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Entry 2020/07/14
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映画『LETO -レト-』感想と考察評価レビュー。ロシアンロックにのって蘇るセピア調の淡い恋と青春像|映画という星空を知るひとよ7

  • Writer :
  • 星野しげみ

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第7回

ロシアのロックスターの音楽への情熱と淡い恋心を描いた映画『LETO -レト-』。無実の容疑で拘束されて、ロシア政府の監視下にあるキリル・セレブレニコフ監督が、1年半の自宅軟禁の中で作品を完成させました。

映画『LETO -レト-』は、2020年7月24日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開です。

ロシアの伝説的バンド「Kino(キノ)」のヴォーカルであるヴィクトル・ツォイ。彼の音楽的才能を見出したロックンローラーのマイク・ナウメンコ、そしてその妻ナターシャの3人をモデルとした作品。

レニングラードを舞台に、純粋に“自由”と“音楽”を追い求めた若者たちのひと夏を描き出します。

【連載コラム】『映画という星空を知るひとよ』一覧はこちら

映画『LETO -レト-』の作品情報


(C)HYPE FILM, 2018

【日本公開】
2020年(ロシア・フランス合作映画)

【原題】
LETO

【英題】
LETO(The Summer)

【監督】
キリル・セレブレンニコフ

【キャスト】
ユ・テオ、イリーナ・ストラシェンバウム、ローマン・ビールィク

【日本語字幕】
神田直美

【原語監修】
松澤暢子

【作品概要】
映画『LETO -レト-』は、ロシアに実在した伝説のバンド「Kino(キノ)」のボーカルとロックンローラーの筆頭人物をモデルにし、西側の文化に憧れ、窮屈な抑制政治から解放を願う若者たちの姿を描いています。

無実の容疑で拘束されロシア政府の監視下にあるキリル・セレブレニコフ監督が、1年半の自宅軟禁の中で完成させました。ドイツ生まれの国際派俳優のユ・テオ、『アトラクション 制圧』(2017)のイリーナ・ストラシェンバウム、シンガーソングライターのローマン・ビールィクが共演します。

第71回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品された青春映画で、カンヌ・サウンドトラック賞最優秀作曲家賞受賞作品。

映画『LETO -レト-』のあらすじ

(C)HYPE FILM, 2018

ときは1980年代前半。その頃、東側(共産主義国)のソビエト連邦では、西側諸国(資本主義諸国)の文化は禁忌とされていました。

しかし、レニングラードでは、政府の目から隠れるようにして、L・ツェッペリンやT・レックスなど、西側のロックスターの影響を受けたアンダーグラウンド・ロックが花開こうとしています。

最前線で人気を博していたのは、バンド「ズーパーク」。そのリーダーであるマイク(ローマン・ビールィク)のもとに、ある日、ロックスターを夢見るヴィクトル(ユ・テオ)が訪ねてきます。

ヴィクトルの才能を見出したマイクは、彼と共に音楽活動を行うようになります。

しかし、その一方で、マイクの妻ナターシャ(イリーナ・ストラシェンバウム)とヴィクトルの間には淡い恋心が芽生え始めました。

ヴィクトルは、やがてロシアで国民的かつ伝説的なロックバンド「kino(キノ)」の創設者となり、そのヴォーカルとして知られるようになりますが、若い頃はマイクに師事していました。

「音楽をやる以上、マイクのアドバイスが絶対に必要だ」。

マイクに会えば、そばには必ずナターシャの姿もあります。ヴィクトルとナターシャは惹かれあいながらも、マイクの存在を大切なものとしていました。

映画『LETO -レト-』の感想と評価

(C)HYPE FILM, 2018

映画『LETO -レト-』の背景には、1980年代を生きた人々の自由への憧れがあります。

ソ連(ソビエト社会主義共和国連邦)は、1922年から1991年までの間に存在したマルクス・レーニン主義を掲げたソビエト連邦共産党による社会主義国家です。

ユーラシア大陸における共和制国家「ソ連」は、1991年連邦の解体を宣言し翌年から「ロシア」となりました。

音楽活動を追った本作ですが、それによってソ連時代の人々の本当の姿を知ることができます。

社会主義の抑制下で花開くロック

本作の背景となった1980年代前半は、ソ連の一党制の政治に綻びが見えかけた頃です。政府は国民の政治への不満を抑え込もうと、敵対視する西側諸国の文化も禁じていました。

それでも西側諸国のロックに憧れる若者たちはレニングラードに集い、アンダーグラウンドでロックライブを楽します。

T・レックス『Broken-Hearted blues』、トーキング・ヘッズ『サイコ・キラー』、イギー・ポップ『パッセンジャー』、ルー・リード『パーフェクト・デイ』、モット・ザ・フープル『すべての若き野郎ども』などなど。

1970年~1980年代のロックミュージックを代表する名曲の数々が劇中を彩ります。当時の若者たちが楽しむ音楽に、ロックファンはたまらない魅力を感じることでしょう。

ただ曲を流すだけでなく、ミュージカルともミュージックビデオともとれる、実にユニークでスタイリッシュな映像演出でカヴァーされているシーンもあり、観る者を楽しませてくれる作品です。

自由への憧れは止められない

(C)HYPE FILM, 2018

政府によって束縛された毎日の中で、自由を求める心の叫びをロックンローラーたちは歌にしています。

誰にぶつけるわけでもないのですが、誰かに訴えるべく、ギターをかき鳴らし、ドラムをたたき、マイクを手に取ります。

奏でられる音楽は人々の心を魅了し、ライブともなれば、大きな拍手と歓声がわきあがりました。

ソ連にあったロックの存在。その歴史的背景を知れば知るほど、音楽の計り知れない魅力を感じます。

誰からも好かれる音楽は、いつしか政治をも動かす原動力となるのですから……。

実在するロシアのロックンローラーたちの伝説ともいえる音楽活動や恋愛ストーリーからは、“自由”と“音楽”を追い求める青春像が見え隠れしていました。

因みに、本作のモデルとなったロシアン・ロックの先駆者マイクは病死し、伝説的スターのヴィクトル・ツォイは交通事故で亡くなったそうです。字幕で表示された生存年数が切ない……。

マイクの妻ナターシャは今でも、ヴィクトル・ツォイとの間には、友情と絆があったと言っているそうです。

まとめ

(C)HYPE FILM, 2018

映画『LETO -レト-』が描くのは、ロシアの2人の偉大なロックンローラーの物語。

ロシアの国民的かつ伝説的なロックバンド「Kino(キノ)」の創設者でそのヴォーカルのヴィクトル・ツォイ。

彼はロシアにおけるロックの草分け的な存在で、ソ連全土にこのジャンルを広げたといわれています。

もう1人はロックンローラーのマイク・ナウメンコ。アンダーグラウンド・ロックで活躍していたバンド「ズーパーク」のリーダーです。

彼の音楽は、西洋のロックカルチャーをロシアの文化とレニングラードの日常に見事に適合させました。

本作では、実在の人物であるヴィクトル・ツォイやマイク・ナウメンコが残したロシアン・ロックが、映画出演者による圧巻のパフォーマンスで、新鮮なアクセントをもったまま蘇りました。

当時世界中を魅了した最上級の楽曲たちが、新たに色を添える映像のモノクロの世界。ロックンロールで打ち鳴らす“規制からの解放”、そしてほのかにビターな恋心。

閉鎖的政治からの解放の“のろし”を描いたともいえる映画『LETO -レト-』。

まるで記録映画のようなセピア調のモノクロ映像は、後世に残したい事実を忘れないようにと、人々の記憶の覚醒を意図しているようでした。

観る人は、純粋な情熱に突き動かされた若者たちの熱気と青春に、胸がアツくなることでしょう。

映画『LETO -レト-』は、2020年7月24日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開です。

次回の連載コラム『映画という星空を知るひとよ』もお楽しみに。

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