あなたには、本当の自分に戻れる「場所」がありますか。心を解き放つ、そんな「空間」はあるでしょうか。
この映画の原題は、War Room(ウォー・ルーム)。「戦いの部屋」です。
人生、何と戦うかは人それぞれ。これは、自分と戦うことで勝利を手にした、2人の女性の物語です。
映画『祈りのちから』の作品情報
【公開】
2015年(アメリカ)
【原題】
War Room
【監督】
アレックス・ケンドリック
【キャスト】
プリシラ・シャイラー(エリザベス)、T・C・ストーリングズ(トニー)、カレン・アバクロンビー(クララ)、アリーナ・ピッツ(ダニエル)
【作品概要】
映画監督で、牧師としても活動するアレックス・ケンドリックによる作品です。教会には行くが決して敬虔なクリスチャンではない女性が、1人の老婦人と触れ合うことで「祈り」の尊さに目覚めるという物語。出演者は無名俳優がほとんどですが、全米で高い興行成績を記録した話題作です。
映画『祈りのちから』のあらすじとネタバレ
エリザベスは、不動産業界で成功している女性。夫のトニーはやり手の製薬会社セールス
マンで、2人の間には小学生のダニエルという娘もあり、理想的な生活を営んでいました。
エリザベスの妹婿が失業し、金銭的援助を惜しまないエリザベスをトニーは批判します。
いつの間にか喧嘩が絶えなくなり、いがみあう2人を目にするダニエルは悲しんでいます。
ある日、エリザベスは売家の交渉で1人の老婦人と出会います。彼女はクララといい、息子
に一緒に暮らそうと言われたため、亡くなった夫との家を売りたいと考えていたのでした。
2人でお茶を飲んでいると、クララは「あなたは神の教えを信じる?」と聞きます。始めは
戸惑うエリザベスでしたが、気がつくとクララに夫婦関係の悩みを打ち明けていました。
クララは、自分の「戦いの部屋」だと言って、寝室のクロゼットの中を見せます。そこには
クララが書いた聖書の祈りの言葉が、壁いっぱいに貼られていました。
それ以来、エリザベスとクララは一緒にお茶をする仲になりました。夫への不満をこぼし続
けるエリザベスにクララは、「これを読むといいわ」と一冊のノートを手渡します。
帰宅したエリザベスはノートを開き、書かれたクララの教えを実行していきます。それでも
トニーは相変わらずで、エリザベスの妹への援助をめぐって言い争う日々が続きます。
ある日、エリザベスとクララは、路上でナイフを持った強盗に出くわします。驚いたことにクララは「ナイフを置きなさい!」とまっすぐに男を睨みつけます。
クララの迫力に圧倒され、男は消えました。エリザベスは警察を呼びますが、クララの話を聞いた警官は呆れ果てます。エリザベスは、クララの凛とした姿に感動するのでした。
トニーは、営業先の秘書の女性と浮気をしていました。エリザベスはその事実を知ります。
夫の心を取り戻したい。心からの祈りと共に、自分の弱さと必死で戦うエリザベス。
映画『祈りのちから』の感想と評価
アメリカでは大ヒットしたというこの作品。聖書や祈り、はたまたサタンという言葉まで連発されるため、無神論者には、単なる教会プロパガンダ映画に見えるかもしれません。
困ったときの神だのみ。信心深い方からすれば、これほど失礼な言葉はないでしょう。たまにうっかり口走ってしまう己に多少、懺悔の気持ちを込めつつ鑑賞しました。
出演する俳優は、見慣れない顔ばかり。なんと主演のプリシラ・シャイラーという女性、アメリカで有名なキリスト教伝道師で、多数の著書もある方だとか。彼女の「Going Beyond Ministries」というブログを覗くと、堂々たる笑顔で写っていらっしゃいます。
そのせいか、彼女の演技はどこまでも自然。エリザベスというキャラクターが非常に魅力的に見えました。女優の経験がないとするなら、素晴らしい演技力だと思います。
国も人種も性別も関係なく、人の悩みはいつの世も同じ。お金、仕事、健康、家庭、人間関係、恋愛に浮気。エリザベスを悩ませるのもまた、金銭問題と夫の不倫です。
橋本治氏の名著『宗教なんかこわくない!』に、こんな一節がありました。「宗教とは、“幸福”というものを求める人間が生み出した“幸福にまつわる模索”である」。
「だからこそ、“神”とか“仏”というような超越的な存在こそが宗教だ、などと考えていると、そこんところが分からなくなる」と、橋本氏は続けます。
クララのアドバイス、「相手を変えるのではなく、自分から変わる」とか「まずは感謝」などは、自己啓発やスピリチュアル、またはここ最近のブームである「引き寄せの法則」関連の本を開いても、同じような趣旨のことが書かれています。
そう思うと、エリザベスが実践する「祈り」とはまさに普遍的な行為であり、クララのクロゼットも、小さな教会というよりは「瞑想部屋」ととらえても良いのではと思います。
他人を責めず、あるものに感謝し、そして自分の心(神)と対話する。エリザベスの無心の「祈り」は、宗教と無関係のレベルでも琴線に触れるものがありました。
「しあわせをください!神サマ!」と、できることなら大声で叫びたい人、自分を含め多数だと思います。祈る対象が何であろうとも、自らの「良心」と「信念」を礎にして、人生歩んで行きたいものです。とはいえ、言うは易し行うは難しだから大変なのですが。
まとめ
牧師でもあるアレックス・ケンドリックが手掛ける、「キリスト教三部作」と呼ばれる作品の3本目がこの『祈りのちから』です。監督本人も、役者として全作出演しています。
1本目の『フェイシング・ザ・ジャイアント』(2006)は、一度も優勝経験がない高校のフットボールチームを率いるコーチが、生徒と一緒に奮闘を繰り広げるという青春ストーリー。
そして2作目の『ファイアー・ストーム』(2008)は、正義感あふれる消防士の青年が、過酷な現場に、命の危険をかえりみず立ち向かっていく感動ストーリーです。
2作目の主演は、カーク・キャメロン。80~90年代にNHKでも放映され、『フルハウス』と並んで大人気だったホームコメディ、『グローイング・ペインズ/愉快なシーバー家』の長男、マイクです。すっかり大人になっていて可愛さは微妙ですが、笑顔に面影が残ります。
3作とも、スター級の俳優は登場しません。逆にそれが功を奏して、悩みをかかえる市井の人々の人生にさらなるリアル感を与えています。