映画『ワン・モア・ライフ!』は2021年3月12日(金)より全国順次公開
家族をないがしろにし、自分勝手に生きてきた男が、人生最後の92分で、家族の絆を取り戻そうと奮闘する姿を描いた映画『ワン・モア・ライフ!』。
美しい景色が広がるシチリア島のパレルモを舞台にした本作は、本国イタリアで大ヒットを記録した作品です。
イタリアの脚本家フランチェスコ・ピッコロの短編を原作に、ダニエーレ・ルケッティ監督が、前向きになれる人生哲学をユーモラスに描いた、本作の魅力をご紹介します。
映画『ワン・モア・ライフ!』の作品情報
【公開】
2021年(イタリア映画)
【原題】
Momenti di trascurabile felicita
【監督・脚本】
ダニエレ・ルケッティ
【キャスト】
ピエルフランチェスコ・ディリベルト(ピフ)、トニー・エドゥアルト、レナート・カルペンティエーリ、アンジェリカ・アッレルッツォ、フランチェスコ・ジャンマンコ
【作品概要】
事故に遭遇し天国へ送られた男が、92分間だけ蘇る事を許され、最後に家族の絆を取り戻そうと奮闘するハートウォーミング人生コメディ。
主演は、イタリアで俳優だけでなく、脚本家、監督、テレビ司会者、放送作家、ラジオ司会者など、多才ぶりを見せており、ピフの愛称で親しまれているピエールフランチェスコ・ディリベルト。
自分勝手な性格なのに、どこか憎めない主人公のパオロを、愛嬌たっぷりに演じています。
パオロの妻アガタを、歌手として活躍しながら、女優としてもイタリア最高の名誉とされる賞「ダヴィド・ディ・ドナテッロ最優秀主演女優賞」にノミネートされた実績のある、トニー・エドゥアルト。
パオロを監視する天国の役人を、イタリア国内主要映画賞で主演男優賞三冠を達成した、ベテラン俳優のレナート・カルペンティエーリが演じています。
監督は、これまで数々の作品が「カンヌ映画祭」で高い評価を得ており、2017年に教皇フランシスコの半生を描いた『ローマ法王になる日まで』が、日本でも好評を得たダニエーレ・ルケッティ。
映画『ワン・モア・ライフ!』のあらすじ
イタリアのシチリア島、パレルモ港で技師として働く中年のパオロ。
彼の楽しみは赤信号の交差点を、猛スピードですり抜けることでした。
仕事帰りのパオロは、いつものように、赤信号の交差点をスクーターですり抜けようとスピードを上げますが、信号無視をしたバンに衝突され即死してしまいます。
人生最後の瞬間にパオロが思い出すのは、家族の事ではなく、過去に恋人から伝えられた意味深な言葉であったり、タクシーの順番待ちへの不満だったり、冷蔵庫に対する疑問であったりと、くだらないことばかりでした。
天国の入り口に送られたパオロは、自身の死が早すぎることに不満を抱き、天国の役人に抗議します。
天国の役人は「計算に問題は無い」と、当初はパオロの主張を退けようとしますが、パオロが健康の為に、ジンジャー入りのスムージーを飲んでいたことが発覚します。
再計算の結果、ジンジャー入りのスムージーを飲んでいた分だけ、地上に戻ることが許されますが、その時間は僅か92分でした。
天国の役人が見張り役となる為、2人で地上に戻ったパオロは、妻のアガタ、息子のフィリッポ、娘のアウオラと、家族の時間を過ごそうとします。
ですが、アガタは仕事や家事に忙しく、フィリッポやアウオラは、パオロを煙たがり、相手にしようとしません。
家族の時間が過ごせないことに不満を抱えるパオロですが、家族がパオロに冷たく接するのには理由がありました。
人生最後の時間を共に過ごす為、家族の絆を取り戻そうとするパオロの92分間の奮闘が始まります。
映画『ワン・モア・ライフ!』感想と評価
事故により命を失った男が、92分間だけ地上に戻り、家族の絆を取り戻そうと奮闘する様子を描いた、映画『ワン・モア・ライフ!』。
主人公のパオロは、人生最後となる92分間を、家族と過ごそうとするのですが、妻のアガタや息子のフィリッポ、娘のアウオラの心は、パオロから離れており、なかなか思い通りにいきません。
「何故、家族の心が自分から離れたのか?」パオロは悩みますが、物語が進むにつれて、全部が自業自得であることが分かります。
生前のパオロは女性関係にだらしなく、アガタの友人や学校の生徒の母親に片っ端から手を出しています。
アガタは、浮気性のパオロに呆れており、もはや怒りも悲しみもぜず、完全に無関心になっています。
さらに、パオロはフィリッポとアウオラへの家族サービスを放棄しており、自分に影響がありぞうな時だけ、その場しのぎで、子供達の相手をするという、子育てにおいて、恐ろしいほどの適当ぶりを見せます。
友人関係においても、少しでも自分が優位な立場になろうとしたり、友人を信用していない言動を平気でとったりと、はっきり言ってパオロは自分勝手で傲慢で、それでも自分の価値観に絶対の自信を持っている為、他人には厳しいという、どうしようもない男です。
周囲に自分勝手な態度をさんざんとっておいて、人生最後の時だけ、良き夫、素敵な父親、素晴らしい友人になれるはずがありません。
最後の92分で、その事に気付いたパオロは、人生をやり直すことを決意します。
それも、自分の葬式の時に、誰も悲しんでくれないことに危機感を覚えただけなので、自分勝手な事に変わりはないですが…。
そんな人生を変えようとするパオロに立ちはだかるのが、天国の役人の存在です。
天国の役人は「運命は決まっている」と考えており、パオロの行動を「無駄」と言い切ります。
ですが、作品の後半では、決まっているとされる運命に、最後の瞬間まで立ち向かおうとするパオロの姿が描かれています。
その姿から「無駄と思われる抵抗も、道を切り開く事に繋がっていく」というメッセージを感じました。
ある場面で、パオロがアウオラに語る「踏切の話」にも、そのメッセージは込められています。
ヨーロッパのコメディは、ドタバタの笑いよりも、人生の不条理や奥深さがテーマとなっている、哲学的な笑いの作品が多い印象です。
映画『ワン・モア・ライフ!』も、ダニエレ・ルケッティ監督の人生哲学が込められた、明るく楽しい作品となっています。
まとめ
映画『ワン・モア・ライフ!』は、登場人物も個性的な作品です。
主人公のパオロは、前述したように自分勝手な男で、友達にすると面倒くさそうな男ですが、主演のピフが愛嬌たっぷりに演じており、何故か憎めないキャラクターとなっています。
パオロの監視役となった天国の役人は、融通の利かない性格で、無駄に哲学的な言葉を語り、度々周囲を混乱させていきます。
また、パオロの娘のアウオラは、女性の尊厳や社会的な役割に関して主張する、現代の空気が反映されたキャラクターです。
これらの個性的なキャラクターが、現在では人気リゾート地となったシチリア島のパレルモを舞台に、ユーモラスなやり取りを繰り広げます。
ダニエーレ・ルケッティ監督は、パレルモを「天国と現世の間の楽園」と捉えて撮影しており、魅力的な風景が多数登場します。
序盤はファンタジー色が強いですが、全体的には哲学的なコメディとなっており、語られているのは人間賛歌です。
これまでの長い人生の失敗を、僅か92分で取り戻そうとするパオロの奮闘を、是非ご覧ください。
映画『ワン・モア・ライフ!』は、2021年3月12日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開!