Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/06/01
Update

映画『追龍』あらすじと感想評価レビュー。香港実録クライムでドニーイェンとアンディラウが激突|銀幕の月光遊戯 63

  • Writer :
  • 西川ちょり

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第63回

映画『追龍』が2020年7月24日(金)より、新宿武蔵野館、シネ・リーブル梅田他にて全国順次ロードショーされます。

ドニー・イェンとアンディ・ラウの人気2大スターが激突。映画『追龍』は、1960年代の香港を舞台に香港警察と黒社会の真の関係を描く実録クライムドラマです。

「ゴッド・ギャンブラー」シリーズなど数多くのエンターティンメント映画を手掛けてきたバリー・ウォンと、『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』などの作品で撮影監督を務めたジェイソン・クワンが共同監督を務めています。

中国、香港で大ヒットを記録し、第38回香港金像奨では撮影と編集の2部門で最優秀賞を受賞しました。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら

映画『追龍』の作品情報


(C)2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

【公開】
2020年公開(中国・香港合作映画)

【原題】
追龍 Chasing the Dragon

【監督・脚本】
バリー・ウォン、ジェイソン・クワン

【キャスト】
ドニー・イェン、アンディ・ラウ、フィリップ・キョン、ケント・チェン、ユー・カン、フェリックス・ウォン、ブライアン・アーキン、ベン・ウ

【作品概要】
1960年代の英国領香港時代を舞台に、実在した黒社会(香港マフィア)のボス、ン・シックホーと香港警察のルイ・ロックをモデルに描いた実録犯罪ドラマ。

シックホーをドニー・イェン、ルイ・ロックをアンディ・ラウが演じています。

香港映画界のキングメイカー・バリー・ウォンと、『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』(2018/フェリックス・チョン)などの作品で撮影監督を務めてきたジェイソン・クワンが共同監督を務めました。

映画『追龍』のあらすじ


(C)2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

1960年代、香港。

ホーは仲間とともに、中国本土・潮州から不法移民として香港にやってきました。入国から4日目にして、ようやく食事を取ることができた彼らは、貧しい暮らしを送っていましたが、ホーは、なけなしのお粥を近隣の少女にわけてやる優しさを持っていました。

ある日、ホーたちは大声を上げるだけで高額な日銭が得られる仕事があると聞き、マフィア同士が攻防する現場に向かいました。しかしそれは本物の喧嘩で、両者のぶつかり合いはやがて激しい暴動となり、否応なく彼らも巻き込まれることに。

警官を倒して服を奪い、警官になりすまして逃げようとしたホーたちでしたが、指揮官である英国人警司ヘンダーに見破られます。ホーはヘンダーを殴りつけ、逮捕されてしまいました。

そんなホーを助けたのは、香港警察のロックでした。その後すぐにホーは黒社会で働き始め、徐々に頭角を表していきます。汚職警官ロックとともに麻薬、売春、賭博など裏社会での商売を仕切り、それらは警察にも、黒社会にも大きな利益をもたらしましていきました。

ある日、ホーはロックの窮地を救い、2人はさらなる熱い友情で結ばれます。しかしロックは片腕である部下からホーが力を付けすぎたのではないかと忠告され……。

映画『追龍』の感想と評価


(C)2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

ドニー・イェンとアンディ・ラウの2大スター共演

1960年代の英国領香港時代に実在した麻薬王・呉錫豪(ン・シーホウ)と香港警察の雷洛(リー・ロック)という人物を、それぞれ、ドニー・イェンとアンディ・ラウという2大スターが演じた実録犯罪映画です。

1960年代から70年代にかけて、香港警察は汚職が蔓延しており、黒社会と結託して莫大な利益を上げていました。その実話をもとに、黒社会、香港人警察、イギリス人警官の思惑が入り乱れ、激しい競り合いが繰り広げられる様が描かれています。

注目すべきはドニー・イェンが麻薬王という悪を演じたことでしょう。「イップ・マン」シリーズなどで見せた鮮やかなカンフー技を披露するのではなく、泥臭いバトルを展開する姿が実に新鮮です。

中盤は、脚を折られて杖を使って歩かざるを得なくなる展開のため、アクションは封印されてしまいますが、その分、ドニー・イェンの人間味あふれる演技力をたっぷり堪能することができます。

一方のアンディ・ラウは、まさに貴公子のごとく。絶対的権力を持つイギリス人警官に対しては正義感をかざすヒーローですが、同僚を出し抜き、すいすいと出世をして権力を握り、黒社会と結託して富をほしいままにしていきます。

そんな2人は、窮地を助け合った中で、その際の「恩」によって互いを支え合います。ワルたちの確固たる友情は古めかしくも厚く、往年の香港ノワールのファンにはたまらない世界観です。

2人をささえる人物も魅力的で、ドニー・イェン扮するホーと常に行動をともにする同郷の四人組の確かな絆にもぐっと来てしまうことでしょう。そのうちの一人を演じたのは、アンディ・ラウ主演の『SHOCKWAVE ショックウェイブ爆弾処理班』(2017/ハーマン・ヤウ)などでおなじみのフィリップ・キョンです。

また、アンディ・ラウの片腕として登場するケント・チェンのひょうひょうとした仕草も忘れ難く、芸達者な共演者たちが存在感たっぷりに個性的な役柄を演じているのもみどころのひとつです。

蘇る九龍城砦


(C)2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

本作は、1960年代から70年代の香港史を描いている側面もあり、当時の町並みがリアルに再現されています。

とりわけ、九龍の九龍城地区に造られた城塞の姿にはわくわくさせられるでしょう。無計画に継ぎ接ぎされた建築は「九龍城には一回入ると出てこられない」とも言われるほどで、ドニー・イェンが迷路のような内部を颯爽と進んでいくシーンがありますが、ここで彼はその複雑な内部の案内人の役割を果たしているともいえるでしょう。

九龍城砦は、行政権が及ばない地域として、黒社会が暗躍し、麻薬、賭博、売春が横行していた無法地帯でした。警官のアンディ・ラウが内部に踏み込んだ際、大勢のヤクザから命を狙われることになるのですが、この複雑で迷路のような建築が、どう見ても逃げおおせないような状況下で、うまく活用されています。

もともと香港アクションは、狭い空間の使い方のうまさが魅力の一つでもありますが、ここではどこに通じるかわからない部屋や狭い通路でのバトルがより一層の迫力で描かれています。

また、建物をすれすれに通過していく飛行機という情景がダイナミックに何度も登場し、今はなき香港の風景に望郷のような思いすら感じさせます。

素晴らしき映画音楽


(C)2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

俳優、演出、撮影、プロダクション・デザインなどと並んで、特に言及しておきたいのは音楽です。

移民として香港にやってきたドニー・イェンと仲間たちは、食うにも事欠く時代を経験しながら次第に黒社会の中で頭角を表していくのですが、それを表すシーンのひとつとして、テーラーで背広を調達した四人が意気揚々と街を歩いて来る場面があります。

人間が横並びになって歩いてくるショットは自ずから高揚感を誘うものですが、その時にバックに流れる音楽がEarth, Wind & Fireの『Shining Star』なのがたまりません。

他にもソウルミュージックや陳光榮(チャン・クォンウィン)によるオリジナルスコアが絶妙なタイミングで流れ、そのセンスとカッコの良さにしびれます。それでなくても迫力あるシーンが目白押しだというのに、音楽でさらにテンションが上がってしまいます。

是非、素晴らしい音楽にも耳を傾けてみてください。

まとめ


(C)2017 Mega-Vision Project Workshop Limited.All Rights Reserved.

映画の終盤、廉政公署(ICAC)が登場してきます。廉政公署とは、1974年に発足した香港の汚職捜査機関のことで、その機関の活躍により、香港警察の汚職は一掃されることになります。

本作は廉政公署登場以前の古き悪しき、そして創作的には実に魅力的な一時代の香港警察を描いた作品で、汚職警察、黒社会の人物を通した香港人のアイデンティティーが表現されています。

ちなみに、廉政公署はしばしば映画にも登場し、代表的な作品に「コールド・ウォー」(2012,2016)シリーズや、ルイス・クー主演の『サンダー・ストーム 特殊捜査班』(2018/デヴィッド・ラム)、『廉政風雲 煙幕』(2019/アラン・マック)といった作品があります。

香港ノワール、香港アクションが、一時ほどの力がなくなったのは確かかもしれませんが、『プロジェクト・グーテンベルク 贋札王』や本作などを観ると、もうとっくに復活しているのではと思わずにいられません。香港映画をもっともっと劇場で観たいものです。

映画『追龍』は、2020年7月24日(金)より、新宿武蔵野館、シネ・リーブル梅田他にて全国順次ロードショーされます。

次回の銀幕の月光遊戯は…


(C)2019 SF Film, LLC. All Rights Reserved.

新宿シネマカリテ、ホワイトシネクイント、アップリンク吉祥寺、シネ・リーブル梅田他にて近日公開予定の『SKIN/スキン』を予定しています。

お楽しみに。

【連載コラム】『銀幕の月光遊戯』一覧はこちら





関連記事

連載コラム

映画『マイスモールランド』あらすじ感想と評価解説。嵐莉菜が在日クルド人の高校生の葛藤を熱演|山田あゆみのあしたも映画日和1

連載コラム「山田あゆみのあしたも映画日和」第1回 今回ご紹介する映画『マイスモールランド』は、日本で暮らす在日クルド人の少女が自身の居場所に葛藤する姿を描いた社会派ヒューマンドラマ映画。 是枝裕和監督 …

連載コラム

Netflix『君に届け』ネタバレ結末あらすじと感想評価。椎名軽穂の少女漫画で描いた“個人の尊重と思いやる気持ち”

Netflixドラマ『君に届け』が2023年3月30日(金)から配信されています。 Netflixドラマ『君に届け』は、2006年から2017年まで「別冊マーガレット」で連載された椎名軽穂の人気少女漫 …

連載コラム

アニメ『神在月のこども』あらすじ感想と考察解説。うさぎと鬼に導かれ“宗教的な神々の世界”で生き抜く力を得る|映画道シカミミ見聞録60

連載コラム「映画道シカミミ見聞録」第60回 こんにちは、森田です。 今回は、2021年10月8日(金)より全国公開されるアニメーション映画『神在月のこども』を紹介いたします。 日本の八百万の神をめぐる …

連載コラム

ロブゾンビ新作映画『スリー・フロム・ヘル』感想と考察解説。スプラッタホラーな殺人鬼一家が蘇る【シッチェス映画祭2020】|SF恐怖映画という名の観覧車122

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile122 復活を求める声が多く、2018年に復活した「シッチェス映画祭 ファンタスティック・セレクション」。 新型コロナウイルスの影響で開催を危ぶ …

連載コラム

アート・オン・スクリーン『私は、クロード・モネ』印象派の巨匠に迫る体験|映画と美流百科1

連載コラム「映画と美流百科」第1回 はじめまして。この度「映画と美流百科」というコラムを担当することになりました、篠原愛と申します。 このコラムでは、ファッションやアートなどを切り口に、映画を紹介して …

Cinemago|想像力の海へ、シネマダイビング。
ACT1|次の物語は、人からはじまる。
Cinemagoオンラインショップ|DVD・鑑賞チケット・オリジナルグッズ
『血を吸うスマトラオオコンニャク』
【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学