明日からは、あなたなしで生きていくのね。ラブユー、ラブユー、東京。
志半ばで夢をあきらめ東京を離れた男が、学生時代付き合っていた彼女との再会のため、10年ぶりに東京へ。
2人の再会は、輝いていた青春の日々を取り戻すかのように見えました。しかし、それは夢から目覚め再び歩き出すための、青春最終日となりました。
映画を盛り上げる楽曲には、音楽グループ「東京60WATTS」の曲が使用され、登場人物とシンクロしたような哀愁溢れるメロディーが、心に響きます。
映画と音楽の祭典「MOOSIC LAB 2019」にて最優秀女優賞を川上奈々美が、作品は松永天馬賞を受賞しました。
また、第15回大阪アジアン映画祭インディ・フォーラム部門、第3回Beppuブルーバード映画祭にて正式出品を経て、映画『東京の恋人』は、6月27日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開となります。
映画『東京の恋人』の作品情報
【日本公開】
2020年(日本映画)
【監督・脚本】
下社敦郎
【キャスト】
森岡龍、川上奈々美、吉岡睦雄、階戸瑠李、木村知貴、西山真来、睡蓮みどり、窪瀬環、辻凪子、秋田ようこ、松本美樹、矢野昌幸、いまおかしんじ、佐藤宏、マメ山田、榎本智至、伊藤清美
【作品概要】
映画と音楽の祭典「MOOSIC LAB 2019」長編部門にて、松永天馬賞を受賞。あわせて主演の川上奈々美が最優秀女優賞を受賞しました。
映画で使用されている楽曲は「東京60WATTS」の初期の作品。「外は寒いから」「ふわふわ」などアンニュイな歌詞に、哀愁サウンドが物語を盛り上げます。
監督は、2016年『WALK IN THE ROOM』にて、TAMA NEW WAVEコンベティション入選、カナガワ映画祭では期待の新人監督入選を果たし、これまで映画音楽も手掛けてきた下社敦郎監督。
主演は、映画『茶の味』でデビューし、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」やTBSドラマ「カルテット」にも出演、また映画監督としても活動する森岡龍。
そしてW主演となった、恵比寿☆マスカッツ所属、『メイクルーム』や『下衆の愛』など女優としても活躍する川上奈々美が、体当たりの演技を見せます。
映画『東京の恋人』のあらすじ
朝の6時。大貫立夫のもとに、別れた学生時代の恋人・満里奈からメールが届きます。「写真撮ってよ」。
ベッドの横には、出産間近な妻がまだ寝ています。立夫は、妻を気遣いながらも、東京での再会を約束しました。
映画監督の夢を諦め、結婚を機に群馬に移り住んだ立夫。夢に疲れた立夫が一方的に別れを告げてから、満里奈とは10年ぶりの再会となります。
「海に行こっ」と提案する満里奈に誘われるまま、ドライブに出る立夫。2人はお互いの今を語ることはありませんでした。
立夫は、海辺で天真爛漫にはしゃぐ満里奈をカメラに収めていきます。夢と希望に輝いていたあの頃に戻ったようでした。
立夫と満里奈の間にしか成立しないルール、青春の思い出の数々は、心地よく2人を酔わせ、それが自然の流れであるように、立夫は満里奈を抱きます。
「満里奈とこうして会えることが夢みたいだ」。立夫は、東京の夜の街を満里奈と遊びながら、映画監督の夢を思い起こしていました。
夜明けと共に別れの時はやってきます。それは、青春の終わりを告げるものでした。夢から覚めて、現実を生きなければなりません。
満里奈に渡された過去のビデオテープ。そこには、当時撮りためていた満里奈の素の姿と、別れた自分への「ひとつの約束」が映っていました。
映画『東京の恋人』の感想と評価
章仕立てのストーリは、主人公・立夫の「青春ロードムービーを撮りたかった」という、叶えられなかった夢を思わせる作りになっていると感じました。
章が進むにつれ、ひとつの旅が終わって行く寂しさに似た感情をつれてきます。各章のタイトルにも注目して欲しいです。
夢をあきらめた経験がある人、昔の恋人を忘れられない人、今の自分を変えたい人、誰もがなんらかの感情を抱いたことがあると思います。
映画『東京の恋人』は、主人公の立夫が、過去の恋人に再会することで、青春時代を思い出し、あきらめていた夢ともう一度向き合うきっかけを掴みます。
この物語の魅力は、「青春時代は良かった」と過去を美化し今を嘆くものではなく、それさえも踏まえて生きているという現在を切り取ったリアルさにあります。
そんな中で、やはり青春時代は美しかったと思わされる、過去の彼女・満里奈の存在。立夫の人生に大きな影響を与えたことが伝わってきます。
そして、満里奈を演じた川上奈々美の自然体の演技が、度肝の抜くほど魅力的です。
惜しげなく披露したヌード姿、キラキラの笑顔、意味ありげな眼差し、いたずらな表情、そして垣間見える強い女のしぐさ。女優としての自信にみなぎっています。
現在の満里奈も魅力的でしたが、過去のビデオテープに映る満里奈、そして別れを告げられてからの彼女の独白シーンは、さらに輝いて見えました。
「私にとって、たっちゃんは、ずっと特別」。寂しそうに笑う満里奈(川上奈々美)の表情に見惚れます。
過去の恋人のこと
映画の中での、「東京の恋人」とは過去の恋人・満里奈を指します。また、東京のように「イケてる恋人同士」だったという揶揄でもありました。
常に新しいエネルギーが満ちる魅力的な街、東京。一方で、危険性と儚さを併せ持つ街でもあります。満里奈への印象と東京の印象が重なります。
過去の恋人のことを、北海道の恋人や大阪の恋人…と呼ぶのも楽しいかもしれません。
別れた過去の恋人との関係性は、人それぞれだとは思いますが、映画の中の2人は、別れても互いに特別な存在だということが分かります。
満里奈が最後に渡すビデオテープには、その特別な存在であることの証明が映し出されています。
満里奈がどういう想いで、立夫にそのビデオテープを渡したのか。自分を振った立夫への、ちょっとした復讐心と、現在の彼へのラブレター、そして自分を肯定し前へ進む決意表明。
ビデオテープの中に映る過去の彼女の姿は、愛する人に愛されている幸せそのものでした。その瞬間が一番可愛いことを、彼女はきっと知っています。
そして、その美しかった自分を憶えていて欲しいという想いもあったのではないでしょうか。
青春の終わりとは
別れて10年後、立夫に「昔のように素の自分を撮って欲しい」と、自分からメールを送った満里奈。
屋上に置いてあるソファーに喪服姿で寝そべり、煙草を吸う姿が印象的です。
満里奈は最初からこの再会で、立夫への想いを葬り去る覚悟だったのかもしれません。
しかし、満里奈が立夫に課した約束は、まだ時効にはなっていません。時効を迎える時、2人はまた再会するのか?その後の2人も気になる所です。
決して上手くいかなかった恋だとしても、人を心から愛した経験は、人生を豊かにしてくれるものだと感じます。
幸せだった思い出は、もっと幸せになるための未来への力となり糧になる。「青春」とは、自分で終わりだと決めない限り、年齢に関係なく続くものとも言えます。
それでもやはり、若い青春時代の輝きは取り戻せないからこそ、美しいのかもしれません。
性の多様性について
映画『東京の恋人』では、立夫と満里奈の情事を軸に、夫婦関係、両親のこと、妹の恋愛など様々な関係性が描かれています。
現代では、LGBTの認識が進んでいますが、差別や法的権利などまだまだ問題は多くあります。
性別に関係なく、本当に愛し合える人に出会えることは、人生の幸せであり、それは奇跡のような出来事だと思います。
映画『東京の恋人』は、そんな性の多様性をリアルに描いています。多様性を認め受け入れることが、改めて大切な事だと感じました。
まとめ
「MOOSIC LAB 2019」長編部門にて、最優秀女優賞(川上奈々美)、松永天馬賞受賞作品『東京の恋人』を紹介しました。
賞に輝いた川上奈々美の演技力と、映像と音楽の見事なマッチングに注目です。
今がまさに青春時代という、恋人同士に見て欲しい映画。作品を通して、誰かの特別でいるということの喜びを感じ取って欲しいです。
映画『東京の恋人』は、2020年6月27日(土)より、ユーロスペースほか全国順次公開予定です。