リー・ワネル監督×エリザベス・モス主演の最新作映画『透明人間(2020)』
映画『透明人間』(2020)は、1897年に出版されたH・G・ウェルズ原作の『透明人間』に登場するキャラクターを基に「ソウ」や「インシディアス」シリーズの脚本家として知られるリー・ワネル監督が制作した最新ホラー映画です。
主演はテレビドラマ『マッドメン』や『ハンドメイズ・テイル/侍女の物語』のケイト・モス。
現代を舞台に先端技術とサイコスリラーが上手く融合したストーリーで小気味好いサプライズも用意されています。
映画『透明人間 (原題:The Invisible Man)』の作品情報
【公開】
2020年(アメリカ・オーストラリア合作映画)
【原題】
The Invisible Man
【監督】
リー・ワネル
【キャスト】
エリザベス・モス、オリヴァー・ジャクソン=コーエン、オルディス・ホッジ、ハリエット・ダイアー、ストーム・リード、マイケル・ドーマン
【作品概要】
監督・脚本を手掛けたリー・ワネルは、光学分野の科学者から透明になることは実現し得ると聞き独自に物語のアイデアを発案。製作したのは、『ゲットアウト』(2017)や『ハロウィン』(2018)等次々と大ヒットホラー映画を世に送り出すブラム・ハウスプロダクションです。撮影場所はオーストラリア。
映画『透明人間』のあらすじネタバレ
夜、恋人のエイドリアンが眠ったことを確信したセシリアは、音を立てないようこっそりベッドから抜け出します。
常備薬の抗不安剤が入った瓶を掴み家中に張り巡らされた監視カメラを無効にすると、着替えて荷物をまとめたバックを手に敷地の外へ駆け出します。
人通りのない道路へ着いたセシリアは、妹・エミリーの迎えを不安そうにじっと待機。遠くからヘッドライトが近づき、エミリーだと分かったセシリアは、車に乗り込む際に慌てて薬瓶を落としてしまいます。
後を追ってきたエイドリアンが大声で怒鳴りながら助手席の窓を割ってセシリアを掴みエミリーは緊急発進。車を見送ったエイドリアンは、血に濡れた手で落ちていた薬瓶を拾います。
その後、セシリアは、エイドリアンに住所を知られていないエミリーの恋人で刑事のジェームズ宅に身を潜めますが、2週間一歩も外へ出られず怯えて日々を過ごします。
ある日、エミリーがジェームズの家を訪問。自分の居場所がバレると思ったセシリアは、妹に食って掛かります。
エミリーは「エイドリアンは死んだわよ」と穏やかに一言。天才科学者だったエイドリアンの自殺を報道する記事をエミリーから見せてもらったセシリアは、思わず安堵して座り込みます。
セシリアは、細かい事情を話していなかった妹とジェームズに、支配欲の強いエイドリアンから常軌を逸した束縛を受けていたことを告白。
「食べる物から、服、そして言動や思考まで指図したわ」
更に、エイドリアンは子供を欲しがり、妊娠すれば一生離れられないと思ったセシリアはこっそり避妊薬を服用。しかし、それも長期間有効な方法ではないと悟り逃げる覚悟を決めてエミリーに助けを求めたと説明。
もうエイドリアンは死んでおり自分達と居れば大丈夫だと妹から励まされたセシリアは、ホッとした表情を浮かべます。
そこへエイドリアンの弟で弁護士のトムから連絡が入り、セシリアはエミリーと一緒に事務所を訪問。
トムは、エイドリアンがセシリアへ5百万ドルの遺産を残したと告げます。犯罪を犯さないという条件を承諾して署名すれば10万ドルずつ毎月振り込まれると補足。
セシリアは、面倒を見てくれていたジェームズに恩返しをしようと大学進学を希望していたジェームズの娘・シドニーの為に信託預金を開設。大喜びの2人と一緒に穏やかな夜を過ごします。
しかし、翌朝から不可解な現象が起こり始め、昼夜問わず感じる人気にセシリアは言い知れぬ恐怖を覚えます。
夜、セシリアがシドニーと一緒に寝ていると、掛けていたタオルケットが勝手に動きベッドの脇へ落下。
セシリアは目を覚ましタオルケットを拾うと、まるで重りが乗っているように布地の端が床に固定されて動きません。
その途端、タオルケットの上を歩く足跡がセシリアに接近。大声で叫び、駆け付けたジェームズに起きたことを説明しますが、落ち着くようたしなめられます。
翌日、働こうと面接に出向いたセシリアは倒れて病院へ搬送。血液検査を澄ませジェームズ宅へ戻ります。シャワーを浴び一息ついた所へ病院から連絡が入り、抗不安薬の血中濃度が高く、それが気絶を引き起こしたのだろうと言われます。
セシリアの視線の先には、洗面台の上に置かれた薬瓶。エイドリアンの家から逃げ出した夜に落とした自分の物で、血痕が付着しています。
セシリアはジェームズを伴ってトムを訪れ、エイドリアンに止めろと伝えるよう強く主張。
「自分から逃げようとしても必ず見つけ出す。直ぐ手の届く所まで近づいても、君には僕が見えない。でも、側に居ることが分かるようサインを残すよ」
セシリアは、エイドリアンがそう言っていたことを話し、薬瓶のことを説明。自殺は偽装だと訴えるセシリアに対し、トムは、兄の遺灰があるとキツネにつままれたような表情。
光学分野の先駆者だったエイドリアンは透明になる方法を発見したと続けるセシリアに対し、ジェームズも呆気にとられます。
トムは、エイドリアンが天才的だったのは発明した物ではなく、相手の弱みに付け込み思考を操る所だったと前置きし、無い物を在ると信じ込ませることで死んだ後もセシリアを苦しめられることをエイドリアンは知っていたのだろうと諭します。
トムは、自分も長い間兄に支配され、死んだと聞いて安堵したと告げ、遺体も確認したと現場写真をセシリアに見せます。
セシリアは何とか自分の気持ちを落ち着かせようとしますが、酷い内容のメールが勝手にセシリアのアドレスからエミリーへ届き、受け取ったエミリーは激怒。
更に、落ち込むセシリアを慰めるシドニーの頬が目の前で突然何かに平手打ちされます。
セシリアに殴られたと思い込んだシドニーは泣き始め、部屋へ駆けつけたジェームズは厳しい視線でセシリアを見つめます。
エイドリアンの仕業だとセシリアは訴えますが、うんざりした表情のジェームズは、娘をこれ以上怯えさせるなとジェームズはうんざりした表情でシドニーを庇うように抱きしめ出て行きます。
キッチンへ行き包丁を握ったセシリアを透明のエイドリアンが首を絞め、彼女の体を投げ飛ばします。ジェームズの家を飛び出したセシリアは、ウーバーを呼びエイドリアンの家へ。
エイドリアンの研究室へ入ったセシリアは、自分の姿を映し出す画面にふと手を触れます。するとこれまで見たことの無い黒いスーツが自動製造されて出現。
エイドリアンのウォークインクローゼットへそのスーツをこっそり隠していると扉がゆっくり開きます。
身を隠したセシリアは、シューズの足跡が絨毯に食い込むのを見た途端走り出します。
待機してもらっていたウーバーに乗り込み、急いでエミリーへ連絡。命の危険に晒されており、どうしても話がしたいと頼んで人目があるレストランで落ち合うことに。
セシリアは、エイドリアンが開発した物を見つけたと周りを警戒しながら小声で説明。ストーカー被害に遭っていることを証明できると涙ながらに訴える姉の表情を見たエミリーは耳を傾けます。
するとテーブルに置いてあったナイフが突然浮いてエミリーの喉を切り裂き、勝手に動いでセシリアの手に平へ。
思わず反応してナイフを掴んだセシリアは、喉から大量の血を流しテーブルに突っ伏した妹を呆然と見つめます。隣のテーブルで談笑していた女性客が気づき半狂乱。
店内は大騒ぎになり駆け付けた警察に取り押さえられたセシリアは精神病院へ隔離されます。
部屋の隅を睨みつけながら「お前が妹を殺した」と怒鳴るセシリアは鎮痛剤を注射されますが、眠りに落ちる直前「サプライズ」とせせら笑うようなエイドリアンの声を耳にします。
映画『透明人間』(2020) の感想と評価
本作は、有害な恋人関係を終わらせようとした女性主人公に対し、元々精神的欠陥のあった相手・エイドリアンが起こす常軌を逸した行動を中心に展開、そして被害女性の逆転的復讐を終盤に描写しています。
監督・脚本を手掛けたのはリー・ワネル。2019年公開された『アップグレード』は、ワネルの斬新なアイデアで話題を集めました。
過去の透明人間をテーマにした映画やテレビドラマとは異なる新しい物語を作りたかったとワネルは映画化の動機を説明。
観客の感情を上手く刺激するサイコスリラーを見事に演出し、電気が点いて明るい部屋の何も無い空間を怖く感じさせて心理的圧迫感を創出することに成功。ワネルは、「観客の想像力こそ本作の特撮」と表現しています。
また、特筆すべきは俳優陣の貢献。セシリアを演じたエリザベス・モスは、自分自身を見失っていた弱い女性から闘うと決意する芯の強い女性へと変わっていく姿を文字通り体当たりで熱演。全編を通し、気迫とも言えるモスの表現力は観客を映画の世界に釘付けにします。
製作に名を連ねるジェイソン・ブラムは、テレビドラマ『マッドマン』のファンだったワネルが早い段階でモスを起用したいと考えていたことを明かし、モス無しでは本作は成り立たなかっただろうと称賛。
そして、ソシオパスのエイドリアンに扮する『推理作家ポー 最期の5日間』(2012)のオリヴァー・ジャクソン=コーエンも登場場面が少ないにも拘わらず、際立った存在感を見せています。
終盤でセシリアと再会する場面では、微笑んでいながらも狂気をはらんだ目つきが怖い…。
イギリス人俳優であるジャクソン=コーエンは、上記でも触れた『アップグレード』を見てワネルに注目。
ジャクソン=コーエンは、女性の友人がナルシストのボーイフレンドから酷い扱いを受けた話を聞いていた為、精神的虐待を振るう人間を演じることで、人物像を公にする必要性を感じたともコメントしています。
シンプルなストーリーでありながら、冒頭から緊張感溢れ二転三転するワネルのアイデアと演出は、細かい辻褄のほころび等どうでもいいと思えるほど質の良いホラーを創出。
まとめ
支配欲の強い恋人・エイドリアンに耐えきれなくなったセシリアは、ある日意を決して逃走。
しかし、プライドが傷ついたエイドリアンは執拗にセシリアを苦しめ、遂には彼女の妹・エミリーを殺害。追い詰められたセシリアは反撃に打って出ます。
最先端テクノロジーをヒントにしたリー・ワネルの発想力と俳優陣の演技力が光る『透明人間』は、クリエイティヴなアイデアがあれば7百万ドルの予算でも十分怖い映画が創れることを証明した見応えのあるホラー映画です。