Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/01/22
Update

アカデミー賞2020ノミネート作品の行方は?近年の「SFホラー映画」とその関係性を解説|SF恐怖映画という名の観覧車86

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile086

2020年のアカデミー賞ノミネート作品の一覧が発表され、各賞をどの作品が受賞するのか世界中で話題となっています。

しかし、その裏で2019年に世界を席巻し、歴代興行収入ランキング1位に輝いた映画『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)が視覚効果賞以外の賞から選外となったことに疑問を持つ方も多くいました。


(C)2019 MARVEL

そんなわけで今回は、一見アカデミー賞とは無縁に思われがちな「SF」や「ホラー」映画と近年のアカデミー賞との関わりをご紹介していきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

作品賞の受賞は未だかつてない鬼門

参考画像:第41回アカデミー賞ノミネート『2001年宇宙の旅』


(C)2018 Warner Bros. Entertainment Inc.

実は「SF」や「ホラー」映画のアカデミー賞の受賞自体は珍しいことではありません。

その年の最も優れた視覚効果を使った映画が受賞対象となる「視覚効果賞」では、『2001年宇宙の旅』(1968)や『エイリアン』(1979)、『ジュラシック・パーク』(1993)など数多くのSF・ホラー映画が受賞しており、この賞の受賞が両ジャンルの目標とも言われていました。

しかし、一方でアカデミー賞の主要5部門と呼ばれる「作品賞」「監督賞」「主演男優賞」「主演女優賞」「脚本賞」ではノミネート自体が珍しく、その年の最優秀映画を決める「作品賞」では一度も受賞前例がありません。

2000年代の初頭まではアカデミー会員の投票によって選ばれる「作品賞」では、エンターテイメント性に特化した作品は忌避されがちでした。

ですが、2003年にある作品が「作品賞」を受賞したことにより、徐々にこの風潮も変わっていくことになります。

作品賞の傾向が一新された2000年代

参考画像:第90回アカデミー賞ノミネート『ゲット・アウト』


(C)2017 UNIVERSAL STUDIOS All Rights Reserved

2003年、J・R・R・トールキンの小説「指輪物語」を映画化した「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの完結作『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(2004)が「作品賞」を受賞したことでノミネート傾向が大きく変わり始めます。

それまでも『スター・ウォーズ』(1978)や『レイダース/失われたアーク』(1981)のように「大衆娯楽作」と呼ばれる作品もノミネート自体はしていたものの、ファンタジーの「大衆娯楽作」である『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』がアカデミー賞の11部門を制したこの年はアカデミー賞の革命の年だったと言えます。

その後も残念ながらSFやホラー映画が「作品賞」を受賞することは2020年の現在まで1度もありません。

しかし、2009年にはジェームズ・キャメロンが新技術を駆使し描いた『アバター』(2009)と、地球に避難した宇宙人の差別と陰謀を描いた『第9地区』(2010)が揃って「作品賞」にノミネート。

2010年には『インセプション』(2010)、2013年には『ゼロ・グラビティ』(2013)、2015年には『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)と『オデッセイ』(2016)など、2000年以前には考えられなかったほど数多くのSF映画が「作品賞」にノミネートし始めます。

そして2017年、1973年の『エクソシスト』(1974)でのノミネート以来、ジャンル的に不可能とさえ言われていた「ホラー」のジャンルから『ゲット・アウト』(2017)がノミネートし、アカデミー賞を震撼させました。

話題となったスティーヴン・キングの言葉

参考動画:第92回アカデミー賞ノミネート『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』

1月中旬、アカデミー賞の映画候補を決める1票を持った映画芸術科学アカデミーの会員である作家のスティーヴン・キングがSNSに投稿したある文章に各界から様々な批判が相次ぎました。

「候補作を選考するにあたり最重要なものは多様性ではなくクオリティである」としたその文章は、「多様性の存在もクオリティの中に含まれる」と言う意見や「時代に逆行する考え方」と言う意見が相次ぎ、ちょっとした騒動となっています。

この文章の次にキングは「性別や肌の色、志向に関わらず全員が同じチャンスを与えられなければならない」と投稿しており、近年の受賞傾向である差別を題材にした作品に対する批判ではないことは明かです。

しかし、前述したように「SF」や「ホラー」と言う「大衆娯楽作」が「作品賞」と言う名誉を受けれない時代があったように、性別や肌の色によって長年正しい評価をされない人や映画が多くありました。

もちろん、「作品賞」には「クオリティの高い映画」の受賞が求められるものの、その「クオリティの高い映画」と言うくくりが性別や肌の色、そして国やジャンルに縛られない「多様性」に富んだものであることがアカデミー賞が目指すべき目的地なのかもしれません。

まとめ


(C)2019 Lucasfilm Ltd. All Rights Reserved.

残念ながら2020年の「作品賞」にはSF・ホラー映画のノミネートはないものの、SF映画の決戦場である「視覚効果賞」には『アベンジャーズ/エンドゲーム』と『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』(2019)がノミネート。

マーティン・スコセッシが人生を込め、街並みもリアルに再現した『アイリッシュマン』(2019)や「超実写版」と銘打つのほどの毛並み1つ1つまで作り抜いたCG映画『ライオン・キング』(2019)、戦場の表現を壮大なスケールで再現した『1917 命をかけた伝令』(2020)など、受賞作の予想がつかない「視覚効果賞」は今回の授賞式の見どころの1つ。

韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(2020)が「作品賞」を受賞するのか、波乱の予感の授賞式は日本時間の2020年2月10日月曜日に全世界で同時中継されます、お見逃しなく!

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile087では、「映画のようなゲームとゲームのような映画」、進化していく映画の形を「SF」作品に絞り解説していこうと思います。

1月29日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

ホラー映画歴代おすすめランキング(洋画1960年代)ベスト5選!名作中の名作サイコから始まった!【増田健ホラーセレクション3】

おすすめの1960年代の洋画ホラー映画5選! ホラー映画に興味を持った方も古い作品だと、今見るにはちょっとキツいかもしれない、と敬遠してはいませんか?そんなアナタのために、各年代のホラー映画から5作品 …

連載コラム

【ネタバレ感想】ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーの無名キャラクターがもたらした奇跡の大ヒットを解説|最強アメコミ番付評18

こんにちは、野洲川亮です。 『キャプテン・マーベル』『アベンジャーズ/エンドゲーム』『ヘルボーイ』と続々と予告が公開され、楽しみも増えてきています。 今回はマーベル・シネマティック・ユニバース「MCU …

連載コラム

HYODO八潮秘宝館ラブドール戦記 |あらすじ感想と評価解説。世界で1番の”ヘンタイ”博物館を描く必見のドキュメンタリー映画|増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!9

連載コラム『増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!』第9回 この世には見るべき映画が無数にある。あなたが見なければ、誰がこの映画を見るのか。そんな映画が存在するという信念に従い、独断と偏見で様々な映画を紹 …

連載コラム

《最強ホラー映画監督》ルチオ・フルチおすすめランキンング1位は?隠れた名作スプラッターはグロとゾンビの祭典【増田健ホラーセレクション】

ショック!残酷!意味不明!ルチオ・フルチの怪作映画ベストランキング5選。 残酷描写で名高いゾンビ物など強烈なスプラッター映画を手がけ、今もホラー・ファンの心を掴んで放さなぬ人物、“ホラー映画のマエスト …

連載コラム

映画『ハチとパルマの物語』感想評価と解説レビュー。実話感動の愛犬物語と主題歌を歌う堂珍嘉邦の“愛の待ちぼうけ”が胸を打つ|映画という星空を知るひとよ62

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第62回 ロシアの忠犬パルマを描いた『ハチとパルマの物語』は、2021年5月28日(金)より、新宿ピカデリー、なんばパークスシネマ、シネ・リーブル梅田、MOVI …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学