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Entry 2020/03/12
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映画『少年の君』あらすじと感想評価レビュー。中国社会問題を鮮烈に描写した青春ドラマ|OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録5

  • Writer :
  • 西川ちょり

第15回大阪アジアン映画祭上映作品『少年の君』

毎年3月に開催される大阪アジアン映画祭も今年で15回目。2020年3月06日(金)から3月15日(日)までの10日間にわたってアジア全域から寄りすぐった多彩な作品が上映されます。

コロナウイルス流行の影響により、いくつかのイベントや、舞台挨拶などが中止となりましたが、連日盛況で、上映後は拍手が起こることも。

今回はその中から、中国・香港合作映画『少年の君』(2019)をご紹介します。

『少年の君』は、2021年7月16日(金)より新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマほか全国劇場公開と決定しました。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録』記事一覧はこちら

映画『少年の君』の作品情報

【日本公開】
2020年公開(中国・香港合作映画)

【原題】
少年的你(英題:Better Days)

【監督】
デレク・ツァン

【キャスト】
ジョウ・ドンユー、ジャクソン・イー、イン・ファン

【作品概要】
香港人監督デレク・ツァンが監督を務め、易烊千玺(ジャクソン・イー)、周冬雨(ジョウ・ドンユー)という中国の人気俳優が主役を演じた社会派青春ドラマ。

2019年ベルリン国際映画祭でワールドプレミアされる予定だったにも関わらず、「技術的な問題」という中国側の理由で突如上映がキャンセルされ、6月を予定していた中国国内での上映も公開延期されました。過激ないじめ描写などが中国の検閲にひっかかったのではないかとされています。そのような事情にも関わらず同年10月に公開されるや15億5600万元(約240億円)の大ヒットを記録しました。

デレク・ツァン監督プロフィール

1979年生まれ。香港出身。父は香港の名優エリック・ツァン。

2014年の『レイジー・ヘイジー・クレイジー』(ジョディ・ロック)や2015年の『クレイジー・ナイン』(ファイアー・リー)などの作品(いずれも第11回大阪アジアン映画祭で上映)で俳優として活躍する一方、監督としても高い評価を得ています。

2010年の『恋人のディスクール』で監督デビューを果たし(ジミー・ワンと共同監督)、2016年には『七月と安生』を発表。それぞれ第7回、第12回アジアン映画祭で上映されています。『七月と安生』は2017年香港映画監督組合賞で最優秀監督賞を受賞。大阪アジアン映画祭ではABC賞に輝きました。

『七月と安生』主演のひとりであるジョウ・ドンユーが『少年の君』でも引き続きヒロインに抜擢されました。

映画『少年の君』のあらすじ

中国内陸部のある都市。内向的な少女ニエンは難関大学に合格して北京に行けば人生を切り開くことができると信じて、毎日懸命に勉強していました。彼女は母親と二人暮らし。母はニエンの学費をかせぐためインチキ化粧品の違法な販売に従事していました。母親は借金も抱えており、借金取りが時々やってきては怒鳴りながら玄関のドアを叩きます。ニエンは黙って嵐が過ぎ去るのを待つしかありませんでした。

全国統一試験(通称「高考」)まであと数ヶ月となり、生徒たちは机に山のように教科書や参考書を積みあげ、受験勉強に励んでいました。そんな中、ある女子生徒が校舎のバルコニーから身を投げ、自殺します。彼女は3人組の女子生徒から陰湿ないじめを受けていたのです。

いじめの対象はニエンに移り、毎日いやがらせが始まります。ある日ふとしたことからニエンはシャオベイという少年と出会います。かたや学校の優等生、かたや不良少年という対極的な二人でしたが、孤独な魂を抱える者同士、いつしか心を通わせはじめます。

3人の女子生徒によるいじめはエスカレートし、彼女たちは放課後もニエンを待ち伏せするようになりました。危険を感じたニエンは、シャオベイにボディーガードになってくれるよう頼みます。統一試験まであと一ヶ月となっていました。

映画『少年の君』の感想と評価

序盤の少女の飛び降り自殺をめぐるシークエンスを観て、本作がとてつもない作品であることを確信しました。

飛び降りる瞬間も遺体も一切画面に映されることはありません。ですが、机に向かい勉学に勤しむニエンが、ヘッドフォンをつけた途端、画面から音が消え、その瞬間、一部の生徒たちが席を立って走り出し、異変が起きている気配が漂ってくるもののまだニエンは何にも気づいておらず、やがてはっと立ち上がり席を立つ、その長回しの見事なこと。

本作は校庭に横たわる少女の遺体を映すことはせず、その代わりに、ぐるりと校庭を囲む形で建てられた校舎のバルコニーに出て校庭を見下ろしている大勢の生徒たちを何度も何度も映し出します。スマホで撮影する生徒も少なくありません。そこには動揺、悲痛、高揚、悪意、無関心、そうした複雑な心理の数々が見え隠れしますが、「本当に悲しんでいる人はいますか?」とカメラは問いかけているかのようです。

少女にただ独り歩み寄って上着をかぶせるという行為をしたことにより、ニエンは3人組の新たなる標的となります。いじめの卑劣さが、あと数ヶ月の試験にかけている彼女の境遇と相まって異様なサスペンスを生み出しています。

このように、現実的な学校内におけるいじめの問題が大きなテーマとなっている一方、優等生の少女と不良少年の純愛というストーリーは、少女マンガ的です。不良少年が、少女のボディガードとなったり、少年のあばら家で一緒に生活しながらプラトニックな愛を育てるといった展開はまさに王道のラブストーリーです。少女を後部座席に乗せて少年がオートバイを飛ばすショットなどは80年代の日本映画のアイドル映画を彷彿させますし、ニエンを演じる周冬雨(ジョウ・ドンユー)、シャオベイ演じる易烊千玺(ジャクソン・イー)のフォトジェニックさは岩井俊二の一連の映画の登場人物を思い出させます。

こうした少女マンガのロマンチックな世界と現代の中国に生きる若い人たちが抱える社会問題が、ぶつかり合い、溶け合ったことによって、『少年の君』は飛び抜けた青春映画の秀作となりました。

いじめの問題に加え、本作では中国の受験競争の驚くべき過酷さが描き出されています。今の現実から抜け出すために大学受験に全てをかける子どもたち。自分だけのためでなく親や学校や、果ては地域の誇りとなるべく受験に挑戦していく子どもたち。親が出稼ぎに行っていて、独りで闘う子どもたちも少なくありません。

そのような少女マンガ・ミーツ・社会派映画としての物語の展開は最終的に主役の少女と少年に新たな試練を与えます。もうやめてあげてと言いたくなるほどの過酷な時を、互いを信じて闘う少年と少女の深い絆に大粒の涙を流す人も多いことでしょう。

まとめ

『少年の君』は2019年ベルリン国際映画祭でワールドプレミアされる予定でしたが、技術上の問題という中国側の理由で突如上映中止となり、また、中国国内での上映も公開3日前に急に中止となり、その6ヶ月後にほとんど宣伝もなく公開されました。そのような上映事情だったにもかかわらず本作は大ヒットを記録します。

作品の最初と最後にいじめに関する言及がなされています。いじめの問題を重くみた当局がいじめ防止法につとめ、このようなことがないよう云々という内容です。

まるでこの映画が国家のいじめ防止対策のPR映画のような様相を呈していますが、おそらくこれが上映にこぎつけるための苦肉の作だったのでしょう。国家が諸外国の人々や国民に見せるのを危惧するくらい、本作がことの本質に迫っていたのでしょう。

シャオベイ役の易烊千玺(ジャクソン・イー)は、中国の人気ボーイズグループ「TFBOYS」のメンバーだということです。俳優と違わぬ演技力を見せるアイドルは珍しくありませんが、彼の本作での演技はとりわけ目を見張るものがあります。一方、ヒロイン役を演じた周冬雨(ジョウ・ドンユー)は、1992年生まれで撮影当時は27才でした。過酷な役割だけに実際より年長の演技の評価が高い彼女が抜擢されたのでしょうが、高校生の瑞々しさを見事に表現しています。2人の熱演がなければ本作はここまで説得力を持つ作品にはならなかったでしょう。

『少年の君』は、2020年3月14日(土)の10:30よりABCホールにて上映されます。

また、2021年7月16日(金)より新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマほか全国劇場公開です。

【連載コラム】『OAFF大阪アジアン映画祭2020見聞録』記事一覧はこちら

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