アダム・サンドラーが「ヤバい宝石屋」に扮し、「ヤバい取り引き」が始まる!
Netflix映画『アンカット・ダイヤモンド』は、ニューヨークを舞台に、アダム・サンドラーが、一攫千金を狙うギャンブル依存症の宝石商人を演じたクライム・ドラマです。
監督を務めたのは『グッドタイム』(2017)のジョシュ&ベニー・サフディ兄弟。アメリカ・カナダ以外ではNetflixにより2020年1月31日に配信され、高い評価を受けています。
映画『アンカット・ダイヤモンド』の作品情報
【配信】
2020年(Netflix限定配信)
【原題】
Uncut Gems
【監督・脚本】
ジョシュ・サフディ ベニー・サフディ
【キャスト】
アダム・サンドラー、ラキース・スタンフィールド、ジュリア・フォックス、ケビン・ガーネット、キース・ウィリアム・リチャーズ、イディナ・メンゼル、エリック・ボゴシアン、ジャド・ハーシュ、マイク・フランセサ、ジョナサン・アランベイエフ、ノア・フィッシャー、エイベル・テスファイ
【作品概要】
ジョシュ&ベニー・サフディ兄弟がアダム・サンドラーを主演に迎え、口先だけで生きてきたニューヨークの宝石商の人生の滑稽さと悲哀を描きます。ケビン・ガーネットとミュージシャンのザ・ウィークエンドが本人役で出演しています。A24とNetflixの共同配給作品。
映画『アンカット・ダイヤモンド』あらすじとネタバレ
2010年、エチオピアの鉱山で事故が起こり大勢の人間が集まっていました。そんな中、2名の作業員が坑内に入り、アフリカの珍しいブラックオパールが埋まった石を密かに掘り出していました。
2012年、ニューヨーク・マンハッタンのダイヤモンドストリートの一角で宝石店を営んでいるハワード・ラトナーは、極度のギャンブル依存症です。ハワードは、アルノという男に10万ドルもの借金を負っており、その返済を迫られていました。
ハワードは取引の際、担保として預かった品物さえ質に入れて現金化し、それをギャンブルに回して一攫千金を狙うという、綱渡りのような生活をしながら、借金地獄をしのいでいました。
妻のダイナと3人の子供がいますが、既にその仲は破綻しており、家庭行事などで行動を共にすることがあっても、ダイナはとことん彼のことを嫌っていました。
ハワードは宝石店の従業員であるジュリアと愛人関係にあり、自身のアパートメントの部屋に彼女を出入りさせていましたが、家族にはそれを隠していました。
ある日、エチオピアで採掘された、ブラックオパールが埋まった石がハワードの店に届きました。注文してから到着するまで随分と時間がかかりましたが、ハワードはこれをオークションにかけ、一儲けしようと企んでいました。
ちょうどその時、ハワードのビジネスアソシエイトであるデマニーが、人気バスケットボールプレイヤーのK.G(ケビン・ガーネット)を連れて来店しました。
珍しいものが手に入ったことで気持ちが高揚していたハワードは、オパール石をK.Gに見せ自慢しました。K.Gはたちまち石に夢中になり、その夜の試合で活躍するためにこの石が必要だ、売ってくれと言いだしますが、オークションに出品したいと考えているハワードは承諾するわけにはいきません。
「じゃぁなぜ見せた?」と不平を口にしながらは、K.Gは石を今日一日貸してくれと申し出ました。しぶしぶ同意したハワードは、K.Gの2008年のNBA選手権リングを担保として受け取りました。
ハワードは早速そのリングを質屋に持って行き、金に替え、KGに賭けて一攫千金を企みました。
目論見通り、KGが所属するボストン・セルティックスが勝ち、大儲けしたかに見えましたが、アルノは自分たちの金でハワードが金儲けをしていると怒り、彼の賭けを取り消していました。
娘の演劇の発表会に家族と出席したハワードは、アルノのボディーガードのフィルとニコルに拉致され、自分の車のトランクに裸の状態で押し込められ、賭けは実際は行われなかったことを告げられます。
一日過ぎてもK.Gが石を返しに来ないので、ハワードはデマニーに連絡を取り、ザ・ウィークエンドのライブイベントで待ち合わせることにしました。
会場でようやくデマニーを見つけますが、彼は石を持っておらず、まだK.Gが持ったままだと言います。
オークションに品物をおさめる期限が近づいているのに、現物が手元にない状態にいらいらを募らせるハワードは、愛人のジュリアが見当たらないことに気が付きます。
ジュリアはウィークエンドと共に、トイレの個室でコカインを吸っていたことがわかり、ハワードは激怒して、彼女をアパートから追い出します。
オークションの直前になってようやくオパール石を返却したK.Gは、石を175,000ドルで購入することを提案しますが、ハワードはオークションにかけてもっと高く売るつもりでいたので、本当に欲しいならオークションに来るようK.Gに伝えるのでした。
オークションの日、会場に到着したハワードは目録を見て、オパールが自分の見積りよりも遥かに低い評価を受けていることを知りました。
石を納入するのがぎりぎりになってしまったため、大勢の人間の鑑定を受けられなかったせいでした。
彼は会場にやってきた義理の父グーイーに値段を上げるために宝石に入札するよう説得します。グーイーはいやがりますが、K.Gが絶対買うから大丈夫だとハワードが言うので、しぶしぶ引き受けることになりました。
入札はグーイーとK.Gのふたりの競り合いになりました。しかし、グーイーが入札したあと、K.Gは入札を断念したため、商品はグーイーのものになってしまいました。
必ず、金は返すからと詫びるハワードに「こうなると思った」とグーイーは激怒し、手にいれたオパールを突き返します。そこにまたフィルとニコルが現れ、ハワードはボコボコに殴られ、噴水に突き落とされてしまいました。
血だらけになって店に戻ったハワードをジュリアは献身的に世話し、彼らは元の鞘に戻りました。
K.G が連絡を受けて店にやってきました。K.Gは、手間をとらされたことに不服なようでした。一体いくらでオパール石を仕入れたのかと尋ね、ハワードが仕入れの10倍の儲けを企んでいたことを知り、呆れ果てたような表情を見せました。
映画『アンカット・ダイヤモンド』の感想と評価
ジョシュ&ベニー・サフディ兄弟の作品ほど、観ていていらいらさせられるものはないのではないでしょうか?
前作『グッドタイム』もそうでしたが、サフディ兄弟が描く人物は、独善的で、短絡的で、周りの者にとっては非常に厄介な存在です。
その上、彼らは運も悪い人間で、彼らが招きよせる呆れた事柄の数々に、観るものは思わず苛ついてしまうのです。
けれどもいつの間にか、そんな厄介な連中の自業自得のような物語から目が離せなくなっているのに気が付き驚くことになります。彼らの運命を見届けなくては気がすまないような気分にさせられていくのです。
本作『アンカット・ダイヤモンド』も、アダム・サンドラー扮する欲深い宝石商、ハワードに終始いらいらさせられること請け合いです
彼は常に独善的にしゃべりまくっているせわしない男で、金に汚く、周囲を振り回し、苛つかせます。娘の演劇の発表会での彼の醜態はどうでしょう。この落ち着きの無さには元妻でなくとも、呆れ返ってしまうでしょう。
多大な借金を背負いながらも、あっけらかんと毎日楽しそうに動き回っているのは、いつでも大きな勝負をして、返済できると信じているからです。
ギャンブル依存症の典型ともいえますが、そうした態度がまた周りの反感を買うことに彼は気がついていません。
彼がスター・バスケットプレイヤーのK.Gにオパールが埋め込まれた石を貸してしまい、それがなかなか手元に戻ってこない一連の出来事では、いらいらやきもきしているハワードの姿が描かれ、アダム・サンドラーの「キレ芸」が炸裂しています。
ハワードに有名人客を紹介する役割を果たしているデマニーという男ののらりくらりとした態度には、ハワードならずとも観ていて腹立たしくなってきますが、元はといえば、ハワードの無計画さや杜撰さから来たものであり、このエピソードも私たちが感じるハワードへの苛立ちを加速させるものになっています。
映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015/F・ゲイリー・グレイ)『ゲット・アウト』(2017/ジョーダン・ピール)などで知られるラキース・スタンフィールドがデマニーを演じ、なんともいえぬ独特なニュアンスを醸し出しています。
こんな調子でいらいらさせられっぱなしなのですが、ハワードが喋り続けるように、映画自体も非常に饒舌にハイテンションで突き進んでいき、いつしか、この間違いだらけの選択をしているハワードという男の人生に引きずり込まれ、その運命を見届けたいという欲望に取り込まれてしまいます。
冒頭のエチオピア鉱山のシーンから、次々に画面を織りなすカラーに惑わされていると、いつの間にか、腸の検査の内視鏡の画面に入り込んでいるという摩訶不思議な映像の流れは、ラストでもまた繰り返されます。
宇宙的と呼ぶべきなのか、人を喰った表現と呼ぶのが相応しいのか、オープニングとエンディング映像が代表するように、 “サフディ兄弟マジック”としかいいようのない映画体験をどっぷりと味わうこととなるのです。
まとめ
この作品の成功は、そんなサフディ兄弟とアダム・サンドラーがタッグを組んだことに尽きるでしょう。
アダム・サンドラーといえば、『ウエディング・シンガー』(1998)、『ビッグ・ダディ』(1999)、『50回目のファーストキス』(2004)など、作品をことごとくヒットさせてきたコメディー界、いや、ハリウッドでも随一のヒットメーカーであるスター俳優です。
一時期、興行に陰りが見えたときもありましたが、昨今はノア・バームバック監督による『マイヤーウイッツ家の人々(改訂版)』(2017)など、Netflixオリジナル作品などで高い評価を受け、視聴回数でもヒットメーカーとしての面目躍如を果たしています。
アダム・サンドラーの特徴は「キレる」演技にあり、彼が映画の中でどのように我慢して、どのようにキレるかというのが見どころになっています。
面白いのは、『パンチドランク・ラブ』(2002)のポール・トーマス・アンダーソン監督や、『マイヤーウイッツ家の人々(改訂版)』のノア・バームバック、そして本作のサフディ兄弟が、自身の作家性の中でアダム・サンドラーの新しい魅力を見出す一方、サンドラーをきっちりとキレさせていることです。
そういう意味では、どの作品も作家性の濃い作品でありながら、いつものアダム・サンドラー映画でもあるわけです。
『アンカット・ダイヤモンド』は、ニューヨークに暮らすユダヤ系の男性の日常と、ギャンブル依存から来る様々なトラブルを描いた、どちらかといえばシリアスな作品ですが、絶妙ななんともいえぬ笑いとペーソスが混じっています。
オークションのエピソードなどはその最たるものでしょう。アダムサンドラーがそこにいるからこそのユニークな可笑しみを味わうことができます。
サフディ兄弟とアダム・サンドラーという強烈な個性が絶妙にクロス仕合い、誰もが予想していなかった地平へと映画は向かっていきます。
NBAの元スター選手、K.Gこと、ケビン・ガーネットや、ミュージシャンのザ・ウィークエンドが、本人役で出ているのもみどころのひとつとなっています。