世界を魅了する若き巨匠ポン・ジュノ監督が描き続けてきたこととは?
2019年のカンヌ国際映画祭で、審査員満場一致で【最高賞】パルムドールに輝いたポン・ジュノ監督最新作『パラサイト 半地下の家族』。
日本公開は2020年1月となっている本作は、全員失業中の貧しい一家とIT企業を経営する裕福な社長一家という相反する2つの家族の出会いから想像を遥かに超える展開へと加速していく物語です。
既に韓国動員1,000万人突破、フランス動員160万人突破ほか、各国で動員記録を塗り替える爆発的な盛り上がりをみせ、その後もオスカー前哨戦ともいわれるトロントや、ニューヨークなど各国の映画祭で絶賛&受賞を重ね、第92回アカデミー賞での受賞も有力視されています。
本記事では、『パラサイト 半地下の家族』の見どころと、ポン・ジュノ監督の代表作品をご紹介します。
CONTENTS
『パラサイト 半地下の家族』の見どころ
画像:カンヌ国際映画祭でのポン・ジュノ監督
2019年で100年目を迎えた韓国映画界に、初めてのパルムドールをもたらしたポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』。
現代社会が抱える問題をも内包しつつ、ユーモア、サスペンス、アクション…映画すべての要素を完璧に融合させながらツイストの効いた展開で描き切りました。
物語の構成だけでも超一級のエンターテインメント作品として申し分なく、それに加えて「ボンテール(ポン・ジュノ+ディテール)」も余すことなく堪能できると評論家たちも声を揃えます。
「ボンテール」とは、役者の台詞や動き、小道具、背景など画面に映し出されているあらゆる要素に、メッセージを込める監督の繊細さと緻密さを称賛するため、メディアや評論家が生み出した造語。
本作でも、前半に出てきたアイテムが、後半に思いもよらない展開で登場します。
何度見ても新たな発見があるのが、本作の魅力のひとつです。
『オールド・ボーイ』をパク・チャヌクに勧めたのはポン・ジュノ
参考動画:『オールド・ボーイ』予告編
無類の日本漫画好きとしても知られるポン・ジュノ監督。
もともと、漫画家を志していたこともあり、今も映画の撮影前には、緻密な絵コンテを描き、イメージを明確に表現することでも知られています。
そんなポン・ジュノ監督にまつわるエピソードとして代表的なのが、名匠パク・チャヌク監督に、土屋ガロンと嶺岸信明著の漫画『ルーズ戦記 オールドボーイ』を読むよう、お薦めしたという話。
のちにカンヌ国際映画祭グランプリ受賞を果たした傑作『オールド・ボーイ』(2003)を、ポン監督がアシストしていたんです。
そんなポン・ジュノ監督の過去作も、一筋縄ではいかない考え抜かれた設定のものばかり。
目の離せない衝撃的なアクションやサスペンスがありながらも、現代社会に通じるテーマが必ず隠されています。
一方、明るくキャラの濃い登場人物たちの姿に、思わずクスりと笑ってしまうユーモアも織り込まれており、日本人なら誰もが親しみを感じる“漫画”の趣も色濃く感じさせます。
普段映画を観慣れない人でも、一度観たらその作風にどっぷりはまってしまうこと間違いなし!
次章からは過去おすすめ映画をご紹介しますので、『パラサイト 半地下の家族』日本公開の機会に、これまでのポン・ジュノ監督作品も併せてチェックしてみてください。
『殺人の追憶』(2003)
2019年9月19日に、30年の時を経て真犯人が判明したことでも話題となった、実際の未解決連続殺人事件に着想を得たサスペンス。
犯人を突き止めようとする刑事たちの前に、衝撃の結末がおとずれます。
ポン・ジュノの名を世に知らしめた代表作。ソン・ガンホとの初タッグ作です。
映画『殺人の追憶』の作品情報
【日本公開】
2003年(韓国映画)
【原題】
Memories of Murder
【キャスト】
ソン・ガンホ、キム・サンギョン、パク・ヘイル、キム・レハ、ソン・ジェホ、ピョン・ヒボン、パク・ノシク、チョン・ミソン、イ・ジェウン
映画『殺人の追憶』のあらすじ
1986年。韓国の農村で女性が強姦され殺される事件が発生。
その後も同様の手口の事件が発生し、現地の警察官パク・トゥマンはソウルからやって来たソ・テユンと捜査にあたることに。
なにかとそりが合わないふたりでしたが、ひとりの容疑者が浮かび上がり…。
『グエムル 漢江の怪物』(2006)
アメリカ軍が実際に有害な薬品を韓国・漢江に流した実際の事件がモチーフとなっており、薬品の流出により生まれた謎の怪物に拉致されてしまった少女を救うべく、ふがいない父親が奔走します。
韓国では、当時歴代動員1位を記録するメガヒットを記録。
映画『グエムル 漢江の怪物』の作品情報
【日本公開】
2006年(韓国映画)
【原題】
The Host
【キャスト】
ソン・ガンホ、ペ・ドゥナ、ピョン・ヒボン、パク・ヘイル、コ・アソン
映画『グエムル 漢江の怪物』のあらすじ
ソウルの中心を貫く漢江(ハンガン)の河川敷で、小さな売店を営みながら暮らすパク一家。
普段と変わらない日を送っていたパク一家の面々でしたが、ある日突然、漢江から飛び出してきた謎の巨大な怪物に娘ヒョンソを奪われてしまい…。
『母なる証明』(2009)
息子の容疑を晴らすため真相に迫ろうとする、母の狂気に近い盲愛を描きました。
ウォンビンが息子を演じたことでも話題に。
国内外で20を超える賞を受賞、世界中の映画ファンに衝撃を与えました。
映画『母なる証明』の作品情報
【日本公開】
2009年(韓国映画)
【原題】
마더(韓国語題)、Mother(英語題)
【キャスト】
キム・ヘジャ、ウォンビン、チン・グ、ユン・ジェムン、チョン・ミソン
映画『母なる証明』のあらすじ
息子トジュンは知的障害を持っており、母親は常に心配していましたが、貧しいながらも母子で幸せに暮らしていました。
ある日トジュンが声をかけた少女が翌日死体となって発見されたことから、突如警察に拘束されてしまいます。
母親は息子の無実を信じ、自ら事件を解決するため奔走しますが…。
『スノーピアサー』(2014)
地球温暖化を食い止めるために撒かれた化学薬品によってすべてが氷と雪に覆われた世界の中で、階級ごとに分けられた列車の最下層で生きる人々による反乱を描いたSFアクション。
主人公カーティス役には、『キャプテン・アメリカ』のクリス・エヴァンス。
ナムグン・ミンス役にソン・ガンホ、ウィルフォード役に『トゥルーマン・ショー』でゴールデン・グローブ賞助演男優賞を受賞したエド・ハリスが脇を固めています。
フランスの原作コミックを、ポン・ジュノ監督が斬新な設定で描き、韓国で900万人を超す大ヒットを記録しました。
映画『スノーピアサー』の作品情報
【日本公開】
2014年(韓国・アメリカ・フランス映画合作映画)
【原題】
Snowpiercer(英語題)、설국열차(韓国語題)、雪國列車(漢字題)
【キャスト】
クリス・エヴァンス、ソン・ガンホ、コ・アソン、ジェイミー・ベル、ジョン・ハート、ティルダ・スウィントン、オクタヴィア・スペンサー、エド・ハリス、ユエン・ブレムナー、ルーク・パスカリーノ、アリソン・ピル、アドナン・ハスコヴィッチ、トーマス・レマルキス
映画『スノーピアサー』のあらすじ
2014年7月1日、地球温暖化を防ぐため化学薬品が撒かれた結果、地球は新たな氷河期に突入。
それから17年後の2031年。
人類が暮らす列車“スノーピアサー”で、上流階級の人間に奴隷のように扱われていた後方列車の人々が革命を起こし…。
『オクジャ/okja』(2017)
謎の怪獣オクジャを親友である少女ミジャが巨大な多国籍企業から守ろうとする、NETFLIX配信のアクションアドベンチャー。
資本主義における食肉産業の闇を描きました。
ネット配信作品としてははじめてカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品され、パルムドールを争ったことでも話題を呼びました。
NETFLIX映画『オクジャ/okja』の作品情報
【配信】
2017年(韓国・アメリカ合作映画)
【原題】
Okja
【キャスト】
ティルダ・スウィントン、ポール・ダノ、アン・ソヒョン、ピョン・ヒボン、スティーブン・ユァン、リリー・コリンズ、ユン・ジェムン、シャーリー・ヘンダーソン、ダニエル・ヘンシュオール、デボン・ボスティック、チェ・ウシク、ジャンカルロ・エスポジート、ジェイク・ギレンホール
NETFLIX映画『オクジャ/okja』のあらすじ
アメリカの巨大企業ミランド社のCEOであるルーシーは、チリで見つけた「餌も排泄物も少なく、環境に良く、味もとても美味しい豚」スーパーピッグの繁殖に成功し、その26匹を世界中の畜産家に預け、10年後に最も優秀なスーパーピッグを決めるコンテストを開くことを宣言しました。
10年後。
韓国の山奥でオクジャと名付けられたスーパーピッグと共に暮らす少女・ミジャがいました。
両親を早くに亡くしたミジャにとっての家族は、面倒を見てくれる祖父、そしてお互いを信頼し合っているオクジャだけでしたが…。
映画『パラサイト 半地下の家族』の作品情報
【日本公開日】
2020年(韓国映画)
【原題】
기생충(GISAENGCHUNG)
【英題】
Parasite
【監督・共同脚本】
ポン・ジュノ
【撮影】
ホン・ギョンピョ
【音楽】
チョン・ジェイル
【キャスト】
ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
【作品概要】
2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門パルムドールを受賞したブラックコメディ。
『殺人の追憶』(2003)『グエムル-漢江の怪物-』(2006)のポン・ジュノが監督を務め、同2作に出演したポン・ジュノ組常連のソン・ガンホが主演しました。
生活感溢れる半地下住宅、洗練されたモダンな豪邸、そして周囲の街並み…実在するかのような説得力を持ちながら、驚異的なスケール感がある空間は「道以外すべてセット」という大規模なオープンセットで撮影されました。
映画『パラサイト 半地下の家族』のあらすじ
全員失業中で、日の光も、電波も弱い“半地下住宅”で暮らす貧しいキム一家。
大学受験に失敗し続けている長男ギウは、ある理由からエリート大学生の友達に家庭教師の仕事を紹介されます。
身分を偽り訪れた先は、IT企業を経営するパク社長一家が暮らす“高台の大豪邸”。
思いもよらぬ高給の“就職先”を見つけたギウは、続けて美術家庭教師として妹ギジョンを紹介します。
徐々に“パラサイト”していくキム一家。
しかし、彼らが辿り着く先には、誰にも想像し得ない衝撃の光景が待ち構えていて…。
まとめ
映画『パラサイト 半地下の家族』は、2019年10月11日(現地時間)にアメリカで限定公開され、大ヒットスタート。ロサンゼルス、ニューヨークの3劇場で公開されると376,264ドルの興収を記録。
米国限定公開のオープニング館アベレージで、2019年の最高記録を樹立しました。3館以上の劇場で限定公開された作品としては、世界的ヒット作となった『ラ・ラ・ランド』(16)以来、最高の興収を記録。
さらには、外国語映画としても 『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2004)、『アメリ』(2001)などを大きく上回り、歴代最高記録となる快挙となりました。
米配給会社ネオンは、今後ロサンゼルス、ニューヨークの上映劇場の追加に加え、ボストン、シカゴ、サンフランシスコ、ワシントン D.C.での公開を予定。さらなる爆発的動員が期待されています。
2020年1月に日本で公開される映画『パラサイト 半地下の家族』。この機会にポン・ジュノ監督の過去の代表作もあわせてチェックしてみてくださいね。