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Entry 2021/06/19
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『少年の君』解説|映画のラスト結末まで目が離せないサスペンスの要素。優等生少女と不良少年の交流を描いた“孤独な青春”

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

『少年の君』は、2021年7月16日(金)より新宿武蔵野館ほかで全国劇場公開

優等生の少女とストリートで生きる少年、孤独な2人が出会い、心を通わせていくヒューマンドラマ『少年の君』。

青春ドラマとサスペンスの要素を持つ本作は、中国の過酷な受験戦争や、増加するストリートチルドレンなど、中国が抱える現実の社会問題に、真っ向から挑んだ作品でもあります。

中国では諸般の事情により、宣伝が行われないまま公開された本作でしたが、結果的に興行収入250億円の大ヒットを記録しました。

これまで50以上の映画賞を獲得し「第93回アカデミー賞」の国際長編映画賞にノミネートされるなど、世界中でも高い評価を得ています。

社会問題を描いているだけでなく、前半と後半では全く違う作風であることが特徴的な本作は、完成度の非常に高い作品となっています。

映画『少年の君』の作品情報


© 2019 Shooting Pictures Ltd., China (Shenzhen) Wit Media. Co., Ltd., Tianjin XIRON Entertainment Co., Ltd., We Pictures Ltd., Kashi J.Q. Culture and Media Company Limited, The Alliance of Gods Pictures (Tianjin) Co., Ltd., Shanghai Alibaba Pictures Co., Ltd., Tianjin Maoyan Weying Media Co., Ltd., Lianray Pictures, Local Entertainment, Yunyan Pictures,
Beijing Jin Yi Jia Yi Film Distribution Co., Ltd., Dadi Century (Beijing) Co., Ltd., Zhejiang Hengdian Films Co., Ltd., Fat Kids Production, Goodfellas Pictures Limited. ALL Rights reserved.

【公開】
2021年公開(中国・香港合作映画)

【原題】
Better Days

【監督】
デレク・ツァン

【脚本】
ラム・ウィンサム、リー・ユアン、シュー・イーメン

【キャスト】
チョウ・ドンユィ、イー・ヤンチェンシー、イン・ファン、ホアン・ジュエ、ウー・ユエ、ジョウ・イエ

【作品概要】
貧困から抜け出す為に、過酷な受験戦争に挑む優等生のニェンと、貧困から抜け出すことを諦め、ストリートで生きるシャオベイ。

相反する2人が出会い、残酷な運命に翻弄されるヒューマンドラマ。

主人公のニェンを演じるのは、チャン・イーモウ監督の『サンザシの樹の下で』(2010)のヒロイン役に抜擢され、中国では「13億人の妹」の愛称で親しまれる人気女優チョウ・ドンユイ。

ニェンと知り合い心を通わせる、ストリートチルドレンのシャオベイを演じるイー・ヤンチェンシーは、中国初の国産少年アイドルグループ「TFBOYS」のメンバーとして活躍しており、中国のSNSサイトでは800万人近いフォロワーを集めるトップアイドルです。

イー・ヤンチェンシーは、本作への出演で高く評価され、俳優としても今後の活躍が期待されています。

監督のデレク・ツァンは、初の単独監督作品となった『七月と安生』(2016)が「アジア・フィルム・アワード」の最優秀監督賞へノミネートされた他、「香港映画監督組合賞」で最優秀監督賞を受賞するなど、その才能が高く評価されています。

映画『少年の君』のあらすじ


© 2019 Shooting Pictures Ltd., China (Shenzhen) Wit Media. Co., Ltd., Tianjin XIRON Entertainment Co., Ltd., We Pictures Ltd., Kashi J.Q. Culture and Media Company Limited, The Alliance of Gods Pictures (Tianjin) Co., Ltd., Shanghai Alibaba Pictures Co., Ltd., Tianjin Maoyan Weying Media Co., Ltd., Lianray Pictures, Local Entertainment, Yunyan Pictures,
Beijing Jin Yi Jia Yi Film Distribution Co., Ltd., Dadi Century (Beijing) Co., Ltd., Zhejiang Hengdian Films Co., Ltd., Fat Kids Production, Goodfellas Pictures Limited. ALL Rights reserved.

進学校に通う成績優秀な高校3年生のチェン・ニェン。

ニェンの家庭は貧しく、母親は学費を捻出する為に出稼ぎへ行っています。

ですが、多額の借金を抱えるニェンの家は、借金取りから嫌がらせを受け、周囲からは厳しい視線が向けられています。

貧しく苦しい環境に、ニェンは耐え続けていました。

この苦しい環境から抜け出すには、全国統一大学入試(=高考)で優秀な成績を出し、北京の大学へ進学するしかありません。

ニェンは、高考を控えて殺伐とする校内で、黙々と参考書に向かい準備を進めていました。

そんな過酷な状況の中、ニェンの同級生がいじめを苦に、校舎から飛び降り自ら命を絶つという、ショッキングな事件が起きます。

少女の死体を撮影する、生徒達の行動に耐えられず、ニェンは少女に上着をかけます。

成績優秀なうえ、全校生徒の前で目立つ行動を取ってしまったニェンは、校内の女性生徒グループに目を付けられます。

貧しい家庭でもある事から、ニェンはいじめの標的にされてしまいますが、高考だけを目標に、黙々と耐え抜こうとします。

ある雨の日、下校中のニェンは、暴行を受けていた少年シャオベイを、偶然救う事になります。

シャオベイは、貧しい環境からストリートで生きるしかなかった不良少年で、優等生のニェンとは正反対ですが、孤独である事は共通しており、2人は心を通わせるようになります。

ニェンは、いじめから身を守る為に、シャオベイにボディガードを依頼しますが、その事が、ある事件の引き金になっていきます。

映画『少年の君』感想と評価


© 2019 Shooting Pictures Ltd., China (Shenzhen) Wit Media. Co., Ltd., Tianjin XIRON Entertainment Co., Ltd., We Pictures Ltd., Kashi J.Q. Culture and Media Company Limited, The Alliance of Gods Pictures (Tianjin) Co., Ltd., Shanghai Alibaba Pictures Co., Ltd., Tianjin Maoyan Weying Media Co., Ltd., Lianray Pictures, Local Entertainment, Yunyan Pictures,
Beijing Jin Yi Jia Yi Film Distribution Co., Ltd., Dadi Century (Beijing) Co., Ltd., Zhejiang Hengdian Films Co., Ltd., Fat Kids Production, Goodfellas Pictures Limited. ALL Rights reserved.

優等生の高校生であるニェンと、ストリートの不良少年シャオベイ。

対照的な2人が出会い、やがて心を通わせていくヒューマンドラマ『少年の君』。

孤独だったニェンとシャオベイが、次第にお互いを意識するようになっていく展開は、青春ドラマのようですが、本作最大の特徴は「過去ないじめ」「受験戦争」「ストリートチルドレン」など、中国が抱える社会問題を、真正面から描いているという部分です。

貧しい家庭に育ったニェンは、貧困から抜け出す方法として、全国統一大学入試(=高考)に全てを賭けます。

これはニェンだけでなく、中国での大学受験は「戦争」のようになっていて、日本のニュースでも、高校生が家族の期待を全て背負って、受験に挑む様子などが報じられていますね。

作中でニェンは、北京の大学を目指しますが、実際に一流大学は北京や上海などの大都市に集まっており、大都市に出て人生を変える為、地方の学生は一流大学を目指して、命懸けで勉強をしています。

作品の前半は、そんな受験戦争の過酷さが中心になっており、机の上に山積みにされた参考書や、まるで軍隊の教官のような教師など、異常とも言える様子が描かれています。

そんな中でニェンは成績優秀で、大都市に出て人生を変えられる可能性があり、借金に苦しむ母親の期待も背負っています。

しかし、ニェンは校内でいじめの標的にされてしまいます。

中国でのいじめ問題は深刻で、中国政府も2019年に、いじめ防止の新制度を整備する法改正に乗りだしたというニュースがありました。

この法改正のキッカケになったのは、被害者の生徒を集団で暴行する動画が、インターネットへ投稿されるという事件が多発した為です。

『少年の君』では、このいじめ問題に真っ向から挑み、ニェンが暴行を受ける動画を、いじめの実行犯が撮影するという、実際の事件を連想させる描写もあります。

いじめに関する場面は、かなり過激な描写になっており、見ていて正直耐えられない部分がありました。

そんな、ニェンの心の支えになるのが、シャオベイという少年です。

シャオベイは、貧困が理由で学校に行く事もできず、窃盗などで生きてきたストリートチルドレンです。

中国では、実際に約50万人といわれるストリートチルドレンが存在し、支援策が求められているという現状があり、『少年の君』では、この問題をシャオベイの目線で描いています。

ニェンとシャオベイ、それぞれ当事者の目線で、現在の中国の問題を描きつつ、2人の出会いと心の交流を描くのが前半の展開となります。

しかし、ニェンとシャオベイに関わる、ある人物の死体が発見された事から、物語は一転します。

『少年の君』は、前半と後半では大きく作風が変わる事も特徴で、後半では、サスペンス要素の強い展開となっていきます。

この殺人事件に巻き込まれたニェンは、これまで命懸けで準備をしてきた、高考までも駄目になりかねない事態となります。

ここでシャオベイが下す決断は、あまりにも切ないのですが「これ以上、方法がない」という、他に選択肢の無い悲しい展開となります。

しかし、事件を追う青年刑事が、最後にある行動を見せる事で、あまりにも救いのないように見えた本作の物語は、非常に力強いメッセージ性を持つ作品となっていきます。

見ようによっては、現在の中国社会を批判したような内容となっており、この作品が中国で上映された際、一切宣伝ができなかったというのは、内容が問題視されたのではないでしょうか?

それでも、中国で大ヒットを記録したという事実は、本作の持つメッセージが、多くの人に届いたという証拠でしょう。

まとめ


© 2019 Shooting Pictures Ltd., China (Shenzhen) Wit Media. Co., Ltd., Tianjin XIRON Entertainment Co., Ltd., We Pictures Ltd., Kashi J.Q. Culture and Media Company Limited, The Alliance of Gods Pictures (Tianjin) Co., Ltd., Shanghai Alibaba Pictures Co., Ltd., Tianjin Maoyan Weying Media Co., Ltd., Lianray Pictures, Local Entertainment, Yunyan Pictures,
Beijing Jin Yi Jia Yi Film Distribution Co., Ltd., Dadi Century (Beijing) Co., Ltd., Zhejiang Hengdian Films Co., Ltd., Fat Kids Production, Goodfellas Pictures Limited. ALL Rights reserved.

前述したように『少年の君』は、前半と後半で大きく作風が変わる作品となっています。

後半は、サスペンスの要素が強くなるのですが、孤独な少女と少年が心を通わせる物語に、殺人事件が絡む展開は、東野圭吾原作で、2006年にドラマ化もされた『白夜行』を連想する方もいるのではないでしょうか?

「残酷な運命」に翻弄される少女と少年の物語という点で、共通点は感じます。

ただ『少年の君』で、シャオベイが下す決断は「貧困から抜け出せない者と、抜け出す可能性のある者」という、今の中国の格差を象徴したような展開です。

本作は、現在の中国が抱える社会問題を真正面から描いていますが、青春ドラマとサスペンスの要素を加えることで、エンターテイメント性を持たせています。

いじめの場面など、心の苦しくなる描写もありますが、それらも後半の伏線になっていくという、完成度の高い作品であると言えます。

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