「人生の物語を変えるの。一晩で高校生活を取り戻す!」
映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』が2020年8月21日(金)より、全国公開されています。
映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』は、ガリ勉女子高生の2人組が、高校生活最後の日にパーティーデビューを果たして、一晩で高校生活を取り戻そうとする爆笑コメディー。
これまでの学園ものとは一味もふた味も違うまったく新しい青春学園ものに仕上がっています。
CONTENTS
映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
Booksmart
【監督】
オリヴィア・ワイルド
【製作総指揮】
ウィル・フェレル、アダム・マッケイ
【キャスト】
ケイトリン・デヴァー、ビーニー・フェルドスタイン、ジェシカ・ウィリアムズ、リサ・クドロー、ウイル・フォーテ、ジェイソン・サダイキス、ビリー・ロード、ダイアナ・シルヴァーズ、スカイラー・ギソンド、モリー・ゴードン、ノア・ガルヴィン、オースティン・クルート、ヴィクトリア・ルエスガ、エドゥアルド・フランコ、ニコ・ヒラガ、メイソン・グッディング
【作品概要】
『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』(2018)、『リチャード・ジュエル』(2019)などの作品で知られる女優オリヴィア・ワイルドの初長編監督作品。映画『バイス』(2018)の監督、アダム・マッケイと、彼とコンビを組み「俺たち」シリーズで主演を務めてきたウィル・フェレルが製作総指揮を務めました。
高校生活をひたすら勉学に努めてきたモリーとエイミーに、それぞれビーニー・フェルドスタイン、ケイトリン・デヴァーが扮し、彼女たちの高校生活最後の日の「冒険」が描かれています。
映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』あらすじとネタバレ
モリーとエイミーは親友同士。明日は卒業式という高校生活最後の日。校舎内では皆がそわそわと浮足だっていました。
モリーとエイミーは4年間を勉学に打ち込んできました。頑張ったかいがあり、モリーはイェール大学に進学を決め、史上最年少で最高裁判事に就任することを夢見ていました。
エイミーはコロンビア大学に進学を決め、その前にボツワナで女性たちを助けるボランティアに従事する予定でした。
モリーは、恋愛やくだらないことにうつつを抜かす、他のクラスメイトたちを見下しており、自分たちが進学する大学名も気を利かしたつもりで黙っていましたが、ひょんなことからモリーは、彼らも名門大学への進学がきまっていることを知ります。
男性関係が豊富だという噂のトリプルAと呼ばれる女子生徒はモリーと同じイェール大学。アジア系のタナーはスタンフォード大、2年も留年したテオはGoogleからスカウトされていました。
私たちは将来のことを考えて、様々なことを犠牲にして勉強に打ち込んできたのに、彼らは楽しい高校生活を送った上に、輝かしい未来まで手にいれようとしているとモリーは大きな衝撃を受けます。
モリーはニックという人気者の男子生徒が叔母の家でパーティーを開くことを聞きつけ、パーティーに行こう!とエイミーを誘います。
エイミーは卒業式の前に何か困ったことがあったらいやだからと一旦断りますが、エイミーが好きなスケーターの少女、ライアンと仲良くなるチャンスだと言われ、参加することに決めました。
「人生の物語を変えるの。一晩で高校生活を取り戻す!」と、モリーはエイミーとパーティーへと出かけていきますが、肝心のニックの叔母の家がどこかわかりません。
普段、クラスメイトたちと連絡をとっていないので、モリーからの電話は学校の連絡事項だろうと敬遠されて誰も出てくれません。
そんな中、クラスメイトのひとり、ジャレッドに電話をすると彼は自慢の車に乗って迎えに来てくれました。
ところが彼が連れて行ってくれたのは、自分が主宰する船上パーティー。とてもゴージャスな会場ですが、客は”富豪“というあだ名がついているジジという一風変わったクラスメイトだけでした。
彼女はモリーとエイミーにいちごを食べさせると、海にダイブして2人を驚かせます。モリーはジャドに「お金で友だちは買えないのよ」と告げると、その場を逃げ出しました。
2人はLyft(ライドシェアサービス)を呼びますが、驚いたことに運転手はブラウン校長でした。
エイミーはレズビアンであることをカミングアウトしていましたが、経験が浅いので、もしライアンとうまくいったとき、どうしたらいいのかわかりません。
車の中でスマホを充電していたモリーがポルノビデオを観て研究しようと言い出します。最初は拒んでいたエイミーでしたが、好奇心にかられて、観ることにしました。
イヤフォンを耳に当てている2人を観て、校長は音楽を聴いているのだろうと勘違いし、音楽を聴くならステレオの方がイイよとカーステレオに音をつないで、大惨事に。
やっとついた家に入っていくと、なんだか物々しい雰囲気に包まれています。そこはニックの叔母の家ではなく、演劇好きのクラスメイト、ジョージの家で、彼は「殺人ミステリー・パーティー」を催していました。
彼はモリーに「矯正歯科医」、エイミーに「愛らしい農夫」の役を与え、演じるように命じます。するとさっき、海に飛び込んだはずのジジが姿を表し、2人を驚かせます。
ジジはさっきのイチゴに大麻がしこんであったことを告白。2人はハイになって、自身が人形になってしまったように感じ大騒ぎ。
我に返った2人は家を飛び出しました。エイミーはパーティーにも出たし、大麻まで経験したから、もう帰ると言い出します。
しかし、モリーがニックに気があり、会いたがっていることを知ったエイミーは、自分など彼が相手などするはずがないと卑下するモリーに、「これ以上卑下するならボコボコにするよ」と言って彼女を励まし、パーティーに行くことに同意します。
スマホに流れてくるパーティーの動画に、ピザの箱を壊している様子が映し出されているのを見て、ピザ店に配達先の住所を聞き出すことを思いつきます。
ピザ店の店員が配達のため、車に乗り込むと、後部座席に潜んでいたモリーとエイミーは、店員に住所を教えろ!と強盗のふりをして強引に住所を聞き出そうとしました。
しかし、店員はまったく動じず、呆れるばかり。世間知らずの2人を諭し始めますが、最終的には根負けして住所を教えてくれました。
ところが、エイミーは車の中にスマホを忘れ、モリーのスマホは充電が2%しか残っていないことがわかります。
生徒たちに人気のあるファイン先生に電話してモリーの名前とピザ屋の前にいることだけはなんとか告げられましたが、そこで充電は切れてしまいました。
そんな状態にもかかわらず、ファイン先生が車に乗って来てくれました。2人は苦労してゲットした住所を見せてようやく、ニックの叔母さんの家に到着します。
大勢のクラスメイトが集まり、パーティーはとても盛り上がっていました。
エイミーはライアンを見つけ、軽くおしゃべりをして、一緒にプールに向かいました。服を脱いで飛び込むライアン。エイミーも服を脱ぎ、プールに飛び込みます。
一方、モリーはニックに温かく迎えられ、2人で仲良く盛り上がります。「真面目なのは知っていたけど、面白い人でもあるんだね」と言われ、モリーは有頂天になります。
エイミーは水中でライアンを見失います。顔を上げるとプールサイドで、ライアンとニックが抱き合ってキスしているのが見えました。
エイミーはショックを受け、そのことをモリーに告げると、モリーは信じず、2人はみんなの前で言い争いを始めます。
「何でも自分の思い通りにして人を巻き込む」とエイミーがモリーを非難すると、モリーはエイミーのことを「一人では何もできず、いつも後押ししてもらわなければならない」と反論しました。
エイミーが「ボツワナでボランティアをすることにした」と言うと、「それは私がすすめたからでしょ」とモリーは言います。しかし、エイミーは「それはこの夏のことだけでしょう。私は大学入学を遅らせて一年間ボツワナに行くの」と反論しました。
親友だと思っていた彼女から、話を聞かされていなかったことにショックを受けるモリー。2人は完全に仲違いしてしまいます。
映画『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』感想と評価
タイトルの「booksmart」という言葉には、博識があり優秀だが、社会的にはそれほど成功しているわけではないという意味合いがあります。
まさにそれは、ヒロインのモリーとエイミーそのもの。将来の夢のために様々なことを我慢して勉学に励んできた2人は、その甲斐あって、優秀な大学への進学を決めますが、彼女たちは決して学園の仲間から憧れられる存在ではありません。
モリーを演じたビーニー・フェルドスタインは、学園ものの傑作コメディー『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(2007/グレッグ・モットーラ)で、主人公のひとり、セスを演じたジョナ・ヒルの妹です。
そのこともあり本作は『スーパーバッド 童貞ウォーズ』としばしば比較されます。『スーパーバッド 童貞ウォーズ』の女性版という側面は作り手も意識しているでしょう
実際、映画の冒頭、モリーが車を乗り付けたのは、親友のエイミーの家。『スーパーバッド 童貞ウォーズ』の冒頭、セスがスムーズなハンドリングで親友のエバン(マイケル・セラ)の家に乗り付けていたのとほぼ同じです。
ここでモリーとエイミー(ケイトリン・デヴァー)は自分たちだけの「のり」を披露します。この「のり」は自分たちにだけ通じるもので、他の人とは楽しむことが出来ませんし、むしろ、他の人にはみせられないものでもあります。
ここで思い出されるのがノア・バームバックの『フランシス・ハ』(2012)です。無二の親友の結婚が決まり、突然一人になってしまったグレタ・ガーウィグは、親友とやっていた「のり」をつい、他の人に披露してしまい、完璧に無視されるという痛々しいシーンがありました。
グレタ・ガーウィグは親友に精神的に依存していたため、孤立してしまうのですが、『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』のモリーとエイミーも2人の世界で完結した共依存関係にあります。
そして、彼女たちは、頑張った私たちと違い、浮かれて遊んで、人生を無駄にしているとクラスメイトたちのことを内心バカにしています。ところがそんなクラスメイトたちが、皆、優秀な大学への進学が決まっていると知り、モリーは愕然とします。
勉強だけに費やしてしまった自分たちの4年間はなんだったのか!?彼女たちは、高校生活を取り戻すためにパーティーに乗り込むことを決意します。監督のオリヴィア・ワイルドは彼女たちがパーティーに乗り込む一連の行動を「冒険」と称しています。
爆笑必至の冒険の中で浮かび上がってくるのは、モリーとエイミーの友情が本物であるということです。目的もまだ半ばで帰りたがっていた優等生のエイミーがモリーの気持ちを知るや、今度は逆に励まして積極的にパーティーに向かおうとする姿は感動的です。
私なんて、と卑下するモリーに「今度自分を悪く言ったら許さないよ!」と叱るエイミー。彼女たちは互いにリスペクトしあっていて、友人のためなら人肌脱ごうという気概を持っているのです(もっともその後、不満が爆発して大喧嘩が始まるわけですが!)。
ちゃらいのに、どのグループの女子にも人気があるというニックが、なぜ、人気があるのかもわかってきます。彼は誰にでも優しく接することができ、人を見た目で判断しません。
このニックは『スーパーバッド 童貞ウォーズ』のエマ・ストーンの役を連想させる人物でもあります。
従来の学園ものなら、ニックのお相手は、チアガールのいけてる女性生徒だったでしょうが、本作ではお相手は、意外や、スケボー少女です。
いわゆる学園カーストのようなものは本作ではあまりみられません。学園ものは、本作をもって新しい時代に突入したと言ってよいのかもしれません。
モリーとエイミーは勝手に壁を作っていましたが、クラスメイトたちは意外と気さくで、のりもよく、親切な面も持ち合わせていました。
映画はそんなクラスメイト、ひとりひとりを丁寧に描き、それぞれの思いがけない悩みや、意外な夢が明らかになっていきます。
モリーやエイミーが「冒険」の中で覚える様々な感情が、絶妙なカメラワークで捉えられています。パーティー会場を進んでいくモリーの姿をワンカットで捉えた映像からは、彼女の期待と不安がリアルな息吹となって伝わってきます。
エイミーがプールに潜った水中シーンも長回しで、非常に美しく捉えられています。青春映画にはプールシーンがつきものですが、ここにまた一つ、忘れられないプール名場面が生まれました。
終盤に展開するエピソードからは、彼女たちのキラキラとした未来が想像でき、爽やかな気持ちにさせられます。
彼女たちの高校生活最後の冒険は、彼女たちを「booksmart」からも卒業させたのです。
まとめ
モリーは史上最年少の最高裁判事を目指していて、部屋にはRBGことルース・ベーダー・キンズバーグの写真が貼られています。
エイミーはフェミニストの文学少女で、彼女の部屋にはシャーロット・ブロンテなどの女性文学者のポスターが貼られています。彼女は数年前にレズビアンであることをカミングアウトしています。
また、彼女たちが使う「マララ」という言葉は、どうしても願いを聞いてほしい時に使う合言葉として使われていますが、語源は、パキスタン出身の人権運動家、マララ・ユスフザイから来ています。
米国の女性参政権運動の指導者、スーザン・B・アンソニーの名前もモリーの口から飛び出します。
現代のアメリカの少女たちのフェミニスト的な側面が描かれると同時に、はちゃめちゃなギャグセンスが満載で、ラリって人形になっている2人の場面には大いに笑わされました。
ひとりの人間をこういう人間だと決めつけるのではなく、多面的に描いているのが本作の魅力のひとつです。
監督を務めたのは、『ライフ・イットセルフ 未来に続く物語』(2018/ダン・フォーゲルマン)、『リチャード・ジュエル』(2019/クリント・イーストウッド)などの作品で知られる女優オリヴィア・ワイルドです。
短編映画やMVの監督の経験はありましたが、長編劇映画の監督を務めるのは今回が初めて。
2019年のサウス・バイ・サウスウエスト映画祭でプレミア上映されると、彼女の女優としてのパブリックイメージとはかけ離れたハイテンションコメディーとして評判となり、新しい魅力を備えた学園映画として、ゴールデングローブ賞をはじめ、65部門でノミネートされ、25部門で受賞するという快挙を成し遂げました。
ちなみに校長先生役で出演しているジェイソン・サダイキスは、オリヴィア・ワイルドの配偶者だそうです。
劇中、校長先生が、Lyft(ライドシェアサービス)のアルバイトをしているのは、彼が言うように、アメリカでは教師の給料が安いからです。
人気ドラマ『ブレイキング・バッド』の生物教師、ウォルター・ホワイトも教師をしながら、洗車業のアルバイトをしていましたね。