連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第34回
「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第34回で紹介するのは、第2次世界大戦下の大西洋を舞台にした戦争映画『Uボート:235 潜水艦強奪作戦』。
第2次世界大戦が始まると、ナチスドイツに占領されたベルギー。しかしドイツ軍に対し、抵抗運動を続ける精鋭レジスタンス部隊がいました。
彼らの腕を見込んだ連合軍は、特別かつ危険なミッションを与えます。それは戦争の流れを左右する、重大な使命でした…。
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CONTENTS
映画『Uボート:235 潜水艦強奪作戦』の作品情報
【日本公開】
2020年(ベルギー映画)
【原題】
Torpedo
【監督・脚本】
スヴェン・ハイブリクス
【キャスト】
ケーン・デ・ボーウ、トゥーレ・ライフェンシュタイン、エラ=ユン・ヘンハルド
【作品概要】
拿捕したドイツ海軍Uボートを操って、アメリカを目指す極秘ミッションを与えられた、レジスタンス集団の活躍を描く戦争アクション映画。監督・脚本はベルギーのテレビ業界で活躍するスヴェン・ハイブリクス。彼の初長編映画となる作品です。
主演は「未体験ゾーンの映画たち2019」で上映された、『アンノウン・ボディーズ』のケーン・デ・ボーウ。ドイツやアメリカで幅広く活躍する スーリー・リーフェンスタイン、『Bo 堕ちていく少女』『Boy 7』に出演の、映画評論サイト「TC Candle」が毎年発表する「世界で最も美しい顔ベスト100」で、2015年その1人に選ばれたエラ=ユン・ヘンハルドが出演しています。
映画『Uボート:235 潜水艦強奪作戦』のあらすじとネタバレ
第2次世界大戦初期、ナチス・ドイツに占領されたベルギー。街はドイツ兵で溢れ、街路に処刑された市民が吊るされていました。
しかし占領軍に抵抗するレジスタンスは健在でした。ドイツ軍の高級将校が到着すると、バズーカ砲で攻撃します。慌てふためくドイツ兵に吊るされていた男たちが、隠し持っていた銃を撃ちまくります。彼らも偽装したレジスタンスの戦士でした。
襲撃を成功させ、降伏を申し出た高級将校を捕虜にして撤収するレジスタンスたち。
1941年、ロンドンの連合軍戦略会議室。ナチスドイツがヨーロッパを席巻する中、戦局の打開を図る1つの方策が検討されていました。非常時には非常の策を用いようと決断が下されます。
本国を失ったものの、植民地のコンゴを統治しているベルギー亡命政府は、極秘裏に進められる作戦の指揮官に、マース大尉を指名します。
無謀な作戦に反対するイギリス海軍に、船と捕虜を用意させて実行する作戦。その任務を果たす要員にマース大尉は、占領下の本国でレジスタンス活動しているベルギー軍元兵士のグループ、通称”バッド・エッグス(悪人たち)”を充てるつもりでいました。
命令に従わず行動する彼らは、連合軍からもお尋ね者と扱われ、見つけ次第射殺せよとの命令が出ていました。捕えて射殺するなら生還の見込みの無い、無謀な作戦に彼らを使った方がましだと主張するマース大尉。
その”バッド・エッグス”こそ、ドイツ軍襲撃を成功させたレジスタンスでした。捕虜は本部に引き渡す予定でしたが、リーダーのスタン(ケーン・デ・ボーウ)は、顔を浴槽の水につける拷問を遠慮なく加えていました。
スタンの娘ナディーン(エラ=ユン・ヘンハルド)は、父に自分を襲撃に加えてくれなかったと文句を言います。レジスタンスのフィリップが止めるのも聞かず、浴槽に手榴弾を投げ込んで捕虜を殺したスタン。
一方マース大尉は捕虜であるドイツ海軍のUボート艦長、フランツ( スーリー・リーフェンスタイン)に息子の死を告げ、協力を要請していました。祖国への裏切りを拒むフランツ艦長に、大尉は彼の孫の存在を告げ、救える命のために働いて欲しいと訴えます。
射撃の名手のナディーンに、手に入れた特殊な銃弾を渡すフィリップ。彼女が試し撃ちすると巨木が真っ二つになります。スタン以外のレジスタンスは、2人が付き合っていると知っていました。
ベットで寝ていたスタンは、悪夢に苦しめられていました。匿ったユダヤ人の行方を聞き出そうとする、ナチ親衛隊に彼が自宅で尋問された時の記憶でした。彼の目前で妻が射殺される光景を見て目覚めたスタン。
父を手当てするナディーンは、フランスに逃れた母と生まれて間もない弟ルイからの、便りがないことを気にしていました。スタンは戦時下で止むを得ないと言い聞かせます。
“バッド・エッグス”の元に、捕虜を引き取りに現れた伝令は、重要人物をスタンが殺したと知り怒り、そして預かった封筒を差し出します。それは彼らにコンゴへ向かえとの命令書でした。俺たちにはドイツ人を殺せる、この場所で充分だとスタンたちは反論します。
しかし高額の報酬が示され、伝令から任務が成功すれば多くのナチが死ぬと告げられます。そしてナディーンを安全な場所に移せると言われ、任務を引き受けたスタン。
レジスタンスたちは輸送機や船を乗り継ぎ、ついにコンゴに到着します。そして彼らは海に浮かぶ、ドイツ海軍の潜水艦Uボートを目にします。
連合軍に捕獲された潜水艦U-235に乗り込んだ彼らを、マース大尉が出迎え任務を説明します。彼らの使命はコンゴで採掘された戦略上重要な物資、ウランを積んだUボートでドイツ海軍の監視の目を逃れ、極秘裏にアメリカに向かうことでした。
都市をも破壊できる原子爆弾の開発にウランは必需品です。開発でドイツに遅れをとらないためにも、この戦略物資をアメリカに届けねばなりません。彼らは3週間で潜水艦を操作する訓練を受けた後、出発するとの命令を受けます。
潜水艦に手錠を付けた男が連れて来られます。それは捕虜となったドイツ海軍の元Uボート艦長、フランツでした。ナチと一緒にアメリカに行けるか、と反発するスタンに、彼の任務は君たちの訓練だけだと説明するマース大尉。
手錠姿で訓練を開始するフランツ艦長は、3週間で操作を覚えるなど無理だ、と告げます。だが自分は同行しないので結果はどうでもいい、と告げてから潜水艦の各部を説明し始めます。
マース大尉は彼らに役割を与えます。スタンは艦長を支え乗組員をまとめる一等航海士、タムとクリッセは機関室、無線技術に長けたワーナーは無線室とソナーの担当です。
フィリップとフォンスが操舵を、サツカーの名選手であるファン・プラーグは、トリムタンクを操作します。しかしナディーンに役割はありません。スタンは娘を航海に同行させず、積み込むウランが到着すると、彼女を安全なコンゴの農園に逃れさせるつもりでした。
フランツ艦長からぶ厚いマニュアルが渡され、彼らの訓練が開始されます。徐々に操作を身に付けるレジスタンスたち。ウラン到着の前夜、別れのキスを交わすフィリップとナディーン。
朝になるとウランを積んだ小船が到着します。黒人の巨漢イェンガが潜水艦に乗って、船を接舷させます。しかしレジスタンスのフォンスは、黒人に偏見を持っていました。
皆はイェンガと共に潜水艦にウランを積み込み、ナディーンは下船の準備をします。ところがワーナーが、潜水艦の位置を告げるドイツ軍の無線を傍受します。
フィリップがマース大尉に報告し、辺りを伺うと水平線にドイツ軍の艦艇が見えます。こうなっては今すぐ潜水艦を動かすしかありません。
レジスタンスたちは、まだ実際に潜水艦を動かしたことはありません。出港を命じるマース大尉に、下船する予定のフランツ艦長は自殺行為だと指摘します。スタンはウランを積んで来た船の船長が、ドイツ軍に通報していると気付きます。
気付かれたと悟るや、小船はU-235から離れます。マース大尉とフランツ艦長は争い、大尉の抜いた銃が暴発します。スタンらが駆け付けると、マースは射殺されていました。
事故だったと拳銃を差し出すフランツ艦長を、スタンが射殺しようとしますが、フィリップが阻止します。今の状況で潜水艦を動かすには、彼の存在が不可欠です。スタンに連行される艦長が落した孫の写真を、クリッセが拾い上げていました。
小船が逃げた結果、下船するはずのナディーンと、積み込み作業をしていた黒人のイェンガも、潜水艦に留まることになりました。スタンに脅され、出港を指示するフランツ艦長。
U-235は動き始めます。イェンガも機械技師と知ったクリッセは、彼も機関室の操作要員に加えます。ドイツ軍の水上艦が近づいており、艦長は潜水の操作を教え、潜航に移らせます。
手が自由に使えないフランツ艦長は、スタンに手錠を外すよう願いますが拒否されます。信用できるようになったら外すと告げるスタン。互いを疑いながらも、協力せざるを得ない立場を確認させられる2人。
敵は飛行機を飛ばし捜索していましたが、潜水している限り見つかる危険はありません。ところがタムがトイレの操作を誤り、艦内に水が吹き出ます。
艦長が浸水を止めましたが、水がバッテリーに触れ塩素ガスが発生します。充満すれば艦内の人間の命はありません。疑うスタンに構わず、艦長は急速浮上を指示しました。
浮上とともに皆艦外に出て、どうにかガスから逃れました。現れた戦闘機に対空機銃を向けますが、旋回して近寄ってきません。機銃に狙われているので射程外にいますが、潜航に移れば攻撃してきます。といって浮上航行を続ければ敵艦がやってきます。
意を決し皆は潜水艦に乗り込み、ハッチを閉め潜航に移ります。戦闘機が攻撃しようと寄ってくると、身を隠していたスタンが対空機銃を操作し、戦闘機を撃墜しました。
スタンを残したまま潜航した潜水艦は、すぐさま浮上に移ります。フランツ艦長とフィリップが外に出ると、かろうじな無事な姿を見せたスタン。
偶然から乗り合わせたイェンガを、機関室の2人は仲間として受け入れていましたが、黒人嫌いのフォンスは同じ場所に休ませることすら拒否します。
スタンは妻を失った日、幼い子供を人質にして脅すナチ親衛隊に屈し、匿っていたユダヤ人の居場所を告げました。しかし親衛隊将校は、その子を彼の前で溺死させます。スタンはその事実を、娘ナディーンに伝えられずにいました。
今だ手錠をつけて眠るフランツ艦長が目を覚ました時、スタンは彼を黙って見つめていました。何も言わずに去ってゆくスタン。
U-235潜水艦は狭い艦内に様々な火種を抱えながら、アメリカを目指し進んでゆきます。
映画『Uボート:235 潜水艦強奪作戦』の感想と評価
ツッコミどころ満載の冒険アクション活劇
熱いハートを持った、ならず者部隊が大活躍する、第2次世界大戦を舞台にした海洋アクション映画。ファンの期待に応えるシーンの数々が登場しますが、戦争映画に詳しい人でなくても、思わず首をかしげるシーンが多数登場します。
冒頭からこの時期に存在しないバズーカ砲や、冗談みたいな威力の小銃弾が登場。そしてどうやってドイツ占領下のベルギーからコンゴまで行ったのやら。映画は必要とあれば、画面上の矢印1つの動きで困難な移動も説明できますから、実にリーズナブルです。
コンゴに現れるドイツ戦闘機、果たしてどこから飛んで来たのでしょう。素人に3週間で潜水艦の操作を覚えさせる無茶振り以前に、あの人数でUボートは動かせません。そもそも実在のU-235潜水艦は1942年に就役、こんな運命をたどってはいません。
当時技術的にほぼ不可能だった、潜水艦同士の水中戦ですが、このシーンは映画の大きな見せ場。描写もしっかりしているので許してあげましょう。
これ以外にも戦争映画ファンはツッこみたくなる描写満載ですが、そうでない人でも浸水や水圧をなめてるとしか思えない、登場人物の超人的活躍には素朴な疑問を覚えるでしょう。
「ウチの爺ちゃん、兵隊として送られた太平洋の島から、アメリカ軍の飛行機盗んで、自分で操縦して日本に帰ってきた」…なんてヨタ話と同様、痛快なホラ話と承知の上で、活劇の数々を楽しむべき戦争映画です。
冒険活劇ファンのスヴェン・ハイブリクス監督
本作が長編映画監督デビュー作になるスヴェン・ハイブリクスは、ロバート・アルドリッチ監督の『特攻大作戦』のような、特殊な任務を帯びた男たちが活躍する、戦争映画が大好きだったとインタビューに答えています。
そんな映画が、自分のデビュー作になると思わかったと話すハイブリクス監督。プロになってから本作を撮るまでに10年かかり、その間シナリオも描き直されます。本作のような規模の大きな作品の、ベルキーでの製作は非常に困難。撮影が開始した時は非常に緊張したと語っています。
なお潜水艦の水中戦のシーンは、CGではなくミニチュアを使用。撮影の何年も前に、父親のプールを使用してテストを行ったそうです。非常に高額な予算を投じない限り、CGでのリアルな水中爆発は表現できないと語る監督の、自慢のシーンに注目して下さい。
子供が好きになる映画は、子供向け映画ではなく『レイダース 失われたアーク』『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』『グーニーズ』のような映画だと話す監督。彼が子供の時に受けた影響は、作品の隅々から伝わってきます。
まとめ
冒険戦争活劇に、第2次世界大戦下のベルギーの歴史を重ねたものが本作です。実際に原爆開発に使われたウランは、映画に登場したベルギー領コンゴの、シンコロブエ鉱山から採掘されたものが使用されました。
映画に登場するありえない描写の数々に、眉をひそめる方もいるでしょう。名作映画『U・ボート』のような、リアルな描写を期待した方ならなおさらです。
娯楽映画として楽しむには、真面目で重い描写が数々登場。ドイツ軍に蹂躙され、映画『ダンケルク』か描いた連合軍撤退を前に降伏した、ベルギーの歴史を反映しています。誰もが想像できる、史実に基づくラストもあって、鑑賞後に複雑な思いを感じる方もいるでしょう。
それでもこの映画は、ベルギー本国では極めて好意的に受け取られています。自国でこれだけのスケールに映画が作れたこと、自国の歴史を背景に本格的な冒険アクション映画を生まれたことを、高く評価しています。
『Uボート:235 潜水艦強奪作戦』は、単純明快な冒険活劇のスタイルをとりながら、様々な視点で味わえることが出来る映画です。そんな姿勢で楽しんで下さい。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第35回は海を疾走するパワーボート。その世界で波乱万丈に生きた男の生涯を、ジョン・トラボルタが演じる映画『スピード・キルズ』を紹介いたします。お楽しみに。
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