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Entry 2019/12/27
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【ハビエル・フェセル監督インタビュー】映画『だれもが愛しいチャンピオン』キャスト陣の“誠実さ”と“自由さ”が作品をもたらした

  • Writer :
  • Cinemarche編集部

映画『だれもが愛しいチャンピオン』は2019年12月27日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開!

人生に迷うプロバスケットチームのコーチが、知的障がい者によるバスケットチーム“アミーゴス”と出会い、練習と試合の中で選手たちと絆を育み、人生において大切なことを気づかされるヒューマンドラマ。

それが、ハビエル・フェセル監督による映画『だれもが愛しいチャンピオン』です。


(C)Cinemarche

スペイン国内で大ヒットを記録し、「スペインのアカデミー賞」と称されるゴヤ賞では作品賞を含む三冠を達成した本作。このたび2019年12月27日(金)からの日本での劇場公開を記念し、ハビエル・フェセル監督へのインタビューを行いました。

作品に込められた障がい者と健常者の関係性、本作の制作を通じて新たに気づかされた障がいを持つ人々の“誠実さ”、人生における“自由”など、貴重なお話を伺いました。

自分のために書かれた脚本


(C)Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefonica Audiovisual Digital SLU, RTVE

──はじめに、本作を制作された経緯を改めてお聞かせください。

ハビエル・フェセル監督(以下、ハビエル):本作『だれもが愛しいチャンピオン』は、自身が本格的には脚本に携わっていない初の監督作品です。そして、その脚本を初めて読んだ時、僕は“自分のために書かれた脚本”だと感じたんです。ダビド・マルケスによる脚本を読んだ瞬間から登場人物たちに強く惹きつけられ、直ちに制作に入りたいと考え、それから一年以内に撮影へ向けての準備を完了させました。

僕が脚本も手がけてきたこれまでの作品は、自身の想像力に基づいて物語を描いてきました。ですが本作については、自身の経験や思いが他者を通じて語られる。脚本を手がけたマルケスやキャストたちに自身の経験や思いを託すことで、本作の物語を綴っていったんです。そこが、これまでの作品と大きく異なる点です。

コミュニケーションが生み出す“逆転”


(C)Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefonica Audiovisual Digital SLU, RTVE

──本作は知的障がいを持つ者と持たない者、夫と妻など、様々な観点において“他者とのコミュニケーション”を描いた作品といえます。ハビエル監督ご自身はどのような思いに基づいて本作を構成されたのでしょうか?

ハビエル:僕にとって、本作の全体的なテーマは“異なる2つの世界の出会い”であり、その“出会い”の一つとして「知的障がいを持つ人間」と「知的障がいを持たない人間」が出会い、二つの世界は最後に“逆転”する。つまり、他者との“本当”のコミュニケーションが取れなくなっているのは「健常者」と呼ばれる人々であることを、本作で提示したかったんです。

例えばバスケットコーチのマルコは、試合の勝敗にこだわるあまりに度々感情的になってしまい、他者との間に良い関係性を育むことができない。「幸せになろう」と何かを欲するあまりに、かえって幸せから遠ざかってしまう。その中で、“自分自身がもともと持っているもの”によって幸せを見出している人々と出会い、「自分の方がおかしなことをしていたんだ」と知る。

何かを欲するがゆえに苦しんでいる人間が、「持っていない」と勝手に勘違いしていた人々との“出会い”によって、“自分自身がもともと持っているもの”に気づかされる様を描きたかったわけです。

そして結末では、観客もまたマルコと同様の体験をすることになります。歓喜するアミーゴズの選手たちの姿を目の当たりにすることで、自身の生き方における先入観、何より幸せについても再考してもらえると信じています。

キャストたちからの“贈り物”


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──本作の制作にあたって、実在する知的障がい者によるバスケットチーム“アミーゴズ”のメンバー10人のキャストには、600人もの参加者からオーディションで選出された実際に知的障がいを持つ人々が選ばれました。

ハビエル:オーディションを受けてくれた600人は、みんな本当に何も隠していないんです。自身の全てを臆すことなくさらけ出してくれました。またオーディション中に垣間見た様々な仕草、何よりもそのまなざしに多くの驚きを感じとりました。

600人の中からどの10人を選んだとしても、それぞれ全く違った物語が生まれたと感じています。ですから10人の組み合わせ次第では、本作も全く違う物語になったかもしれません。ですが、「この10人であれば、自身が映画を通じて描きたいユーモアと優しさ、そして“真実”を最大限に表現してもらえる」と直感し、現在の10人に出演してもらうことにしました。

──アミーゴズのメンバー10人のキャストが決まり、映画の制作が進められていった後にも、ハビエル監督のおっしゃる「驚き」はありましたか?

ハビエル:自分にとって“贈り物”とさえ感じられた出来事は、初めての脚本の読み合わせでした。みんなで本読みを進めながら笑い合えたのが、一番の瞬間でしたね。

その中でも、様々な驚きや発見がありました。例えばコジャンテス役グロリア・ラモスが、プロデューサーのガブリエル・アリアス・サルガドを見つめて「貴方をずっと見ているのは、貴方がハンサムだからよ」と言ったんです。ガブリエルは彼女の言葉に対し「どうもありがとう、君もきれいだよ」と答えたんですが、グロリアは照れることなく「気安く『君』と呼ばないで」とさらに返したんです。

僕はその会話を魅力的に感じ、キャストたちへの“当て書き”のために脚本を改稿した際に、同じようなやりとりを取り入れました。


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──一方で、バスの車内での場面は、知的障がいを持つ者と持たない者の関係性における現実、そしてその現実に対するハビエル監督の思いも描かれていました。

ハビエル:あの場面で描かれる出来事は、知的障がいを持つ子どもを育てている父親の一人から聞いた話であり、日常的に起こっていることなんです。

また、映画館でも同様の出来事が起こっています。本作がスペインで公開された際、障がいを持つ人々も大勢映画館に訪れてくださったんですが、ある時自閉症の男の子が、映画を観ている間もずっと体を動かしていたんです。すると、その隣に座っていた方が「静かにしなさい」「動かないで」と注意したんです。

男の子を注意したその方も「映画を楽しみたい」という思いからそうしたんだとは感じていますが、それはバスでの出来事と非常に似ており、現在の社会における現実でもあります。それらが日常に起こっていることを再認識してほしいからこそ、本作でもその現実を描いたんです。

互いが学び、豊かになれる社会へ


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──バスケットコーチのマルコはアミーゴズのメンバーたちと出会い、彼らの“仲間”、或いは“父親”のような存在となっていく中で、現在の社会のみならず、自分自身の現実を新たなまなざしから再認識していきます。

ハビエル:アミーゴズと出会う前のマルコの生活には全く“誠実さ”がなくて、周囲の人々も嘘をついたり、中には他者を裏切るような人間もいる。彼は結局、政治でもマスコミでも嘘が蔓延り、誠実さの欠片もない、うわべだけが見られるだけの社会を生きているわけです。

そのような社会で生きている人間が、驚くほど純粋に人生を楽しもうとする人々と出会えば、必ず変化が訪れるし“学び”を得られる。そして、マルコという一方だけではなく、お互いが学び合い、お互いが豊かになれる。その可能性を映画でも表現したかったんです。


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──本作では、2000年に開催されたシドニー・パラリンピックにおいて、男子バスケ・知的障がいの部で金メダルを獲得したスペイン代表チームが、12人のメンバーのうち10人もの「健常者」を出場させたという不正を行った事件にも触れています。

ハビエル:劇中の決勝戦の場面では、相手チームのメンバーとして、シドニー・パラリンピックの当時の出場メンバーが出演しています。

ですが、私があの場面で一番観客に伝えたいのは事件そのものではなく、どうしても技術的なレベルの違いが存在する中、例え「このボールをここでパスしたら、きっとミスをしてしまうだろう」と予感したとしても、チームのメンバーとして必ずボールをパスできるという、あらゆる境界を超えた信頼です。

生まれてから一度も嘘をついたことがない人間


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──「知的障がいを持たない人間」の一人として「知的障がいを持つ人間」のキャストたちと出会ったことで、ハビエル監督ご自身はどのような“学び”を得られましたか?

ハビエル:映画制作を通じてキャストたちと真剣に向き合った中で分かったのは、彼ら彼女らには全くの偏見がないということです。そしてその生き様を見つめ続け、自身のうちには偏見といえるものが少なからず存在していたことに気づけたことが、一番の“学び”だと感じています。

例えばパキート役のフラン・フエンテスは、他者の小さな仕草や微妙な変化を繊細に察知できるんですが、本作のスペイン国内でのヒットに伴い、ある土地の市長にご挨拶する機会があったんです。フランはその市長に対し、「この人はどう見ても、単にみんなと写真を撮るだけに来ている」と感じたそうです。それは僕自身も感じたんですが、それでも大抵の人間はその思いを隠し繕うはずです。ですがフランは、市長が握手を求めて手を差し出してきても、「こいつは好きじゃない」と言って握手を返さなかったんです。

またファビアン役のフリオ・フェルナンデスも、本作の公開時にスペイン王妃の妹とお会いした際、握手を求められても「自分は共和国派だから、どうしても応えられない」とそれを拒みました。

ですが、それは非常に正直であり、誠実な姿だと僕は捉えています。彼ら彼女らは確かに知的障がいを持っていますが、その分、心が500%以上働いているんだと感じています。


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──映画終盤、アミーゴズのメンバーを演じたキャストたちが立つ姿が改めて映し出されます。その自信に満ち溢れた佇まいからは、どのような名優でも演じることのできない“自立”を見出しました。

ハビエル:みな、自分のことを愛せているんです。

そして貴方がおっしゃる通り、どんな俳優であっても、彼ら彼女らを演じることはできない。「生まれてから一度もうそをついたことない人間」のまなざしを演じることは、誰にもできないんです。

自由な鳥


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──最後に、本作で印象的に描かれている「空を飛ぶ鳥」の意味を教えていただけないでしょうか?

ハビエル:あの鳥は改稿前の脚本でも描写されているんですが、要するに鳥は偏見を持ってないわけです。好きな所へ行くために、生きるために空を飛ぶわけです。その一方で、鳥が飛び立つことなく止まり続ける姿を通じて、「本当は好きな所へ飛んでゆけるのに、そこにい続ける」という、“自由”に関する選択も描きたいと考えていました。

10人のキャストたちは、知的障がいによる様々な行動の限界や制限が本当はあるはずなのに、とても“自由”に生きているんですよ。例えばセルヒオ役のセルヒオ・オルモスには実際に恋人がいるんですが、もし彼女も知的障がいを持っていたら、家族など周囲の人々からは交際や、その先に控える結婚も反対されていたかもしれません。それ以外にも、交際の中で様々な制限に直面し続けるでしょう。それでも彼は、ずっと“自由”なんです。

本作では、キャスト自身からも滲み出てくる“自由さ”と共に生きる人々と、本当は自由に動けるはずなのに、自分自身で“自由さ”を捨ててしまう人々と対比するように描きました。そして最後には、“自由さ”を捨ててしまっていたマルコも、それを見つけ出すわけです。

インタビュー/出町光識
撮影・構成/河合のび

ハビエル・フェセル監督のプロフィール

1964年生まれ、スペイン・マドリード出身。マドリード・コンプルテンセ大学でコミュニケーション学の学位を取得。著名なジャーナリストで、監督、脚本家でもあるギレルモ・フェセルを兄に持つ。

1990年代半ばにいくつかの短編を監督したのち、『ミラクル・ペティント』(1998)で長編デビュー。子供に恵まれない老夫婦と宇宙人の奇妙な交流を描いたこのSFコメディで、ゴヤ賞の新人監督賞にノミネートされた。またフランシスコ・イバニェスの人気コミックを実写映画化した長編第二作のスパイ・コメディ『モルタデロとフィレモン』(2003)では、ゴヤ賞の編集賞、美術賞など5部門を受賞している。

その後はゴヤ賞で作品賞、監督賞、オリジナル脚本賞など6部門に輝いた『カミーノ』(2008・ラテンビート映画祭)を発表。『モルタデロとフィレモン』のシリーズ三作目にあたる長編アニメ『Mortadelo y Filemón contra Jimmy el Cachondo』(2014)では、ゴヤ賞のアニメ映画賞、ガウディ賞の長編アニメ賞を受賞した。

映画『だれもが愛しいチャンピオン』の作品情報

【日本公開】
2019年12月27日(スペイン映画)

【原題】
Campeones

【監督】
ハビエル・フェセル

【脚本】
ダビド・マルケス、ハビエル・フェセル

【製作】
ガブリエル・アリアス・サルガド

【キャスト】
ハビエル・グティエレス、ホアン・マルガリョ、アテネア・マタ、セルヒオ・オルモス、フラン・フエンテス、ロベルト・チンチージャ、ホセ・デ・ルナ、ステファン・ロペス、フリオ・フェルナンデス、ヘスス・ビダル、ヘスス・ラゴ・ソリス、アルベルト・ニエト、グロリア・ラモス

【作品概要】
プロバスケットボールチームのコーチと知的障がい者のバスケットボールチーム“アミーゴス”との出会い、そしてトレーニングを通じて培われる絆を、コメディー要素タップリに描きます。

監督・共同脚本・編集を務めたのは、『ミラクル・ペティント』『モルタデロとフィレモン』を手がけたハビエル・フェセル。

また主人公でバスケットボールのコーチ・マルコ役は、『マーシュランド』『オリーブの樹は呼んでいる』のハビエル・グティエレス。そしてアミーゴスの選手たちを演じたのは、600人の参加者からオーディションで選ばれた、実際に障がいをもつ10人のキャストたち。ユーモアだけでなく障がい者の生活、そしてパラスポーツというジャンルに深く言及する内容となっています。

映画『だれもが愛しいチャンピオン』のあらすじ


(C)Rey de Babia AIE, Peliculas Pendelton SA, Morena Films SL, Telefonica Audiovisual Digital SLU, RTVE

プロバスケットボールチームのサブコーチを務めるマルコは負けず嫌い。ある日チームのゲーム中に、ヘッドコーチとお互いのコーチングをめぐって言い争いになり、相手を殴ってしまったあげくに飲酒運転事故を起こして逮捕されてしまいます。

チームを解雇され、裁判所からは90日の社会奉仕活動を命じられたマルコ。そしてその裁判所の命令で行き着いたのは、公共の体育館でした。

そこでマルコはこの体育館を本拠地とする知的障がい者のバスケットボールチーム・アミーゴスをコーチングすることに。

基礎的なトレーニングはおろか、会話すら満足にかみ合わない面々。途方に暮れるマルコでしたが、チームの責任者・フリオから彼らが普段は複雑な事情を抱えながらも仕事をこなし、自立した生活を送っていることを知らされます。

その話を聞いたマルコは、彼らへの見方を変え辛抱強くコーチングを続けます。そして途中からチームに合流した新メンバー、コジャンテスの荒くれファイトのかいもあり、チームは上昇ムードに乗り全国大会決勝に向かうことに。

その経過とともに、周囲がマルコを見る視線も変わっていきます。一方で、マルコは妻ソニアとの間に、ある一つの問題を抱えていたのでした…。

映画『だれもが愛しいチャンピオン』は2019年12月27日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開!



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