女性の復讐劇だけない、追い詰められた人間の狂気が怖いリメイク版『透明人間』
2020年7月に公開されたホラーのリメイク作品『透明人間(2020)』。1897年に刊行された原作小説を基に、1933年版の『透明人間』を現代風にアレンジしたものです。
テレビドラマ『ハンドメイズ・テイル 侍女の物語』のエリザベス・モスを主演に迎え、ホラー映画の名手、ジェイソン・ブラムが製作に携わる映画です。
物語は、超束縛男から逃れようと戦う女性の姿を描きだします。エリザベス・モス演じるセシリアの勇敢な姿を捉えた名作スリラー。
ヒロインは執拗に追い込みをかけて来る男から、いかにして立ち向かっていくのでしょう。この物語を冷静な視点で徹底解説していきます。
映画『透明人間(2020)』の作品情報
【公開】
2020年(アメリカ映画)
【原作】
H・G・ウェルズ『透明人間』(1897年発行)
【監督】
リー・ワネル
【キャスト】
エリザベス・モス、オリヴァー・ジャクソン=コーエン、オルディス・ホッジ、ストーム・リード
【作品概要】
数々のホラー映画を手掛ける、ブラムハウス・プロダクションズ製作のホラー映画。製作には、「パラノーマル・アクティビティ」(2007年〜)シリーズや、『ゲット・アウト』(2017年)などを歴任してきたジェイソン・ブラムが製作に携わっています。
監督は、『ソウ』(2004年)の出演やプロデュースで知られるリー・ワネル。主演は、テレビドラマ「ハンドメイズ・テイル 侍女の物語」のエリザベス・モスが務めています。
映画『透明人間(2020)』のあらすじとネタバレ
セシリアはベッドに居て、隣には彼氏のエイドリアンが寝ています。起こさない様にそーっと起きると、セシリアは抜き足で準備をし始めました。目的は彼の家から抜け出す事。
監視カメラを切り、彼を起こさない様に慎重に準備を進めていきます。セシリアは、辛うじてエイドリアンの家を抜け出すと待ち合わせをしていた妹が車で迎えに来るのを道路で待っています。
ようやく妹がやって来ると、事情を説明せずに早く出してと急かすセシリア。
訳もわからずに、指示に従う妹のエミリー。すると物凄い勢いで走って来る彼氏のエイドリアンは、そのままの勢いでガラスを叩き割ってきます。
その様はまさしく常人のものではなく、どこか異常な様である事が見て取れます。それも納得のいくもので、エイドリアンの束縛はセシリアの行動だけはなく、言動や思考まで支配しようとしていたのです。
そんな生活からようやく逃げ出すことに成功したセシリアでしたが、その後もいつエイドリアンが連れ戻しに来るのかと、気が気じゃない日々を送っています。
身を寄せる場所は、警察官をしている親友のジェームズ宅。誰にも告げずに2週間、ジェームズの家で居候していました。
家の前に新聞を取りに行くことすら困難なほど精神的にまいってるセシリアに、ジェームズは思い詰めすぎだと、心配するしかありません。
すると、セシリアの元に一報が届きました。それは、エイドリアンが死んだこと。そしてエイドリアンの財産を、セシリアが相続する事が、彼の弟であり弁護士でもあるトムから伝えられます。
遺産を相続するには条件があり、心神喪失しない事、それがどこか奇妙なものでもあったのですが、セシリアはその申し出を受ける事にします。
エイドリアンは、光学研究の科学者で裕福だったのです。その遺産のお金でセシリアは、ジェームズの娘であるシドニーに、大学進学への支援をするなどして、徐々にではありますが状態も回復の兆しをみせていました。
そんなある晩、セシリアの元に奇妙な出来事が起こり始めます。人がいるような気配がするのです。
それが何なのか。嫌な予感を覚えたセシリアですが、少しづつ予感が確信へと変わり始めました。
明らかに透明になった人間がいる。そしてその透明人間が、死んだはずのエイドリアンであることは、明白だったのです。
ベッドで寝ていると、ブランケットがずれ落ち、人がいることがわかります。
セシリアには確信がありましたが、ジェームズたちには何の事だかわかりません。結局なだめられて、その場は収まってしまうのでした。
翌朝、セシリアは仕事の面接に向かいます。しかし、その最中で倒れて病院へと搬送。倒れた原因は、飲んでいる薬の抗不安薬によるものでした。
それをエイドリアンの仕業であると思ったセシリアは、弟のトムにやめさせるようにジェームズと一緒に忠告をしに行きました。
セシリアは、エイドリアンが自分に執着していたことを話し、一連の出来事を辞めさせる為に強い態度で示します。
しかしそこにはエイドリアンの遺灰があること、弟のトムが彼の怖さを十分に理解しており、死んだ後でもセシリアのことを苦しめるような言動をしていたのだと諭すのでした。
セシリア同様に、トムも被害に受けていたのです。セシリアは、それでも諦めませんが、事態はさらに悪い方向へと進みます。
妹のエミリーには、セシリア名義でひどい内容のメールが届き、ジェームズの娘であるシドニーからは、平手打ちをされるような“でっち上げ”を受けます。
それは全て、透明人間になっているエイドリアンの仕業であることは明らか。しかし、ジェームズ達には余計に自分への疑いを深めてしまうだけで、セシリアがどんどん孤立していきます。
そんな折、セシリアはやけになって包丁を持ち出そうとしますが、透明人間のエイドリアンに投げ飛ばされてしまいます。
セシリアは、何とかその場から抜け出してウーバーを使って、エイドリアンの家に向かいました。エイドリアンの家で、ついに透明人間になるカラクリを発見するセシリア。
特殊な光学迷彩スーツ! これで、エイドリアンは透明になっていたのです。
自分の主張が正しい事を証明できると、セシリアはそのスーツを持ち出します。
しかしエイドリアンが透明のままやって来る気配が……。セシリアはそのスーツをクローゼットに隠して、待ってもらっていたウーバーの配車サービスに再び乗り込み、妹のエミリーの元へと向かいます。
人の目につくように、レストランで落ち合う2人。これまでの経緯を説明し、エイドリアンのやってきた事を立証できるとエミリーに話していたセシリア。
しかし次の瞬間、ナイフが宙に浮きエミリーを殺してしまうのです。側から見れば、セシリアが殺したように見えてしまう様な光景、このやり方はまさしくエイドリアンの仕業。
そして事態はエイドリアンの思惑通りに、セシリアが逮捕され、精神病院へと収監されてしまいました。
映画『透明人間(2020)』の感想と評価
『透明人間』は単純に解釈すると、交際相手の異常な支配から逃れ、妹を殺され、極限までに追い込まれた女性の復讐劇です。
戦う女性の勇敢な姿にとても共感を得られる物語というのが、表向きなイメージの作品です。
確かにセシリアのように、妹を殺され、極限まで追い込まれれば、劇中の様な行動を起こしてしまうのは当然です。理解もできるます。
しかし、少しひねくれた見方をすると、本当に怖いのは、エイドリアンではなくセシリアの方かもしれないのです。
見えない何かに襲われていることを必死に証明しようとするセシリアですが、誰も信用してくれません。
追い込まれすぎて憤りを感じた先にセシリアのとった行動は、ある意味では圧倒的な支配をしようとするエイドリアン以上に怖いものといえます。
この映画では、ソシオパスとして描かれていたエイドリアン。その対極には、サイコパスとしてセシリアに追い込まれた先の狂気を置き換えています。
支配する狂気vs狡猾な狂気となるラストのセシリアの姿を見て、エイドリアン以上に怖いのはセシリアに違いないと思えてきます。
まとめ
女性の戦う姿に狂気を見る。まさにそんな光景が展開する映画『透明人間』。
リー・ワネル監督が描きたかったのは、透明人間にストーカーされる女性の心理だったのでしょう。ストーカーに悩まされる人たちが多い現代社会に一石投じた問題作ともいえます。
ソシオパスとなるエイドリアンの狂気か、それともセシリアのサイコパス的狂気か。
この映画をどう見るのかは人によって違いますが、視点を変えても背筋がゾワっとなる、そんな結末がとても素晴らしい作品となっています。