連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第54回
伝説のミュージシャンたちは、デトロイトの片隅の一軒家から生まれた――。
今回取り上げるのは、2020年9月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開の映画『メイキング・オブ・モータウン』。
スティーヴィー・ワンダー、ダイアナ・ロス、マーヴィン・ゲイ、ジャクソン5などを輩出し、2019年に創設60周年を迎えた音楽レーベル「モータウン」の正史をひも解きます。
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CONTENTS
映画『メイキング・オブ・モータウン』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ、イギリス合作映画)
【原題】
Hitsville: The Making of Motown
【監督】
ベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー
【製作】
レオ・パールマン
【製作総指揮】
ベリー・ゴーディ、スティーブ・バーネット、デビッド・ブラックマン
【撮影】
チャーリー・ウッパーマン
【音楽】
イアン・アーバー
【キャスト】
ベリー・ゴーディ、スモーキー・ロビンソン、マーサ・リーブス、スティーヴィー・ワンダー、マリー・ウィルソン、ニール・ヤング、ジェイミー・フォックス、ジョン・レジェンド
【作品概要】
1959年にアメリカで創立された音楽レーベル「モータウン」の歴史をひも解くドキュメンタリー映画。
レーベル創設者ベリー・ゴーディが初めて自身への密着を許可し、黒人差別が横行していた当時のアメリカでなぜ成功したのかを、親友にして元副社長のスモーキー・ロビンソンとともに説き明かしていきます。
ミラクルズ、ダイアナ・ロス&スプリームス、マーヴィン・ゲイ、スティービー・ワンダー、テンプテーションズ、ジャクソン5といった、かつて所属していたミュージシャンたちの楽曲も随所に盛り込まれています。
映画『メイキング・オブ・モータウン』のあらすじ
1959年、アメリカ北部の都市デトロイトにて、とある小さなレコード会社が誕生します。
自動車産業で栄えた同地の通称「モータータウン(Motor town)」に由来し、「モータウン(Motown)」と名付けられたその会社は、当時としても珍しいアフリカ系のベリー・ゴーディ・ジュニアが経営に着手。
自身がかつて働いていた自動車工場の組み立てラインをヒントに、ゴーディはさまざまなミュージシャンを輩出します。
ミラクルズ、テンプテーションズ、ダイアナ・ロス&スプリームス、フォー・トップス、スティーヴィー・ワンダー、マーヴィン・ゲイ、ジャクソン5……。彼らが歌ったナンバーは、20世紀のポピュラー音楽の最先端を走れば、ビートルズやローリング・ストーンズといった人種や国境を越えたアーティストにも多大な影響を与え続けたのです。
本作は、そうしたモータウンの軌跡を、ゴーディと元副社長でミュージシャンのスモーキー・ロビンソンが、旧交を温めながら説き明かしていきます。
自動車産業栄えるデトロイトで生まれた音楽レーベル
1929年、アメリカ・ミシガン州デトロイトに生まれたベリー・ゴーディは、黒人向けの新聞を白人が多く住む街で売るなど、小さい頃からビジネスに関心を示していました。
やがて朝鮮戦争に出兵し帰還した後、ビジネスで本格的に一旗揚げようと、ボクサーや靴磨きといった職を転々とするゴーディは、音楽好きであることからジャズ専門のレコード店を開業。
ところが、地元デトロイトの自動車工場員たちは、ジャズよりも12小節で嘆きの歌詞を刻むブルースの曲を求めているという事実に気づかず、すぐに閉店してしまいます。
インディペンデントのレコード会社で作曲家として活動していたゴーディでしたが、妻子を養うために、やむなくフォードの自動車工場で働くことに。
そこで自動車製造の流れ作業をこなしつつ、合間に楽曲づくりをすることで、音楽センスを身に付けていったゴーディは、1959年、実家から借りた800ドルを元手に、通称「ヒッツヴィルUSA」と呼ばれることとなる一軒家を社屋としたレコード会社モータウンを設立します。
自動車の製造ラインをミュージシャンづくりに転換
「最初はただのフレームだったのが、各工程でさまざまな物が加えられていき、最終的には一台の新車が出来上がる」。
生活のために働いていた自動車工場での組み立てラインを、ゴーディはミュージシャンづくりに応用。
編曲、ダンスといった“工程”を回りつつ、各ミュージシャンの個性が発揮できるダンスや立ち振る舞いといった所作まで徹底して管理。
そうして輩出された、少年時代から天才(ワンダー)と称されたスティーヴィー・ワンダーや、モータウンを代表する曲『マイ・ガール』のテンプテーションズ、女性トリオのダイアナ・ロス&スプリームスなどといったモータウンブランドのミュージシャンたちは、次々と全米No.1ヒットを連発していきます。
さらにミュージシャンだけでなく、ソングライターやプロデューサーたちのライバル心を煽ることで、ブランドに磨きをかけつつ、スタッフも人種を問うことなく、品質管理のトップに21歳の女性を据えるなど、今でいうダイバーシティを率先した環境づくりを行うという、先見の明を持っていたゴーディ。
それでいて、友人とのカードゲームでもお金を賭けるほどの無類のギャンブル好きな一面も、劇中で見せます。
また、所属ミュージシャンたちの貴重映像も公開されており、オーディションを受けるジャクソン5の様子なども見られます。
後に「キング・オブ・ポップ」と称えられる、リード・ボーカルのマイケル・ジャクソンのパフォーマンスは、この時点ですでに完成されていたのです。
参考:テンプテーションズ『マイ・ガール』
変革するアメリカと変わらぬ愛社精神
参考:マーヴィン・ゲイ『ホワッツ・ゴーイング・オン』
そうしたクオリティ・コントロールによって隆盛を極めたモータウンですが、やがてアメリカは公民権運動やベトナム戦争といった激動の渦に呑まれていきます。
それに感化されるように、マーヴィン・ゲイが『ホワッツ・ゴーイング・オン』でベトナム戦争への抗議を込めれば、スティーヴィー・ワンダーが自作のプロデュース権を求め、ゴーディの恋人だったダイアナ・ロスがソロ活動を本格化させるなど、所属ミュージシャンたちが自己プロデュースに乗り出します。
そしてモータウンも映画製作ビジネスに本格参入すべく、1972年にロサンゼルスに拠点を移します。
しかし、映画ビジネスの不振や、大物ミュージシャンや有能ソングライターの相次ぐ流出などから経営不振に陥り、1988年に大手MCAレコードに売却されることに。
しかし、モータウンが生んだ珠玉のサウンドは、ビヨンセやジャスティン・ティンバーレイクといった21世紀のミュージシャンたちに影響を与え続けています。
2019年に創立60年を迎えたモータウンレーベル。
レーベルに携わった関係者たちがいかに自社を愛していたのか、ラストでそれを示す歌を口ずさみます。
おぼろげな記憶になりつつも、完全に忘れることのないその歌は、モータウンに誇りを持つ者の証なのです。
本作『メイキング・オブ・モータウン』は、8月から公開のドキュメンタリー『ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』と併せて、アメリカのポピュラー音楽の歴史を知るに最適といえるでしょう。
映画『メイキング・オブ・モータウン』は2020年9月18日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開です。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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