映画『罪の声』は2020年10月30日(金)より全国ロードショーされています。
映画『罪の声』は、実際に起きた昭和の未解決事件を基にした塩田武士の同題小説の映画化。
監督は『いま、愛に行きます』『麒麟の翼』の土井裕泰。脚本はドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』などで知られる野木亜紀子が手掛けています。
主演に小栗旬と星野源という、いま最も求心力のある2人を迎えて描く重厚な大作ミステリーです。35年の時を経て、脅迫テープに残された子どもの声が未解決事件の全貌へと導きます。
映画『罪の声』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【原作】
塩田武士『罪の声』(講談社文庫)
【脚本】
野木亜紀子
【監督】
土井裕泰
【キャスト】
小栗旬、星野源、松重豊、古舘寛治、市川実日子、阿部純子、原菜乃華、阿部亮平、宇野祥平、尾上寛之、川口覚、火野正平、宇崎竜童、梶芽衣子
【作品概要】
塩田武士の同名小説を『いま、愛に行きます』(2004)『麒麟の翼』(2011)の土井裕泰監督が映画化。脚本は『逃げるは恥だが役に立つ』(2016)『アンナチュラル』(2018)『MIU404』の野木亜紀子。
主演は小栗旬と星野源。星野に加えて、野木亜紀子脚本作品に出演経験のある古館寛治、松重豊、市川実日子など共演として並んでいます。他にも宇崎竜童、火野正平、梶芽衣子らベテラン俳優も並ぶ重厚な布陣となっています。
映画『罪の声』のあらすじとネタバレ
1984年の春、大阪。おまけ付き菓子で人気の製菓メイカー“ギンガ”の社長が、自宅に押し入った暴漢に誘拐され、その後身代金が要求されるという事件が発生しました。
社長は自力で、監禁場所から脱出したことで事件は終了したかに見えました。しかし、犯人グループは今度は店頭に並ぶ製品に毒物を仕込むとして企業を脅迫。
その一方で“くらま天狗“を名乗り、警察・マスコミに数十通に及ぶ“脅迫状”・“挑戦状”を送りつけ、世間を騒がして捜査をかく乱していきます。
警察は犯人を捕らえることができず、“日本初の劇場型犯罪”と言われた“ギン萬事件”の犯人グループは、深淵の中に消え去り、事件未解決のまま時効を迎えました。
昭和を揺るがした“ギン萬事件”から35年。大阪・大日新聞社の阿久津は、平成から令和に変わっていくタイミングで、昭和・平成の未解決事件を改めて追うという企画を任されます。
担当となった事件は“日本初の劇場型犯罪”と呼ばれる“ギン萬事件”。全く記憶にないほどの過去の事件を任されて途方に暮れる阿久津に、社会部の鳥居が、事件の当時イギリスにいた日本人の男がオランダのビール王の誘拐事件を調べ回っていたという情報を与えます。
藁にもすがる思いでロンドンに向かった阿久津はそこで、当時怪しい動きをしていた中国人の存在を知ります。
その男の行方は分かりませんでしたが、当時交際していたジャーナリストの女性は、今は教鞭をとっているソフィという女性を教えられます。
ソフィを訪ねた阿久津ですが、「中国人には知り合いはいない」と言われてしまいます。阿久津は早々に手だてを失ったのです。
そのころ、京都のテーラー曽根の二代目店主の俊也は家の押し入れの奥から、父の名前を冠した箱を発見、中には英語でびっしりと埋められた黒革の手帳と、1984と書き込まれたカセットテープを発見します。
テープを再生すると、そこには自分の子供ころの懐かしい声が吹き込まれていました。懐かしい思いを抱えたまま聞き続けると、突然、テープの音声の調子が変わります。
そして、何かを読み上げるような俊也の声が聞こえてきます。その中で幼い俊也の声は「きょうとへむかって いちごうせんを にきろ ばーすてーい じょーなんぐちの べんちの こしかけ」という文言を読み上げていました。
事態が飲み込めない俊也は、ヒントを探して手帳を開き、英語ばかりの読み解けない文中で“ギンガ”と“萬堂”の文字を見つけます。
2つの社名から昭和の未解決事件=“ギン萬事件”を思い出した俊也は、インターネット上にある企業脅迫に使われた子ども声の音声データーを発見、恐る恐る再生させるとテープと全く同じ内容でした。
思わず俊也はつぶやきます「俺の声だ・・・」と。
俊也はテープと手帳の秘密を調べるために父親の代から付き合いのある仕立て職人の河村のもとへ向かいました。そこで、俊也は父親の兄・伯父の曽根達雄の存在を知らされます。
達雄は死んでいると聞かされてきた俊也は驚きます。達雄をよく知るフジサキと会った俊也は、自分の一族の過去について聞かされました。
達雄と俊也の祖父にあたる人物が、新左翼運動の過激派の内ゲバの“誤爆”で殺されたというのです。祖父の勤め先は“ギンガ”でした。
“ギンガ”側は祖父を過激派の一人だとみなして、誤解であったことにも耳を傾けず、線香一本も上げに来ることはありませんでした。
達雄は心の底に苛立ちを抱えるようになり、やがて大企業を向こうに回した活動に参加していきます。
“ギン萬事件”の直前、食品会社で働いていたフジサキのもとに達雄が突然現れ、“ギンガ”などの在阪食品会社の株価の状況を尋ねてきたことがあったのだそうです。
そしてフジサキは、一枚の写真を見せます。そこは柔道場にいる若き日の光雄と達雄の姿がありました。
この写真に一緒に写っている人物を追えば真相が分かるのではないかと、俊也は30年以上前の出来事を追い始めます。俊也は、最後に達雄から連絡があった時に話していたという堺の小料理屋“し乃”に向かいます。
そこにいた板長は“ギン萬事件”にかかわる事柄と分かると歯切れが悪くなりますが、俊也が自分がテープの“声の子ども”だったと告げると意を決したようにある事実を伝えます。
それは“ギン萬事件”の最中、“し乃”で犯人グループ=くらま天狗の会合があったというモノでした。達雄を含めて複数の男たちがいて、中には闇社会の住人と思われる者もいました。
その中に、耳のつぶれた男がいたと板長は言います。その男の素性を追うと、生島秀樹という元滋賀県警のマル暴の刑事だったことが分かりました。
生島は暴力団から現金の授受があったとされて懲戒処分を受けていました。当時の生島には、中学生の娘の望と息子の聡一郎がいました。
時期を逆算して望がいたのではないかと思われる中学校を訪ねた俊也は、当時の担任教師と会うことができ、ある日突然生島一家が姿を消したことを知らされます。
一方、ロンドンへの出張が空振りに終わった阿久津は、鳥居や、“ギン萬事件”当時、大日の記者だった水島から得た過去の資料やメモを見直し、ロンドンの“ギンガ”株の外人買いが進んでいるという情報をスクラップを発見します。
思わぬ形でロンドンという文字を見た阿久津は、当時を知る証券ディーラーを探して回ります。
東京で、当時を知る元証券ディーラーとコンタクトを取った阿久津は、この記事の外人は“黒目”(=日本人)によるもので偽装した口座を使った株式の空売り目当てとのものではないかという推理を聞かされます。
高値の時に株を売りに出す架空の取引をして、値下がりする時に買い戻せば、その差額が大きな利益を生むというのが空売りです。
そこで、阿久津はギン萬事件の犯人による脅迫状・挑戦状のことを思い出します。犯人からの脅迫を受けて企業の株価は軒並み暴落していたのです。
もし犯人が株価操作による利益を得ていたとしたら、大々的な劇場型犯罪を展開しながらも、ターゲットの企業から一円も手にしなかったことも合点がいきます。
“ギン萬事件”が意図的に株価操作をして利益を得る“仕手筋”によるものではないかという新たな考えが、阿久津の中に出てきました。
他方で、阿久津は当時、犯人によるものではないかと思われる無線のやり取りを知る男にあたり、その後、トラック運転手の金田という男に行き当たります。
彼の知り合いの中古車販売会社の社長は、当時の言動から金田がギン萬事件に一枚噛んでいると確信。社長はその証拠として、ある釣りの場を映した一枚の写真を阿久津に差し出します。その写真には“キツネ目”の男が映っていました。
東京の証券ディーラーにその写真を送ると、この男こそ、当時ディーラーの間で話題になっていた男だと言うことが明らかになります。
阿久津はさらに当時の株式売買事情を知る大物ニシダ(仮名)にたどり着き、録音をしないことを条件に情報を得ます。その男は、短い間ではあるもののニシダのもとでビジネスについて学んでいた男でした。
彼らは仕手筋で、さらに金主(きんしゅ=スポンサー)の上東という人物がいたことを知らされます。大日新聞に戻った阿久津は、これまでの情報から犯人のメンバーと思われる人間を一人、また一人とピックアップしていきます。
そして、メンバーの男と親しい関係にあった女性が堺の小料理屋“し乃”の女将だったことを突き止めました。
一方、生島望の母校から連絡を受けた俊也は、望の同級生だった女性と引き合わされます。女性は、今まで誰にも話していなかったことを聞かせてくれました。
望を含む生島一家が忽然と姿を消してからも、この同級生はこっそりと望から連絡を受けていたというのです。
望の話では、失踪した当日の朝、いつもの朝を迎えていると父親・生島秀樹の友人という2人の男が現れて、「生島は青木に殺された」と話し、生島の家族にも害が及ぶと言い、今すぐ家を離れるように告げます。
取るものも取り合えず家を飛び出した生島の母子3人は、生島の後輩の山下の知縁のある土地に逃れますが、その後・別の建設会社の寮に移って暮らしました。
その様子を聞いていた同級生はさらに、望が“ギン萬事件”の“声の子ども”だと言うことを告げられ、あの声のせいで人生はおしまいだと涙ながらに話していたと俊也に言いました。
同級生と望はその後、会う約束をしていました。待ち合わせ場所は大阪・“ギンガ”の電飾看板の下、しかし望は現れませんでした。
同級生は事件が時効になっても望は現れず、あきらめていましたが、“声の子ども”である俊也が健在であることから、望もまた健在なのではないかと希望を持ちます。
一方、“し乃”の女将にけんもほろろに追い返された阿久津ですが、何かを言いたげな板長と目が合います。女将が出かけた後に、改めて“し乃”に向かった阿久津は、板長にキツネ目の男が映った写真を見せて事情を聞きます。
俊也に続けて、“ギン萬事件”のことを尋ねてきた阿久津の登場に、板長は思わず「自分のことを誰かに聞いたか?」と尋ねます。
板長から、“し乃”の二階の座席で犯人グループの会合があったことを知らされた阿久津は、ついに犯人のしっぽを掴みます。
後日、板長との何気ないやり取りのなかで、自分より前に“し乃”を訪ねてきた人間がいるのではと考えた阿久津は、再び“し乃”を訪れ、俊也の存在を知ります。
京都のテーラー曽根を訪れた阿久津は、曽根俊哉と対面します。全く違う角度から、30年以上前の未解決事件を追った二人の男が出会いました。
俊也を脅迫電話の子どもの一人ではないかと考えた阿久津は、そのことを正面からぶつけますが、俊也は自分には妻子があり、店もあり、病身の母親も抱えている、面白半分に取り上げないでくれと言い追い返します。
一度は阿久津を追い返した俊也ですが、自分のなかでの決着、テープの秘密、手帳の持ち主・伯父の達雄の行方、そして同じ“声の子ども”であろう望と聡一郎の行方を案じ、阿久津と共に真相を追うことを決意します。
“ギン萬事件”から数年後、青木組傘下の建設会社で放火殺人事件があったことを知った阿久津は、容疑者の男・津村と共に当時、中学生ほどの男の子が消えたことを知ります。
この男の子こそ生島の息子・聡一郎だと確信した阿久津は俊也とともに、津村と男の子の後を追い、四国から岡山まで足を延ばします。
男の子・聡一郎と津村は途中で別れ、聡一郎は青木組の追手から逃れるために各地を転々としていました。
岡山の中華料理店では息子同然の扱いを受けて、世話になっていましたが、ある日何かに追われるように姿を消しました。
中華料理店の店主で事情を打ち明けた2人は、聡一郎の連絡先を教えてもらいます。
電話で聡一郎と話をする俊也。聡一郎は自分に関わるなと言って電話を切りますが、もう一度つながった電話で俊也もまた“声の子ども”だと告げ、聡一郎と会う約束をします。
待ち合わせの場所は、かつて望がたどり着けなかった大阪の“ギンガ”の電飾看板の下でした。
30年以上の年月を経て出会った俊也と聡一郎。聡一郎は俊也と、同席した阿久津の前で逃亡生活の真実、そして望のことを語り始めます。
映画『罪の声』の感想と評価
まずは社会を騒がせた実在事件をネタにした犯罪小説を、見事に映画に仕上げたなというのが最初の感想です。
野木亜紀子はこれまでも原作のあるものを映像化に合わせて巧みに脚色してきましたが、今回の塩田武士の原作小説はその情報量の多さから、どうなることかとも思ったのですが、結果として余計な心配に終わりました。
物語の中で大きな意味を持つロンドンロケも本格的に行なわれていて、贅沢感を感じさせる作品です。
贅沢感と言えば、キャスティングも贅沢でした。渋い、通好みの俳優たちが証言者という形でワンシーンだけ登場しては去っていくのです。
全編通して登場し続けるキャラクターがいない中で、主役の小栗旬と星野源の2人は、物語の軸として作品を支え続けます。
小栗旬の演じる新聞記者・阿久津は、積極的に前に進む形で物語を引っ張り、星野源が演じた“声の子供”の一人・俊也は、受け側に回って、物語に深みを与えます。
今まで本格的な共演がなかった2人ですが、映画『罪の声』を機に、このコンビをまだ見ていたいと思わせる息のあった演技を披露していました。
舞台も積極的に出ているので、映像以外での共演も華やかになりそうです。
まとめ
映画はある世代以前の人にはみんな知っている、実際に起きたある未解決事件をモチーフに取り扱っています。
原作がそうなっていると言えばそのままなのですが、変なアレンジを加えずに、ストレートに“あの未解決事件”だと分かるようになっています。
ただ、その一方で、時効を迎えたとはいえ、多くの関係者(被害に遭った企業、警察、マスコミ関係者など)が存命と言うこともあって、敢えてその事件の名前を使って、作品を紹介することは控えています。
また小栗旬演じる阿久津が過去を追う形で、“ギン萬事件”のあらましが語られているので、事件についての予習はいらない構成になっています。
むしろ、事前の予習で頭をいっぱいにするよりは、フラットな状態で映画に臨み、込められた情報を一つ残らず回収するような気持ちで鑑賞することをお勧めします。
秋映画はミステリー、サスペンス映画が続きますが、映画『罪の声』はその大本命の大作ミステリーと言えるでしょう。