現実と夢の世界が入れ替わる時、彼女は自分をみつけるのか?
今回は主人公が、妄想型統合失調症を患うまでの、ヒューマンドラマ『ホース・ガール』をご紹介します。
主演はテレビドラマ「GLOW ゴージャス・レディ・オブ・レスリング」で、ゴールデングローブ賞テレビドラマ部門の主演女優賞に2年連続ノミネートされた、アリソン・ブリー。また、彼女は新海誠監督の『天気の子』(2020)の英語版で、夏美の声も担当しています。
手芸店で働く若い女性のサラは、内向的で人と関わることが苦手です。時々、超常現象ドラマを観たり、乗馬をしていた時の愛馬に会いに行く、平凡な日常を過ごしていました。
しかしある日、不思議な夢を見たことがきっかけでサラの精神は崩壊していきます。“自分は誰なのか?どこから来たのか?”それが確信に変わった時、彼女を待ち受けていたものは?
映画『ホース・ガール』の作品情報
Netflixオリジナル映画「ホース・ガール」
【公開】
2020年(アメリカ映画)
【監督】
ジェフ・ベイナ
【脚本】
ジェフ・ベイナ、アリソン・ブリー
【原題】
Horse Girl
【キャスト】
アリソン・ブリー、デビー・ライアン、ジョン・レイノルズ、モリー・シャノン
【作品概要】
アリソン・ブリーは、ジェフ・ベイナ監督作品『天使たちのビッチ・ナイト』(2018)に主演して以来、2作目の主演作品です。本作はアリソン・ブリーの実体験が元になっているので、ベイナ監督と共に制作および脚本にも携わりました。
『ホース・ガール』は、サンダンス映画祭でプレミア上映され、2020年2月7日からNetflixで配信が開始しました。
映画『ホース・ガール』のあらすじとネタバレ
手芸店で働くサラは接客も丁寧で、同僚とのコミュニケーションも良好です。
同僚のジョーンは自分のルーツが知りたくて、DNA検査をしたのだと教えます。彼女は96%がアイルランドかウェールズで、3%北欧か北西ロシア、1%は西アフリカだと話し、サラはその話にとても興味をいだきます。
仕事が終わると彼女は牧場へ行き、愛馬だった“ウィロー”に会うのを楽しみにしていて、ウィローにただならぬ愛着があり、現在の馬主の少女に事細かなアドバイスをします。
そして、家に帰ると好きな超常現象ドラマを見ながら、アンクレットを編んだりして過ごしていました。
サラはニッキーという女性と家をシェアし暮しています。ニッキーは恋人のブライアンを連れてきたりしますが、気さくで優しいルームメイトです。
「ブライアンのルームメイトはフリーらしいよ」と、ボーイフレンドを紹介してくれようとしますが、サラはなかなかその気になりません。
その晩、ブライアンが水を飲みにキッチンへ行って戻ろうとすると、仕切りの壁に向かって立つサラを見て驚きます。彼はサラに声をかけると目を覚まし、寝室に戻っていきました。
翌日、サラは誰かの墓参りで墓地に行ってから、職場へ向かいました。同僚のジョーンが、サラにバースデーカードとプレゼントを渡します。それはサラが興味を持ったDNA鑑定キットでした。
ジョーンはサラに「今夜の予定は?」と聞くと「ズンバ教室の友達と出かけるかも……」と答えます。ジョーンはサラを励ますかのように「楽しんで!」と言います。
サラはタロット占いを仕事にしている女性を接客します。彼女は顧客を安心させる“色”の布を買いに来ました。その話にサラは興味津々になります。
「全ての色には力があって守ってくれるわ」そういうと、ピーチ色の生地をオーダーし、サラに魔除けのスティックバンドル(香草の束)をプレゼントしてくれます。
サラは仕事帰りに“ウィロー”に会いに行きます。サラとウィローは誕生日が同じで、彼女は手作りのストラップをウィローのたて髪に着けてあげます。
馬主の夫婦はそんなサラを黙認しますが、少し迷惑にも思っているようです。牧場を去るとサラはズンバ教室で汗を流したあと、誰かを食事に誘おうと考えますが、上手く誘えません。
結局、誕生日の夜も家に帰り1人でドラマを見て、DNA鑑定キットに唾液を入れたりして過ごしていました。
ドラマでは主人公“アガサ・ダレン”がもう一人登場し、どっちが本物かの言い合いをしているところに、ルームメイトのニッキーがブライアンと帰宅します。
ニッキーはサラが誕生日で外出する予定が変更になったと聞き、一緒に誕生日を祝おうと提案してくれます。そして、ブライアンのルームメイトも呼ばれて紹介してもらいました。
ブライアンのルームメイトの名前は“ダレン”といい、サラの好きなドラマの主人公と同じ名前です。サラはそのことでテンションが上がります。
お酒をのみながら楽しい時間を過ごしているうちに、サラは鼻血を出し洗面所に行きました。彼女は楽しい場を台無しにしたと感じますが、ダレンもサラのことが気に入ったようでした。
サラは強くもないのにお酒を飲み、踊り、ダレンと一晩中語り明かしました。ダレンが帰宅すると、上を向いて止血したことで悪酔いをし、サラはそのまま就寝してしまいます。
そして、その晩サラの見た夢から、彼女の精神は崩壊していきました。
以下、『ホース・ガール』ネタバレ・結末の記載がございます。『ホース・ガール』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
Netflixオリジナル映画「ホース・ガール」
サラはどこかの真っ白い部屋に寝かされています。右隣には見知らぬ中年男性、左側には見知らぬ若い女性が、仰向けで横たわっているのを見て、ブラックアウトします。
翌朝、ニッキーとブライアンが起きてくると、廊下の壁に深くひっかいた傷がついています。リビングで寝ていたサラにどうしたのか聞きますが、彼女にも身に覚えがありません。
職場に行くとサラはジョーンにダレンのことを話し、デートに誘われたことを話すととても喜んでくれました。そして、サラは天然石の品出しをしているときに、また鼻血を出します。
ジョーンはティッシュで鼻をふさいで下を向くようにいい、サラが止血していると、店の外ではホームレスが謎の言葉を発していて、ジョーンは「気の毒な人」と言います。
その直後、店の前を昨晩の夢で見た見知らぬ男が通りすぎて行き、サラは慌てて外に出て、そのホームレスにぶつかります。
ホームレスは「またセルフィーか・・・技術の神、サティコ、1万3千年・・・極軌道・・・」と、謎の言葉を叫び、サラは男性の姿を見失ってしまいました。
その日の帰りにサラは友人の“ヘザー”の家を訪ねました。
ヘザーは幼い頃に乗馬クラブで一緒だった女性です。彼女は練習中に落馬し神経系が損傷して、右半身と記憶に障害を残してしまいました。
それ以来、サラも乗馬を辞めてしまったのでしょう。サラはサラが乗っていたウィローへの思いや、ウィローに乗る女の子にも気持ちが強く出てしまうのです。
サラは帰り道で信号待ちをしながら、数基ある緑色のタンクを眺めています。そして、気がつくと家のキッチンで水を出しっぱなしにして、排水口を見つめていたのです。
その晩、ベッドに入るとサラは女性の会話の声を聞きます。
「私のベッドに入っていた?・・・その話はしたくないの。私はただ眠りたいだけ。今は話したくない。目が覚めると誰も知り合いがいない。変なの。誰かに話しても変な目で見られるだけ・・・。」
ニッキーの声だと思っていたのですが、彼女は朝帰りをして、家にはいませんでした。さらに駐車場に行くと、サラの自動車がありません。
サラは警察に盗難届けの電話をしていると、ゲリーという男性から電話が入り、レッカー会社からサラの自動車のことで連絡が入ったと言います。
ゲリーとサラは久しぶりの再会のようですが、彼はサラの誕生日を覚えていてカードと一緒に、好きなものを買うよう現金を渡します。
彼は忙しくなかなかサラに会えないことを詫びますが、サラは元気に過ごしたまに母親の墓が、キレイになっているか見に行っていると言います。
サラが行っていたお墓は亡くなった母親のものでした。
サラの自動車は緑色の水槽タンクのあった場所で、キーが刺さりエンジンがかかったままだったと言われます。
どうしてそんなことになったのか、わからないサラは不安をかかえます。そして、ゲリーに母親が祖母ヘレンのようになったのは何歳かと聞きます。
ゲリーは「ママはヘレンとは違う。ヘレンは壁と話していてママはそのことで苦しみ、苦しみが大きくなってしまったんだ」と言います。
サラは家に帰ると母親と撮った写真と、ヘレンの写ったモノクロ写真を出して見つめます。サラはヘレンの写真と鏡に映った自分を見比べ、瓜二つだということに気がつくのです。
その晩、サラはベッドに入ると再び誰かとの会話を聞きます。「彼は何をしているの?」「古いパイプを新しいのと交換している」「賃貸なのよ?壁のキズを直してと言った!」
そして、夢を見ます。海から突き出る急な坂と、隣りにはあの男が横たわっていました。サラが目を覚ますと、彼女は外から公衆電話でどこかに電話をしていました。
ベッドに入った時には、きちんと着ていたパジャマは後ろ前になっています。ドアを叩きニッキーを起こして中に入ります。「夢遊病だったみたい」とサラは言います。
翌日、サラはジョーンによく眠れないと話し、夢の話や夢遊病で25分外に出たのに、実際は2分しか経っていなかったこと、エイリアンの誘拐は信じるかなどを尋ねます。ジョーンズの答えは「信じない」でした。
そして、ふと外に目を向けるとサラは夢で見た男をみかけ、“サティアゴ配管空調”と書かれたワンボックスカーに乗って去っていくのをみつけたのです。
サラはサティアゴ配管空調会社に確かめに行くと、そこには夢で見た男がいました。サラは自分を覚えているか?と聞きますが、彼は半信半疑で「配管のこと?空調のこと?」と聞きます。
サラは配管と答えると「キッチン?お風呂?」と聞かれキッチンと答え、パイプを見てほしいと言い“アガサ・ケイン”と偽名を使い、配管の調査を依頼するのでした。
サラは家に帰りネットで自分のDNA結果が出てるか確認しますが、まだ判定は出ていませんでした。
しかたなく、ドラマでもう一人のアガサ・ダレンが出てきた場面から続きを観はじめ、もう一人のダレンはクローンではないかと考えます。
そして、サラは祖母エレンの写真を見て、自分は祖母のクローンではないかと思い始めるのです。
次の日、サラはドラマのようにもう一人の自分が現れ、悪魔に命を狙われると恐怖を覚え魔除けのお守りを作り始めます。
そこに配管修理工がやってきたので、店の男のことを聞きます。名前は“ロン”といい、店のオーナーでした。
配管のパイプを交換していると、タイミング悪くニッキーが帰宅し「彼は何をしているの?」と聞きます。サラが数日前に聞いた夜の会話がここで再現されたのです。
サラはその後、閉店して店を出るロンを尾行します。サラは自宅の窓から妻と何かしているところを見ますが、そのまま眠り夢を見ます。
白い部屋にロンの姿はなく、今度はもう一人いた女性が横たわっていて、サラはそこで目を覚まします。
ロンの家の明かりは消され、閉めておいた自動車のサンルーフが開き、天井には部屋の壁と同じように、ひっかいたキズがついていました。
サラは家に帰るとタロット占い師からもらった、魔除けのスティックバンドルを燃やし、煙で部屋中をいぶし始めます。
そこでサラは自分の体に身に覚えのない、あざがあることに気がつきます。
サラは鼻血の治療をしに耳鼻科にいき、医師に怖い夢を見てよく眠れないこと、体のあざのことを訴えます。
そして、「自分がクローンであることは調べられるか?」と質問すると、「もう一人の自分のDNAを調べて一致すればわかる」と、答えます。
その晩、サラはエレンのピンクのワンピースを着てダレンと食事に出掛け、ダレンと超常現象の話しで盛り上がり、サラは彼を自分のいうことを理解してくれる人だと思います。
そして、ロンの家の前まで連れて行き、ロンが夢に出てくる男で、現実でもいたと説明します。そのうえ、自分の出生は祖母のクローンだと言い、その証拠にDNA検査の結果がいまだに出ないと言ってしまいます。
ダレンはサラの言動に異変を感じ始め、帰ろうと促しますが、次は母の眠る墓地に向かい、クローンかどうかを調べるために、墓から遺体を掘りだし検査場に持って行くと言い出すのです。
サラはダレンは誰かの指示で自分に嘘をついて、だましていると思い始め、サラはダレンを追い払ってしまうのでした。
サラは家に帰るとスティックバンドルの煙で魔除けをはじめ、ニッキーが帰ってくるとさらに混乱して、シャワー室にとじ籠ります。
そして、次に彼女の意識が戻った時には、裸のまま手芸店に現れていました。サラの奇行にとうとうジョーンは警察を呼び、精神科の施設に連れていかれるのでした。
サラはすでに現実と妄想(夢)の中をさまよい、時間の感覚を失っています。カウンセラーのイーサンとのカウンセリングは2度目でも、初めてだと思っています。
サラはカウンセリングで、「祖母は壁に向かい話しかけ、未来の声が聞こえると言っていた。今、自分にも同じことがおきていいる。祖母は精神病院に入れられたが閉鎖されたせいで、ホームレスのように路上で亡くなり、母はそんな祖母のせいで重いうつ病になり、薬を大量に飲んで自死した」と話します。
ゲリーは父親だと思っていたけど、サラが16歳の時に家を出て行った。自分は祖母のクローンで、エイリアンに誘拐され狙われていると言います。
イーサンは「君が経験していることは、君の現実だと思う」と理解を示した上で、今後の解決していく上でクローンやエイリアンの話には疑わしさがあると告げたのです。
サラはイーサンの言うことに理解をしやり直したいと話し、イーサンは100%君の味方だと力づけました。
その晩、サラは施設を抜け出し家に帰ります。そこには夢の中にいた女性がニッキーの服を着ています。
サラは部屋に逃げ込み窓から外に出るとそこは、手芸店の従業員入り口でした。店からピーチ色の生地を巻き取り、自分とウィローの防護服を作ります。
ウィローに防護服を着せていると、馬主が出てきてサラに「出ていけ!」と怒鳴り、サラは逃げ出しロンの家へ行き、寝ているロンを起こそうとしますが起きません。
次はダレンの部屋に行って2人は結ばれますが、同時にドラマの中のダレンも登場します。最後はヘザーの部屋に行き、寝ている彼女の隣りにサラは入り込みます。
サラはそのまま眠り、ブラックアウトします。そして、再び目が覚めるとそこは施設の部屋の中で、同室患者の隣りで眠っていたのでした。
その人は夢の中にいた女性であり、ニッキーのふりをしていた人でもありました。「私のベッドに入っていた?」と、聞かれ、サラは彼女に「なぜここに?」と聞くと、彼女は「その話はしたくない」と言います。
それはサラが最初に幻聴を聞いた、夜の会話と同じだったので、未来におこることを聞けると確信をするのです。
イーサンとのカウンセリングでサラは、とても気分がいい自分はクローンではなかったと話し、イーサンも処置期限の72時間になり退院できると言います。
サラは家に帰り祖母のワンピースに着替えて、祖母と同じ髪型と化粧をして、ウィローのところに行きます。そして、ウィローに魔除けのお守りを首に下げ、連れ出すと森の中へと行きます。
開けた場所に出たサラはウィローに「私が守ってあげる」と言い残し、靴を脱いで土の上に寝ころぶと、空からまばゆい閃光が出てきてサラを吸い上げて、光はそのまま消えていきました。
映画『ホース・ガール』の感想と考察
本作はアリソンの祖母が統合失調症で、母親がうつ病だったという実体験が元になっているため、制作・脚本共にも携わっています。
つまり、本作はサラの演技にアリソン自身も抱えている苦悩が反映されている作品なのです。
精神疾患の中でも「統合失調症」という、いまだに詳しく解明されていない病を取り上げているため、観た人の理解と解釈に評価がゆだねられる作品となりました。
ただし、今わかっている症状や原因をあげると説明のつくものはあります。サラは幼いころから複雑な家庭に育ち、妄想の中に逃げ込む癖があり、夢遊病も発症していたのでしょう。
自死した母の発見者が、場所がシャワー室だったことで、トラウマも生まれたはずです。そして、自分も祖母や母と同じようになるのでは?と、いう不安がうまれたのです。
睡眠不足はナルコレプシー(睡眠障害)を発症させ、運転をしていても睡眠状態となり、夢遊病を発症したりします。
夢で見たことが現実に起こったような既視感は、デジャブと言われ精神疾患が無い人でも体験することがあるでしょう。
つまり、イーサンのいう通り、サラの体験していることはサラにとっては現実であり、普通の生活をするには、よき理解者の存在と治療が必要なのだとわかります。
ラストシーンもサラの視点で体験しているので、彼女が言った通りエイリアンに誘拐されていったことになります。
エイリアンの誘拐はありえないと考えがちですが、現実にも忽然と姿を消し、行方不明になる事件はあるので、どういう解釈をしたらよいのか……。すべてを非現実では片づけられないもどかしさがありました。
まとめ
『ホース・ガール』は、統合失調症になったサラの目線でストーリーが展開します。したがって、途中から支離滅裂なストーリー展開となり、観ている方は混乱してくるでしょう。
つまり、この作品は、この病になってしまった人が体験している世界を見せ、理解させるための作品だとも言えます。
コロナ禍が長引き、疾患のなかった人でもうつ状態に陥りがちです。自分や大切な人がそうならないため、少しでも理解できるヒントとなるでしょう。