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映画『ナイト・ウォッチャー』ネタバレ感想と考察評価。異色サスペンスでタイシェリダンが難役に挑む|未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録17

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第17回

様々な事情で日本劇場公開が危ぶまれた、埋もれかけた貴重な映画を紹介する。劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第17回で紹介するのは『ナイト・ウォッチャー』。

スティーブン・スピルバーグ監督作『レディ・プレイヤー1』(2018)で、バーチャル世界で大活躍する主人公を演じ、一躍世界的スターとなったタイ・シェリダン。

本作で彼が演じるのは、アスペルガー障害を持つホテルマン。相手の感情を読み取れず、他人とのコミュニケーションが上手く図れない彼は、ホテルの客を盗撮して観察し、その表情や言葉使いを身に付けようとしていました。

しかしある日、彼が眺めていた映像に、思わぬものが映ります。異色の設定で送る、心理サスペンス映画が誕生しました。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020延長戦見破録』記事一覧はこちら

映画『ナイト・ウォッチャー』の作品情報


(C)2019 Late Shift, Inc. All Rights Reserved.

【日本公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
The Night Clerk

【監督・脚本】
マイケル・クリストファー

【キャスト】
タイ・シェリダン、アナ・デ・アルマス、ジョン・レグイザモ、ヘレン・ハント、ジョナサン・シェック

【作品概要】
思わぬ事情から殺人事件の容疑者にされた、アスペルガー症候群の青年を描くサスペンス映画。監督・脚本家・俳優と幅広く活躍するベテラン、マイケル・クリストファーがアントニオ・バンデラスとアンジェリーナ・ジョリー共演作『ポワゾン』(2001)以来、久々に監督した作品です。

主演はタイ・シェリダン。共演に『ブレードランナー 2049』(2017)、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2020公開予定)のアナ・デ・アルマス。そしてジョン・レグイザモにヘレン・ハントら、実力派俳優が顔をそろえました。

映画『ナイト・ウォッチャー』のあらすじとネタバレ


(C)2019 Late Shift, Inc. All Rights Reserved.

ショッピングモールで、行きかう人々を観察する青年バート(タイ・シェリダン)。

今彼は、幾つものモニターに映し出された人々の映像を、次々と切り替えて見ていました。それはホテルの客室で過ごしている人々の姿でした。

バートは画面に映し出された人の表情と、彼らが喋った言葉を真似ています。

繰り返し映像の中の人物の、言葉と表情を再現するバート。すると映像の1つが彼に声をかけます。それは台所にいる母エセル(ヘレン・ハント)でした。

モニター越しに食事が出来たと伝えた母に、バートは反応しません。息子のいる地下の部屋の前に、エセルは食事を置いて去ります。

食事を取ると自分の部屋に戻るバート。彼はホテルマンの制服を着ていました。部屋の黒板には家を出る際に、やるべき事が大きく書き出されていました。

ソファに座ると、モニター越しに母と食事を共にするバート。

車に乗ると、バートは勤務先のホテルに向かいます。到着するとマネージャーのベンソンが元気か、と声をかけます。バートはそれは難しい質問で、答えるには時間がかかると返事します。

バートの会話はぎこちないものでしたが、マネージャーは彼がそんな人間だと、良く理解している様子です。言葉を交すとバートは職場に向かいます。

彼はホテルのフロントで、夜間のシフトに入りました。出入りする人の姿もなく、退屈な時を過ごすのに苦労するバート。

1人の女性客が現れます。バートは彼女を驚かせましたが、和やかに会話は始まります。

彼女はペレッティの名で予約が入っているか尋ねました。バートがそれを確認すると、彼女はその部屋は良い部屋か、雑談のように聞きました。

バートはホテルの案内文を丸暗記したかのように、部屋の設備や機能のセールスポイントをまくしたてます。彼女はその態度に違和感を覚えたようです。

彼女を観察して決めたのか、バートは当初案内した部屋と異なる、別の部屋の鍵を渡します。彼女が部屋に向かうと、フロントでタブレットを開くバート。

タブレットの画面には、部屋に入った先程の女の姿が映し出されていました。幾つかのアングルの映像があり、複数のカメラで撮影していました。

彼女が外に面した、出入りできる掃き出し窓を開けると1人の男が入ってきます。バートはその様子を観察します。

そこに交代のスタッフ、ジャックが現れます。慌てて画面を閉じたバートに、同僚はポルノ動画でも見ていたのか、と軽く言いました。

否定するバートに、映像はこのホテルの客室みたいだった、と告げるジャック。彼が挨拶で元気かと言うと、それは難しい質問で、答えるには時間がかかると返事するバート。

ジャックもそんなバートの姿勢に慣れた様子です。もういいと言われるまで帰ろうとせず、また明日と、別れの挨拶を繰り返し告げるバートの態度に、ウンザリした様子を見せました。

職場を出るとガソリンスタンドの売店により、大量にアイスを買うバート。彼はカウンターの店員に、彼の来ているシャツの柄が、派手すぎて目を刺激すると指摘します。

突然そんな事を言われ、機嫌を悪くして悪態をついた店員に、礼を言って去るバート。

帰宅したバートは、アイスを食べながら先程の女の映像を見ていました。女は男と会話を交わしています。彼はその言葉を真似ていました。

ところが女は、男が別の女と会っていると責め始めます。言い争いに気付き、バートは戸惑います。

男が女をベットに突き飛ばし、女は相手を嘲笑します。男の顔を見ることは出来ません。そして床に落ちたバックから、拳銃がこぼれ出たとバートは気付きました。

男は彼女の首を絞めているようです。慌てたバートはホテルに電話をかけますが、まずい行動と気付き電話を切ります。

何度も自分に大丈夫だと言い聞かせ、車に乗り込みホテルに向かうバート。

ホテルに到着すると、裏口から入り部屋に向かうバート。煙草を吸いに外に出た同僚のジャックは、駐車場にバートの車が停まっていると気付きます。

バートは問題の部屋の前に到着します。そしてジャックは、1発の銃声に気付きます。

ジャックが扉の開いた例の部屋に入ると、倒れている女の隣でバートがベットに座っていました。この人は死んでいると告げたバート。

同僚はバートに何も触るな、と言い通報に向かいました。すると彼は隠しカメラのメモリカードを回収し始めます。しかし焦ったバートは、1枚のメモリカードを落します。

翌朝、ホテルに現れたエスパダ刑事(ジョン・レグイザモ)は、マネージャーのベンソンと話していました。彼は刑事に、バートは有能な従業員だと説明していました。

ホテルの採用条件を満たしており、彼は決して問題を抱えた人物ではないと説明し、もう3年近く務めトラブルも起こさなかったと語るベンソン。

刑事がやって来ると、いきなりバートは財布を忘れたと言い出します。刑事が質問する前に、ジャックが交代の時間の午前4時より、いつもより早く15分前に現れたと告げました。

そして家に帰る途中アイスクリームを買い、家でテレビを見ていて、財布を忘れたとに気付き、ホテルに取りに戻ったと一方的に、かつ詳細に話したバートにエスパダは驚きます。

年齢を聞かれ、23歳と答えるバート。恋人も友達もいないと説明し、性的な興味を問われると、答えるのが難しい質問だと言うバート。

それは理解できると言うエスパダ刑事に、バートはもし関心があるなら、私の方ではあなたのような、年配の男性に性的興味はありませんと答えます。

エスパダは呆れながらも、バートがどういう人間かを理解したようです。その上で彼が帰った姿を見ておらず、銃声の前に彼の車を駐車場で見た同僚の証言を伝えました。

ホテルに戻った時なぜ玄関から入らなかった、なぜ袖口や手に血が付いているのか、との刑事の質問に、あれこれ話し出すバート。

刑事が君は問題を抱えていると、言葉を選びながら語ると、自分はアスペルガー障害だと認めるバート。そして、その特徴を詳細に語り始めました。

一方的にしゃべり続けたバートに、エスパダは落ち着くよう告げます。彼は賢い人間だと認めながらも、財布を忘れたなら帰宅途中に、どうやってアイスを買ったと聞くエスパダ。

バートは警察署に連れて行かれます。そこでエスパダは、同僚のペレッティ刑事(ジョナサン・シェック)を慰めます。殺されたのは彼の妻でした。

ペレッティは妻は護身用に銃を持っていたと告げ、現場にいたバートが、何か知っているのかと訊ねました。そして夜間、妻はホテルで何をしていたと呟きます。

警察署に現れたエセルは、息子とは弁護士立ち会いでないと話をさせない、と主張します。エスパダが質問したいと言っても、彼女は激しく断り息子を連れ帰りました。

家に帰るとバートに、正直に何でも話して欲しい、常にあなたの味方だと告げるエセル。

バートは黙ったまま、自分の頭を母の顔に近づけました。

その夜エスパダ刑事は、自宅でパソコンに向かい、アスペルガー症候群について理解しようとしていました。エセルは1人ソファに横たわり、思いにふけります。

バートは自室で、事件を撮影した映像を見ていました。あの部屋にいた男の腕に、鳥のタトゥーがあると気付くバート。

翌日マネージャーのベンソンは、バートに対し解雇はしないが同じチェーンの、他のホテルに異動させると告げました。そこでは今と同じシフトで働けると説明します。

言葉に従い、新たなホテルで働き始めたバート。そこに客として若い女が現れます。

チェック・インを求めた彼女は、アンドレア・リベラ(アナ・デ・アルマス)と名乗りました。

このホテルを度々利用しているらしい彼女は、彼が新顔だと気付きました。彼女に聞かれ自分の名を名乗るバート。

彼は自分のネクタイにカメラを仕掛けていました。録画したアンドレアとの会話を再生し、バートは彼女の表情や喋り方を真似ます。

それを参考に、彼女との受け答えをシュミレーションしますが、色々と詳細に語り始めるバート。自分が喋り過ぎたと反省しました。

もう一度彼女との会話を想定し、試してみたバート。彼はアンドレアに関心を抱いたようです。

今日もまた母は、バートとモニター越しに会話し、部屋の前に食事を置きました。自宅から歩いて買い物に出るバートを、車の中から見つめるエスパダ刑事。

バートは入ったスーパーで、アンドレアと出会います。アンドレアの方から話しかけられると、食品の成分について詳細にまくし立て、自分が喋り過ぎたと気付いたバート。

彼女は気にしていません。自分は厄介な性格だと告げたバートに、自分の弟も同じだったとアンドレアは語ります。

弟はアスペルガー症候群の影響で、働く事が出来なかったと彼女は告げます。苦心しながらも世に出て働くバートを、彼女は好意的に見ていました。

それを聞いた彼は、自分は他人の行動を見て学び、それと同じように振る舞う訓練をしなければならないと、自分の状況を打ち明けます。

人々を観察できるホテルの仕事は、自分に向いていると考えたバート。

彼はアンドレアに、弟について聞きました。彼女は弟は長らく入院し、退院することなく亡くなったと教えます。

深刻な話題になると、バートには彼女にかける良い言葉が浮かびません。一方的に別れを告げると、彼女の前から立ち去りました。

自宅に戻ったバートは、事件のあった部屋から回収した、メモリーカードやカメラを確認していました。そしてメモリーカードが1枚無いと気付きます。

そのカードは警察が入手していました。その映像をペレッティに見せるエスパダ刑事。

妻と彼女を襲う正体不明の人物が映る映像を見せられ、ペレッティ刑事は驚きます。盗撮はバートの仕業だと、エスパダは考えていました。

なぜ彼を逮捕しない、と言うペレッティに、バートは盗撮を行い何かを目撃したが、彼と犯行を直接結び付けるものは無いと説明するエスパダ。

ホテル従業員のジャックは、バートがフロントでタブレットを見ており、そこにホテルの部屋のような映像が映っていたと、警察署でエスパダに証言します。

なぜそれを話すと刑事に聞かれ、事件のあった部屋で遺体の傍で、黙って座るバートの姿が気味悪かったと答えるジャック。

フロントにいるバートは監視カメラが映す、ホテルの駐車場にいるアンドレアの姿を見ていました。彼女は車に乗っている誰かとキスをしているようです。

彼女はフロントに1人で現れました。アンドレアに元気かと話しかけられ、それは非常に難しい質問だ、と答えるバート。

彼は彼女の部屋で作業が行われたので、何かが動いているかもしれないと告げます。

バートは彼女の部屋に、隠しカメラを仕掛けていました。彼が見つめるアンドレアは、物憂げな表情をしていました。

飲み過ぎて眠れず、煙草を吸うのにマッチが欲しいと、ナイトガウン姿でフロントに現れた彼女に、バートは館内は禁煙だと告げ、煙草の害を延々と説明します。

彼の隣に座ったアンドレアは、プールサイドで煙草を吸うと言いマッチを受け取りました。

トップレスで泳いでいた彼女の前に、タオルを持ったバートが現れます。驚いた彼女に、ライフガードがいないから来た、と説明したバート。

アンドレアは彼を隣に座らせました。バートは彼女に詫びると、駐車場で誰かとキスしている姿を見てしまったと告げます。

相手は誰で、どうしてキスをしたかと聞かれ、それは難しい質問だと答えるアンドレア。

恋人はいるかと聞かれ、いないと答えるバート。恋愛は奇妙に思える言う彼に、それは誰にとっても難しい問題だと、アンドレアは語りかけます。

あなたの中で、どんな気持ちが芽生えているのと聞かれ、思わず彼女にキスをするバート。

優しく笑ったアンドレアと対象的に、バートは思わぬ自分の行動にパニックになります。

不適切な行為なら謝罪する、2度としないと言うバートに、隣に座るよう誘うアンドレア。

バートの髪に触れ、キスは寂しいからするの、と言いキスをした彼女。膝枕の姿勢になったバートに、自分の相手は既婚者だと告げ、人目を忍び長い間付き合っていると説明します。

自分の今の状況を上手く説明出来ない、と言う彼女にバートは話し始めます。

Nerd(オタク)という言葉は、1950年にドクター・スース(『グリンチ』の原作者)が書いた絵本、「If I Ran the Zoo」に初めて登場した、と教えるバート。

他人をレッテル貼りすることが好きな人々は、その言葉を奇妙な人物や、外見のさえない人物に対して使うようになりました。

しかし今では特殊な技術的才能を持つ者を示す、良い意味でも使われ、テクノセクシャルの世界ではセクシーな、愛の神の意味すら持っていると説明します。

笑いながら何を言ってるのか判らない、と告げるアンドレア。発言を後悔したバートに、自分たちの事を話したのか、と彼女は尋ねました。

あなたは私の愛の神なの、と訊ねた彼女に、自分はあなたのライフガードになれる、と言うバート。

あなたならそれが出来る、私には出来ないが、あなたの様な人ならきっと出来る、そう告げたアンドレアは、部屋に戻って行きました。

プールサイドに残ったバートは、ビーチチェアに1人横たわり微笑みました。

以下、『ナイト・ウォッチャー』のネタバレ・結末の記載がございます。『ナイト・ウォッチャー』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019 Late Shift, Inc. All Rights Reserved.

今日のバートはショッピングモールに姿を現しました。洋服店、自動車販売店、化粧品店そして散髪屋を訪れます。

バートと店員との会話は、どこでも最後には奇妙なやりとりで終わり、店にはいい迷惑だったかもしれません。

それでも精いっぱい身だしなみを整えた彼は、ホテルを訪れると、アンドレアの部屋が見える場所に車を停めました。

彼はフロントに電話すると彼女の部屋番号を告げ、アンドレアと話そうとします。窓から彼には電話に出た彼女の姿が見えます。

ところが部屋には他に男の姿がありました。カーテンで男の顔は見えませんが、腕にタトゥーが見えました。

それはあのホテルの部屋で、殺された女と争っていた男のタトゥーと同じものでした。アンドレアはその男と抱き合います。

何も話さず電話を切ると、どうしたものか思案するバート。

バートの家を訪れたエスパダ刑事は、エセルの抗議に構わずバートのパソコンを押収します。彼は捜査に必要だと令状を取ったのです。

エスパダに挨拶するバート。エセルは息子に、刑事と話す必要はないと告げますが、警察署で話すより良いと、自宅で刑事がバートと話すことを認めます。

これは息子が世界に接するやり方だ、と言ってパソコンの周辺機器を片付けようとした母に、強い調子で触らないよう叫ぶバート。その姿は攻撃的に見えました。

刑事はバートに、ハードドライブが消去されていたと指摘します。バックアップを取っていないという彼に、それは信じられないと告げるエスパダ。

君は何かを隠している、という刑事に、エセルは息子は何も隠していないと主張します。エスパダの厳しい追求に、バートは黙り込みます。

事件のあった部屋は、バートの指紋だらけだと告げるエスパダ。君は殺された彼女となら関係を持てると思ったが、上手くいかなかったのではと言います。

そして彼女を殴った、と言葉を続ける刑事。するとバートは彼の仮説の続きを語ります。後は自分がいつもポケットに入れている、銃を取り出すだけだと。

いつも持ってる銃で、彼女を撃ったと言うバート。母が止めるのも聞かず、その銃はネットで買ったとまくし立てます。

セックスが上手くいかない時に備え、銃を持つのは良い考えだ。上手くいかなかったら、あなたも陽気に自分の銃で撃てば良い、と一気に喋ったバート。

その銃はどこにある、と聞く刑事に、エセルは息子は冗談を言っただけと言い、バートは銃など持っていないと説明します。

現実に死んだ女性がいる、冗談ではないとエスパダは告げます。そしてバートは何か知っているから、今も笑わないと指摘して去って行きました。

バートは隠していた周辺機器をモニターにつなぎ、映像を流します。それにはアンドレアと、下着姿のあの男が映っていました。モニターの前から去るバート。

部屋から現れないバートに代わり、エセルは職場に休むと伝えます。彼女が様子を見に行くと、バートは食事に手を付けず、ベットに横たわっていました。

上司のベンソンが心配していたと、エセルは息子に告げました。そして自分もお前を心配していると母は語りかけます。

人生は誰にとっても難しい、お父さんが亡くなった時は、お前にも私にも辛かったと言葉を続けるエセル。

それは辛く悪い出来事でしたが、それは人生の最悪の部分ではない。最悪なのは朝目覚めた時に、それを忘れている事だと告げます。

あなたが朝起きた時、まだ父の事を覚えている。それは辛いことだが、1日は始まり世界は進んで行く。世界はあなたを待っている、と語りかけました。

言い終えると母は去って行きました。その言葉を受け止めたのか、自室から出ると母と同じテーブルに座り、共に食事をとるバート。

車の中で、何度も考えたが、これが唯一の方法だとアンドレアに告げる男がいます。

自分を愛しているか、と語ったのは彼女の愛人で殺された女の夫、ペレッティ刑事でした。私はやる、あなたは私がやると信じている。そう答えたアンドレア。

バートの自宅に現れたアンドレアを、エセルが迎えます。バートの友人だと彼女は言い、ホテルで彼と知り合ったと説明します。

息子はもうホテルで働いていないと言うエセル。アンドレアは彼に会いたいと告げます。

現れたバートに彼女は窓越しに、会えなくて寂しいと告げます。元気かと聞かれ言いよどむバートに、それは難しい質問だよね、と語るアンドレア。

自分は失恋した、と言ったバート。恋愛が人間の脳に与える影響を話し始め、恋愛は脳に麻薬のような効果を与えるので、恋愛は感情というより中毒だと説明します。

バートは愛を失った者は、麻薬の禁断症状のように苦しむと言います。彼女はそれこそが、失恋だと告げました。

謝った彼女に、中毒は危険なことだと言い、人は愛で死ぬ、そして人は死ねば終わりだと、言葉を続けたバート。

アンドレアは改めてバートに謝り、あなたは素晴らしい人だと告げました。もし違う形で出会っていれば、と彼の頬に手を当てます。

彼女はあなたに会えて幸せだと言い、もう2度と迷惑はかけないと言います。去って行く彼女に、何も語らず複雑な表情を見せるバート。

立ち去る彼女の姿を、停めた車の中からエスパダ刑事が見つめていました。エスパダはSNSなどを調べ、彼女が何者か探りました。

そしてバートは、今もアンドレアが宿泊するホテルの部屋の映像を、自宅に流していました。するとモニターから言い争う声が聞こえてきます。

ペレッティ刑事に、もう愛していないと言うアンドレア。激しく罵り合った末に、ペレッティが彼女を平手打ちにします。それを見て叫ぶバート。

彼はホテルに車を走らせます。銃を手にしたアンドレアは、バスルームにこもります。

ホテルの部屋に入ると、バートは大声を出します。ペレッティは彼を押さえつけましたが、騒がれたので彼を残し部屋から立ち去りました。

バスルームをノックし、自分だと呼びかけるバート。現れたアンドレアは、唇から血を流していましたが、なぜ彼がここにいるのか尋ねます。

興奮したバートに、彼女は落ち着いて事情を話せと求めます。考えた末に、自分がホテルの部屋にしかけたカメラを外して見せるバート。

盗撮されていたと知り、ショックを受けたアンドレア。怒った彼女にバートは謝り続け、血を拭くようタオルを渡します。

彼女の身を守るため、どうか自分と一緒に来て、見て欲しいものがあると訴えるバート。その姿を見て、彼女は銃をハンドバックに入れ彼に付いて行きました。

バートは彼女に、ホテルの1室でペレッティが妻と言い争う姿を撮影した動画を見せます。この後何が起きたかを悟り、動揺するアンドレア。

他の人がどの様に振る舞うのか学ぶために、部屋にカメラをしかけ人々を撮影していた、悪い意図は無かったと、バートは彼女に説明します。

これを警察に見せたのか、と訊ねたアンドレアに、あなたにしか見せていない、撮影した動画は全てここにあると告げたバート。

ペレッティは悪人であなたも傷付ける、現に傷付けたとバートは訴えます。

自分の立場が悪くなっても、あなたと一緒なら警察に行ける、あなたのためなら何でもする、と告げるバート。

自分のことを知らないのに、と呟く彼女。どうすればいい、と繰り返すアンドレアに、私の傷付いた心を直して欲しいとバートは願いました。

それは出来ない、と言うアンドレア。しかし彼女はベットに横たわると、バートに手を伸ばします。彼女がバートの手を掴み、2人は添い寝します。

バートが目を覚ますと、荷物をまとめたアンドレアが、お早うと言いました。

自分は旅立つ準備が出来ている、と話す彼女。バートと一緒に都会に出て、今後は一緒に時を過ごそうと語りかけます。

彼女に触れると、愛する人と話すことは、いかに簡単であったかと気付かされたバート。2人はキスを交わします…。

それは夢でした。彼が目覚めた時、アンドレアの姿はありません。

同じ頃エスパダ刑事は、アンドレアが泊ったホテルの部屋に現れます。そこには彼女の血が付いたタオルと、バートの仕掛けたカメラがありました。

そしてバートは、彼女に見せた映像のハードディスクが無いと気付きます。

姿を消したアンドレアは、ペレッティの車に乗り込んでいました。そして彼に犯罪の証拠となる、動画のハードディスクを渡すアンドレア。

自室で考え込むバートは、ベットの上に拳銃があると気付きます。それはアンドレアが置いた、ペレッティ刑事が妻を殺すのに使用した拳銃でした。

ペレッティの犯行を示し、自分は関係ないと証明できる盗撮動画はありません。犯行現場に無かった、殺害に使われた拳銃がバートの手元にあります。

アンドレアは関係を持ったペレッティのために、証拠を奪いバートを犯人に仕立て上げたのです。拳銃を手にして、思いを巡らせるバート。

息子の部屋で響いた銃声に驚くエセル。彼女はバートと呼びかけますが、息子の部屋の扉は開きません。

家にエスパダ刑事と警官が現れます。刑事はエセルをなだめ待つように言うと、バートに声をかけ家の中に入って行きます。

警官は万一にそなえ、拳銃を抜いて刑事のあとに続きます。エスパダがバートの部屋に入ると、殺害現場を映した動画が流れていました。

そこには拳銃と、動画のオリジナルのメモリーカードと、エスパダ刑事に宛てたバートの手紙が置いてありました。

手紙はエスパダに謝罪した上で、もっと早く証拠をあなたに渡すべきでした、と書いてありました。バートの振る舞いに驚かされるエスパダ刑事。

バートは殺人事件の直後から、どうすれば真犯人を捕えられるか考えていたのです。承知の上でアンドレアの仕掛けにも乗り、その結果証拠の銃まで手に入れます。

パトカーがアンドレアとペレッティの乗る車を停めます。バートの方が1枚上手だった、とアンドレアは気付かされました。

彼女が思った以上に、バートは「賢い」人間だったのです。

その頃バートは、ショッピングモールでアンドレアを思い浮かべていました。もしかすると彼は、彼女が自分を選んでくれることを、期待していたのかもしれません。

やはり彼には、他人の心は理解し難いものでした。バートは行きかう人々の表情を観察すると、人に声をかける練習を始めます…。

映画『ナイト・ウォッチャー』の感想と評価

参考映像:『MUD マッド』(2012)

アスペルガー症候群の人物が登場する映画は多数あります。映画の常として、その特徴が誇張して描かれたり、極端な善人・悪人として描かれることもありました。

しかし映画に限らず多くの作品に登場したことで、アスペルガー症候群に対する理解は広がりました。その半面、マイナス表現の言葉として、安易に使用されている感もあります。

それはさておき、意欲ある俳優にとってこの特徴的な人物を演じるのは、大いにそそられる行為でしょう。主人公を演じたタイ・シェリダンもその1人で、本作の製作にも名を連ねています。

『レディ・プレイヤー1』でブレイクした感のあるタイ・シェリダンですが、映画デビュー作は伝説の巨匠、テレンス・マリックが監督した、賛否分かれる問題作『ツリー・オブ・ライフ』(2011)です。

次いで「未体験ゾーンの映画たち2014」上映作品の、カンヌでパルム・ドールを争ったジェフ・ニコルズ監督作『MUD マッド』に出演、子役時代から演技力を求められる作品に出演しています。

本作は、まずはタイ・シェリダンの演技に注目してご覧下さい。

演劇界の重鎮俳優が監督した作品


(C)2019 Late Shift, Inc. All Rights Reserved.

本作監督・脚本の、1945年生まれのマイケル・クリストファーは、今も現役のベテラン俳優としても活躍しています。

さらに映画だけでなく、演劇の演出家・脚本家としても有名で、アメリカでは演劇界の大御所と言うべき、尊敬を集める存在です。

その彼が久々に監督した本作だからこそ、このキャストが集まったと言えるでしょう。

主演したジョナサン・シェックによると、自身も俳優である監督は出演者について、よく理解した上で撮影に臨んでくれたと証言しています。

監督は出演者が互いを知ることができるように、事前にいくつかの課題を与えました。そして入念に準備した脚本を用意しながらも、即興での演技を許しそれを作品に取り入れました。

劇作家の監督が脚本を執筆したこともあり、作品には舞台劇の要素が多数あります。その一方で隠しカメラの設定で、幾つものアングルで撮影する、映画的工夫も凝らされています。

マイケル・クリストファーのような、作家性の強い監督と仕事をするのは大好きだ、と語っているジョナサン・シェック。

そんな監督の下で演じ、このようなインディーズ作品への出演を好む、実力ある俳優との共演は、大変刺激になったと振り返っています。

入念に練られたサスペンス劇


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本作でタイ・シェリダンが演じた、アスペルガー症候群の主人公の姿は非常に説得力あるものだと感じました。

間違いなく人より優れた点があったとしても、多くの者にそれが見えません。接した者に違和感を与える、時に愚かな振る舞いに見え、時に攻撃的な態度に見える姿を描いています。

そんな態度の裏側に主人公なりの意図や、出来事に対する受け止め方があることを示す、綿密な人物描写と言えるでしょう。類型的な純粋な善人や、怪物的な人物として描いていません。

また彼の周囲にも、それを理解した上で付き合える上司、理解しようと努力し見極めようとする刑事を配し、あるべき他者の関わり方を示した作品とも言えるでしょう。

これはあくまで映画として見た人間の受け止め方なので、実際にこういった方自身や、その周囲にいる方にも本作を見て頂き、どのように感じられるか意見を聞きたいものです。

とはいえ関係者から、手放しで支持される作品ではないでしょう。いくら悪意はない、あくまで人間観察のためと主張しても、この主人公はお客さんを盗撮していますから。

ここはヒッチコックの『裏窓』(1954)以来の、覗き設定のサスペンス映画だからと、どうか温かい目で見守って下さい。

そしてキャスティングの妙。『レディ・プレイヤー1』で現実世界より、バーチャル世界で生き生きしていたタイ・シェリダンが、現実と折り合えない複雑な主人公を演じます。

また『ブレードランナー 2049』でライアン・ゴズリング演じる人造人間の、良き理解者だった家庭用AIのバーチャル美女、”Joi”を演じたアナ・デ・アルマスが、主人公の前に現れます。

彼女は『ブレードランナー 2049』同様、問題を抱えた主人公の、良き理解者でしょうか…。とミスリードを誘うキャスティング、と映画好きなら感じるでしょう。

まとめ


(C)2019 Late Shift, Inc. All Rights Reserved.

複雑な主人公の人間像を描写し、それが謎解きの仕掛けにもなっている『ナイト・ウォッチャー』。ミステリー映画ファンなら必見です。

そして身近にアスペルガー症候群の方と接する人や、人と接するのに悩みや違和感をお持ちの方も、どうか見て下さい。共感や何らかのヒントが得れるかもしれません。

アナ・デ・アルマスもキアヌ・リーブズに地獄を見せた『ノック・ノック』(2015)や、『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019)など、変わった役を演じるのが好きな女優です。

本作は優れた俳優による、アンサンブル演技が楽しめる作品でもあります。

ところで劇中で、タイ・シェリダンはアナ・デ・アルマスに対して、テクノセクシャルという言葉を使っています。

様々な意味のある言葉ですが、一つには「機械フェチ」「バーチャル愛」といった意味を持っています。日本の「バーチャルアイドル」的な存在をイメージして下さい。

ハリウッド映画では『ブレードランナー 2049』に登場した”Joi”が、新たなテクノセクシャルのアイコンとして君臨しました。

その言葉を彼女に対して使っています。もうお歳のマイケル・クリストファーが、このセリフを書いてたら大したものですが、おそらくタイ・シェリダンのアイデアでしょう。

感動的なシーンなのに、こんな背景があると考えれば笑えます。何を口走っているんだ、タイ・シェリダン…。アナ・デ・アルマスが「何を言ってるのか判らない」、と答えるのも当然です。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…


(C)2019 Killerman Productions LLC.

次回の第18回は、記憶を無くした裏社会で生きる男が、ギャングと警察を相手に繰り広げる抗争劇を描く、仁義なきクライム。アクション『KILLERMAN キラーマン』を紹介いたします。お楽しみに。

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連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第20回 日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はア …

連載コラム

映画『ふゆの獣』あらすじ感想と評価解説。内田伸輝監督が暴力的に描く求めても求めても掴めない愛|インディーズ映画発見伝8

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第8回 日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い映画をCinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」 …

連載コラム

映画『サンダーフォース 正義のスーパーヒロインズ』ネタバレあらすじ感想とラスト結末の評価解説。無法地帯シカゴで正反対の2人によるヒーローチームの戦いを描く|Netflix映画おすすめ31

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第31回 超人的な能力を持つ悪の存在ミスクリアンにより、無法地帯となったシカゴを舞台に、2人の女性ヒーローの戦いを描いたNetflix映画『 …

連載コラム

韓国映画『不倫する理由』ネタバレあらすじ感想と結末考察。男女の性愛とエロスを切なくも滑稽に活写|B級映画 ザ・虎の穴ロードショー51

連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第51回 深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞す …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学