連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第3回
ポスト・コロナの時代に、世界の埋もれた佳作から迷作、珍作映画を紹介する、「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第3回で紹介するのは、本格スパイ・アクション映画『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』。
かつて”007″ことジェームズ・ボンドらのスパイが、東西冷戦を背景に映画の中で、世界中を駆け巡りました。その冷戦時代も遠くなり、世界各国の映画の作り方も大きく変わりました。
そして今、ロシアからハリウッド映画を凌ぐスケールを持つ、ド派手なスパイ・アクション映画が誕生しました。その全貌を見逃すな!
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020延長戦見破録』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』の作品情報
【日本公開】
2020年(ロシア映画)
【原題】
Герой / The Hero
【監督・製作】
カレン・オガネスヤン
【キャスト】
アレクサンドル・ペトロフ、スヴェトラーナ・コドチェンコワ、ウラジミール・マシコフ、コンスタンティン・ラブロネンコ
【作品概要】
世界各国に潜入した、秘密工作員”スリーパー”を巡る陰謀を描く、正統派スパイ・アクション映画です。ロシアで映画・TVドラマでコメディから犯罪物まで、幅広いジャンルで活躍するカレン・オガネスヤンの監督作品です。
主演は『アトラクション 制圧』(2017)、『魔界探偵ゴーゴリ 暗黒の騎士と生け贄の美女たち』(2017)に『ANNA アナ』(2019)、そして異例の大ヒットを遂げた戦車アクション映画、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2018)のアレクサンドル・ペトロフ。
今やスパイ映画の名作として名高い『裏切りのサーカス』のスヴェトラーナ・コドチェンコワ、『エネミー・ライン』(2001)で戦地に不時着した主人公を追跡する、冷酷な男を演じたウラジミール・マシコフが共演しています。
映画『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』のあらすじとネタバレ
イギリス、ロンドンのアメリカ大使館主催で、ロシアの対外情報庁に所属し、亡命した男ロマン・ポポフの会見が行われようとしていました。
建物の外にはロシアの諜報活動に反発する人々が集り、会場に報道関係者などの多くの人が詰めかけ、演壇はポポフの身を守るため防弾ガラスで密閉されていました。
ついにポポフが登場します。しかし彼が喋ろうとすると、会場に発煙弾が投げ込まれ、防弾ガラスのケースに銃弾が命中、ひびを入れます。
人々が逃げまどう中、ポポフの入ったケースは毒ガスで満たされます。会場の最前列に座っていた男は、それを見届けると手を叩き、ブラボーと叫びました…。
オーストリアのウィーン。スケボーショップで働く男、アンドレイ(アレクサンドル・ペトロフ)の前に、杖をついた年配の男が現れます。
男は息子のためにスケボーを探していました。店のカウンターの上に飾ってあるスケボーを求めますが、これは売り物ではないと丁重に断るアンドレイ。
それは彼の父、ロダン(ウラジミール・マシコフ)から送られた物でした。亡き父の思い出の品だと告げ、何か商品を見繕うとした時、電話が鳴り響きます。
アンドレイが電話を取ると、相手はいきなり息子よ、よく聞けと話してきました。
それは死んだはずの父、ロダンの声でした。”ユース”のエージェントが狙われているので、今すぐ身を隠せと告げるロダン。
電話と同時に目の前の男が、いきなり杖を振るって襲って来ます。スケボーを武器に応戦し、アンドレイは男を倒します。
店の前に止めた電動キックボードに乗ると、ウィーンの街を疾走するアンドレイ。やがて彼は、ドイツのケルンに到着しました。
目的のビルに着いたアンドレイは、社員のセキュリティカードを奪い、ビルの中に入ります。
彼の目的は9階のオフィスに務める、マーシャ(スヴェトラーナ・コドチェンコワ)に会うことでした。彼はマーシャに会う前に、非常階段に通じるセキュリティドアを細工します。
マーシャから要件を訊ねられ、彼は親父から”ユース”の危機との連絡があったと告げます。君の身も危険と考え、そして現れたと話すアンドレイ。
マーシャもロダンは死んだと信じていました。彼女は周囲に悟られぬよう、彼をオフィスに案内します。オフィスに入ったアンドレイは、そこの安全をまず確認します。
同じ”ユース”の一員として訓練を受けた2人ですが、マーシャは何も話そうとしません。”ユース”のメンバーは、互いに誰がどこに居るかを知らないはずでした。
アンドレイはポーランドのパラシュート大会で偶然マーシャを目撃し、SNSの情報をたどり彼女の勤め先を知ったのです。
緊急事態に彼が知る、唯一の”ユース”のメンバーである彼女を訪ねたのです。アンドレイに多くを語らないマーシャに、ロシアからの親戚と名乗る人物が訪ねてきました。
アンドレイは室内を監視できるよう細工して身を隠すと、2人の男が現れます。男たちはマーシャに”ユース”の出身者かと訊ねますが、彼女は何も答えません。
その態度を見てマーシャに”ユース”のメンバーは、パスワードを告げないと何も話さないのだな、と言う男たち。
彼らはアンドレイの父、ロダン大佐が世界に密かに張りめぐらせた、潜入工作員による諜報網”ユース”の実態を突き止めるのに、15年かかったとマーシャに告げます。
今後はロシアのために協力しろ、と言う男たちに何も答えないマーシャ。緊張が漂う中、男の1人が何者かが潜む気配に気づき、銃を抜き部屋を探します。
その男とアンドレイが格闘すると、マーシャはもう1人の男と闘い始めます。男たちを倒し拳銃を奪うと、2人は部屋を出て銃を処分して逃走を図ります。
男たちが追って来ると、細工したセキュリティドアから階段に逃げたアンドレイとマーシャ。
アンドレイは男から奪った無線を操作し、ビルのエントランスに男たちの仲間がいると見破ります。2人はビルの窓から屋上に逃れようとします。
しかし屋上に通じるガラス戸が開きません。そこに先程の男たちが現れます。アンドレイとマーシャは格闘で相手を闘い、ガラスを破って屋上に逃れました。
しかし追手は続々とやってきます。2人は命綱を付けた屋上の作業員にケーブルを結び付け、彼と共に飛び降り無事地上に逃れます。
ロシア、モスクワの対外情報庁のカターエフ将軍(コンスタンティン・ラブロネンコ)は、作戦主任のマリーナから、ドイツで”ユース”のメンバーが発見されたとの報告を受けました。
騒ぎを起こしたアンドレイとマーシャの姿が報道され、ロシア対外情報庁が追う”ユース”のメンバーが15年ぶりに確認されたのです。
ドイツで一般市民として暮らすエージェント、ヘレナとそのパートナーの2人に、行動を開始しろと命令するロシア対外情報庁。
マリーナは作戦室で事態を職員に説明します。アンドレイの父ロダン大佐は、1979年にアフガン、81年にアンゴラ、82年にキューバ、83年に北朝鮮で活躍した優れた諜報員でした。
2000年、彼は優れた若者を集めて訓練し、養成したスリーパー(潜入工作員)を全世界に配置した”ユース”と呼ばれる諜報網を作り上げます。
“ユース”のメンバーは、一般市民としてその地に溶け込んで生活し、ロダン大佐のみが知るパスワードを告げられて、初めて工作員として活動を開始するのです。
“ユース”のメンバーはパスワードを告げられるまで、互いがどこにいるかも知らず、生活を続けます。しかし”ユース”が活動を開始した2年後、ロダン大佐は事故で死亡します。
大佐の死により”ユース”の実態は、ロシア側にも把握できない存在となり、メンバーの行方を対外情報庁は追っていました。
ロンドンで殺害されたロマン・ポポフは、初めて表に現れた”ユース”の1人でした。”ユース”を追うべく、アンドレイとマーシャの確保を命じるマリーナ。
逃亡中の2人を確保するためロシアのエージェント、ヘレナとパートナーの男は、ドイツの警官を装い、追跡を開始します。
一方逃亡中のアンドレイとマーシャは、襲って来た人物の正体を暴こうと考えます。アンドレイに、ロマン大佐が連絡してきた電話の番号を、覚えているか訊ねるマーシャ。
“ユース”の訓練生仲間の、劣等生だったアンドレイですが、彼は優れた記憶力を持っていました。覚えていた番号から、ロシアのカリーニングラードの番号だと判明します。
2人がその番号にかけると、そこから居場所がばれたのか男たちが現れます。屋外バーにいた2人は、近くの警官の注意を引き、周囲の人に伏せるよう叫ぶと、行動を開始します。
サブマシンガンを持つ男たちと警官が撃ち合う中、2人はチャンスをうかがいます。ガスボンベを爆発させ、その隙に逃亡するアンドレイとマーシャ。
警察の無線を傍受したヘレナたちも、現場へ急ぎます。アンドレイとマーシャは、敵の正体を知るためにも、カリーニングラードに向かおうと決意します。
2人の動きは、監視カメラの映像を追うロシア対外情報庁にも把握されます。カターエフ将軍は、機能しているか不明だった”ユース”の実態を、把握したいと願っていました。
将軍はロダン大佐が諜報活動の切り札と考えていた、”ユース”がロシアの手を離れた現状を、非常に危惧していました。
喧嘩を装い、水上バイクを奪うことに成功し、川を走るアンドレイとマーシャ。ロシアのエージェント、ヘレナはそれを目撃すると2人を阻止できる橋に先回りします。
ヘレナたちは警官を装って橋を封鎖し、ライフルを構え水上バイクを待ち伏せます。スコープに反射した光に気付き、マーシャに回避を叫ぶアンドレイ。
ヘレナはアンドレイの水上バイクを撃ち抜き、停止させることに成功します。2人を追いつめたヘレナたちの前に、突然ヘリコプターが現れます。
それはアンドレイたちを追跡する一味の物でした。ヘリから機関銃で射撃され、ヘレナのパートナーは射殺されます。その隙にアンドレイとマーシャは逃走しました。
ドイツのエージェントが1名死亡し、残る1名に帰国を命じたと、作戦主任のマリーナはカターエフ将軍に報告します。彼らにも襲撃してきた相手の正体は判りません。
マリーナには打つ手がありません。しかしアンドレイとマーシャは必ず彼らの祖国ロシアの、謎を解く鍵となるカリーニングラードに現れる、と告げたカターエフ将軍。
アンドレイとマーシャは、ポーランドのグロノボに現れます。落ち着いた2人は互いについて語り合いました。
優れた諜報員ロマンの息子アンドレイは、”ユース”の訓練で父の期待に応える結果が出せません。それを悩み、彼は自傷行為まで行います。
それは父を失望させただけでした。その経験から彼は、父からも脱落した”ユース”からも、距離を置いて生きてきたと、マーシャに打ち明けます。
他の訓練生同様孤児だったマーシャにとって、ロマン大佐は将に父のような存在でした。私にとって”ユース”は人生そのもの、と心境を語るマーシャ。
互いを理解した2人は、出発準備中の気球の中で戯れます。マーシャはアンドレイに自分の”ユース”としてのパスワード、都市の名を含む3つの単語を教えます。そして愛し合う2人。
2人は飛行機からウィングスーツで姿で飛び降り、ロシア領内へと降下します。
その姿は偵察用ドローンにより捉えられていました。カターエフ将軍に、2人が国境を越えたと報告するマリーナ作戦主任。
アンドレイとマーシャは、カリーニングラードのロダン大佐の墓の前に現れます。墓標には確かに、2003年に没したと刻まれています。
それ以上の手がかりは得られません。次はどう動くか悩む2人を、カターエフ将軍とマリーナ率いる、情報庁の特殊部隊が包囲していました。
2人の身柄を傷付けず捕えようとする将軍の車に、何者かが火炎瓶を投げつけます。その男の乗った車は、アンドレイとマーシャの前に停まります。
車にはアンドレイの父、ロダン大佐が乗っていました。大佐は2人に車に乗るよう命じます。彼が現れたことはカターエフ将軍にも驚きでした。
2人を乗せるとロダンは強引に、ドアが閉まらないまま車を走らせます。自ら車を運転し、その後を追うカターエフ将軍。
激しいカーチェイスの結果、マーシャは車から転げ落ち、マリーナと特殊部隊に身柄を確保されます。それでもロダンは逃走を諦めません。
周囲の車を巻き込むカーチェイスの果てに、ロダンはカターエフの車を横転させ逃れました。
アンドレイは父を話すことは無いのか、なぜ15年ぶりに電話したのかと責めます。しかしロダンは電話はしていないと告げ、息子にガスを吸わせて眠らせます。
横転した車から出たカターエフ将軍は、ロダンの生存を知って思わず笑います。そして父の住む邸宅で、ガウンを着せられたアンドレイが目覚めます。
邸宅を調べて回るアンドレイ。庭に面したガラス戸の真ん中に、小さな星のシールが貼ってあります。テーブルの上には厚く積み重ねられた紙と、ペンが置いてありました。
現れたロダン大佐は誰かが私を装って電話をかけ、お前は騙されたのだと告げます。
その何者かを探すため、この15年間で出会った人物の名前を、用意した紙に全て書き出せとロダンは指示します。それに従い書き始めたアンドレイ。
その頃マーシャは、カターエフ将軍から尋問を受けていました。何も答えない彼女に、君に話してもらうには、パスワードが必要だと将軍は告げます。
それでも、いずれ喋るだろう。そう言い残すとカターエフは彼女を残し立ち去ります。
ロダンは息子の書き出した名をチェツクしていました。出会った”ユース”メンバーはマーシャだけ、それもポーランドのパラシュート大会で、偶然出会ったと説明するアンドレイ。
マーシャの身元を調べたことで、お前は身元を敵にさらけ出した、とロダンは指摘します。
正体の判らない敵は、お前を利用し父親の私を探そうとしている、と結論するロダン大佐。
ロダンはお前の用は済んだとばかりに、逃走手段を手配するので、用意したルートでロシアを出国し、自由の身になれと息子に告げます。
そんな父に対し、必ずマーシャを救うと告げたアンドレイ。なぜ死を装い、15年も連絡すら寄こさないと責めても、ロダンは何も答えません。
ロダンは1人で対外情報庁に現れます。身元に気付いた職員たちは、慌てて彼を捕えます。
カターエフ将軍はロダンの狙いを図りかねます。一方アンドレイは職員に変装し、情報庁の建物の地下にある電力室にいました。
ロダンは息子に協力し、マーシャを救いに対外情報庁に行くと決断します。成功させるには8時半丁度に、お前が情報庁の電源を切る必要があると告げるロダン。
父の指示に従い、電力制御盤の操作を試みるアンドレイ。しかし警報が鳴り響き、彼は警備員に撃たれて意識を失います。
捕まったロダンは、マリーナの立ち会いで身体検査を受けます。防弾チョッキのお蔭で負傷しなかったアンドレイは、目覚めた時には手錠でつながれ、時間は8時半を過ぎていました。
マーシャの部屋の、隣の尋問室に入れられたロダンの前に、カターエフが現れます。慎重な彼は凄腕スパイの彼を警戒し、マリーナが見過ごした眼鏡を取り上げます。
2人は古くからの友人でした。なぜ死を装って”ユース”を封印した、と訊ねるカターエフに、上層部が準備不足のまま、早急に”ユース”を使おうとしたからだ、と答えるロダン。
“ユース”を誰に売った、と聞かれても、何のことか判らないと答えます。どうやら互いに、”ユース”のメンバーを襲った者の正体を掴んでいない模様です。
2人の会話は隣室のマーシャも、監視しているマリーナ作戦主任も聞いていました。
気絶を装ったアンドレイは、警備員が手錠を外し連行しようとした隙をつき、反撃に転じます。予定の時間を過ぎたものの、制御盤を奪った銃で撃ち、建物を停電させたアンドレイ。
しかし電力は一瞬切れたものの、即座に復旧します。黙ってロダンを見つめていたカターエフは、我々の会話は結論に達しないと告げ、彼の肩を叩き尋問室を出ます。
警備員から上に主電源があると聞いたアンドレイは、急いでそちらに向かいます。ロダンは隣室のマーシャに、目で合図を送りました。
アンドレイが強引に主電源を破壊すると、対外情報庁の建物は停電しました。カターエフの恐れた通り、ロダンは警備員を次々倒してマーシャを連れ逃走します。
邸宅に戻ったロダンとマーシャに、アンドレイも合流しました。愛するマーシャとの再会を喜ぶ息子に、すぐ移動せねばならないと告げるロダン大佐。
その頃カターエフ将軍とマリーナ作戦主任は、尋問室の机に刻まれた、”M7″の文字を見つめていました…。
映画『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』の感想と評価
参考映像:『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2018)
ロシアで大ヒット、日本でもスマッシュヒットを遂げ、その結果様々なバージョンで上映され、ついに”最強ディレクターズ・カット版”まで登場する、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』の、アレクサンドル・ペトロフ主演のスパイ・アクション映画です。
日本のアレクサンドル・ペトロフのファンは、今や戦車好きの男子だけではありません。ロシアを代表するイケメン俳優として、女子からも熱い視線を集めています。
そんな2枚目俳優がスパイとして、世界を飛び回り活躍する本作は、将に「007」シリーズを彷彿させるアクション活劇に仕上がりました。
実はアメリカ製スパイ映画への意趣返し?
世界に潜む潜入工作員、スリーパーが話のミソとなる本作。スパイ映画ファンなら、チャールズ・ブロンソン主演、ドン・シーゲル監督作品『テレフォン』(1977)を思い出すでしょう。
『テレフォン』はKGBが築いた、スリーパーの破壊工作網を悪用するソ連のタカ派人物と、それを阻止しようとするKGB職員の追跡劇を描いた作品。捻りのある視点が評判の作品ですが、ソ連(ロシア)が悪者であることは言うまでもありません。
その設定を基本に頂き、見事にロシア側視点のスパイ・アクション大作に仕立てた本作。ハリウッド映画に対する皮肉、というより余裕すら感じる作品です。
全編に流れる軽くコミカルな雰囲気、時代の最先端を行くイケてる(?)アイテムが続々登場、スパイ映画お約束な悪役たち…ロシア映画界は、かつて西側で作られたスパイ映画と同等の物を、今や簡単に作れますとの宣言にも受け取れます。
敵の秘密基地は本物だった!
参考映像:バラクラヴァ海軍博物館複合施設の紹介映像
一方で親子の絆に友情、国家への忠誠と敵討ち、はたまた惚れた女に裏切られ…と何かと情に絡む描写が多い本作。スパイ映画にも様々な作品がありますが、アクション主体の作品には、明るく楽しく能天気な映画が多かったことを思うと、これは実に湿っぽい作品です。
それはそれで良いのですが、スヴェトラーナ・コドチェンコワ演じる悪女が、極悪人だか苦悩と愛で転向した女なのか、今一つ中途半端なのは頂けません。どちらかに徹してくれた方が、見る方もスッキリしたのではないのでしょうか。
本作のもう一つの見所が、マニアが喜ぶ銃火器などのロシア製兵器の登場。といっても余り詳しく語る知識が無いので、申し訳ありません。
クライマックスの舞台となった秘密基地。大金持ちとはいえ、何であんな物を持っているの?などと疑問は尽きませんが、「007」シリーズの悪役も、そんな馬鹿げた基地を持っていましたので、ここは許してあげましょう。
実は秘密基地としてロケに使われた場所は、バラクラヴァ海軍博物館複合施設と呼ばれる場所で、クリミア半島のセヴァストポリ軍港に近い場所に、かつてソ連海軍の潜水艦の修理も行える、地下秘密基地として建設された施設です。
やがて海軍基地としては放棄されましたが、その後海軍に関する博物館となり、現在は一般に公開しているようです。映像を見ると、間違いなく同じ場所だと確認できます。
日本でも東京湾の横須賀沖にある、猿島の日本海軍の要塞跡が「仮面ライダー」のロケに使われ、ゲルショッカーの秘密基地があったそうですが…ロシアとは余りに規模が違います。
まとめ
ロシア映画界がハリウッドのスパイ映画に挑戦、匹敵する作品に仕上げた『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』。アクション映画ファン必見、ジェームズ・ボンドのような浮気者でない2枚目スパイを、アレクサンドル・ペトロフが演じていますので、女性ファンは安心してご覧下さい。
こういった作品を見ると、ある程度予算が確保出来れば、今やどこの国でも同じような作品が作れる環境にあるのだと、実感させられます。
ところで本作は女性が大いに活躍していますが、これはロシアの実情というより、映画ならではのサービス的な意味合いが強い描写だと思います。闘うお姉さんが好きな方も見るべきでしょう。
しかし……。メインで活躍する女性3人の内、2人の口元にホクロがあるのは(スヴェトラーナ・コドチェンコワ含む)…、これは製作者の趣味でしょうか。ぜひ追求したいところです。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…
次回の第4回は、人間の重みに耐えかねたアイツが、つぶらな瞳で逆襲!衝撃(笑撃?)のホラー映画『キラーソファ』を紹介いたします。お楽しみに。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020延長戦見破録』記事一覧はこちら