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Entry 2021/04/19
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映画『yes,yes,yes』あらすじ感想と評価解説レビュー。家族の喪失を矢野瑛彦監督の圧倒的な熱量で描く|OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録8

  • Writer :
  • 西川ちょり

第16回大阪アジアン映画祭上映作品『yes,yes,yes』

2021年3月14日(日)、第16回大阪アジアン映画祭が10日間の会期を終え、閉幕しました。グランプリと観客賞をダブル受賞した橫浜聡子監督の『いとみち』をはじめ、2021年もアジア各国の素晴らしい作品の数々に出逢うことができました。

今回ご紹介するのは、インディ・フォーラム部門で上映された矢野瑛彦監督の長編映画『yes,yes,yes』です。

愛する家族の喪失を受け入れることの困難さに直面する家族の姿をシンプルに、かつ力強く描いた心打つヒューマンドラマです。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録』記事一覧はこちら

映画『yes,yes,yes』の作品情報

【日本公開】
2021年(日本映画)

【監督】
矢野瑛彦

【キャスト】
上杉一馬、瓜生和成、井上みなみ、川隅奈保子

【作品概要】
宮崎県を舞台に、愛する人の喪失に直面したある家族の姿を描く、『pinto』(2016)、『賑やか』(2017)などの作品で知られる矢野瑛彦監督によるシンプルかつ力強いヒューマンドラマ。

矢野瑛彦監督のプロフィール

1985年宮崎県宮崎市生まれ。ENBUゼミナールに入学し、熊切和嘉監督に師事する。

卒業後はテレビドラマの美術スタッフを経て、自主制作映画や様々なアーティストのPVを製作。

主な作品に『白色背景』(2013)、『pinto』(2016/新人監督映画祭長編部門グランプリ受賞)、『賑やか』(2017/札幌国際短編映画祭ジャパンマノラマ部門入選)がある。

映画『yes,yes,yes』のあらすじ


(C)oaff

母親の小百合の入院日。

深刻な病気の再発で、手術をしてももう助からないかも知れないと、両親から打ち明けられた雄晃は、母を失うという現実を受け入れられずにいました。

病室で母親が彼の手を握って、神様に祈り始めた時、思わず、雄晃は「やめてや」と口走り、手を引っ込めると部屋を飛び出します。

ひとり自宅に帰ってきた雄晃は庭の花壇に咲いた花を踏み潰し、自傷行為として髪を染め上げ、自分の殻に閉じ籠ってしまいます。

母に対して気丈に振る舞う姉のじゅりは、シングルマザーの道を歩む決断をしていますが、父はそれを許そうとしません。

自分のことだけしか考えられずに、家族がバラバラになっていくなか、母親の小百合は、自分が得た様々な気付きを子どもたちにどう届けたらよいか、そのことばかり考えている、と夫に伝えますが・・・。

映画『yes,yes,yes』の感想と評価


(C)oaff

映画『yes,yes,yes』は、愛する人の喪失に直面したある家族の姿を見つめた物語です。生と死、家族の崩壊の危機と再生の姿を、透徹としたモノクロ映像で、力強く描き出しています。

高校生の雄晃にとって、母を失うという事実を受け入れるのは、極めて困難なことです。

「死んだらどこに行くのか?」「死んだら、今いる人たちやこの世のすべてと二度と会えなくなる。」「いつか全部失くなるなら、俺らは今、何のために生きているのか?」

思春期の若者特有の心の揺らぎの中で、思考は虚無的なものへと向かいます。全てが虚しく意味のないものに感じられ、雄晃は己の存在すら否定し、絶望しています。

姉のじゅりは、母親の気持ちに寄り添い、「絶対に泣かない」と心に決めていますが、シングルマザーになる道を決意していることで、父親と激しい言い争いをし、深く傷ついています。

父親は、愛する妻が死に直面していることと娘の体に宿った新しい生命に、言いようのない激しい混乱を覚えています。

母親は「死を受け止めることができた」と語りながらもすぐに「もっと生きたい」と心情を吐露し、「ごめんね」と繰り返します。

矢野瑛彦監督は、そうした様を、家族の動作を捉える引きの画と、人物のクローズアップという2つのショットを組み合わせることによって展開させています。

その試みにより、映画のキャラクターたちはより身近な存在となって観る者の心を捉えます。心情がリアルに伝わり、彼ら、彼女たちに自身の家族の姿を重ねて見る人もいるかもしれません。

むき出しの感情と隔絶が映画の大半を占めていますが、家族だからこその衝突と、家族だからこその再生の姿が、74分という時間に圧倒的な熱量を伴って刻まれています。

まとめ

大きな不安と悲しみを抱きながらも、それらを心の奥底にしまい込み、笑顔を作り仕事に励む父親と姉の、それぞれの姿が映し出される短いシーンが印象に残ります。生きることの辛さと、人間の気丈さが浮かび上がってきます。

その2つのエピソードと、雄晃が途中バスで移動するショットを除くと、全て、病院周辺と彼らの自宅が舞台となっています。中でも自宅での人間の配置や移動、空間の使い方は非常に繊細に構築されており、家族の関係や距離感、あるいはその変化が見事に描き出されています。

それにしても素晴らしいのは、上杉一馬、瓜生和成、井上みなみ、川隅奈保子の役者たちでしょう。彼らは一貫して本物の家族のように見えます。彼らの行動、台詞のひとつひとつが、生々しい衝撃を持って、観る者の心を捉え続けるのです。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2021見聞録』記事一覧はこちら



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