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ゴジラシリーズ『三大怪獣 地球最大の決戦』感想と考察。夏木陽介と星由里子を偲ぶ|邦画特撮大全23

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第23章

今回取り上げる作品は『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)です。

選定理由は本作に登場する怪獣たちが、2019年に公開される『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』(2019)と同じだからです。

本作に登場する怪獣はゴジラ、モスラ、ラドン、キングギギドラ。と人気怪獣の4体です。

キングギドラを除く3体の怪獣はそれぞれ、『ゴジラ』(1954)、『空の大怪獣ラドン』(1956)、『モスラ』(1961)と単独作品が製作されています。いわば東宝映画の主役級怪獣がそろい踏みという訳です。

そして本作が初登場となった人気怪獣キングギドラ。今回はキングギドラの魅力を中心に、『三大怪獣 地球最大の決戦』を紹介していきます。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

『三大怪獣 地球最大の決戦』の作品情報


東宝作品『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)

ゴジラシリーズの第5作目である『三大怪獣 地球最大の決戦』。本作は『空の大怪獣ラドン』と『モスラ対ゴジラ』の続編でもあります。

実は本作、1964年12月に公開予定だった黒澤明監督の『赤ひげ』(1965)の撮影が長引いたため、興行の穴を埋めるため急きょ製作が決まった映画なのです。

そのため1964年は、4月に『モスラ対ゴジラ』、12月に本作と一年の間に2作のゴジラ映画が公開された異例の年なのです。

ちなみにゴジラ映画ではないですがこのような例は他にもあります。角川映画『復活の日』(1980)は当初正月映画として公開されるはずでした。

しかし、製作が遅れたため代わりに同じく角川映画の『戦国自衛隊』(1979)が正月映画として公開されました。

本題に戻ります。本作は製作・田中友幸のもと、監督・本多猪四郎、特撮監督・円谷英二、脚本・関沢新一と、メインスタッフは前作『モスラ対ゴジラ』から続投しています。

出演者は本作と同年に公開された東宝の特撮映画『宇宙大怪獣ドゴラ』『モスラ対ゴジラ』にそれぞれ出演していた夏木陽介、星由里子。

両方に出演していた小泉博。本作の後に『007は二度死ぬ』(1967)で浜美枝と共にボンドガールとなる若林映子。

第1作目『ゴジラ』(1954)に出演していた志村喬、平田昭彦も出演。その他、『ウルトラQ』の佐原健二、『ウルトラマン』の黒部進が悪役で出演しています。

初登場!強敵・キングギドラ!!

前述したように今や人気怪獣となったキングギドラは本作が初登場です。

本作のキングギドラは金星の文明を3日間で滅ぼしたといわれ、強大な磁力を持った隕石として地球・日本の黒部峡谷に飛来しました。

ゴジラ、モスラ、ラドンの3体が共同戦線を張らなければならないほどの強敵で、別名が“宇宙超怪獣”です。

キングギドラは竜(ドラゴン)をベースにデザインされた怪獣です。また日本神話をベースにした東宝映画『日本誕生』(1959)に登場する八岐大蛇(ヤマタノオロチ)もイメージ元になっています。

金色の鱗に覆われた体、3本の長い首、2本の長い尻尾、2つの大きな羽が大きな特徴です。

この特徴を生かすために着ぐるみを纏うスーツアクターの他、首や尻尾をワイヤーで操る操演スタッフが大勢参加しました。

キングギドラの強さはこうした設定だけでなく映像面にも見られます。

まずキングギドラが隕石から姿を現した場面。隕石が割れ火柱が上がり、数回爆発してからキングギドラが現れます。

この時に舞った炎が徐々にキングギドラの姿になっていく作画合成は正に圧巻です。

次にキングギドラによる町の破壊描写です。本作の決戦場となった富士山麓に飛来したキングギドラは町を破壊していきます。

このシーンでキングギドラの破壊行動を神社の鳥居から捉えたショットがあります。

最終的にキングギドラが前進して神社を破壊するのですが、この一連の流れはキングギドラの“神をも畏れぬ凶暴性”を象徴しているといえます。

またキングギドラは当初、現行の金色ではなく青(ブルーグレー)という配色でした。

この変更は撮影直前になされたものです。スクリプターの鈴木桂子が「金星から来るから金色だと思っていた」という発言を円谷英二が採用し、現在の金色に変更されたのです。

結果として金色への変更は正に英断だったのではないでしょうか。金色の持つ神々しさや重厚感は、強敵として登場したキングギドラにぴったりです。何より金色以外のキングギドラを想像できる人間はそういないでしょう。

ハリウッド版にも遂にキングギドラは登場!『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』

追悼・夏木陽介(1936~2018)と星由里子(1943~2018)

本作の主人公・進藤刑事を演じた夏木陽介、彼の妹の進藤直子を演じた星由里子。奇しくもご両名とも今年2018年に鬼籍に入られました。

夏木陽介の代表作というとTVドラマ『青春とはなんだ』や刑事ドラマ『Gメン‘75』(1975~1979)などが有名ですが、元々は東宝の専属俳優です。

さらにデビュー作は特撮映画『美女と液体人間』(1958)。

前述したように夏木は、『三大怪獣 地球最大の決戦』と同年に公開された『宇宙大怪獣ドゴラ』にもメインキャストで出演しています。

東宝を離れた後も『ゴジラ』(1984)に出演し、物語の中心となる林田博士を好演しました。

星由里子は、1958年に東宝が募集したミス・シンデレラ娘に選ばれ芸能界デビュー。

『大学の若大将』(1961)から『リオの若大将』(1968)まで、“若大将”シリーズ11作品で恋人役を好演しました。

『モスラ対ゴジラ』と本作『三大怪獣 地球最大の決戦』、ゴジラシリーズに連続して出演しています。

この2作で星はそれぞれ違う役を演じていますが、マスコミの女性記者という設定、物語上の役回りが2作とも共通しています。

その後、星は『ゴジラ×メガギラス G消滅作戦』(2000)にも出演しています。

また星はTVドラマ『科捜研の女』でシリーズ途中から登場する主人公・榊マリコの母親、榊いずみを演じていました。

榊マリコを演じる沢口靖子は第1回東宝シンデレラのグランプリで、84年版『ゴジラ』のヒロインでもあります。

つまり東宝の新旧看板女優であり、新旧ゴジラヒロインでもある2人に母娘役を演じさせるという粋なキャスティングだったのです。

夏木陽介と星由里子の2人は今、本作の思い出話に花を咲かせているかもしれません。

次回の邦画特撮大全は…

次回の邦画特撮大全は『キングコング対ゴジラ』(1962)を特集します。

お楽しみに。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

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