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Entry 2020/09/21
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原一男映画『れいわ一揆』感想評価と考察解説。ドキュメンタリー作品でありプロバガンダではない“令和の選挙戦を記録”|だからドキュメンタリー映画は面白い55

  • Writer :
  • 松平光冬

連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第55回

怒れる10人の個性的な候補者たちの、令和元年の熱き17日間

今回取り上げるのは、2020年9月11日(金)よりアップリンク渋谷ほか全国順次公開の映画『れいわ一揆』

『ゆきゆきて、神軍』(1987)、『ニッポン国VS泉南石綿村』(2017)など数々のドキュメンタリー映画を生んできた原一男監督が、令和元年夏の参議院選挙に挑んだ政党「れいわ新選組」に密着した、4時間8分の記録です。

【連載コラム】『だからドキュメンタリー映画は面白い』記事一覧はこちら

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映画『れいわ一揆』の作品情報

©風狂映画舎

【日本公開】
2020年(日本映画)

【監督・撮影】
原一男

【製作】
島野千尋

【撮影】
島野千尋、岸建太朗、堀井威久麿、長岡野亜、毛塚傑、中井献人、田中健太、古谷里美、津留崎麻子、宋倫、武田倫和、江里口暁子、金村詩恩

【編集】
デモ田中、小池美稀

【キャスト】
安冨歩、木村英子、辻村千尋、渡辺照子、三井義文、大西恒樹 、舩後靖彦、野原善正、蓮池透、山本太郎

【作品概要】
『ゆきゆきて、神軍』の原一男が、令和元年参院選で注目された「れいわ新選組」から出馬した安冨歩を中心に、10名の個性豊かな候補者に密着。

彼らの熱き17日間の記録を、4時間8分という長尺にあますことなく収めました。

2019年の第32回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門で特別上映され、当初は2020年4月に一般公開を予定していました。

しかし、新型コロナウイルス感染拡大や山本太郎代表の東京都知事選出馬などの影響を受け延期となり、2020年9月にようやく一般公開されました。

映画『れいわ一揆』のあらすじ

©風狂映画舎

東京大学東洋文化研究所教授・安冨歩は2013年以来、もっとも自然に生きる事ができるスタイルとして、女性服を着る“女性装”を実践していました。

令和元年、彼女は山本太郎代表率いる「れいわ新選組」から参議院選挙に出馬を決意。

「子どもを守り未来を守る」とのスローガンを掲げ、新橋SL広場、東京駅赤レンガ駅舎前、阿佐ヶ谷駅バスターミナルほか都内各地から、旭川、沖縄、京都まで、相棒の馬“ユーゴン”とともに全国遊説の旅に出ます。

本作は、安冨以外に出馬した9人の候補者にもカメラを向け、彼らの17日間の戦いに密着していきます。

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ドキュメンタリーの鬼才が捉えた令和元年の夏

©風狂映画舎

『ゆきゆきて、神軍』、『全身小説家』(1994)などの過激な作風のドキュメンタリーを次々と発表する監督、原一男。

そんな彼の令和初の作品『れいわ一揆』で取り上げたのは、まさに元号が変わった昨年夏に行われた参議院選挙です。

2018年、原がホストを務める動画サイト番組に、ゲストとして東松山市長選挙に出馬した直後の安冨歩を招いた際、そこで原が「もう一度選挙に出る気があるのなら、カメラを回させてほしい」と打診。

やがて、れいわから参院選出馬を決意した安冨が、番組での原とのやり取りを覚えていたことが、そのまま本作製作へとつながりました。

「『れいわ一揆』はれいわのプロバガンダ映画」という見解を原が強く否定しているのも、本作がれいわ主体ではなく、安冨個人を中心にして進められた作品だからです。

©風狂映画舎

短くて1年、長くて5年という期間にわたり被写体にカメラを向けてきた原ですが、本作は選挙という性質上、わずか17日間という短期間で撮られています。

これまでとは勝手が違う撮影日数に不安を覚えたという原が着目したのは、「言葉を撮る」こと。

当然ながら選挙活動とは、候補者が自身が掲げる政策を有権者に訴えて、投票を促すことにあります。

その政策を訴えるための最大の武器となる「言葉」を、漏らすことなく収めていくという手法を使ったのです。

ランニングタイムがこれまでで最長の4時間8分なのも、「撮ってみるといい言葉がたくさんある。だから最初つないだら9時間ぐらいになってしまった」(『キネマ旬報』2020年5月上・下旬合併号)のを、ギリギリまでカットしていった結果とのこと。

また、これまでの作品では、あえて被写体を挑発するような言葉を投げかけて、相手の生の感情を映すスタイルを取ってきた原でしたが、本作では聞き役に徹しているのも特徴。

これも、「言葉を撮る」という手法に基づいたものなのかもしれません。

選挙というキャンバス

©風狂映画舎

女性装の東大教授、ホームレス経験のあるシングルマザー、元コンビニオーナー、公明党に不信感を抱く創価学会員、弟を北朝鮮に拉致されていた兄、全身麻痺の身体障がい者…などなど、個性派が揃ったれいわの候補者たち。

そんな彼らを擁立した代表の山本太郎は、芸能界で培った巧みな話術と圧倒的なアジテーション能力で、街頭演説において周囲を掌握していきます。

一方で、元テレビ局アナウンサーや元女優といった、山本同様にメディアで活躍していたほかの政治団体の議員が街頭演説に臨む様も映りますが、彼女たちには野次や罵声が浴びせられます。

この対比描写は、正直、山本の存在を際立たせようという原の意図的な思惑を感じるものの、時の勢いを味方に付けたれいわの熱量は、確かに存在していました。

©風狂映画舎

消費税撤廃、原発廃止、生活弱者の保護など、怒れる10人のれいわ候補者たちは、各々が抱える不満を公約に変えて有権者にアピール。

政治理念の統一性が固まっていないながらも、必死に「言葉」を武器にする彼らもまた、山本太郎イズムの体現者といえます。

その中でも、やはり安冨の選挙活動は異彩を放ちます。

全国各地での遊説のパートナーとして、馬と打楽器やピアニカの演奏者を同伴させる安冨の政策は、「子どもを守る」。

このあまりにも抽象的すぎる公約とアトラクションのような遊説を行う様子からは、ほかの候補者よりも政治家になりたいという意欲が伝わってきません。

最大の武器となる「言葉」は、本職が教授ゆえにほかの候補者よりもはるかに立っているはずのに、通行人の関心を惹けない状態が続きます。

そればかりか、東京駅前や母校の京都大学前での遊説時には、警備員とトラブルを起こす始末。

劇中で安冨は、「選挙というキャンバスの上にアートを生み出す」と語ります。

東京都知事選を例に挙げても、政見放送でロックミュージシャンがジョン・レノンの「パワー・トゥー・ザ・ピープル」を熱唱すれば、ユーチューバーがアニメキャラクターのコスプレ姿で遊説する。

安冨の言葉は、自己表現の場と化した現代日本の選挙を表しているかのようです。

本作の製作開始前に、「映画を撮ってくれるなら立候補します」というメールを原に送っていたことからも、安冨自身、当初は本気で当選したいという欲がなかったのかもしれません。

しかし日を追うごとに、「子どもを守る」という政策が次第に明るみになるにつれ、通行人たちもの反応も変わっていく様子を、カメラは収めていきます。

「“立場”という抑圧された日本から、子どもたちを解放する」――アートの一環かもしれなかった選挙活動が、気が付けば芯の通った社会へのアンチテーゼになっている。

安冨のみならず、れいわの候補者たちは各々のやり方で、選挙というキャンバスに作品を描きます。

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選挙に隠されたクエスチョン

©風狂映画舎

本作を観ていて大きく引っかかるのは、れいわ代表の山本太郎に密着するシーンが皆無なことです。

製作のきっかけこそ安冨だったものの、やはり山本にカメラを向ける意味は十分あるはずなのに、不思議と彼へのインタビューは一切ありません。

これについて原は、本作を製作するにあたって山本と直接会っていないばかりか、インタビューを申し込んだにもかかわらず拒否されたことを明かしています。

山本が原との接触を拒んだ理由は山本本人にしか分かりませんが、そこには日本の選挙に存在する“クエスチョン”を感じてなりません。

それ以外にも、安冨の選挙活動を盗み撮りしようとする不可解な人物の存在など、至る部分でクエスチョンが見え隠れします。

『選挙』(2007)や『選挙に出たい』(2018)といったほかの選挙ドキュメンタリー映画でも、選挙活動における政治団体のグレーな部分が映し出されていました。

清廉潔白が求められつつもクエスチョンが混在する日本の選挙とドキュメンタリーの相性の良さを、本作からも感じさせます。

参考:『選挙に出たい』(2018)

れいわ候補者が挑んだ参院選の結果はすでに分かっていることですし、中にはすでに離党してしまった者もいます。

また、山本の都知事選の立候補や、彼らが打倒しようとしていた安倍政権も思わぬ形で終わりを告げるなど、本作の当初の公開予定だった4月以降、情勢は大きく様変わりしました。

新たに誕生した菅政権に、れいわがどう絡んでいくのか。

乗り掛かった舟として、原には“その後の『れいわ一揆』”も追ってもらいたいと思いますが、すでに次回作『水俣曼荼羅』(2021年公開予定)が完成しています。

日本の四大公害病の1つである水俣病がテーマのこの作品は、撮影に15年、編集に3年を擁し、ランニングタイムが6時間超え!という、『ニッポン国VS泉南石綿村』に続く国民VS国の記録となっています。

原一男、齢75にして、なおも現代日本に噛み続けます。

次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。

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