デヴィッド・クローネンバーグ監督の問題作が4K無修正版で2021年公開!
『ザ・フライ』(1986)、『裸のランチ』(1991)の鬼才、デヴィッド・クローネンバーグ監督が1996年に発表した『クラッシュ』。
自動車事故で性的興奮を覚える人々を描いた、イギリスの作家J・G・バラードの小説を見事に映画化した本作が、新たに『クラッシュ 4K無修正版』として、2021年01月29日(金)よりシネマート新宿ほかで全国順次ロードショーされます。
CONTENTS
映画『クラッシュ 4K無修正版』の作品情報
【製作】
1996年(カナダ映画)
【4K無修正版公開】
2021年
【原作】
J・G・バラード
【原題】
Crash
【監督・製作・脚本】
デヴィッド・クローネンバーグ
【撮影】
ピーター・サシツキー
【音楽】
ハワード・ショア
【キャスト】
ジェームズ・スペイダー、ホリー・ハンター、イライアス・コティーズ、デボラ・カーラ・アンガー、ロザンナ・アークエット
【作品概要】
イギリスのSF作家J・G・バラードが1973年発表の同名小説を、1996年にデヴィッド・クローネンバーグ監督が映画化。
自動車事故をきっかけに、倒錯したセックスにのめりこむようになった男女を描き、過激な性描写が賛否両論を巻き起こすも、第49回カンヌ国際映画祭で審査委員特別賞を受賞しました。
主要キャストに、2013年放送開始の人気テレビドラマシリーズ『THE BLACKLIST ブラックリスト』のジェームズ・スペイダー、『ピアノ・レッスン』(1993)のホリー・ハンター、『グラン・ブルー』(1988)のロザンナ・アークエット。
本作は、長らく紛失状態にあった35mmオリジナルネガがカナダで発見されたのを機に、クローネンバーグとタッグを組んでいる撮影監督のピーター・サシツキーが、3ヶ月かけて4K化したバージョンの上映となります。
映画『クラッシュ 4K無修正版』のあらすじ
ある日、映画プロデューサーのジェームズ・バラードは、車で正面衝突事故を起こします。
相手ドライバーのレミントン夫妻は、夫が死亡し、妻ヘレンはジェームズと同じ病院に運び込まれることに。
院内でジェームズは、夫の死に動揺していないヘレンと、彼女に付き添うヴォーンという男と会います。
退院後、ジェームズは廃車となった自分の車を見に行った場所でヘレンと再会し、その車内でセックスをします。
2人は、自動車事故の瞬間に性的エクスタシーを覚えるようになっていたのです。
やがてジェームズは、ヘレンによってヴォーンが主宰の、“クラッシュ・マニア”と呼ばれる秘密の集団の会合に招かれ、さらにその世界にのめり込んでいくことに…。
映画『クラッシュ 4K無修正版』の感想と評価
「ニューウェーブSF」提唱者による倒錯した性愛
本作『クラッシュ 4K無修正版』の原作者J・G・バラードは、「SFは外宇宙より内宇宙を目指せ」と提唱する「ニューウェーブSF」の先駆者として、1960年代から人間の心(精神世界)をテーマとした小説を次々と発表。
『沈んだ世界』『燃える世界』『結晶世界』の、俗に言う「破滅三部作」などでのシュールな作風が話題を呼びました。
そんな中、バラードは1968年に、自動車事故がもたらす性的エクスタシーを綴った短編『衝突!』を発表し、さらに72年には、その短編を元にバラード自身が主演するテレビドラマ『Crash!』を製作(Youtubeで視聴可能)。
そうした段階を経て、彼が73年にあらためて執筆したのが、本作の原作となった長編『クラッシュ』となります。
バイオレンスとエロティシズムを追及する監督クローネンバーグ
本作監督のデヴィッド・クローネンバーグは、デビュー以降、センセーショナルかつタブーの領域に挑むかのようなテーマの作品を撮り続けています。
そのテーマとは、登場人物が現実世界とは別のもう一つの世界に足を踏み入れていくというもの。
『ヴィデオドローム』(1982)では拷問や殺人メインのアンダーグラウンド番組に魅了される男を、『ザ・フライ』では物質転送装置によりハエと融合してしまう男を、『イグジステンズ』(2000)ではバーチャルリアリティゲームをめぐる陰謀に巻き込まれる男女を、それぞれ描きました。
加えてクローネンバーグは、バイオレンスでグロテスクかつエロティシズムな描写を躊躇なく多用。
アングラ番組によって暴力的かつ性的な幻覚に惑わされる男が主人公の『ヴィデオドローム』は言わずもがな、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』(2005)では夫の秘められた暴力性に戸惑うと同時に性的魅力を感じていく妻が描かれます。
少年時代からフランツ・カフカやウィリアム・バロウズ、フィリップ・K・ディックといったニューウェーブSF小説を読んで育ったクローネンバーグ。
そんな彼が、ニューウェーブSF小説の提唱者であるバラードの作品を熟読していないはずがありません。
かつて、ディック原作の『追憶売ります』の映画化が頓挫し、悔しい思いをしたクローネンバーグにとっても、バラード作品の映画化は是が非でも実現させたい企画でした。
自動車事故を機に、異性だけでなく同性同士、さらには車同士によるさまざまなセックスが描かれる原作『クラッシュ』の序章で、バラードはこう綴ります。
『クラッシュ』全体を通して、わたしは単なる自動車を性的イメージではなく、今日の社会における人間生活全体のメタファーとして使用している。
人間は予期せぬ事態に追い込まれたときほど、自身の個が確立される――クローネンバーグは、自動車事故というバイオレンスと、死と性的エクスタシーの境界線に憑りつかれた者たちの姿を通し、社会に実存する悦びを忠実に映像化しています。
ちなみに、フィリップ・K・ディックもやはり人の実存を問うSF作品を手がけてきた作家ですが、彼の『追憶売ります』をクローネンバーグに代わってポール・バーホーベンが映画化した『トータル・リコール』が、本作とほぼ同時期に「公開30周年記念」として4Kデジタルリマスター版が上映されるのも、何かの因縁を感じます。
『トータル・リコール 4Kデジタルリマスター』(2020)
まとめ
「理性を抹殺しなさい」。
フィルムメーカーが自作について語る書籍『クローネンバーグ オン クローネンバーグ 映画作家が自身を語る』(フィルムアート社・刊)にて、クローネンバーグはインタビュアーにそう告げています。
この言葉こそ、クローネンバーグ作品の何たるかを如実に表しています。
本作の登場人物であるジェームズやヘレン、ヴォーンたちが取る行動は、普通の理性や価値観では理解できないかもしれません。
しかしクローネンバーグは、そうした概念に常にクエスチョンを投げかけます。
クローネンバーグが提示するもう一つの世界に、あなたも足を踏み入れてはいかがでしょうか。
『クラッシュ 4K無修正版』は、2021年01月29日(金)よりシネマート新宿ほかで全国順次ロードショー。