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Entry 2020/01/17
Update

笠松将映画『花と雨』ネタバレ感想とレビュー評価。“SEEDA”と“伝説的アルバム”二つの物語が新たな青春劇を生んだ

  • Writer :
  • 村松健太郎

映画『花と雨』は2020年1月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開!

HIPHOPアーティスト・SEEDAの伝説的アルバムから生み出された映画『花と雨』

本作が長編デビュー作となる土屋貴史監督の手によって、HIPHOPに傾倒し続ける若者の葛藤と悲しみ、青春の物語が完成しました。

映画『花と雨』の作品情報


(C)2019「花と雨」製作委員会

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
土屋貴史
【脚本】 
堀江貴大、土屋貴史

【原案・音楽プロデュース】
SEEDA・吉田里美

【キャスト】
笠松将、大西礼芳、岡本智礼、つみきみほ、高岡蒼佑、松尾貴史

【作品概要】
HIPHOPアーティスト・SEEDAのアルバム『花と雨』を原案に制作された“儚くも、激しく美しいリアルユースムービー”。監督を務めたのは、「Perfume」「水曜日のカンパネラ」「ゆず」など数々の人気アーティストのMV制作を手がけている土屋貴史。本作が自身初の長編監督作です。

そして主人公・吉田役を務めたのは、オーディションを経て主演の座を勝ち取った俳優・笠松将。居場所あるいは自己を求め彷徨う若者の姿を体現します。

映画『花と雨』のあらすじとネタバレ


(C)2019「花と雨」製作委員会

幼少期をロンドンで過ごした吉田は日本社会に馴染めず、高校でも浮いた存在になります。

からかったり、挑発してくる相手に喧嘩をすることもありますが、「自分のいる場所ではない」という感覚が常につきまとっていました。

学校から徐々に足が遠のく中で、ストリートでのフリースタイルバトルに飛び込みで参加し、初めて「自分の生きる場所を手にした」という感覚が芽生えます。

HIPHOPミュージックに傾倒していく吉田は音楽活動に没頭。その一方で大麻栽培・ドラッグディーラーとして裏の仕事に手を出してしまうなど、周囲との距離を作っていきます。

唯一彼を応援してくれるのは、同じく日本で孤独感を感じ、海外での活躍を目指している姉・麻里でしたが、彼女にも裏の仕事のことは言えずにいました。

リリック作りに励むものの、音楽活動の方ではなかなか芽が出ない吉田。出したCDも売れず、組んでいるパートナーとも仲たがいが続きます。一方で、ドラッグディーラーとしてはどんどん深みへとはまっていきます。

日本のHIPHOP界との間に距離を感じていた吉田は、HIPHOPアーティストとして日本国内で評価されることは半ば諦めていましたが、ある日、音楽会社の人間に出会ったことでデビューへの道が拓けます。

しかし、セールスを重視する音楽会社との共同作業は、それまでの音楽仲間と距離を置くということでもありました。

ある時、メジャーへの第一歩として挑んだラップバトルで、高校時代に揉め事を起こした相手と対決することになった吉田は敗北を喫します。その敗北をきっかけに、音楽会社の人間からも離れてゆき、音楽シーンでも居場所がなくなっていきます。

「日本のHIPHOPは終わっている」と言って譲らない吉田ですが、吉田の音楽性に疑問符を投げつける人間は増える一方でした。

そして家でふて寝をしていた時、吉田にとって唯一の応援者だった麻里にドラッグビジネスのことが発覚してしまいます。

「みんなやっていることだ」と言い訳をする吉田ですが、“みんなと違うこと”を目指していたはずの彼の言葉とは思えず、麻里もあきれるばかりです。

唯一上手くいっていたはずのドラッグビジネスにも綻びが出始め、吉田は逆にドラッグに溺れていきます。そして、売人仲間の黒人が警察に捕まったことで、吉田もまた逮捕されてしまいます。

以下、『花と雨』ネタバレ・結末の記載がございます。『花と雨』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2019「花と雨」製作委員会

逮捕された吉田は、拘置所で独り憑りつかれたようにリリックを綴り始めます。

その後釈放されたものの、帰る場所もないため吉田は仕方なく実家へと戻ります。

家の中にいるにも関わらず、顔を出さない麻里。吉田が部屋を覗いてみると、そこには浮かない顔をした彼女の姿がありました。

MBA(経営学修士)を取得して将来が拓けたはずの麻里。吉田は彼女から「自分ではどうしようもないこともある」と告げられます。

翌朝。薬物の過剰摂取によって麻里は救急搬送されます。心身を病み、不眠に悩んでいたことから処方薬を大量に飲んでしまった彼女は、そのまま助かりませんでした。

姉の死を契機に吉田は自身の過去を清算。新たな人生を歩もうとした時、かつての音楽仲間が顔を見せます。

姉の部屋で、リリックを書き連ねる吉田。そして「言いたいことをしっかりと言って終わりたい」と仲間たちに頭を下げ、アルバム制作に没頭していきます。

レコーディング費用を捻出するためにドラッグビジネスの上役のもとを訪れた吉田は、そこでリンチに遭ったうえ、大量のドラッグを売りさばくように命じられます。

海外の航空会社に勤めるCAとも取引して資金を捻出した吉田は、本格的なレコーディングスタジオで渾身のレコーディングに臨みます。

映画『花と雨』の感想と評価


(C)2019「花と雨」製作委員会

原案になったアルバム『花と雨』を手がけたHIPHOPアーティスト・SEEDAは本名を「吉田なおひと」といいます。それは本作の主人公・吉田と同じ名前であり、「ロンドンで幼少期を過ごしている」と生い立ちも共通しています。映画『花と雨』はSEEDAのアルバム『花と雨』に基づく物語であるのと同時に、彼の自伝的な物語でもあるのです。

また、“HIPHOPアーティストの自伝的映画”という点で言えば、エミネムの初主演映画『8mile』(2002)、ドクター・ドレー、アイス・キューブ、イージー・Eらが結成したN.W.Aの結成から解散、そしてイージー・Eの死までを描いた『ストレイト・アウタ・コンプトン』(1988)が共通する作品として挙げられます。特にドラッグビジネスにも関わっていく様は、『ストレイト・アウタ・コンプトン』に近いものを感じられます。

邦画においてHIPHOPを正面からとらえた映画は意外に少なく、特に“HIPHOPアーティストの自伝的映画”という点ではさらにその数を少ないでしょう。

SEEDAが原案のみならず音楽プロデュースにも携わったことで、本作は今までの邦画に無かった新たな地平を切り開く作品になるかもしれません

まとめ


(C)2019「花と雨」製作委員会

主演の笠松将は近年『響‐HIBIKI‐』『ラ』『デイアンドナイト』『KAIJI ファイナルゲーム』などで印象的な役どころを演じ、メジャー作品での活躍が顕著になってきたというタイミングの中で、本作の大役=主演を獲得しました。

第29回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に選出された本作は、土屋監督や原案のSEEDAが“北野武監督の『キッズ・リターン』のアップデート作品/フォロワー作品”を目指していた側面があり、焦燥感と自分の居場所探し、承認欲求に飢えた若者像を笠松将が熱演しています。

映画『花と雨』は2020年1月17日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国公開!




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