連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第11回
映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。
今回紹介するのは『仮面病棟』です。
原作は、作家・知念実希人の人気医療ミステリー小説『仮面病棟』です。現役医師でもある作家が、病院を舞台に巻き起こる難解事件をリアルに描きます。
坂口健太郎と永野芽郁の共演で、『任侠学園』『屍人荘の殺人』の木村ひさし監督が映画化。
ある日突然、ピエロの仮面を被る凶悪犯に病院が占拠された。閉ざされた病院で、生き残りを懸けた究極の心理戦が始まります。ピエロの仮面が剥がされる時、病院の隠された秘密の仮面も暴かれる。
映画『仮面病棟』公開に伴い、原作の違いを比較し紹介します。
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CONTENTS
映画『仮面病棟』の作品情報
【公開】
2020年(日本)
【原作】
知念実希人
【監督】
木村ひさし
【キャスト】
坂口健太郎、永野芽郁、内田理央、江口のりこ、朝倉あき、丸山智己、笠松将、永井大、佐野岳、藤本泉、小野武彦、鈴木浩介、大谷亮平、高嶋政伸
映画『仮面病棟』のあらすじとネタバレ
警察の取調室で、速水秀悟は今回の事件について事情聴取を受けていました。
「目撃者はあなただけなんです。もう一度詳しく話して下さい」。
速水は記憶を巡らせます。激しい雨の降る日でした。
その日は、先輩医師の小堺司に呼ばれ、田所病院の当直医を代わりに受けることになっていました。
速水は、3カ月前、恋人のようこを車に乗せ交通事故に遭い亡くしていました。
悲しみから立ち直れず、医療現場を離れていた速水を心配し、ようこの兄でもあった小堺が仕事復帰の機会を与えたのでした。
田所病院は、老衰や寝たきり、認知症の患者が多く、身寄りのない患者も受け入れる療養型病院です。
救急の患者もなく、速水の仕事復帰には良いリハビリになるとの考えからです。
田所病院内部は、元精神科病院なだけあって、階段には鉄格子が備え付けられ、手術室も鍵がかかり使用されていないようでした。
看護師の東野良子と佐々木香は、慣れた手つきで病室の見回りをしています。
速水は、2階の当直室に案内され、そこで待機となりました。
しばらくすると、東野から内線が入ります。「1階に来てください」。
病棟は3・4階にあります。
「1階ですか?」速水は疑問に思いながらも支持された1階へと降ります。
待合室の長イスには、苦しそうに横たわる女性の姿がありました。
「その女を治療しろ」。
声のする方を向くと、そこにはピエロの仮面を被った男が拳銃を構えてこちらを見ています。
さきほどTVのニュースで流れていた、逃走中のコンビニ強盗でした。
たまたまコンビニに寄ろうとしたその女性は、ピエロに拳銃で撃たれたようです。
久しく手術をしていない速水は戸惑いますが、ピエロの脅しに自分を奮い立たせます。
「手術室に運びます」。
看護師の東野と佐々木は、一瞬ためらい渋々と手術室の鍵を開けます。
手術室に入ってみると、使われていないのが嘘のように最新の設備が整っていました。
速水が女性に名前を聞くと、「川崎瞳」と答えます。
幸い拳銃の弾は脇腹をかすった程度で縫合で済みました。
その時、ピエロの背後を狙って田所医院の院長が襲い掛かります。
ピエロは間一髪の所で振り返り、田所院長は蹴り倒されてしまいました。
「金ならやるから、助けてくれ」。
金を受け取ったピエロでしたが、朝まで病院に立てこもると言い出します。
唯一の出入り口である階段の鉄格子を閉め、エレベーターを監視。
ピエロ以外の者は、自由に1階に降りられなくなりました。
さらに、携帯電話を回収され、病院の固定電話も切断されています。
田所院長はじめ、看護師の東野、佐々木、そして速水と瞳、田所病院の入院患者64名は、人質となり閉じ込められてしまいました。
何もしなければ、ピエロは朝には消えている。院長は、勝手な行動を慎むよう皆に警告します。
院長と東野と佐々木は、ひとまず患者の見回りをすると言って病棟へ向かいました。
残された速水と瞳に、「うぅー」唸り声が聞こえてきます。
声がした病室を覗くと、ベッドから落ち、苦しむ患者の姿がありました。
「新宿11」と書かれたその患者は、身元不明で新宿で保護された11人目の患者という意味です。
新宿11の脇腹には、新しい手術痕があり、縫合の糸が何者かによって切られていました。
騒ぎに気付いた院長たちがやってきます。「後は、こちらで」。
速水は、一切説明をしてくれない院長たちの態度に不信を抱き、新宿11のカルテを盗み見します。
そのカルテには、特定の患者の名を書いたメモが挟まっていました。
それらの名前のカルテを突き合わせてみると、すべての患者が近いうちに緊急手術を受けていることが分かりました。
しかも、担当医は院長、そして担当看護師には東野と佐々木の名がありました。
使われていないはずの手術室に整った設備、そこで頻繁に行われている緊急手術、誰かが忍ばせたメモ用紙。
速水は確信します。この病院には何かがあると。
速水はピエロが何かしらの目的で、自分たちを利用し、病院の隠された秘密を調べさせているのではないかと察します。
その頃、5階にある院長室が何者かによって荒らされていました。院長は速水を疑います。
「思い出したんだ。君は亡くなった小堺君の妹さんの恋人だった者だな。あの日、救急車の搬送先をうちが断ったことを恨んでやったのか。ピエロの仲間なんじゃないのか」。
院長室を荒らしたのはピエロの仕業でした。
2階に戻った速水は、ようこから貰ったお守りを握りしめていました。
そのお守りは安産のお守りでした。ようこのお腹には赤ちゃんがいたのです。
速水の悲しみに、瞳は寄り添うように自分の生い立ちを話し始めます。
「私も大切な人を亡くしました。姉です。親の虐待からいつも私を守ってくれた、たった一人の家族でした」。
院長のケガの治療を終えた東野が、瞳に近付き、何やら小声で話しかけ去っていきました。
「ピエロだけじゃない、気を付けて」って言われました。
やはり、この病院内にピエロの仲間がもう一人紛れ込んでいるのだろうか。
そして、とうとう最初の犠牲者が出てしまいます。4階で東野が胸を刺され倒れているのが発見されました。
『仮面病棟』映画と原作の違い
現役医師でもある作家の知念実希人原作「仮面病棟」が、坂口健太郎、永野芽郁の共演で、ビジュアル的にもセンセーショナルになってスクリーンに登場です。
まずは、ピエロのマスクが、想像してたのと違う! 赤いアフロヘアに、大きな赤い鼻と笑った口。サーカスのピエロのマスクを想像していただけに、映画『仮面病棟』の、ロン毛で片方の口角をあげたピエロマスクに、思わず「カッコイイ」と思ってしまいました。
原作の世界をよりスタイリッシュに、スピード感あふれる演出で映画化された『仮面病棟』。主な違いをいくつか紹介します。
速水秀悟と小堺司の関係
原作では、速水秀悟(坂口健太郎)と、小堺司(大谷亮平)は、ただの先輩後輩の仲でした。映画では「速水の亡くなった婚約者の兄が小堺だった」という設定が加わりました。
しかも、婚約者は速水の子供を妊娠しており、交通事故で運ばれる際、小堺が当直医をしていた田所病院に搬送を断られるという伏線も引かれています。
このストーリーを盛り込んだことで、ピエロの正体は実は小堺!?という展開になるのも見どころです。
川崎14の存在
川崎瞳(永野芽郁)の正体は、入院患者の「川崎13」でした。原作では、瞳の姉は登場しませんが、映画では姉・朝倉あきの存在と、姉が「川崎14」だったという設定が加わりました。
原作での、瞳の犯行の動機は、臓器移植手術で体に傷を負わされたことへの復讐でしたが、映画では、姉の命を奪った者たちへの復讐、そして姉の臓器を移植し生き延びている政治家・国平への復讐へと広がりをみせます。
姉妹の幼い頃の悲惨な体験、そして妹をずっと守り続けてきた姉の惨い死は、瞳への同情心を高めました。
速水と瞳のその後
原作では、瞳が小堺への復讐をとげ、速水の前から立ち去っていくシーンで終わります。
映画では、瞳が最後のターゲット、国平への復讐を遂げようとする所に、速水がマスメディアを使って、復讐は止めろと呼びかけます。
さらに映画では、2人のその後も描かれています。復讐の連鎖を止めた瞳が、小さな病院で医師として復帰した速水の元にやってきます。姿は見せませんが、お守りを返しにきたのでした。
瞳の言葉が蘇ります。「先生に会えて良かった。愛する人の分まで生きよう」。
まとめ
現役医師でもある知念実希人が描くリアル医療ミステリー小説を、スタイリッシュに映像化した『仮面病棟』。原作と映画を比較し紹介しました。
ピエロの仮面を被った凶悪犯によりクローズド・サークルと化した病院で、息詰まる心理戦が幕を開けます。
ピエロの仮面、そして病院の隠された秘密の仮面が剥がされる時、すべてを繋ぐ真実が明らかになる。仮面の下には、残酷にも悲しい物語が隠されていました。
次回の「永遠の未完成これ完成である」は…
次回紹介する作品は『騙し絵の牙』です。
『罪の声』の映画化公開も待ち遠しい作家・塩野武士が、大泉洋をイメージして主人公を「あてがき」した小説『騙し絵の牙』が、まさに大泉洋に主演で映画化となります。
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『騙し絵の牙』、映画公開を前に原作のあらすじと、映画化で注目する点を紹介していきます。