20世紀を代表する巨匠、『時計じかけのオレンジ』『フルメタル・ジャケット』のスタンリー・キューブリック監督と、原作者アーサ・C・クラークによる、映画史を代表する不朽の傑作SF作品。
第42回アカデミー特殊視覚効果賞受賞し、スタンリー・キューブリック監督曰く、「この作品は、知的言語化を避け、本質的に詩的で哲学的な方法で観る者の潜在意識に届く」と述べています。
キャストは、ケア・デュリア、ゲイリー・ロックウッド、ウィリアム・シルベスターほか。SF映画のオールタイム・ベスト作品『2001年宇宙の旅』をご紹介します。
映画『2001年宇宙の旅』の作品情報
【公開】
1968年(アメリカ)
【原題】
2001: A Space Odyssey
【監督】
スタンリー・キューブリック
【キャスト】
キア・デュリア、ゲイリー・ロックウッド、ウィリアム・シルベスター、ダグラス・レイン、ダニエル・リクター、レナード・ロシター、マーガレット・タイザック、ロバート・ビーティ、ショーン・サリバン
【作品概要】
スタンリー・キューブリックがSF作家アーサー・C・クラークとタッグを組んで製作にあたった究極の宇宙SF。あまりにも抽象的で難解であることから、公開当初は多くの批判を浴びた。現在では再評価を受け、SFのオールタイム・ベストとしてのみならず、映画史全体としてのオールタイム・ベストとして名高い。
第41回アカデミー賞(1969年)特殊視覚効果賞受賞。監督賞(スタンリー・キューブリック)、脚本賞(スタンリー・キューブリック アーサー・C・クラーク)、美術賞ノミネート作品。
映画『2001年宇宙の旅』のあらすじとネタバレ
今から400万年ほど前の地球。人類の祖先にあたるヒトザルたちは、飢えに苦しんでいました。そんな彼らの前に突如出現した謎の黒い石板“モノリス”。
恐れつつも興味をひかれたのか、その周りへと集まって来るヒトザルたち。やがてモノリスに触れた一匹のヒトザルに変化が表れ始めます。
それは、知性の目覚めでした。彼らは両手を自由に使うことを覚え、それはやがて道具を使うことへとつながっていきます。人類最初の道具、それは骨でした。
この骨という武器を手にしたヒトザルは、狩りに利用するばかりか、縄張り争いをしていた別のグループとの戦いにまで用いることになります。ついには相手のリーダーを殺し、人類としての最初の一歩を踏み出したのでした。
21世紀、科学技術の進歩の末、骨という道具が形を変え宇宙船にまで発展しました。月の開発が進む中、人類はその表面に奇妙なものを発見します。それは黒い石板、モノリスでした。調査を開始すべく月面での会議を招集。その道の権威であるフロイド博士も、急ぎ現地へと赴きます。
フロイド博士が月面に到着し、早速モノリスの下へ。その時、上空では太陽と月が一直線に並ぼうとしていました。そして太陽光がモノリスを照らした時、フロイド博士たちの頭の中に響く強烈な音と共に、信号が木星へ向けて発信されたのです。
かくして、デヴィッド・ボーマン、フランク・プール他数名による調査団が結成され、彼らを乗せた宇宙船ディスカバリー号が地球を旅立ちました。食料や空気を節約するため、ボーマンとプールの2名で船を管理し、他数名の科学技術者は冷凍睡眠状態のまま目的地へ赴くという体制で臨んでいました。
映画『2001年宇宙の旅』の感想と評価
『2001年宇宙の旅』の原作者として有名なアーサー・C・クラーク。ただ、この作品の製作過程における一風変わった点は、まず原作ありきで映画が作られたという訳ではないということにあります。
この映画の始まりは、クラークの『前哨』という短編をベースに、それを発展させる形で映画脚本と小説を同時に進めていったというものなのです。
ちなみにこの『前哨』という短編は、月に人工構造物を発見した人類を描いており、映画でいうとフロイド博士のシーンにあたるもの。たったこれだけのストーリーから、これほど壮大なオデッセイにまで発展させてしまった2人の想像/創造力の豊かさには驚きを禁じ得ません。
当初クラークの意向としては、先に小説版を出版するというものだったらしいのですが、紆余曲折を経て最終的にはキューブリックの方が先に映画を発表してしまうという結果に。
キューブリックらしいと言えばそれまでですが、彼のこういった独善的な性格ゆえか、その後もまた一緒に仕事をしようというキューブリックの誘いにクラークはあまり乗り気でなかったとか。
キューブリックの性質を表すエピソードをもう一つ。映画と小説とを比べてストーリーにそこまでの隔たりはない(大筋では)のですが、一点大きく違うのがディスカバリー号の目的地です。
映画でそれにあたるのは木星でしたが、小説でボーマンが向かったのは、土星の衛星の中の一つ“ヤペタス”。なんでも土星の環を上手く表現出来ないという理由から、木星へと変更されたそうです。中途半端なものをやるくらいならいっそのこと変えてしまえという、キューブリックの完璧主義者っぷりが良く表れています。
また、この作品のテーマが人類の進化であることは周知の事実だと思われますが、この進化論はクラークが『幼年期の終わり』(1953)ですでに示している(異なるプロセスではあるものの進化の到達点には共通点がある)ということは、あまり知られていないことかもしれません。
アーサー・C・クラークという人物が、作家である前に数々の予言を的中させてきた本物の科学者であるといった点から考えると、ぶっ飛んでいるとも言える内容が途端に信憑性を帯びてくるのですから不思議なものです。
さて、肝心の中身について見ていきましょう。この作品において最も重要な点は、冒頭における骨が宇宙船に変わるというほんの一瞬のシークエンスで、人類の歴史を表現してしまうという離れ業をやってのけたキューブリックのショッキングとさえ言える映像感覚にあるのではないでしょうか。
これにより、時間と場所を一足飛びに変遷させることに成功しているのですが、この映像には、もちろんセリフもナレーションもありません。必要ないのです。
このように、余計なセリフや説明を極端なまでに排除することで、むしろ映像と音楽の存在感を際立たせ、これこそが映画でしか出来ないことだ!と言わんばかりのキューブリックの底知れないエネルギーを感じさせてくれます。
そして、息を呑むほど美しい宇宙の光景も注目ポイントです。元々カメラマン出身であるキューブリックがこだわりにこだわり抜いたその映像は、CG全盛の昨今の映像、例えばアルフォンソ・キュアロン監督の『ゼロ・グラビティ』(2013)などと比べても全く遜色ないものとさえ言えるのではないでしょうか。
他にも、人工知能HALが話すたびに映し出される赤いランプをあたかもHALの目であるかのように表現しており、真っ白な宇宙船内部で一際目を引くその赤い色味は、まるでHALに通った血であるがごとく感じさせるといった効果を与えています。
さらにはスターゲイト通過中のデヴィッド・ボーマンのシーンにおいて、多種多様な色調を帯びた光に照らされた顔のクローズアップと、受精をイメージさせるような映像を挿入することだけで表現してしまうことなど、注目すべきポイントは多々あります。
加えて音楽もこの作品の魅力を語る上では欠かせない存在です。リヒャルト・シュトラウスの「ツァラトゥストラはかく語りき」やヨハン・シュトラウスの「美しき青きドナウ」などといったクラシックの名曲の数々と映像との融合は、もはや芸術の域に達していると言わざるを得ません。
いわば光と色と音の織り成す総合芸術ともいえるこの作品ですが、これを60年代という時点ですでに完成させていたというのですから、キューブリックという人間がいかに時代の先を行っていたかが窺い知れますね。
まさにスタンリー・キューブリックここにあり!
まとめ
『2001年宇宙の旅』の登場が後世へと与えた影響は、革命的と言えるほどのものです。この作品を模倣しようと思っても出来る訳もなく、というより真似る気すら起きないのではないでしょうか。これほどの作品は、もう二度と現れないのではないかという気さえします。
リドリー・スコット監督の『エイリアン』(1979)は諸にその影響を受けていたし、SFではないにも関わらず、テレンス・マリック監督による『ツリー・オブ・ライフ』(2011)も明らかに本作を意識した作りになっていたりと、その他にも様々な映画へと波紋を広げていきました。
それほど伝説的ともいえるこの作品なのですが、その哲学的側面ゆえか難解なイメージがどうしても付きまとってしまいがちなのは否めないところ。観たことはあるが、意味が分からなかったという方も少なからずいらっしゃると思います。
そんな方は、アーサー・C・クラークの小説版を読んで頂くと良いかもしれません。「なぜHALは暴走したのか?」や「スターゲイト通過中のボーマンには一体何が起こっていたのか?」など、きっと数々の疑問に解決の糸口を見いだせるはずです。