連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第55回
映画『ブレイブ-群青戦記-』は、『週刊ヤングジャンプ』(集英社)で、‟部活×青春×歴史”作品として人気を博した笠原真樹原作の『群青戦記 グンジョーセンキ』を実写映画化したものです。
全国制覇も数多くする部活の名門校の高校生アスリートたち。突然桶狭間の戦い前の戦国時代にタイムスリップし、今川方と間違われ、織田信長軍に仲間を人質に取られてしまいます。仲間を助けて元の時代に戻るために、高校生たちは一丸となって戦国武士に向かって行きます。
本作を手掛けたのは、「踊る大捜査線」シリーズの本広克行監督。新田真剣佑が単独初主演を飾り、後の徳川家康となる松平元康に三浦春馬、天下統一をめざす織田信長に松山ケンイチと豪華実力派俳優が共演。
運動部のスポーツで培った運動神経とチームプレー、文化部系のインターネットや歴史の知識を集結しての命がけの闘いは必見。
映画『ブレイブ-群青戦記-』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【原作】
笠原真樹『群青戦記 グンジョーセンキ』
【監督】
本広克行
【主題歌】
UVERworld
【キャスト】
新田真剣佑、山崎紘菜、鈴木伸之、渡邊圭祐、濱田龍臣、鈴木仁、飯島寛騎、福山翔、水谷果穂、宮下かな子、市川知宏、高橋光臣、長田拓郎、足立英、三浦春馬、松山ケンイチ
【作品概要】
集英社『週刊ヤングジャンプ』で連載された笠原真樹原作の人気コミック『群青戦記』を、「踊る大捜査線」シリーズの本広克行監督が実写映画化。
『名も無き世界のエンドロール』(2021)の新田真剣佑が単独初主演を飾るほか、『天外者』(2020)の三浦春馬、『ホテルローヤル』(2020)の松山ケンイチら実力派の俳優陣が集結。
映画『ブレイブ-群青戦記-』のあらすじとネタバレ
スポーツ強豪校として有名な星徳学院高等学校。校舎の中庭に巨大な霊石を祀っている文武両道の名門校です。
ある年、3年生の不破瑠衣(渡邊圭祐)という男子生徒が校舎の屋上から、霊石めがけて飛びおり、行方不明となりました。
それから1年。
自分に自信が持てない弓道部の西野蒼(新田真剣佑)は、実力があるのに部活にも力が入らなず、幼なじみの瀬野遥(山崎紘菜)と松本考太(鈴木伸之)も、そんな蒼のことを気にかけていました。
いつもと変わらない日々。急に空が暗くなり、一本の雷が校庭に落ちて、生暖かい雨が降り始めました。
学校の外の見慣れた風景は、見渡す限りの野原です。どこからか現れたゾンビのような雑兵たちが、校内に入り込み、槍や刀を振りかざして、生徒たちに襲い掛かりました。
情け容赦なく刀で切り付けられる生徒たちを助けることも出来ず、逃げ惑う蒼と遥。途中から合流した考太とともにグラウンドへ逃げますが、そこもゾンビ雑兵の集団に襲われ、修羅場と化していました。
その時、蹄の音が聞こえ、馬に乗った黒づくめの甲冑の武将が現れます。顔を半分仮面で隠した武将は「簗田政綱(やなだまさつな)」と名乗り、グラウンドにいた生徒たちの中から、人質として5人の生徒を連れ去りました。
蒼は歴史好きでしたので、その名前と武士たちの甲冑を見て、戦国時代を意識しました。そこへまた馬に乗った武将が数人の家来を連れて現れます。
「何処の手のものか」と尋ねる赤い甲冑の武将に、答えるすべもない蒼たち高校生。取りあえず、学校に残っている生徒たちは全員体育館に集められました。
見張りがいる中、生徒たちはどうすればいいのか相談を始めます。
リーダー格の考太に促され、歴史オタクの蒼は、学校がまるごと戦国時代、かの有名な「桶狭間の戦い」の直前までタイムスリップしてしまったことを皆に話します。
連れ去られた仲間たちを助けたい皆を代表し、考太と蒼は松平元康と名乗るその武将(三浦春馬)に取引を求めました。
元康の前で、蒼は自分たちが今川方ではないこと、未来から来たことに加えて、織田信長(松山ケンイチ)に仕える簗田軍に連れ去られた仲間を助け出したいことを述べ、元康が練っていた‟大高城への兵糧入れ作戦”に知恵を授けます。
元康は、刀の切っ先を向けても動じない蒼の毅然とした態度を見て、その話を信じることにします。
ただし、「策を授けましたらからお願いします、ではすまない」。元康は、自分たちの手で織田軍の元から仲間を救い出せと命令を出しました。
密偵からの情報があり、人質となった生徒たちは、大高城のすぐそばの丸根砦にいるとわかりました。考太と蒼は体育館に戻り、そこにいる仲間から砦に突撃する有志を募ります。
集まったのは、野球部、アメフト部、空手部など、運動部を主とする約30人の一団でした。女子の遥もその中にいました。
部活で必要な道具を武器となるように駆使し、身を護るような装具を付けて、決行の時を待つ仲間たち。
自分に自信の持てない蒼は決死隊にはいるかどうか悩んでいましたが、元康と話す機会があり、彼に導かれて、運動部のエースたちとともに、仲間たちを救出するために立ち上がることを決意しました。
映画『ブレイブ-群青戦記-』の感想と評価
蒼の人生を変える元康の言葉
敵の軍勢と間違われて人質となった仲間の救出に向かうことになった蒼たち。
自分に自信が持ずに、青春も友情も部活もどこか他人事のように思う冷めた気分の蒼ですが、幼馴染みの考太を死なせ遥を攫われ、次第に‟今自分がすべきこと”が分かってきます。
元康との対談も何回かあり、武士としての元康の器量の大きさに感化されるところもあったのです。その一つが「一所懸命」という言葉でした。
「一所懸命」は、もともと日本で、中世の時代に主君から賜った一か所の領地を命がけで守ることを指しています。元康はこの言葉を忠実に守っていました。
大切なものを守ること。この思いがそれまでの蒼をガラリと変え、歴史の歪みを目論む黒幕を撃退することになります。
蒼を演じるのは、新田真剣佑。内側からほとばしるような熱い志と決意を‟いい眼”に集結させる演技は、目力のある彼にはピッタリの役でした。
そして、蒼に主君の志を諭す元康は、三浦春馬が演じます。後に天下を収めることになる大器晩成型の英雄・元康には、人を見る眼があるはず。相手の人格を探りあてる思慮深い元康は、三浦春馬そのもののようです。
元康は死ぬ間際に自分の刀を無言で蒼に託しますが、まるでその後の2人を暗示しているみたいで、とても印象深いシーンとなっています。
作品の歴史的背景に注目
この作品が面白いのは、現代の高校生たちが、桶狭間の戦の少し前の戦国時代にタイムスリップすることでしょう。
体育会系の部活の戦い方は、時代劇としてはミスマッチと思われますが、そこがまた一つの見せ場となっています。
野球部は、爆弾を遠投で敵地に投げ込んだり、バッドで打ち込みます。アメフト部は、ボールの中に爆弾を仕掛けて敵地にけり、隊列を組んで敵に体当たりをします。剣道部、薙刀部は文字通り、武具を使って応戦。
特進クラスの科学部の活躍は、現代人の頭脳を使うので、頭脳戦みたいなところもあって楽しめました。
時代背景にも注目! この作品のキーマンとなる高校生の不破瑠衣は、戦国時代では簗田政綱(やなだまさつな)と名乗っています。
簗田政綱は織田信長に仕えた武将なのですが、実は詳細な経歴や計画したとされる奇襲攻撃の実績など不明な点が多いミステリアスな人物でした。
この簗田政綱に現代から来たエリート高校生がなっていたというのが、物語の設定上、とても興味を引きます。
現代で普通だと思っている歴史も、もしかするとどこかで誰かが入れ替わっているのではないかと、まだまだわからない事実がある歴史への興味もわいてくることでしょう。
まとめ
スポーツ名門校の高校生たちが戦国時代にタイムスリップ。生と死をかけて闘う下剋上の時代を、現代っ子の彼らがどう乗り切るのかと、ハラハラドキドキする映画『ブレイブ-群青戦記-』をご紹介しました。
武士が命がけで闘う戦場で、ミスマッチと思われる部活動姿の高校生の一団が、仲間を救うために戦います。
「部活で培った身体能力」と「未来を知る現代人の知識」を生かし、命がけの修羅場をかいくぐる彼らは、本当のブレイブ(勇者)と呼べるでしょう。
高校生たちの活躍もさることながら、本広監督がこの作品でテーマとしていたのは、「継承」だったと言います。
これは映画の中のワンシーンにも表れ、武将キャストと若手キャストの共演にもそのテーマが感じられました。
情け容赦なく殺し合う残忍な闘い場面も多い作品ですが、仲間たちとの笑顔の日々の大切さやそれを守ることの意義を、とても分かりやすく映し出しています。