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Entry 2020/08/24
Update

【武正晴監督インタビュー】映画『銃2020』中村文則描く“文学”の世界と自身の想う“映画”の世界の融合のために

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『銃2020』は全国各地にて絶賛ロードショー公開中!詳しくは映画『銃2020』公式サイトにて。

作家・中村文則のデビュー作を映画化した『銃』(2018)。その第二弾にして、前作に引き続き企画・製作を務めた奥山和由の着想のもと、中村文則が原案、そして自身初となる脚本を担当したのが映画『銃2020』です。

監督は、同じく前作からの続投となる武正晴。キャストには、前作にて“トースト女”を演じていた日南響子が主演を務め、共演には佐藤浩市、加藤雅也、友近、吹越満らが結集。また村上虹郎が演じた『銃』の主人公・西川トオル、リリー・フランキーが演じたトオルを追う刑事もある場面にて登場します。


photo by 田中舘裕介

このたびの劇場公開を記念して、武正晴監督にインタビューを敢行。小説家として「文学」の世界に生きる中村さんと手がけた脚本執筆、それを映画化するにあたっての武監督の思いなど、貴重なお話を伺いました。

映画としてのイメージを肉付けしていく


(C)吉本興業

──中村文則さんは本作で初の脚本執筆をされましたが、中村さんとはどのような形で脚本を書き進められたのでしょうか?

武正晴監督(以下、):執筆を進めるにあたって、まず僕が中村さんが書かれた文章を「脚本」の形式へと書き換え、それを彼に送ったんです。そのやりとりを通じて「脚本」という形式を知っていただく中で、自然と脚本は形作られていきました。

ただ、中村さんの根底にある表現はやはり「文学」であるため、中村さんの脚本における描写を全て生かしつつも、その間に存在する「空白」を埋めるために、映像としてのリアリティを保つために、ト書きに書き加えて脚本としての肉付けをしていくようにしていました。例えば「パン屋」「路地」と一語で表現されている場所に対しても、その雰囲気などを想像しロケハンも行った上で、映画化にあたって必要な具体的なイメージを作っていったんです。


photo by 田中舘裕介

──そのイメージを作っていくために行われたロケハンでは、特にどのようなことを武監督は意識されていましたか?

:「面白い雑居ビルはほしいな」と思っていたんです。絶対に怪しいし入っちゃいけない、入ってしまったら必ずぼったくりなどに遭いそうなビル。得体の知れない店が並んでいるんだけれど、そのドアが少しだけ開いていて、つい誘われてしまいそうな魅力を持った場所を撮りたかったんです。

中村さんは本作のキーとなるものの一つとして、脚本の中で「ドア」を書いているんです。脚本執筆を始める前に書いてくださったシノプシスの段階から中村さんは「印象的な画を作るための表現」として「ドア」に触れていました。僕自身も「ドアは確かにうまく使える」と感じたので、そういった中で何をしているのか分からないけれど、ついその先を開けて覗き込みたくなるようなドアがあるバーやスナックがある雑居ビルを探していくうちに、横浜でいい場所を見つけたんです。

「照明」という映画の原点


(C)吉本興業

──映像の面で言えば、作中の「照明」による演出も非常に印象的でした。

:前作の『銃』では、映画という表現を通じて中村さんが書かれる「文学」の世界に入っていくため、映画化に際して中村さんの表現をできうる限り拾っていくために、映画に「白黒の映像」を投げ込んで小説と向き合いました。そして本作では、本来の映画作りとは相反することでもある「明かりを消す」という映像表現によって中村さんの世界と向き合うことにしました。

作中、主人公の東子が暮らすアパートの自室は電気を止められています。この時代、料金未納で電気を止められることなんか当たり前ですが、「自宅の電気を止められている主人公」が登場する映画はほとんど見たことないと思ったんです。

汚いアパートの自室にいろんなものを拾ってきてしまう女がいて、ある日「拾わなくていいもの」を拾ってきてしまうのが『銃2020』の始まりです。そしてゴミが散乱している東子の自室には、貧困が日常と化している状況、「払えないわけではないけれど、そこにもう払いたくない」という意識が芽生えている状況がある。その中で東子の芝居が展開されるのだとしたら「電気が止められている」のは自然なことだと思いました。

照明部にそのアイデアを伝えたら、皆「えっ」となっていましたね。ただ苦労をしていく中で、スタッフ陣は工夫を凝らし、どんどん面白がっていくんです。電気がないと照明を点けられない、明かりがないと被写体が映らないという状況の中で、「拾ってきた懐中電灯で水の入ったペットボトルに光を当てて、照明代わりにしているのでは」「そこにビニール袋も被せたら、より光が回るのでは」と工夫が広がっていく。なけなしの明かりをどうにかして作っていく様子は、まさに映画の原点そのものでした。原点という面で言えば「白黒の映像」もそうですが、本作でも美術部も照明部も非常に面白がっていました。

「逆襲」が始まる時代で


(C)吉本興業

──本作からは、「“女性の自立”をこれまでとは違う形でどう描くべきか?」についての試みも感じ取れました。

:これからのドラマツルギーがやはり変わらなきゃいけないと思ってて、それは前作の『銃』はもちろん、『百円の恋』(2014)を撮った時から考えていたことなんです。女性が何かを突破する話を作り続けないと、これからのドラマツルギーは変わらないのではと感じていた時に『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)で女の主人公が登場した。「みんな、同じことを考えているんだ」と実感しましたね。

本作では、「銃は男が撃つもの」という固定観念的なイメージや、佐藤浩市さんが演じられた和成が東子に放った「お前は何もしなくていいんだよ」といったセリフは敢えて描いていますが、それはもうあまりにも古い。すでに「逆襲」が始まっているのに、そこに気づいていない旧世代の男たちとして、本作の「男」を描いているんです。どんなにカッコいいことを言おうが、何をしようが、それはもう「時代」ではない。

実は本作を撮るにあたって、「女性が銃を撃つ映画」を古典映画を含めて探したんです。もちろんアメリカン・ニューシネマやその先駆けとなる作品ではいくらでもあるんですが、それでも数は限られている。「女が男を撃ち殺す映画」はアメリカン・ニューシネマ以前のハリウッド映画にはほとんどみられない。

探し始める前は、フランソワ・トリュフォーの『柔らかい肌』(1964)の結末で妻が夫をショットガンで吹っ飛ばす場面のような、そういった作品が多くあるだろうと感じていました。ところが探してみると、「物陰から撃つ」「撃ち殺していたことが後ほど判明する」「男のふりをして実は女が殺していた」といった風に、関節的な描写ばかりだった。「正面から思い切って撃つ」という描写をしている映画が見つからないんです。おかげ映像に使えるカットも見つからない。ここまでないのかと驚かされました。それほどまでに、ハリウッド自体はタブー視しているんです。そういった映画史的な意味でも、『銃2020』は面白いと感じていました。


(C)吉本興業

:また中村さんも、脚本執筆の際にその点は強く伝えてきました。数千年に渡って「多数派」として続けられてきた男社会がようやく時代錯誤の代物となり、「逆襲」を食らう時代がついに始まったんだと。彼の文学作品を通じての思索と人々への投げかけが、『銃2020』にも取り込まれているんです。

本作を作るきっかけ自体は奥山さんの「『銃』は“男”が銃を拾ったけれど、“女”が拾った場合を作ってみたら、面白くなるんじゃないか」の一言からですが、中村さんは「面白い」だけでは終わらせない。映画の文法とは異なる文法によって脚本を執筆しているから、映画人の脚本とは違う何かがそこに秘められているように感じる。文面以上の何かが起こる予感がするんです。そうして迫ってくる中村さんの世界に対して、僕自身もそれまでに培ってきた映画の力を借りること、自分にとっての「映画」を精一杯考えることが必要だった。でなければ、中村さんの「文学」の世界に太刀打ちできなかったんです。

またその過程を経て生まれる文学と映画の融合を、奥山さんは狙っていた。彼の感覚は「映画」に基づいてますが、それは普通の映画人以上の、最早理論では読み解けないほどの鋭敏さを持っています。「映画人」というよりは「魔術師」に近いと感じています。

奥山和由の「魔術」に携わる意味


photo by 田中舘裕介

──奥山さんの「魔術」と言えば、本作の絶妙なキャスティングも見逃すことができない「魔術」ですね。

:「小さい役」というものがないんです。役者である方々に演じてもらう以上、「まあ、この役はこの人でいいかな」という妥協はなく、「申し訳ないけれど、この役はやっぱり貴方にしかできない」と感じながら配役を進めていきました。そういう作品は中々ありませんし、だからこそ一人でもはめるピースを間違えてしまったらダメになる映画だとも感じた。エキストラを含めて、慎重に「演じる意味がある人々」を選んでいきました。そうでないとやっぱり中村さんの世界に負けちゃうし、太刀打ちできないと。

これは歴史ものや原作ものを撮る時にはいつでも当てはまるんですが、長いあいだ連綿と続いてきた世界を描こうとしても、たかだか百年ちょっとしか続いていない映画の世界だけでは敵わないんですよ。役者はもちろん、照明や美術、音楽などいろんな世界からいろんなものを持ってこないといけない。特に音楽に関しては、中村さんが発表された小説に登場する楽曲を全部書き出して、どのような意味で用いられているのかも含めて調べたんです。

──そうした数々の「世界」を武監督は活用し、本作を完成させたわけですが、完成し劇場公開を迎えた『銃2020』は最終的にどのような作品になったとご自身は感じていますか?

:原作小説がある前作の『銃』とは違い、『銃2020』は「続編的作品」ではあるもののゼロから作り上げた映画ですから、奥山さんも喜んでいるし納得しているんじゃないかと感じています。ゼロから作り上げた「オリジナル」だからこそ、前作よりもっと狂気じみたものを、中村さんや監督の僕、スタッフとキャストの全員で作ることができた。

自分が生き続けてきたこの狂気じみた世界を表現するために、材料となるピースを集め、呪文となる言葉や行動によって、魔術とその産物が完成する。それが実現できたわけですから、本作を企画してよかったと思ってくださっているんじゃないかなと感じています。僕自身も、その魔術の実現に関われてよかったと思っていますから。

インタビュー/出町光識
撮影/田中舘裕介
構成/河合のび

武正晴監督プロフィール

1967年生まれ、愛知県出身。2006年に短編映画『夏美のなつ いちばんきれいな夕日』を発表後、翌年2007年に『ボーイ・ミーツ・プサン』で長編映画デビュー。

2014年の『百円の恋』では、日本アカデミー賞をはじめ数々の映画賞受賞により話題を集め、第88回アカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品としてもエントリーされるなど大きな反響を呼んだ。また2019年は、総監督を務めたNetflixオリジナルドラマ作品『全裸監督』がブームとなり、2021年に配信予定の同作の第2シーズンにも期待が寄せられている。

2020年には『銃』の続編的作品にあたる『銃2020』が劇場公開を迎えたほか、同年11月には『ホテルローヤル』『アンダードッグ』の公開を控えている。

映画『銃2020』の作品情報

【公開】
2020年(日本映画)

【企画・製作】
奥山和由

【原案・脚本】
中村文則

【監督・脚本】
武正晴

【キャスト】
日南響子、加藤雅也、友近、吹越満、佐藤浩市 ほか

【作品概要】
作家・中村文則のデビュー作を映画化した『銃』(2018)。その第二弾にして、前作に引き続き企画・製作を務めた奥山和由の着想のもと、中村文則が原案、そして自身初となる脚本を担当したオリジナル作品。また監督を、同じく前作からの続投となる武正晴が務めている。

前作で“トースト女”を演じた日南響子が主演を務め、共演には佐藤浩市、加藤雅也、友近、吹越満らが結集。また村上虹郎が演じた『銃』の主人公・西川トオル、リリー・フランキーが演じたトオルを追う刑事もある場面にて登場する。


映画『銃2020』のあらすじ


(C)吉本興業

深夜、東子(日南響子)は自分の後をつけてくる不穏なストーカー・富田(加藤雅也)から逃れるため、薄暗い雑居ビルに入る。

流れ続ける水の音が気になり、トイレに入ると辺りは血に染まり、洗面台の水の中に拳銃が落ちていた。拳銃を拾った東子は、電気が止められ、ゴミに溢れた部屋に一人戻る。 拳銃を確認すると、中には弾丸が四つ入っていた。

自分を毛嫌いし、死んだ弟を溺愛し続ける母・瑞穂(友近)を精神科に見舞った後、東子はこの銃が誰のものだったのかが気になり、再び雑居ビルに行く。そこで見かけた不審な男・和成(佐藤浩市)の後をつけるが、逆に東子は和成に捕まってしまう。

事件が不意に起きる。隣の住人の親子がある男を殺害する。

「早く撃ちたいよね……これでいい?」。

東子は埋めるのを手伝った後、その死体に向かって拳銃を撃つ。

だが拳銃の行方を探す刑事(吹越満)に、東子は追い詰められることになる。「また来る」刑事は去っていくが、何かがおかしい。銃そのものに魅了された東子はさらに事件の真相に巻き込まれ、自らもその渦の中に入っていこうとする。東子の「過去」が暴発する。そして──。

映画『銃2020』の劇場公開&イベント情報

【チネ・ラヴィータ(宮城)】 
2020年8月21日(金)~
▶︎チネ・ラヴィータ公式サイト

【アップリンク渋谷(東京)】
2020年8月28日(金)〜
▶︎アップリンク渋谷公式サイト

【千石劇場(長野)】 
2020年8月28日(金)~
▶︎千石劇場公式サイト

【シネマ・ブルーバード(大分)】 
2020年9月4日(金)~
▶︎シネマ・ブルーバード公式サイト

【シネマジャック&ベティ(神奈川)】 
2020年9月5日(土)~
▶︎シネマジャック&ベティ公式サイト

※実際の上映時間等の詳細は各公開劇場の公式サイトにてご確認ください。





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