アメリカとの冷戦終結後に生まれ育った若者が、ハリウッド映画から大きな影響を受けたことは容易に想像できます。
アレクセイ・K・トルストイが西ヨーロッパで触れた「吸血鬼」の小説に影響されたように、VFX技術を学んだロシア人が自国の映画に取り込んだのです。
内容自体も既出しているハリウッド映画のロシア版的なモノもありますが、『ヴァンプス』の脚本に携わった、アレクセイ・カラウロフ(1983年生まれ)、ティホン・コルネブ(1981年生まれ)はその影響をうけた世代といえます。
まとめ
映画『ヴァンプス』は、ロシア映画の中でも数少ないホラー映画ですが、その中にはアクションやラブロマンス、民話など多くの大衆的な要素が含まれ、最新VFXも駆使された映画です。
ロシアという広大な国土と多数の民族、複雑な歴史の長さが今後の作品にどんな彩を与えるか、大きな期待が81分という短い時間に凝縮され本作に込められます。
新ジャンルを試み、ロシア映画界に新風を吹き込もうとする、若い映画人の意気込みが感じられ、進化するロシア映画に注目してみる価値を見出すことができます。