映画『ワイルド・ローズ』は、2020年6月26日(金)から全国公開。
『ワイルド・ローズ』は実在の人物をモデルに生まれた物語です。主演のローズ役は『ジュディ 虹の彼方に』(2019)での好演が光った、英国の新鋭ジェシー・バックリー。見事な歌声で主人公ローズを演じて英国アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされるなど、高い評価を獲得しています。
ローズの母親役は、『リトル・ダンサー』(2000)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたジュリー・ウォルターズが演じています。主題歌『GLASGOW』も、賞レースで音楽賞を席巻しています。
CONTENTS
映画『ワイルド・ローズ』の作品情報
【日本公開】
2020年(イギリス映画)
【原題】
Wild Rose
【監督】
トム・ハーパー
【脚本】
ニコール・テイラー
【キャスト】
ジェシー・バックリー、ソフィー・オコネドー、ジュリー・ウォルターズ
【作品概要】
実在の人物をモデルに生まれた本作で全曲を自ら歌う主演に挑むのは、『ジュディ 虹の彼方に』での好演が光った、英国の新鋭ジェシー・バックリー。母親役には、『リトル・ダンサー』(2000)でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされたジュリー・ウォルターズ。
主題歌「GLASGOW」が、賞レースで音楽賞を席巻し、ナショナル・ボード・オブ・レビュー<インディペンデント映画TOP10>を始めとする世界中のインディペンデント映画賞で、作品賞・主演女優賞を受賞しました。
映画『ワイルド・ローズ』のあらすじ
カリスマ的な歌声を持つシングルマザーのローズは、故郷のスコットランドからアメリカに渡り、歌手としての成功を夢みていた。
だが、不器用にしか生きられない彼女は、夢を追い求めるあまり、愛する母親や幼い二人の子供たちを時に傷つけてしまいます。
夢か家族か、若さと才能を兼ね備え、遂に掴んだチャンスを前に、葛藤する彼女がたどり着いた答えとは?
書き下ろした初のオリジナルソングが披露され、ラスト5分、魂のステージが今幕を開けます。
映画『ワイルド・ローズ』の感想と評価
ローズの喜びと不安に共感
ジェシー・バックリーが演じるローズは、二人の子どもを持つシングルマザー。トラブルに巻き込まれたことから実刑を受け、1年間刑務所で過ごすことを余儀なくされました。物語はローズが刑務所を出所するところから始まります。
「二度と戻ってくるなよ」という刑務官の言葉に見送られ、「これで思い切り大好きなカントリーミュージックを歌える」とばかりに、ローズは意気揚々と歩いていきます。
恋人のもとを訪れ再会の喜びを分かち合うところまでは良かったのですが、実家へ戻り、母親と二人の子どもに再会した時は、なんとなくぎこちない空気が漂っています。
カントリー歌手として成功するためにアメリカへ渡りたいローズですが、母親は子どもたちのことを第一に考えて安定した職に就くことを望みます。
母親のすすめでローズは仕方なく清掃の仕事を始めるのですが、歌手への道を諦めることができません。しかし刑務所帰りのローズを待ち受けていたのは厳しい現実で、その都度ローズは怒りをあらわにします。
ローズの気の短さにハラハラ、ドキドキさせられ「我慢してくれ」と祈りたくなる場面が多々出てきます。
なんて不器用な女性なんだ……と思う反面、それこそが「夢か子育てか、どちらかしか選べない」というシングルマザーの苛立ちや現実をリアルに表現しているところなのかもしれないと気付く人も多いと思います。
ローズと同じ環境で頑張っている女性たちにとって、ローズが直面する問題や不器用さに共感できるのではないでしょうか。
家族との関係を通したローズの成長
ローズと母親、そしてローズと子どもたちの関係は、とても微妙なところから始まります。子どもが二人いながら夢を諦めない娘を叱責する母親は、堅実に生活を営んできた女性です。ローズが刑務所にいる間も、誠実に愛情深く孫たちに接していたことが分かります。
上の娘は、ローズが帰ってきてもブスっとした表情を崩しません。ローズの問いかけにはほとんど応えず、まだ幼いながらもどこか母親を蔑み、不信感をあらわにしていることが分かります。
下の息子は、ローズが帰ってくると喜びはしたものの、「このままおばあちゃんと一緒にいたい」と素直な気持ちを口にします。その時に見せるローズのなんともいえない寂しそうな表情に胸が痛くなります。
しかしここできちんと伝えておきたいのは、ソフィー・オコネドーが演じるローズの母親は心の底からローズたち親子の将来を考えているということです。
孫たちの反応を見て、自分が面倒を見るほうがいいと考えたかもしれませんが、親子3人で生活を立て直すことを第一に考え、一定の距離を置こうとします。
そんな母親の想いとはうらはらに、なかなか子どもたちとの距離を縮められないローズに焦りや苛立ちが出てきます。
短気なローズの性格から「もしかして子どもたちにつらくあたるのでは……」と考えてしまったのですが、それは杞憂に終わりました。
未熟ながらもローズなりに考え、一生懸命子どもたちとの生活を立て直そうと努力していきます。子どもたちに対して、とても辛抱強く接しているローズが印象的で、救われます。そんなローズの姿を見て、子どもたちにも明るい表情が戻ってきます。
試行錯誤しながら母親として少しずつ成長していくローズは、次第に自分の母親との関係も改善されていきます。物語の終盤、ローズに対して母親がとる行動が感動的で、もう一人の母親像を垣間見る瞬間となります。
ジェシー・バックリーの歌唱力
ローズは歌手になることが夢ですが、カントリーを歌うことにこだわっています。ローズにとってカントリーミュージックは特別であり、最もリスペクトしているもの。
劇中で多々ジェシー・バックリーの歌唱シーンが出てきますが、バンジョーを鳴らし軽快で楽しいイメージが強かったカントリーミュージックの中にも、抒情的でメロディアスな楽曲があるということを知ることができたのは意外な発見でした。
そしてなんといってもジェシー・バックリーの歌声の美しさが本作の魅力の一つでしょう。社会に対して、自分に対して苛立ちを隠せないローズですが、ひとたび歌いだせば、彼女のボーカル力に心を掴まれます。
ある時はタイトルどおり『ワイルド・ローズ』を地で行くパンチのきいた歌声を披露し、またある時は聴くだけで涙がこぼれてしまうような繊細な歌声で人々に訴えかけます。不器用なローズが自分自身の感情を解き放つことができるのが歌なのかもしれません。
物語のラストに至るまで、ローズはさまざまなことを見て経験します。そしてあることを決意し、自身が作った楽曲を母親と二人の子どもたちの前で披露します。一人の女性が何を経験し、何を決意して歌うのか、感動的なラストシーンに注目です。
まとめ
刑務所帰りのシングルマザーを待っている現実は確かに厳しいものですが、物語ではローズにチャンスを与えてくれる人物も何人か現れます。
清掃の仕事でお世話になるジュリー・ウォルターズ演じる屋敷の女主人や、女主人を通して知り合うラジオ番組のDJは、ローズの才能をなんとか開花させたいと願います。
そんな人たちに対して、感謝をしつつもチャンスを上手く活かせない不器用なローズが、なんとも歯がゆく感じます。
しかしその背景には、シングルマザーとしての葛藤があり、子どもたちとの生活を守りながら自分の夢を叶える難しさをリアルに表現しています。
夢と家族の間でもがき苦しむリアルなローズの姿があるからこそ、本作が単なる歌手になりたいシングルマザーの夢物語ではないことを示しているのです。
本作は、カントリーミュージックを楽しめる、ジェシー・バックリーの美しい歌声を堪能できる音楽映画であると同時に、一人の女性が成長していく姿を描く物語でもあるのです。
ジェシー・バックリーの歌声は、さまざまな事情で頑張るシングルマザーたちへの応援歌になるのではないでしょうか。
映画『ワイルド・ローズ』は、2020年6月26日(金)から全国公開されます。