チェスの一手に希望を託し、
自らの手で、未来を切り拓いた少年
バングラデシュから渡仏したばかりの新星子役・アサド・アーメッドの演技が光る実話をもとにしたフランス発の、ハートフルなヒューマンドラマ。
チェスが得意な少年、ファヒムは故郷を追われ、父親とともにフランスへ。難民として生活しながらチェスの教室に通い、少しずつフランスに慣れ始めたファヒム。
一方ファヒムの父、ヌラはフランス語も話せず、なかなか職ももらえずこのままでは滞在許可が降りず、故郷に戻らなければならない危険が迫っていた……。そんなファヒム父子がフランスに残る方法はただ一つ。ファヒムがフランスのチェストーナメントで勝ち進み、フランス王者になることでした…
ファヒムはその才能で人生を掴むことができるのでしょうか。
映画『ファヒム パリが見た奇跡』の作品情報
【日本公開】
2020年(フランス映画)
【原題】
Fahim
【脚本】
ピエール=フランソワ・マンタン=ラバル、チボー・バンユール、フィリップ・エルノ
【監督】
ピエール=フランソワ・マンタン=ラバル
【製作】
デボラ・ベナッター、パトリック・ゴドー
【キャスト】
アサド・アーメッド、ジェラール・ドパルデュー、イザベル・ナンティ、ミザヌル・ラハマン
【作品概要】
主人公ファヒムを演じるのは撮影の3ヶ月前にバングラデシュからフランスに移住したばかりの新星子役アサド・アーメッド。フランスという未体験の土地にやって来たファヒムの気持ちや、少しずつフランス語を覚えていく彼の姿は、演じているアサド・アーメッド自身の体験も織り交ぜています。
また、そんなファヒムが通うチェスチームのコーチシルヴァンを演じるのは、フランソワ・トリュフォー監督の『終電車』(1980)や『シラノ・ド・ベルジュラック』(1990)で知られるフランスの名優ジェラール・ドパルデュー! 新人のアサド・アーメッドを優しさと厳しさで包み込みます。
監督はピエール=フランソワ・マンタン=ラバル。『シリアル・ラヴァー』(1998)、『橋の上の娘』(1999)などの作品で俳優として活動し、“Essaye-moi”(2006)で監督デビュー。以降“King Guillaume”(2009)、“Le Profs”(2013)などコメディを多数手掛け、今回実写ドラマに初挑戦しました。
映画『ファヒム パリが見た奇跡』のあらすじとネタバレ
暴動のバングラデシュの様子が映し出され、打って変わってチェスで大人に勝ち、賭け金の一部を貰う少年、ファヒム(アサド・アーメッド)が映し出されます。お金を握りしめ帰宅するファヒム。背後には車と歩いているファヒムの父(ミザヌル・ラハマン)。
いつものように帰宅し、ふざけるファヒム。普段と変わらない家族の様子。しかし、その夜ファヒムの父と母は話し合い、紛争が激しいバングラデシュから逃れ、先にファヒムと父だけフランスに行くことになりました。
「チェスのグランドマスターに会いに行こう」と父はファヒムにいいます。
朝早く荷物を持ちバスに向かうファヒムと両親。母と離れることになったファヒムは寂しさを堪えきれず泣き出し、母から離れようとしません。そんなファヒムを父はなかば無理やり引き離し、バスに乗り空港に向かいます。
フランスに着き、故郷とかけ離れたフランスの様子にファヒム父子は驚き圧倒されます。そんなファヒム父子に同じく移民らしき物売りが土産物を差し出して、「エッフェル塔はいかが?」と声を掛けます。
驚きながらも断り、ファヒム父子は宿に辿り着きます。
フランス語をあまり話せない父なので、バングラデシュ人が働いていそうな場所や、様々なところで仕事探すも見つかりません。
ある日、地面に座りお菓子を食べていたファヒム父子のお菓子の缶に通りすがりの人が小銭を入れました。施しをもらったことに戸惑い、父は小銭をその人に返しに行きます。
しかし、仕事は思うように見つからず、お金も底をついてしまった父子はやむなく、野宿をしていました。
そんな2人は難民保護センターの人に助けられ難民保護施設で過ごすことになりました。滞在許可を得るまでは住んで良いと言われ、やっと2人は落ち着くことができました。
ファヒムは施設の子供らと遊んだり、その中の学校で学んだりして少しずつ慣れていき、フランス語も覚え始めていました。そんなファヒムに得意のチェスをやらせたいと思った父は、町にあるチェス教室に連れていきます。
レッスンを覗き見てみると、大きな声で厳しく指導するコーチ(ジェラール・ドパルデュー)の姿。コーチの出した問題に誰も答えられないなか、たまたまやってきたファヒムがその答えを解いてしまいます。それを見たコーチはファヒムに対戦を持ちかけます。
今まで大人相手に戦っても勝っていたファヒムはコーチ相手に勝てず、引き分けになってしまいます。
納得できないファヒムは「インチキだ!」と怒鳴り、教室を飛び出してしまいます。
それでもファヒムはやはりチェスがしたくて教室に通うことにします。教室にやってきたファヒムにコーチは「遅刻だ」と怒りますが、バングラデシュではこのくらいの遅刻は日常茶飯事だから気にしないとファヒムは聞きません。
コーチに反発しながらも、ファヒムはチームメイトに受け入れられていきます。チームメイトの1人からフランス語を教えてもらうほど仲良くなります。
友達も増え、フランス語もどんどん上達していくファヒムとは違い、父はなかなかフランス語も覚えられず、仕事も得られず……滞在の申請も思うように進みません。
映画『ファヒム パリが見た奇跡』の感想と評価
本作は、故郷を離れ言葉も通じない地で、チェス一つで道を切り開いた少年の実話をもとに描かれています。
故郷できちんとした職についていた父であっても、言葉の通じない異国の地では仕事ももらえず、唯一得られた仕事は片言のフランス語で観光客にエッフェル塔のグッズを売る仕事であり、同じ仕事をしている物売りとはファヒム親子が初めてフランスに来た際に出会っています。
そのような職にしか付けず、役所ではバングラデシュ人ではなくインド人を有利に申請を通すため、全く違うことを伝えられてしまいます。
役所の人も父も言葉が通じないため、通訳が嘘をついていることに気づけません。そんな父を救ったのも父よりも順応の早いファヒムでした。
しかしそんなファヒムもなかなか順応できない父に苛立ちを感じ「フランス語で話せよ」と言ってしまう場面も。更に母国ではスプーンやフォークを使う習慣もなく、フランスでも手で食べ続けていた父に対し、ファヒムは早くからスプーンとフォークで食事をするようになります。
そのように子供と大人の順応の差を痛いほどリアルに描き、自国を逃れて来ても仕事もろくにもらえず、申請もうまくいかない移民の過酷さもありありと描きます。
その一方で負けず嫌いなファヒムがコーチに反発しながらもチームメイトらと交流を深め、チェスの戦法を学び、着実にチェスの実力も、ファヒム自身も成長していく様を描くビクトリー物語としても非常によく出来ています。
ラストに向かうにつれ、見ている側もファヒムの試合と、ファヒムの父が強制送還されないようにと祈らずにはいられなくなり、ラスト、ファヒム家族の再会を目にし、思わず目頭が熱くなるでしょう。
まとめ
チェスの王者を目指し、自らの手で道を切り開いた少年の実話をもとにした『ファヒム パリが見た奇跡』を紹介しました。
異国の地で初めて出会う雪や海に感動する姿や、母を故郷に残した寂しさ、友人らと楽しそうな様子など等身大の少年を演じた新星子役アサド・アーメッドの演技が観客を揺さぶります。
またファヒムの父の置かれている状況、少しずつやつれていく姿などから移民の抱える問題を浮き彫りにしており、単なる少年の成長物語の域をこえた感動のヒューマンドラマになっています。
そんなファヒム父子を包み込むコーチ役を演じたジェラール・ドパルデュー。ファヒムとコーチの交流は勿論のことコーチ自身の過去も織り交ぜ、ファヒムに勇気を与えます。
更に、ファヒム父子の助けになろうとする女性マチルド役のイザベル・ナンティの活躍にも注目です。