連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第58回
『劇場版 奥様は、取り扱い注意』は、テレビドラマ『奥様は、取り扱い注意』を映画化したものです。
佐藤東弥監督が手掛けた本作で、綾瀬はるかと西島秀俊が元特殊工作員と公安エリートの夫婦を熱演。ワケあり最強夫婦の葛藤と夫婦愛に加えて、ド迫力のアクション満載です。
テレビドラマでは衝撃的なラストを迎えましたが、映画はあのラストシーンから続きます。
「愛か任務か」と、最強夫婦が迎える究極の選択に注目する本作。ごく平凡な夫婦としての幸せそうな姿もふんだんに盛り込まれています。
映画『奥様は、取り扱い注意』作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【監督】
佐藤東弥
【脚本】
まなべゆきこ
【キャスト】
綾瀬はるか、西島秀俊、鈴木浩介、岡田健史、前田敦子、みのすけ、鶴見辰吾、六平直政、佐野史郎、檀れい、小日向文世
【作品概要】
映画『劇場版 奥様は、取り扱い注意』綾瀬はるかと西島秀俊が元特殊工作員と公安エリートの夫婦を演じた人気ドラマの劇場版。
『ごくせん THE MOVIE』(2009)「カイジ 」シリーズの佐藤東弥監督が手掛け、元特殊工作員の菜美役を綾瀬はるか、菜美を見張るエリート公安員の勇輝役には西島秀俊が扮しています。岡田健史、前田敦子、鈴木浩介、小日向文世らが脇を固めます。
映画『奥様は、取り扱い注意』あらすじとネタバレ
海沿いの小さな地方都市珠海市。
桜井久実(綾瀬はるか)は夫桜井裕司(西島秀俊)と二人暮らしです。のんびりした専業主婦の生活で優しい夫がいて、何不自由ない毎日ですが、最近よく夢を見ます。
暗がりのビルの中で、捕虜にされた仲間を取り戻そうと敵と久実。そこへ「おまえは兄貴の仇だ」と大柄なロシア人ドラグノフが現われ、バトルが始まります。
久実が苦戦を強いられ絶体絶命になったとき、突然目が覚めます。
あたりを見回すと、つけっぱなしのテレビに、やりかけだったバーチャルゲームが映っているだけ……。
ゲームのやりすぎで夢を見たと思えばそれまでですが、その割にはとてもリアリティがあるので、久実はいつも不思議に思っていました。
実は桜井久実と桜井裕司というのは、偽名です。
久実は、伊佐山菜美(綾瀬はるか)という名前で、特殊工作員という過去を持っています。菜美の夫・伊佐山勇輝(西島秀俊)は、現役の公安警察であることを隠しながら菜美を監視していました。
やがて愛する夫の正体が菜美にバレて、最強夫婦の派手な夫婦喧嘩が勃発しましたが、お互いの愛を再確認します。しかし、公安の監視下で生きていく未来を菜美は受け入れることができませんでした。
ちょうど半年前、街を揺るがすような大事件を菜美が解決し、菜美が敵地から戻ってくると、家には自分に銃を向ける勇気の姿がありました。
そして、その後ろから突如現れたスパイ集団によって、菜美は頭を撃たれ倒れました。病院で意識をとりもどした菜美ですが、それまでの記憶を失っていました。
勇輝に新しい任務が命じられたのは、そんな頃でした。
地方の珠海市で、新エネルギー源「メタンハイドレード」発掘事業がおこり、その裏でロシアと結託した国家レベルの陰謀が潜んでいる事実を、公安が突き止めたのです。
菜美の記憶が戻る様子がないか監視しつつ、この事実を明らかにして報告するのが、勇輝の新しい任務でした。
上司からの「公安の協力者にならなければ、あの女を殺せ」という一言が、勇輝の脳裏に響いています。
珠海市では、勇輝は高校の数学教師として勤務。
珠海市は新エネルギー源「メタンハイドレード」の発掘をめぐり、開発反対派と推進派の争いが激化し、市長選挙も間近に迫っていました。
推進派の現市長に新エネルギー源の調査会社横尾が媚びを売り、市長への新たな立候補者五十嵐が調査基地建設反対派のリーダーだったため、その派閥に嫌がらせをしています。
新任教師の勇輝は、同僚の矢部教師とともに、反対派の活動に協力していました。
一方、菜美こと久実は、記憶が戻らないので、本当の自分が誰か不安を抱えていますが、毎日買い物をして料理をし、夫勇輝の帰りを待つ日々を過ごしています。
そんなある日、久実は、暴漢に襲われる五十嵐を見かけ、記憶の奥底に潜んでいた正義感が目覚めます。知らず知らずのうちに、猛然と暴漢たちに向かって行きました。
2人ほど投げ飛ばしたときに頭を殴られ、気を失いかけます。その時、久実につけたGPSからその所在がわかった勇輝が助けに来ます。
久実は病院へ搬送されましたが、かすり傷程度で済みました。しかし、久実には、かすかに以前の記憶が戻った兆候がみられたのです。
映画『奥様は、取り扱い注意』感想と評価
2017年に放送されたテレビドラマ『奥様は、取り扱い注意』は、最高視聴率14.5%、最高総合視聴率25.6%を記録。今回、印象深いラストシーンを用いた劇場版として、スクリーンに登場しました。
癒しの久実からハードな菜美へ
映画はテレビドラマのストーリーを引き継ぐ形で、元工作員の菜美が記憶を失い久実という名前で始まります。
菜美がバリバリに活躍したテレビドラマと異なり、映画では前半の主役は記憶喪失の久実です。綾瀬はるかは、久実を演じるにあたり、全く新しい役として受け止めたそうです。
久実は、記憶を無くしているので、自分のことも夫のこともわからず、今、目の前にあるものを大事にしていこうと思っている健気な女性です。
ファッションもパステル系のワンピースといったものが多く、癒し系の守ってあげたい女性として登場します。
相反する、菜美。これはもう一流の元特殊工作員。綾瀬はるかも慣れ親しんだキャラクターで、演じやすかったと言います。
また、幸せな新婚夫婦を演じている劇中の桜井家ですから、お料理場面も頻繁にでてきます。
8等分カットの白菜ステーキやハーブを効かせた料理に、キャベツをカットするシーン。繋がったキャベツには、主婦業に飽きてきているという気持が現れているそうです。
料理やファッションなど、本作の中で久実の日常を細かくチェックしていけば、久実から菜美への変化が見えてきます。
菜美の記憶が戻るのはいつで、その後はどうなるのか。
これがこの作品の一つのポイントですが、観客のそれぞれの視点で捉えられるようになっているのが面白いところでしょう。
菜美と勇輝のラブシーン
前半は静かな本作ですが、後半はガラリと雰囲気が変わって、派手なアクションが炸裂します。
もともとが特殊工作員と公安警察の菜美と勇輝の夫婦ですから、そのアクションは格闘技の王座奪回のチャンピオン戦と言ってもいいぐらいのレベルでしょう。
菜美のアクションはパンチ力では男性に劣るのは分かっているので、綾瀬はるか自らも経験した、東南アジアの伝統武術カリとプンチャク・シロットを用いています。
これは、素早い動きとしなやかな柔軟性に重点を置き、肘や膝、蹴りで相手に向かっていくアクション。運動神経の良い‟綾瀬はるか”ならではの、‟強い女性”のファイティングは必見です。
そんな強いヒロインの相棒には西島秀俊が扮します。アクションを得意とし、公安の人間の鋭さを持ちながら女性を優しく見守るキャラクターと言えば、彼しかいないでしょう。
テレビドラマも含め何回か共演を果たしている2人ですから、夫婦喧嘩のときも、敵に対する時も息はピタリと合っています。
本作において、後半のアクションシーンは、‟最強夫婦のラブシーン”と言い切れるほど、観客を魅了する場面となっていました。
まとめ
『劇場版 奥様は、取り扱い注意』は、綾瀬はるかと西島秀俊が元特殊工作員と公安エリートの夫婦を演じた人気ドラマの劇場版です。
元特殊工作員とそれを監視する公安警察官がいつしか愛しあうようになってそれが発覚して、地上最強の夫婦喧嘩勃発と、テレビドラマの面白さをそのまま引き継いだ形の本作。
設定もストーリーも若干変化をもたせ、専業主婦になり切れない元特殊工作員の悩みも組み込んでいます。
「嘘つき!」「お互いさまだろ!」。
お互いに罵り合いながらも、愛しあう2人に突き付けられた「愛か任務か」の究極の選択は衝撃的であり、主役2人のスタントなしのスケールの大きなアクションとともに、じっくりと楽しめる作品です。