連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第7回
貴重な佳作から珍作・怪作まで大集合の「未体験ゾーンの映画たち2020」が、今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催。2月7日(金)からはシネ・リーブル梅田で実施、一部作品は青山シアターで、期間限定でオンライン上映されます。
前年は全58作品を見破、「未体験ゾーンの映画たち2019」にて紹介させて頂きました。
今年も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第7回で紹介するのは、日本映画のカルト的となった河崎実監督の最新作『ロバマン』。
80年代に「地球防衛少女イコちゃん」シリーズを世に送り、『いかレスラー』『コアラ課長』『日本以外全部沈没』などを監督、独特のスタイルを持つ作品は、親しみを込めて“おバカ映画”とよばれるジャンルを確立しました。
今回公開された河崎監督の作品で活躍するのは、68歳の高齢者特撮ヒーロー!真っ暗闇の日本、邪念に包まれた地球を『ロバマン』が救う!
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CONTENTS
映画『ロバマン』の作品情報
【日本公開】
2020年(日本映画)
【監督】
河崎実
【キャスト】
吉田照美、小池美波、唐橋ユミ、中村愛、なべやかん、タブレット純、HEY!たくちゃん、福本ヒデ、山本天心、川島ノリコ、水谷加奈、みうらじゅん、國本鐘建、秀島史香、月光仮面、熊谷真実、笑福亭鶴光、伊東四朗
【作品概要】
世間の不正をラジオに投稿、ひたすらデスる定年過ぎの主人公。彼は宇宙人から超能力を授かり、世の悪に挑みます。その珍騒動を描いた、特撮ヒーロー・コメディ映画。主人公を演じるのは、ラジオを中心にマルチに活躍するフリーアナウンサー・吉田輝美。その孫娘を欅坂46の小池美波が演じます。多くの登場人物が実名のまま、あるいはお馴染みのネタを引っさげて登場、ゆるく楽しい河崎実ワールドを織りなします。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『ロバマン』のあらすじとネタバレ
この映画のために作られた、“ロバマン”のテーマソングに乗って、新たなヒーローが「ウッホホホホイ」と、画面に雄姿を現します。
ラジオへ投稿ハガキを投函する男、吉村(吉田照美)。道を塞ぐ若者やタバコの吸い殻のポイ捨て男にも、そしてラーメン屋の列で自分の前に割り込まれ、お目当てのラーメンを食べそこなっても文句の言えない、気弱な人物でした。
妻(熊谷真実)にはロバ呼ばわりされ、軽んじられる彼の趣味はラジオ番組への投書。世間で見かける自分勝手な奴らをデスります。今日も“ロバマン”のペンネームで書いたハガキが読まれ、吉村は大喜びです。
ハガキの中では、けしからん若者に怒鳴りつけた事になっている吉村。こんな奴らはロバに蹴られろと罵り、ドンキー!との叫びで投書は終わります。その放送をカセットテープに録音、しっかり保存します。
気を良くして次の投書を書き始める吉村。定年退職後、うだつの上がらない日々を過ごす彼は、街で見かけた態度の悪い連中を、電波で糾弾する事を生きがいにしていました。“ロバマン”のペンネームは、彼の中学時代からのあだ名を拝借したものでした。
現れた孫娘の南(小池美波)を可愛がる吉村ですが、南は彼が渡してくれる小遣い目当てに訪ねてくる様子。不満が胸に沸くものの、改めてハガキに向かう吉村。
先日食べ損なったラーメンを今日こそは、と店に向かう吉村はフラフラ飛行するUFOを目撃します。ところが周囲の人には何も見えない様子。そしてUFOから発せられた怪光線に包まれた吉村は、その中へと取り込まれます。
UEO内にはロバそっくりな宇宙人がいました。化け物、と叫ぶ吉村に、仲間を化け物扱いするなと言う宇宙人。彼は顔の長い吉村を、自分と同じロバート星人だと思っているようです。
一緒に帰ろうという宇宙人に、ここには妻も娘も孫もいると拒否する吉村。宇宙人は彼を地球人に手を出した変態だと決めつけますが、ド田舎の惑星での1人暮らしで、疲れてしまった結果だと判断します。
口は悪いが面倒見のいいロバート星人は、仲間と信じる吉村に腕輪型の蘇生装置を与え、リフレッシュするよう言って、彼を元の場所に返します。我に返り今見たのは夢か、認知症の前兆かと頭をひねる吉村ですが、気を取り直しお目当てのラーメン屋へと向かいます。
ラーメン屋の行列に並んだ吉村。ところがまたも彼の前に男が割り込んできます。するとロバそっくりの宇宙人から渡された腕輪が反応します。何やら全身に力がみなぎって、思わずドンキー!と叫んだ吉村。
ロバのいななきと共に、胸に自身の年齢“68”と書かれたスーツを着た姿に変身した吉村。割り込み男に何者かと尋ねられ、思わず“ロバマン”だと答えます。殴りかかってきた男の拳を華麗にかわすと、周りの人がドン引きする、容赦ない鉄拳制裁を加えます。
頭のロバ耳アンテナで、世に潜む悪の波動をキャッチしたロバマン。ドンキー!と叫ぶと、やや前かがみの姿勢で高速移動、今まさに悪の行われている場所に駆け付けます。
タバコをポイ捨てする輩をタコ殴りにするロバマン。強い、絶対に強いロバマン。しかしロバマンが地球上で活躍できるのは68分間だ。と、この映画随所でナレーションを使用して、解説と応援を加えてくれる、実に観客に親切な作りになっています。
変身が解けた吉村は、自らの手で悪を成敗した、充実感に包まれて有頂天で帰宅します。慣れないスマホでツイッターを見ると、世間はロバマンの話題でもちきりでした。
調子にのった吉村は、ロバマンの姿となり神出鬼没で現れると、どこかの会社の絵に描いたようなパワハラ・セクハラ上司に、実力行使の制裁を加えます。
あんな顔の長いヒーローは藤田まこと以来だとか、インタビューに応じた世間の声は、ロバマンを応援するものばかり。みうらじゅんは関係があるのかないのか、良く判らないウンチクを語りロバマンにエールを送ります。
ロバマンがなぜか出没する北川町をレポーターが取材すると、ばっちりロバマンが登場、インタビューが行われます。ヒーローのお約束で自分の正体は明かしませんが、自分の目的はこの世の悪を撲滅する事と宣言すると、カメラの前から走り去るロバマン。
吉村が自宅に帰ると、孫娘の南がロバマンに関する話題をSNSで見ていました。顔まる出し姿のロバマンを見ても、正体が祖父だと南は気づきません。これも多分、宇宙人の科学力のおかげだと1人納得する吉村。
南から自己紹介動画の撮り方を教わった彼は、変身するとSNS上に自分は正義のヒーロー・ロバマンで、悪は絶対許さないと高らかに宣言します。
ロバマンを称える「ロバマンのうた」が流れます。ご丁寧にも1番、2番とフルバージョンで流れますから、これはもう人気絶頂であること、絶対に間違いありません。
映画『ロバマン』の感想と評価
令和の時代も“河崎実ワールド”は健在!
幼い頃から熱烈な「ウルトラマン」シリーズのファンであった河崎実監督。8㎜映画の自主製作を経てCMプロデューサーとなり、フリーとなった後の1987年『地球防衛少女イコちゃん』を発表、特撮愛とユルさに溢れる、独自の作品を続々生み出します。
90年代はテレビドラマ「世にも奇妙な物語」のエピソードを演出するなど多方面で活躍しますが、AV業界の風雲児、高橋がなりの設立したソフト・オン・デマンドで、テリー伊藤が企画した「全裸」シリーズを監督、作品はサブカル愛好家から広く注目を集めます。
参考映像:河崎実監督作品『いかレスラー』(2004)
パロディの域を超えたシュールな展開に、様々な著名人を登場させ物語に挿入する、大らかな構成のコメディである彼の作風は、2004年の映画『いかレスラー』で頂点に達し、“おバカ映画”というジャンルの確立を、広く世間に知らしめました。
以降も、モト冬樹主演の「ヅラ刑事」シリーズや『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』、2014年には壇蜜が主演した、「ウルトラシリーズ」のパロディでもある映画『地球防衛未亡人』を発表、“おバカ映画”の第一人者として、他の追随を許さぬ活躍を続けています。
一世を風靡した河崎監督作品を知らぬ若い方も増えた現在、映画『ロバマン』を紹介するにあたり、その歩みを簡単に紹介いたしました。
話題のドラマ「全裸監督」で注目を浴びた、村西とおるの様な個性ある人物たちが、映像や映画の製作・監督、そして配給宣伝などで活躍した時代がありました。そんな時代を生き残り、今も同じスタイルの映画を作り続けているのが河崎実監督です。
映画も撮影現場もゆるくて楽しい『ロバマン』
「未体験ゾーンの映画たち2020」での上映では舞台挨拶が行われ、撮影の舞台裏について様々な話が紹介されていました。『男はつらいよ』と同じく、柴又でロケされた『ロバマン』。葛飾観光大使を務める吉田照美さんは、確かにその務めを果たしています。
ロケに参加した中村愛さんは、現場に着いてから撮影は2~3分で終了した、と語ってくれました。そんな河崎監督の撮影手法を吉田照美さんは、「ドキュメンタリー的な撮り方」ともっともらしく表現しますが、要は一発でOK、NG無しの撮影という環境で作られました。
撮影したものを短く編集するのが通常の映画ですが、この映画では逆に「いかに尺を長くするか」が重要だったとの証言も。何かと妙に長いシーンが多い訳です。
そんな構成が許されるのも、ユニークな人物を多数キャスティングしたおかげ。その昔オールスター総出演で製作された、お祭り映画のようなユルい感覚が味わえます。
本作は出演者も監督も認める“おバカ映画”ですが、過去の河崎監督作品同様、時事ネタを取り入れ社会を風刺する姿勢は健在。劇中のロバマンの暴れっぷりは、関係者に知られちゃマズいとのジョークが、舞台挨拶で飛び出しました。
まとめ
劇中に登場するネタがどこまで理解できるかで、鑑賞者の年齢が正確に判定できる映画『ロバマン』。初めて河崎実監督ワールドを体験した方は、開いた口が塞がらなかったでしょう。この悪ノリがかつて“おバカ映画”と呼ばれ、世間の注目を集めたのです。
その言葉に、あるべき映画やドラマの体を成していないという、蔑視的な響きを感じた人がいた事も事実です。しかし令和の時代に河崎監督作品を見ると、意外な印象を受けます。
凝った演出を放棄し出演者のやり取りを撮影するだけの、コンプライアンス重視を理由に無難な内容に終始するTV番組。SNS上の断片的な映像がもてはやされる風潮。今ではむしろ『ロバマン』の方が、それらより作りこまれた作品との印象を受けました。
また他者を攻撃・中傷した発言や発信が注目を集める現代。河崎監督はそれをネタとして扱っても、常にユーモアをもって表現する余裕があります。“おバカ映画”のスタイルは変わらないのに、今や『ロバマン』にこそ、作家性と価値を見出せる時代となりました。
参考映像:『Return to Return to Nuke Em High aka Vol.2』予告編(2017)
クラウドファンディングを通じファンを巻き込み、劇中にも参加させた映画を作る河崎監督。「悪魔の毒々モンスター」シリーズを生んだトロマの、ロイド・カウフマン監督も現在、同様の手法で新作映画『Return to Return to Nuke Em High aka Vol.2(リターン・トゥ・悪魔の毒々ハイスクール Vol.2) 』を完成させました。
今や日米“おバカ映画”の巨匠は、同じ製作スタイルで、同様の悪ノリ映画(悪ノリの方向性は大きく異なります!)を作っているのです。
現在河崎実監督は、怪獣とグルメがコラボ(監修は「孤独のグルメ」原作者・久住昌之)、そして出演者に、あの村西とおる監督が名を連ねる新作映画、『三大怪獣グルメ』のプロジェクトを進めています(現在コミカライズ版が、WEBコミックガンマにて無料連載公開中)。
この作品も完成すれば洒落の効いた、ゆる~い河崎実ワールドを見せてくれるでしょう。こんな映画があってイイのでしょうか?映画にも多様性が許されるべきです、無論イイのです!
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第8回は伝説の勇者たちの激闘を描く映画『ブラック・ウォリアーズ オスマン帝国騎兵隊』を紹介いたします。
お楽しみに。