Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

サスペンス映画

Entry 2020/11/16
Update

映画『ヒッチャー』感想考察と内容解説。サスペンスおすすめの極上名作が2021年にリマスター版にて劇場公開

  • Writer :
  • 松平光冬

ルトガー・ハウアー怪演のサスペンススリラーがニューマスター版で2021年公開!

2019年7月に75歳で亡くなった名優ルトガー・ハウアーが、謎の殺人ヒッチハイカー役を怪演し話題となった1986年製作のサスペンス映画『ヒッチャー』。

クリストファー・ノーラン、J・Jエイブラムスといった名だたるヒットメーカーも絶賛するこの作品が、新たに『ヒッチャー ニューマスター版』として、2021年1月8日(金)よりシネマート新宿ほかで全国順次ロードショーされます。

映画『ヒッチャー ニューマスター版』の作品情報

(C) Filmverlag Fernsehjuwelen. All rights reserved.

【製作】
1986年(アメリカ映画)

【ニューマスター版公開】
2021年

【原題】
The Hitcher

【監督】
ロバート・ハーモン

【脚本】
エリック・レッド

【製作】
キップ・オーマン、デビッド・ボンビック

【製作総指揮】
エドワード・S・フェルドマン、チャールズ・R・ミーカー

【撮影】
ジョン・シール

【音楽】
マーク・アイシャム

【キャスト】
C・トーマス・ハウエル、ルトガー・ハウアー、ジェニファー・ジェイソン・リー、ジェフリー・デマン

【作品概要】
シカゴからサンディエゴへと向かう砂漠地帯で、1人のヒッチハイカーを拾った青年ジムが巻き込まれる死のドライブを描く、1986年製作のサスペンススリラー。

主人公ジム役を『アウトサイダー』(1983)のC・トーマス・ハウエル、ドライブイン店員のナッシュ役を『ヘイトフル・エイト』(2015)のジェニファー・ジェイソン・リー、そして『ブレードランナー』(1982)のルトガー・ハウアーが謎のヒッチハイカーをそれぞれ演じます。

監督のロバート・ハーモンと脚本のエリック・レッドは本作が長編映画デビューとなり、撮影監督のジョン・シールは後年、『イングリッシュ・ペイシェント』(1996)でアカデミー撮影賞を受賞することとなります。

映画『ヒッチャー ニューマスター版』のあらすじ

(C) Filmverlag Fernsehjuwelen. All rights reserved.

シカゴからサンディエゴへの砂漠地帯を陸送する青年ジム・ハルジーは、ある雨降る嵐の夜、1人のヒッチハイカーを車に乗せます。

ところが、ジョン・ライダーと名乗るその男は、ジムの喉にナイフを突きつけ「俺を止めてみろ」と脅しはじめます。

一瞬の隙を突いて、ジョンを車から突き落としたジムでしたが、彼は執拗に追い続けます。

やがて事態は、警察やドライブインウェイトレスのナッシュらを巻き込み、悪化していくのでした…。

映画『ヒッチャー ニューマスター版』の感想と評価

(C) Filmverlag Fernsehjuwelen. All rights reserved.

ドアーズの名曲から生まれたサスペンススリラー

本作『ヒッチャー ニューマスター版』は、脚本家のエリック・レッドが好んで聴いていたという、1950年代初頭のアメリカで実在した連続殺人ヒッチハイカーを歌った、ドアーズの『嵐をこえて』から着想を得ています。

加えてエリックは、『激突!』(1971)や『悪魔の追跡』(1975)などのカーアクション映画にオマージュを捧げつつ、1980年代が舞台のサスペンススリラーへと昇華。

監督には、白バイ警官の逸脱した狂気を描いた短編『China Lake』(1983、日本未公開)を撮ったロバート・ハーモンが、エリックの脚本と相通じるものがあるとして抜擢され、結果的に両者ともにこれが長編映画デビュー作となりました。

続編&リメイクは多くのヒットメーカーに影響を与える

(C) Filmverlag Fernsehjuwelen. All rights reserved.

1986年に公開された本作は、観る者にジワジワと迫る恐怖演出と予想のつかない展開が話題を呼び、ヒットを記録。

後年、本作の主人公ジム・ハルジーが警官となって再登場する続編『ヒッチャーII 心臓“完全”停止』(2003)や、ショーン・ビーンが殺人ヒッチハイカーを演じたリメイク版も2007年に製作されるなど、多くのフォロワーを生みました。

フォロワーの中には、リメイク版を手がけた映画監督兼プロデューサーのマイケル・ベイを筆頭に、クリストファー・ノーランJ・Jエイブラムス、さらにはホラー小説家のスティーヴン・キングといった、現在エンターテインメントの第一線で活躍する人物が名を連ねます。

なかでもノーランは、ジョン役のルトガー・ハウアーの演技を「渾身のサイコパフォーマンス」と絶賛し、『バットマン ビギンズ』(2005)で出演をオファーしています。

『ダークナイト』にも影響を与えた⁈

(C) Filmverlag Fernsehjuwelen. All rights reserved.

本作の見どころは、なんと言ってもルトガー演じるジョン・ライダーのキャラクターです。

なぜ彼がヒッチハイクをするたびに殺人を犯すのか、その理由は一切明かされません。

それでいて、一度逃げられたジムを執拗に追いかけ、殺すかと思えば生かして逃すという行為を繰り返します。

「砂漠に現れた幽霊のような存在」と自身が演じたジョンを評したルトガーの得体のしれない不気味さに、ジム役のC・トーマス・ハウエルも、撮影時はあまり彼に近づこうとはしなかったとか。

クリストファー・ノーランが本作のフォロワーだとは前述しましたが、『バットマン ビギンズ』の続編『ダークナイト』(2008)のヴィランであるジョーカーもまた、強盗や破壊を繰り返す明確な目的や理由が明かされません。

ジョンもジョーカーもロングコートを羽織り、わざと相手を挑発する行為を取るあたりも共通していますし、もっと言うと、直接の殺害シーンを極力見せない演出や、後半にかけてのあらすじ展開など、本作と『ダークナイト』はかなり似ています

ノーランがあらゆる点で『ダークナイト』製作に本作の影響を受けているのは、想像に難くありません。

“死”のロードムービーを見逃すな

(C) Filmverlag Fernsehjuwelen. All rights reserved.

惜しくも2019年に亡くなったルトガー・ハウアーですが、彼の名を一躍知らしめたのが、『ブレードランナー』でのロイ・バッティ役です。

そのロイは、酸性雨に打たれながら「死ぬ時が来たようだ…(Time to die…)」とつぶやき、永遠の眠りにつきます

そして、本作『ヒッチャー ニューマスター版』では、どしゃ降りの中で佇んでいたジョン・ライダーが、「『死にたい』(I want to die)と言え」とジムを脅します

「雨」と「死」というロイと同じ共通項を持つジョンもまた、ルトガーの当たり役と言っても過言ではないでしょう。

もちろん、序盤こそターゲットにされて怯えるばかりだったのに、次第に闘う男の顔になっていくジム役のC・トーマス・ハウエル、恐怖の連鎖に巻き込まれる女性ナッシュ役のジェニファー・ジェイソン・リーといった、他のキャストからも目が離せません。

「俺を止めてみろ」と挑発するジョンと、絶望の淵まで追い詰められたジムの対決の行方は?

HDリマスター化によって鮮やかによみがえった、ジョンが導く“死”のロードムービーにご期待ください。

『ヒッチャー ニューマスター版』は、2021年1月8日(金)よりシネマート新宿ほかで全国順次ロードショー


関連記事

サスペンス映画

【ネタバレ】陰陽師0|あらすじ感想と結末の評価解説。山﨑賢人がかつて野村萬斎も演じた実在する安倍晴明を熱演!

安倍晴明が陰陽師になる前のオリジナルストーリー『陰陽師0』がスクリーンに! 平安時代に実在した陰陽師・安倍晴明の活躍を描いた夢枕獏のベストセラー小説「陰陽師」シリーズ。日本や中国でも何回か映画化された …

サスペンス映画

映画『チャイルド・オブ・ゴッド』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

家族を失い、精神に異常をきたしたレスター・バラードの生きざまを描く『チャイルド・オブ・ゴッド』は、新宿シネマカリテの「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2018」にて上映。 狂気とユーモア …

サスペンス映画

『母性』映画原作のネタバレあらすじと結末の感想解説。湊かなえがミステリーとして母娘の愛のカタチを問う

湊かなえの“母と娘”を巡るミステリー小説『母性』が2022年11月23日(水・祝)に実写映画化 イヤミスの女王と呼ばれるミステリー作家湊かなえ。後味の悪い印象を残す作品が多い中、2012年に発表された …

サスペンス映画

映画『十二人の死にたい子どもたち』キャストとあらすじ。4番と13人目詳細も

ベストセラー作家・冲方丁(うぶかた・とう)のミステリー小説を原作とした実写映画『十二人の死にたい子どもたち』の公開日が、2019年1月25日に決定しました。 『イニシエーション・ラブ』『トリック』など …

サスペンス映画

梟ーフクロウ|あらすじ感想と評価解説。リュ・ジュンヨルが韓国映画“史実に記された怪死の謎”に迫る緊張感MAXサスペンス

闇夜に起きた怪奇な事件。唯一の“目撃者”は盲目の男―― 韓国年間最長No.1記録を樹立した、映画『梟ーフクロウー』が、2024年2月9日(金)より新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほかにて全 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学