連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第7回
世界の様々のSF・ホラー映画など、様々なジャンルのユニークな作品を紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第7回で紹介するのは、アクションホラー映画『Black Site』。
宇宙創造と共に誕生したもの、旧神。彼らはかつて地球を支配していましたが、魔術によって異次元に追放されました。しかし旧神たちは、地球に戻る機会を虎視眈々とうかがっていた…。
H・P・ラヴクラフトが創造した「クトゥルフ神話」の世界を、本格的にモチーフにしたアクションホラー映画の登場です。
「宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)」に挑む、女主人公の闘う姿を描きます。ホラーの世界に親しむ人々の心をくすぐる映画が誕生しました。
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CONTENTS
映画『Black Site』の作品情報
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【原題】
Black Site
【監督・脚本・編集・製作】
トム・パットン
【キャスト】
サマンサ・シュニッツラー、マイク・ベッキンガム、ソフィア・デル・ピッツォ、アンジェラ・ディクソン、ベントレー・カルー、ジェシカ=ジェーン・スタフォード、クリス・ジョンソン、フィービー・ロビンソン=ガルビン
【作品概要】
邪神とも呼ばれる人類の脅威「旧神」。彼らに立ち向かう秘密組織に属する女性の活躍を描く、バイオレンスアクションホラー映画。
監督は「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品『ドント・ゴー・ダウン』(2019)のトム・パットン。SF・ホラー・アクション映画を連発している人物です。
主演は『ドント・ゴー・ダウン』のサマンサ・シュニッツラー。Sky TVで放送されるSFアクションドラマ『Intergalactic 』(2021~)への出演など、SF・アクション映画・ドラマのファンなら注目すべき女優です。
同じくトム・パットン監督のホラー映画、『Redwood』(2017)のマイク・ベッキンガムも出演。ジャンル映画の世界で活躍する人々が結集しました。
映画『Black Site』のあらすじとネタバレ
人類が存在する前、地球は宇宙創造と共に誕生した「旧神」によって支配されていました。しかし人類は魔術を使い、旧神たちを異次元に追放します。
しかし旧神たちは、地球へ帰還する機会をうかがっていました。
1926年、アメリカで地球に舞い戻った旧神を捕らえ、追放する目的を持つ極秘国際機関「アルテミス」が創設されます。
アルテミスの秘密軍事施設「Black Site」は、旧神を異次元へ追放する目的で作られました。
施設はライトフィールド(ELF)と呼ばれる防御システムと、各所に印した魔法円が生む結界により、Black Site内での銃撃や爆発を無効化して守られていました。
1997年のある夜。幼いレンの父でアルテミスのエージェント、ロブ・リードは自宅で旧神エレバスの襲撃を受けます。
ロブの妻は殺されます。旧神の発する妖しい光に囚われた、父の姿を目撃し悲鳴を上げるレン。
現在。軍用ヘリに乗り、武装したアルテミスの戦闘員と共に移動するサム(マイク・ベッキンガム)。
彼は同乗者に話しかけますが、現場の戦闘要員と送還要員の会話は禁じられていると言われ、目的地を悟られぬよう彼は頭に袋を被せられます。
ヘリはアルテミスの極秘施設Black Siteに向かっていました。施設の警備室にいるジョーに、成長しアルテミスの一員となったレン・リード(サマンサ・シュニッツラー)が話しかけます。
人手不足を嘆くジョー。アルテミスの活躍で旧神の数は減り、その結果予算も人員も削減されていました。
現場要員の試験はどうだと聞かれ、レンは今度は大丈夫と答えます。父と同じく旧神と対決する、アルテミスの戦闘員を目指すレン。
彼女はトレーニングに励みます。同僚のレオンハートが現れ、新人のガイダンスを行う時間と告げ、そして試験結果の通知を渡しました。
結果は精神的な問題を理由に不合格でした。やり場のない怒りをサンドバッグにぶつけるレン。
レンの指導者でもある、戦闘要員のジェイ(ベントレー・カルー)に電話で不合格を伝えます。結果はジェイの口から直接聞きたかったというレン。
警備室のジョーは、施設内にレベル10の敵が連行されたと放送を流します。
Black Siteに到着した送還要員のサムは、頭に被った袋を外します。彼は連行された旧神を異次元の追放するために呼ばれました。
新たに配属されたエージェントに概要を説明するレン。施設は過去に旧神の崇拝者に襲撃され、多くの犠牲者を出していました。
それを防ぐためBlack Siteに結界が張られ、その効果で一切の火気は使えず、銃器の使用も喫煙も出来ない空間だと教えます。
煙草を吸えば感電死だと告げ、古びた研修ビデオを見せるレン。
ビデオは再び地球に現れた旧神は弱体化し、人間の体に憑き活動せざるを得ないと解説します。
その旧神を捕らえBlack Siteに連行し、異次元に送還するのが秘密組織アルテミスの任務でした。
旧神と目を合わせてはいけないとビデオは警告します。訓練を受けてない者の精神は、旧神に支配されるのです。
研修を指導した彼女の前に、施設の責任者ジェニファー(アンジェラ・ディクソン)が現れます。連行した旧神は、レンの両親を殺害したエレバスだと告げるジェニファー。
エレバスを連行したジェイは、送還措置の際、レンを立ち会わせるなと進言していました。
旧神が彼女に与える影響を恐れた判断ですが、レンは退去を拒みます。ジェニファーは試練がレンを成長させると判断し、立ち会いを認めます。
到着した送還要員のサムを案内して、送還作業を手助けしろと命じるジェニファー。
危険な旧神の到着に、施設は送還に関わらない職員の退去を指示していました。
現れたレンを見て驚くジェイ。彼女は自分には、両親の仇の送還を見届ける権利があると主張します。
もし彼女の父ロブがこの場にいたら、間違いなくレンを帰したと告げるジェイ。
あなたは私の保護者ではないと言い、レンは指示に従いません。
彼女の主張を認めたジェイ。しかし旧神エレバスの影響で幻覚を見始めたら、必ず立ち去るとレンに約束させます。
到着したエレバス(クリス・ジョンソン)と向かい合うジェニファーとジェイ。憑依した人間の体に文句を言う彼を、ジェイが殴りました。
痛みなど地を這う者の経験、とうそぶくエレバス。彼はこれら異次元に追放されると理解していました。
それまでの時間痛めつけ尋問すると告げ、エレバスを異名で呼んだジェニファー。
全ての物事に名を付けて、支配した気になるのが人間。しかし宇宙には何もなく、宇宙の方では人間など全く気にしない、と語るエレバス。
今は殺人犯、ジェローム・デイビスの肉体に潜むエレバス。ジェニファーは彼が、地球の潜む他の旧神の名前と居所を吐くまで責め続けるつもりです。
エレバスはジェニファーの態度を、力を得た幻想を抱いているに過ぎないと語ります。
自分は宇宙誕生の後、混沌の中から5番目に生まれた、人類の理解を超えた存在だと言葉を続けました。
ジェニファーたちはあざ笑います。秘密機関アルテミスは20年前に、エレバスにとって彼女のような存在の旧神・ニックスを、地球から異次元に追放していました。
孤独な20年を過ごしたとの挑発に、魔法による結界や科学による仕掛けが無ければ貴様らは無力だ、と言うエレバス。
ジェロームの肉体に潜むエレバスを殴り付けるジェイ。
尋問が終わるまで送還要員のサムと共に待機するレン。サムに話しかけられても、彼女はまともに取り合いません。
彼女はサムを無駄口を叩く、退屈な人間と見ていました。
エレバスから何も聞き出せません。ジェニファーはこのままでは情報は引き出せず異次元に送還するだけと言いますが、ジェイは反対します。
彼はかつての同僚で、レンの父であるロブを殺したエレバスを、可能な限り痛めつけようと考えていました。
レン・リードの名を聞き、彼女は成長したと呟くエレバス。
自分は彼女とつながっており、施設内に彼女の存在を感じると言いました。
エレバスの態度に危険な意図を感じジェニファーとジェイは、レンを施設から離れさせようとします。
もう手遅れだ、彼らがやって来たと告げる旧神エレバス。
Black Siteの警備室のジョーは、ガスが撒かれ警備要員が倒れる姿をモニターで確認します。多くの侵入者が施設内に現れました。
ジョーもガスで倒れ、侵入者に制圧される警備室。
話しかけてくるサムに、つれない態度をとっていたレンは異変を察知します。
火器の使用できない施設内で、侵入者とアルテミスのエージェントとの戦闘が発生していました。
銃が使えない以上、数で勝る侵入者側が有利です。エージェントは次々倒されます。
レオンハートは警棒で立ち向かいますが、敵の操る日本刀で殺害されました。
彼女を斬り殺した女、リーダーのカー(フィービー・ロビンソン=ガルビン)は、送還要員の身柄を確保するよう部下に命じます。
警備室を確保した侵入者が施設内を調べ、エレバスは送還ゾーンに送られたとカーに報告します。
ジェニファーとジェイは侵入者と遭遇します。次々と敵を倒すジェイ。
カーはエレバスの身柄を渡せば引き上げると告げます。ジェニファーは拒否し、ジェイとカーは格闘になります。ジェイは斬られ深手を負いました。
非常事態にBlack Siteのセキュリティシステムは、各区画を遮断する電撃フィールド、ELFを張り巡らせます。
レンは状況を確認しようとして、あの日両親を襲った旧神の幻想に襲われます。
立ち尽くすレンは宇宙へと伸びる光を見つめます。彼女の異変に気付き声をかけ、意識を取り戻させたサム。
侵入者から身を隠す2人。レンはエレバスを追放すべく、サムを送還ゾーンに送ろうと決意します。
侵入者のリーダー、カーは部下に送還要員の捜索と、送還ゾーン侵入のためにELFシステムの解除を命じました。
送還ゾーンに封じられたエレバスの前に、負傷したジェイとジェニファーが現れます。
インターフィンを使いレンに、送還ゾーンに自分とジェニファー、そしてエレバスがいると教えるジェイ。
レンは闘うスキルの無いサムにナイフを持たせ、優れた頭脳を持つ彼に、映像記憶能力があるか尋ねます。
彼が認めると、各区画のセキュリティシステム解除のコードを、記憶して欲しいと告げるレン。
レンは遭遇した敵と格闘し、1人をELFで感電させ、1人をサムに渡したナイフで刺殺します。
出血の激しいジェイをあざけるエレバスに、今夜必ず追放すると宣言するジェニファー。
傲慢な態度を見せる旧神に、今や地球で人間の体に潜む、隠れて生きる存在になり下がったとジェニファーは言い放ちます。
自分たちの共通の友人、レンの到着を待とうではないかと告げるエレバス。
映画『Black Site』の感想と評価
開始直後、ジョン・カーペンター監督作品でお馴染みのフォントの文字で、クレジットが登場。
古い感じのCGが、防護壁に囲まれた秘密軍事施設「Black Site」の全体図を描き出します(マンハッタン島ではありません)。
そして”1997″の文字が大きく映し出されます。
以上、ジョン・カーペンター監督の『ニューヨーク1997』(1981)へのオマージュ(パロディ?)でした。理解できた方は、トム・パットン監督に盛大な拍手を送って下さい。
ジャンル映画メーカーとして活躍する、パットン監督らしいオープニングでした。
宇宙の深淵から迫る恐怖は意外に小市民的?
今やホラーファン以外にも知れ渡る、クトゥルフ神話的な世界が登場します。劇中に登場する旧神と対決する国際機関、「アルテミス」が誕生したのは1926年。
この年はH・P・ラヴクラフトがクトゥルフ神話の世界を確立した小説、「クトゥルフの呼び声」を執筆した年です(発表は1928年)。
旧神に人類が魔術と科学と武器で挑む。聞いたことない難しくカッコいい言葉が連発、主人公は闘うお姉さんで、敵のお姉さんは日本刀を振り回す。
SF・ホラー・アクションの世界が好きな人なら、涙を流して喜ぶ設定です。「中2病」と笑うなかれ、こんな魅力的な世界を構築するのがクリエイターのお仕事。人間の空想に限界はありません。
しかし人間が目撃したら発狂するとか、この世に現れたら世界が崩壊するとか、スケールの大きい邪神が登場するクトゥルフ神話に対し、本作の旧神は可愛らしいもの。
思わせぶりな会話で人をおちょくり、やせ我慢はしますが痛いのは苦手だったり、別れた彼女(?)にも傷心ぎみ。思わせぶりに登場する触手を持つ姿は、何だかよく判りません。
登場人物と渡り合える、スケールダウンした旧神が登場する本作。人間の世界に潜むうちに、人間に染まったと説明していますから、納得してもいいはずです。
日本にはクトゥルフ神話の邪神を主人公にした、萌え系アニメ作品もありますから、ここは広い心で許してあげましょう。
女性による銃器未使用アクションを楽しもう
参考映像:フィービー・ロビンソン=ガルビン・アクションリール集(2020)
本作のミソは銃器が使用できない設定。まるで小説やアニメでお馴染み「銀河英雄伝説」の世界のようです。この映画、かなり重症の「中2病」発症の模様です。
これは格闘シーンを見せたい、それも女性の主人公で、という目的を果たすために用意した手段に過ぎません。
主人公を演じたサマンサ・シュニッツラーは、アクションのできる女優として活躍します。
敵役のフィービー・ロビンソン=ガルビンは『ワンダーウーマン』(2017)や、『ジャスティスリーグ』(2017)のスタントウーマンとしても活躍しています。
パットン監督作品への出演を通じ、彼女は役者としての活躍の幅を広げています。
本作にクトゥルフ神話的恐怖を期待してガッカリした方、彼女たちが披露したアクションシーンに注目して下さい。
まとめ
ジャンル映画メーカー、トム・パットン監督らしい要素にあふれる映画『Black Site』。様々な設定が与えられましたが、一番の魅力はアクションです。
ところが肝心のアクションの合間に会話が入り、散漫になったのは頂けません。画面も暗く引きで撮った映像が多くて、格闘の迫力を充分に伝えきれていません。
「中2病」趣味はセリフにも登場、凝った設定やらアイテムやらを説明したり、かっこいい言い回しをやたら多用するなど、これが映画のリズムを乱す始末。
冗長な印象が印象が全編に漂います。アクションはテンポよく、たたみかける様に見せて欲しいもの。色々詰め込んだ結果、残念な映画になった感は否めません。
同じくクトゥルフ神話の影響を受けたビデオゲームを映画化した、『アローン・イン・ザ・ダーク』(2005)というウーヴェ・ボル監督作品があります。
この映画の評判も振るわず、特にゲームファンからの酷評は凄まじく、ゴールデンラズベリー賞に2部門ノミネートされました。
以降もジャンル映画を作り続け、一時ラジー賞の常連監督となったウーヴェ・ボル。やがて彼はB級映画ファンから愛される存在になります。
本作には、ウーヴェ・ボル監督作品に漂っていた匂いを感じます。しかしジャンル映画への愛情は、それを大きく上回っています。
パットン監督作品には何か憎めない、奇妙な親近感を覚えます。B級映画を愛する人ならこの気持ち、理解してくれるでしょう。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…
次回、第8回は中国の武侠小説の世界を完全映画化!伝奇剣劇アクション映画『セブンソード 修羅王の覚醒』を紹介します。お楽しみに。
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