連載コラム 海外ドラマ絞りたて 『アンビリーバブル たった1つの真実』第10回
本コラムは、たくさんあるドラマの中で、何を見ようか迷っている読者に参考にして頂こうと企画されました。
今回は、Netflixドラマ『アンビリーバブル』をご紹介します。実際に起きた事件、捜査した刑事、そして実害を受けた被害者を描いたクライムスリラー。本作は2020年度ゴールデングローブ賞のリミテッド・シリーズ/映画作品賞にノミネートされています。
アメリカの非営利・調査報道機関『マーシャル・プロジェクト』と『プロパブリカ』のジャーナリストが偶然同時に事件を取材しており、共同で報道した記事を基にしています。
後にピューリッツァー賞を受賞したこの記事を脚本化したのは、『ポカハンタス』(1995)や『エリン・ブロコビッチ』(2000)の脚本も書いたスザンナ・グラントで、本作の監督と製作も兼務。
全8話のミニシリーズから1話~3話のあらすじをネタバレで掲載し、撮影秘話も含め見所をお伝えします。
CONTENTS
ドラマ『アンビリーバブル』第1話あらすじとネタバレ
ワシントン州、リンウッド。社会福祉プログラムの一環で運営されるアパートに独り暮らしするマリー・アドラーは18才。
早朝、彼女から連絡を受けた元養母・ジュディスは、顔色を失い動揺するマリーと一緒に、警察官を待っていました。
駆け付けた制服警官から何が起きたのか訊かれたマリーは、強姦されたと答えます。
覚えていることを話すよう促されるマリー。夜遅くに友人・コナーから電話を受けたマリーは、数時間話してから就寝。
警察がコナーとの関係性を尋ねると、ジュディスが元ボーイフレンドだと代わりに返答。ふと人の気配に目覚めたマリーは、ベッドの側に見知らぬ男が立っているのを発見。
男は、叫べば殺すと脅迫し、マリーの靴ひもを使って彼女の両手を後ろ手に拘束、そしてバックパックから出した布でマリーを目隠しして強姦。警察官は冷静にメモを取りながら、男性は自分の性器でマリーを強姦したのか尋ねます。
目をぎゅっと閉じた後、マリーはそうだと返答。男はマリーのお腹の上に何かを乗せて写真撮影。
目隠しをされているのに、なぜ写真を撮られたと分かるのか質問されたマリーは、フラッシュが焚かれ、口外すれば写真を投稿すると脅迫されたことを説明。
警察官は男が他に何か言ったか質問。想像していたより良くなかったと言ったことをマリーは話します。
マスクを被っていた犯人の特徴はよく分からないと答えるマリーに、警察官は、おおよその身長と人種を質問。
長身の白人。目の色を訊かれたマリーは、茶色ではない明るい色で、グレーのスエットを着用していたと補足。
そこへ2人の刑事パーカーとプルイットが到着。警察官は、マリーがかなりショックを受けていると刑事達に申し送ります。
捜査を担当すると自己紹介したパーカーは、何が起きたのか聞かせて欲しいと言います。
マリーは、もう話したと憤慨。しかし、パーカーは、事件を指揮するのは自分なので、直接マリーから聞く必要があると主張します。
再び事件が頭に蘇るマリー。男の声、突きつけられたナイフ、後ろ手に縛られた自分。
途中で遮ったパーカーは、目隠しとコンドームは犯人が背負ったバックパックで持参し、靴ひもとナイフはマリーの所持品かと確認します。
後で警察署へ出頭した際にまた質問するが、病院へ行って診察を受けるようパーカーは指示します。
病院へ到着したマリーが言われた通り脱いだ下着を渡すと、看護師は証拠と印刷された袋へ入れます。
全身の写真撮影、尿、口の中から綿棒でDNAを採取、そして採血。全ての工程を忍耐強くこなす少女に、看護師は何が起きたのか話すよう指示。
「また?もう警察へ話しました。2人別々に」「申し訳ないけど、記録の為に必要なので」うつむいて目を閉じたマリーの脳裏に強姦された時間が再生されます。
一方、マリーのアパートでは現場検証が行われ、こじ開けて侵入した形跡が無いことが分かり、上階に住むマリーは窓を開けて就寝したのだろうと結論づけられます。
ベッドのシーツから体液の染みを検出し床から抜けた毛を数本収集。指紋の一部分が発見されたものの、指紋識別システムで照合するには不足していると鑑識が説明。
マリーは子供を迎えに学校へ行く時間だとジュディスを気遣います。養母は、時計を見て後で連絡すると言い、マリーを置いたまま病院を出て行きます。
更に診察が続き、麺棒で直腸と膣からDMAを採取。過去72時間以内に、他の男性と同意の下で性行為があったか質問されたマリーは、首を横に振りじっと我慢。
性感染症に罹っている可能性を考慮し抗生物質を渡され、出血などの症状が出た場合、そして自殺を考えるようなことがあれば、指示書に従って記載された電話番号へかけるよう、看護師は事務的に説明。
全て終了した後、疲弊するマリーは刑事から言われた通り警察署へ。パーカーから様子を訊かれ、マリーはひどい頭痛を訴えます。
なるべく早く済ませると前置きしたパーカーは、もう一度最初から事件当夜のことを話すよう言います。
「もう全部話しました」
「辛いとは思うが、被害者は事件のことを話すにつれて詳細を思い出すものなんだ。特に重要なことをね」「犯人を捕まえて他の女性が被害にあわないよう協力して欲しい」理解して頷いたマリーは、再び話し始めます。
訛り等の声の特徴を訊かれたマリーは、普通の声だったと返答。パーカーはメモを取りながら、犯人が着ていたのはスエットなのかパーカーだったのか質問します。
「パーカー」強姦の詳細を尋ねられ、犯人に暴行された時に目隠しの隙間から見えた自分の写真が蘇ります。
必死に耐える為、海で撮った写真を見ながら、マリーは、海へ行った日のことを思い出していたのでした。
男が窓から出て行った後、顔をベッドにこすりつけて猿ぐつわを外し、鋏で縛られた紐を切ったマリーは、ジュディスに連絡した後、隣人のアメリアへ電話。
なぜアメリアへ電話したのかと質問されたマリーは、友人だからと返答。病院が行った検査にパーカーがアクセスする許可同意書に加え、今話したことを全て書くよう用紙を渡されます。
「また?」狐につままれるような気分のマリー。気分が悪く家に持ち帰って書くとマリーは返答。
ドラマ『アンビリーバブル』第2話あらすじとネタバレ
追い詰められたマリーは、橋から投身自殺をしようとして思い止まります。助けを求められたアメリアはマリーを迎えに来ますが、次は自力で家に戻れと冷たく突き放します。
2011年、コロラド州、ゴールデン。カレン・デュバルは、2人の幼い娘を持つ母親でありゴールデン署の刑事。
事件の一報を受け現場へ急行。アパートへ押し入った侵入者にレイプされた22才の女性アンバー・スティーブンソンに、デュバルは気を配りながら質問します。
コンピューター科学を専攻するアンバーは、シカゴから大学進学の為にコロラドへ移り独り暮らし。
シカゴから訪問していたボーイフレンドのエリックが帰った後に起きたと、アンバーは冷静に話します。
他言すれば殺すと脅されたにも拘らず、アンバーは警察に通報したのでした。デュバルは、鮮明に記憶していた詳細が役に立つと感謝を述べます。
犯人はアンバーにシャワーを浴びるよう命じ洗顔もさせていましたが、デュバルは念のためにアンバーの顔からDNA採取をしたいと頼みます。
許可を得たデュバルは、麺棒でアンバーの顔からDNAを採取。手袋をしていた犯人が触れた場所を指摘するようデュバルはアンバーに頼みます。
病院へ同行したデュバルは、体の隅々まで診察されるが、訓練を積んだ看護師は敬意を持つきちんとした人達だとアンバーに説明。
犯人はこれが初めてのレイプだと言ったが、前にもやったと思うとアンバーは自分の確信をデュバルに伝えます。
ドラマ『アンビリーバブル』第3話あらすじとネタバレ
ウェストミンスター署へ連行した男性には事件当夜アリバイがあることが判明します。
3人の姉妹を持つ男性に、ラスムッセンは、もし男性の姉妹の誰かが不可逆的被害を及ぼすレイプにあえば、警察に全力をあげて欲しいと望むはずだと自分の立場を説明。
翌日、ウェストミンスター署を訪れたデュバルは、ラスムッセンにゴールデン署管轄で起きたレイプ事件について話します。
ラスムッセンは、引っ越して来たばかりだの50代女性・サラを犯人が3時間レイプしシャワーを浴びさせたと説明し、現場から半径3キロ圏内を徹底的に捜査したが何も出なかったと続けます。
目撃証言で得た不審者の裏を調査したラスムッセンは、「ろくでなしも居たけど、あたしが探しているろくでなしじゃなかった」と一言。
1ヶ月前に被害に遭った女性は、犯人がピンク色のソニーのデジカメを盗んで行ったと証言。アンバーをレイプした犯人がピンク色のデジカメで自分を撮影したと聞いていたデュバルは、ラスムッセンにそのことを話します。
2人の刑事は情報共有することを決定。ラスムッセンがデジカメを売り買いしていないか質屋をしらみつぶしに回る一方、デュバルは、犯罪被害者給付制度を説明する為にアンバーを訪問。
シカゴからリックが駆けつけており、事件から7日以内に掴まらない暴行犯の検挙率は大幅に低下するのは本当かと質問されます。
統計的には正しいが事件によると言い掛けるデュバルですが、あと5日しか残されていないのにここで何をしているんだと責められます。
署へ戻ったデュバルは鑑識の結果を求めますが、まだ届いていないと返答した部下が確認連絡も入れていないことに対し、デュバルは立腹。
犯人がまた事件を起こすかもしれないという緊張感さえ欠落していると部下を叱責するデュバルは、一生体内に銃弾を抱えるように決して乗り越えられない傷を負うのがレイプだと非難。
常に100パーセントの努力を捧げられないなら、他のチームへ移動しろと言うデュバルの厳しい言葉に、捜査官達は身を引き締めます。
ラスムッセンのファイルを見ていた分析官のミアは、ウェストミンスター署の徹底した捜査に感服。
それを聞いたデュバルは、自分がまだ新米時代に麻薬捜査官だったラスムッセンと一度仕事をしたことがあるとミアに話します。
『アンビリーバブル』第1話から3話の見どころ
被害者の実体験が伝わる描写
強姦に遭った被害者は警察に届けることを躊躇すると言われています。
それは、アメリカでも同じで、性的暴力における米国最大規模のネットワークRAINNによれば、被害に遭った女性の内(女子大学生は20%)30%しか警察に届けないと報告。
劇中で描かれる最初の被害者マリーは、通報に駆け付けた警察官、刑事、更に検査を受けた先のクリニックでも事務処理を理由に、繰り返し事件の詳細を話さなければならない様子が克明に描かれています。
筆舌不可能な肉体的且つ精神的ダメージを受けた被害者が何度も追体験させられてしまい、被ったトラウマがより強固な記憶として残ってしまうことが見る側に伝わります。
また、犯罪が起きた後に取る被害者の反応は人それぞれ違いがある一方、女性達は皆時間が経過しても恐怖から逃れられず、言うに言えない苦しみと無念さに抗えない様子を圧倒的なリアリティで描写。
報道を見聞きするだけでは知りえないという観点からも、被害者の立場に対する理解を深める意義のあるドラマだと言えます。
それにしても、マリーに対応したワシントン州リンウッド警察の対応は驚天動地。
事件を取材しプロパブリカと共同出版したマーシャル・プロジェクトのケン・アームストロング氏はアメリカPBSの報道番組に出演し、当時18才だった被害者のマリーさんが犯罪者の様に尋問されたと明言しています。
“あの最初に警察が捜査していれば、軍の記録で身元が割れて早い段階から容疑者になっていただろう”と連続強姦犯自身が語っていることも併せて記事の中で伝えています。
アームストロング氏は本作の製作者に名前を連ねており、「取り調べ自体がトラウマになってしまう様子をきちんと捉えている」とコメントし、クリエイターであり脚本を執筆したスザンナ・グラントへ賛辞を送りました。
そして、アームストロング氏に再びインタビューを受けたマリーさんご本人はドラマに感謝していると述べ、リンウッド警察署での刑事による事情聴取の場面は、「完璧」だと感想を伝えたそうです。
「今は何とかやっています。残りの人生を台無しにしたくなかったんです。犯人にそんな満足感は与えたくなかった。」そうマリーさんは、近況を話しています。
ラスムッセン&デュバル刑事
最初に登場するのがコロラド州ゴールデン警察署のデュバル刑事。被害に遭ったばかりの女子大生・アンバーへ見せる配慮はプロフェッショナルを窺わせます。
当然身構える気持ちでいるであろうアンバーへ近すぎず且つ遠ざけない絶妙な距離感を取り、質問やDNAの採取も「もし貴女が良ければ」と言葉を添え相手の承諾を得てから行っています。
柔らかい物腰でソフトな声で話すデュバルですが、酔った女性に性行為を強要した大学生を参考人として呼び出した際、同意の上だといけしゃあしゃあとしらばっくれる大学生に対し、氷のように冷たい視線で睨みつけます。
どんな細かいことも見逃さず、何十時間もかけて付近の監視カメラが捕らえた車両1台1台のメモに取る姿は、デュバルの必ず捕まえるという覚悟と不屈の精神を描写。
デュバル刑事の静かな怒りを見事に表現したのは、テレビドラマ『ナース・ジャッキー』でエミー賞助演女優賞を受賞し、『マリッジ・ストーリー』(2019)にも出演したメレット・ウェーバー。
そして、人に媚びへつらわず男勝りのラスムッセン刑事は、デュバル刑事が尊敬する相手であり、麻薬の潜入捜査をした経験も持ち徹底した捜査を行います。
容疑者を特定するまでは一喜一憂せず冷静である一方、怪しいと目を付けた相手のデーターを夫に無理やり手に入れるよう何度も頼む姿は、刑事の執念を感じさせます。
そのラスムッセン刑事を演じたのはトニー・コレット。ウェーバーが一緒に共演できて嬉しかったと話す『シックス・センス』(1999)の演技でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた実力派俳優。
ウェーバーとコレットは、ドラマに出演するにあたり、実際に起きた事件の実在の刑事を演じる以上、責任と義務感を持って臨んだとインタビューで話しています。
ケイトリン・ディーヴァー
本作は、ケイトリン・ディーヴァー演じるマリー・アドラーが大変重要な位置を占めています。
レイプだけではなく、警察の不適切な対応という2重の被害を被ったマリーさんご本人は、幼い頃から虐待を受けたサバイバーでもあるのです。
劇中でも触れている通り、食べ物を与えてもらえず、ドッグフードを食べざるを得ない過去を乗り越えた18才の少女は、寝ているところを突然襲撃されます。
嘘をついたと供述するよう警察に強要されたあげく偽証罪で訴えられた彼女は、その後ワシントン州から遠く離れた2人の刑事が犯人を逮捕するまでの3年近く、たった1人で過ごしています。
本作の脚本を読み、背景を知ったディーヴァーは、「胸がつぶれるような思いがした。マリーの為にやろうと心に決めたんです」とインタビューで明かしています。
メソッドアクターではないと話すディーヴァーですが、撮影期間中ずっと役のままで過ごし、きちんと伝えなければという思いしかなかったと告白。
マリーが重要な登場人物である理由は、ディーヴァーの迫真の演技が犯罪被害者に対するより深い理解と共感を呼ぶからです。
思春期の18才が食べる為に働き、自立し、周囲の誰からも理解されないまま必死に踏ん張り日々を生き延びていく姿を、ディーヴァーは痛々しいほどの説得力で表現しました。
スザンナ・グラント率いる『アンビリーバブル』の製作者達は、このドラマを通し事件の周知と被害者への理解を深めることを目的とし、凶悪犯(本名マーク・オリアリー)を追い詰めていく過程を物語化。
2011年12月、裁判官は、18才から65才の女性を次々襲った被告を断罪し最高刑である仮釈放無しの327.5年を言い渡しました。
本作の終盤、マリーがデュバル刑事へ電話をかける場面。実際に、マリーさんご本人がありがとうと伝える為に電話をしたエピソードを描いています。
まとめ
ある明け方、マリー・アドラーは就寝中に侵入してきた男に強姦されます。しかし、マリーは何度も被害の詳細を話すよう要求されて疲弊。更に、養母の疑念を聞いた警察はマリーを尋問し、強姦が作り話だと供述の変更を強要。
一方、捕まらないことに味を占めた犯人は、同じ手口で犯罪を繰り返しエスカレートしていきます。
デュバル刑事とラスムッセン刑事は、それぞれの地域で起きる強姦事件の類似点に気づき管轄の壁を越えて合同捜査を新たな実行し、地を這うような執念で犯人を追い詰めていきます。
ドラマ『アンビリーバブル』は、事件を取材したジャーナリストを含め社会認識を高めたいと願う多くの人が結集し製作した力作です。