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Entry 2019/12/28
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グーシャオガン映画『春江水暖』あらすじと感想レビュー。中国の伝統的な文人の視点である「絵巻物」をもって世界や物語を組み立てる|フィルメックス2019の映画たち2

  • Writer :
  • 桂伸也

第20回東京フィルメックス「コンペティション」審査員特別賞『春江水暖』

2019年にて記念すべき20回目を迎える東京フィルメックス。令和初となる本映画祭が開催されました。そのコンペティションで審査員特別賞を受賞した作品が、グー・シャオガン監督の中国映画『春江水暖』

本作はカンヌ映画祭批評家週間のクロージングを飾り、西寧のFIRST映画祭で最優秀作品賞を獲得しました。

また上映終了後には作品を手掛けたグー・シャオガン監督が登壇し、観客からの質問に応じて作品にまつわる思いなどを語ってくれました。

【連載コラム】『フィルメックス2019の映画たち』記事一覧はこちら

映画『春江水暖』の作品情報

【上映】
2019年(中国映画)

【英題】
Dwelling in the Fuchun Mountains

【監督】
グー・シャオガン

【作品概要】

杭州・富陽の美しい自然を背景に、一つの家族の変遷を悠然と描いたグー・シャオガンの監督デビュー作。非常に長尺の長回しの中で、絵巻物を鑑賞しているかのような横移動のカメラワークなど、斬新な画角で杭州・富陽の景色を印象深い映像として映し出しています。

グー・シャオガン監督のプロフィール


(C)Cinemarche

中国、浙江省杭州市の富陽出身。大学で衣装デザインとマーケティングを学んだ後にドキュメンタリー、さらに劇映画に関心を持ち始めてこの業界の門扉を叩きました。本作が長編第一作となります。

映画『春江水暖』のあらすじ

大家族の家長の誕生日を祝うパーティーから幕を開け、その4人の息子たちも父を祝うためにこの場に訪れるのですが、4人の間には軋轢があり、特に借金を抱えた三男はその後も家族の重荷となっていきます。

また、結婚適齢期を迎えた長男の娘グーシーは、同僚のジャン先生と恋仲にありましたが、身分の違いにより長男夫婦は、その結婚話を渋っており、いつしかグーシーはこの町を出ていくことを考え始めていました。

さらに漁師として船上生活を送る二男夫婦、三男の息子は知的障害を抱え、長男、は未だ結婚できない四男にやきもきするなどさまざまな事情を抱える家族。その一方、4人の母は痴ほう症を患い、長男夫婦と同居することに。

そして家族は、近代の富陽の発展に合わせたかのように、四季の移ろいとともに、大きな変化の波に巻き込まれていくのですが…。

映画『春江水暖』の感想と評価

グー・シャオガン監督の初長編作品『春江水暖』は、2時間30分という非常に長尺の作品でありますが、ゆったりした時の流れの中に描かれている映像で多くの情報を含みながら、新しい表現を見せるものとなっています。

グー監督は、自身の故郷である富陽の目まぐるしく移り変わる姿を映像記録することに主眼としており、一見ドラマ的な要素があるものの、その核にはドキュメンタリー視点が多く、その効果もあって物語を非常に味わい深いものとしています。

雄大な春江の風景、そして交差する一つの家族の様々な姿。改めて人が土地に住むということ、土地と深くかかわりあうということを考えさせてくれます。

物語は家族の様々な出来事を映し出しますが、シーンによっては超長回しのシークエンスなど、なかなかに斬新な画を披露しています。Q&Aでグー監督が言われていますが、まさに絵巻物に描かれた1シーンというイメージがピッタリです。一方で深くその画に思いを凝らせば「どうやって撮影したんだろう?」と、撮影手法にも興味が惹かれるものになっています。

映画に登場する役者が全て素人であり、ある程度引きの画で映し出すことで、一つ一つの動作、演技に深いリアリティーを感じさせるものになっており、その構図などからは近年のドラマのように強い共感のカヤルシスを呼び起こすというよりは、すこし距離を置いて客観的な視点を描いてます。このような描き方もグー監督のユニークさでもあります。

絵巻物のような作風に生きるとある人々のそれぞれの人生を描いたシンプルな映像は、一つ一つに深く注意を凝らして見れば、新しい表現を追究したものであると、観客は感じることができるでしょう。

上映後のグー・シャオガン監督 Q&A

2日の上演時にはグー・シャオガン監督が登壇、舞台挨拶をおこなうとともに、会場に訪れた観衆からのQ&Aに応じました。


(C)Cinemarche

──登場人物が非常に個性的でありますが、キャスティングはどのような点を重視しおこなわれたのかをお聞かせいただけますか。

グー・シャオガン(以下、グー):この映画の出演者は、基本的に僕の親せきを起用しました。

四兄弟の一番上の叔父さんと叔母さんは、私の本当の叔父さんと叔母さんです。三番目と四番目のお二人は、僕の父の弟、つまりこちらも叔父に頼みました。そして二番目のキャラクターについては、実際にうちに魚を届けてくれていた漁師の人に出演してもらいました。脚本は彼らに対して当て書で描いており、その後に実際にその人たちを呼んで撮影に参加してもらいました。

実際の人物を使って撮影したというのは二つの理由があります。一つは自分の親せきや知り合いを使うことで制作費を節約できるということ(笑)。二つ目はやはり、この映画は時代の風景を切り取ること、そしてこの地の人たちの雰囲気を伝えることがとても重要だと思いました。春江のスズキが最初のシーンに出てくるかのように、とてもリアルなものを描きたいと思ったからです。

──初監督ということで、影響を受けた映画監督とか好きな映画監督、あるいは映画以外にどういう影響を受けたのか、あともう一つ、サウンドトラックのアンビエントミュージックはどなたが作られたのかを教えてください。

グー:まずこの映画の前提としては、今完成した映画のような物語を撮りたいと最初から考えていたんです。そしていかにそのストーリーを通して、現代の街の変化を描くかということを合わせて考えていました。

そこでヒントになったのが、富春山居図という絵巻物。この富春山居図は中国の伝統的な絵巻なんですが、映画を絵巻物ののように書けばいいのではないかということを思いついたんです。

影響を受けた監督や映画ですが、台湾ニューシネマの代表的な監督であるホウ・シャオシェン監督とエドワード・ヤン監督です。ホウ監督の作品や個性は、例えば詩や散文のようであったり、中国の伝統的な文人の視点をもって世界や物語を組み立てていくものであると考えています。私はそういった文人的な視点と絵画を融合した映画を撮りたいと思っていました。

音楽に関してですが、ドウ・ウェイという中国の音楽家に協力していただきました。彼は中国のロックスターでありますが、最近はニューオーケストラというか、芸術的に何か突破したような作品に変化してきています。

最近の彼の作風というのは、まるで西洋のオーケストラのように第一幕、第二幕、第三幕ととても抽象化されてきており、長い作品では一曲40分であったり、もしくは上下2枚のアルバムに分かれて60分ずつの作品となっていたりします。

彼の音楽はとても主張性があり、音楽の伝統的な古典文学、文化と、現代の文化を融合しているように感じられています。形式的ではないスタイルであり、とても国際的な視野があったり、現代的な要素も含まれています。

同じように中国の伝統的な文化をいかに現代に持ってくるかが、僕たちの映画のとても目指したいところであり、この映画は撮影に丸2年かかっていたのですが、一番難しかったのは、古典をいかに現代に持ってくるかということでした。

それに関してのドウの音楽は非常に大きな示唆を与えてくれています。彼の音楽はとても自然で軽やかに古典と現代を融合していて、それにはとても影響されました。


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──この作品は2時間30分と非常に長尺でありますが、なぜこの時間になったのでしょうか?またエンディングに最後に「第一部 完」となっていましたが、第二部は作られるのでしょうか?

グー:まず元の脚本は5時間あったんです。それは春夏秋冬という四季の姿をすべて描こうと思ったことからそういう方向となっていました。しかしもともと資金の問題があり、一年目ですべてを撮り切れず資金難に陥りました。

その後2年目にようやく制作会社と宣伝会社も付いたんですが、会社からは「3時間以内の作品にしてくれ」というリクエストがありました。それは中国の市場が、回転率が悪くなるという理由からやはり長過ぎる映画は上映できないという実情があったからです。

それに対して、結果的に2時間半の映画にまとめることができました。もともとの映画は5時間から縮めて3時間としていましたが、もう少しわき役だったり、他のストーリーが撮り混ざっているもので、最終的に2時間半の映画としました。第二部、第三部という続編に関しては、必ず撮りたいと思っています。今すぐにでも(笑)。

この構想は最初からあったわけではなく、この第一部をとっている最中に考え出されたものです。この映画を撮るということは、美学の探求でもあるわけで、僕と僕のチーム、スタッフたちは最初からこういう映画にしようと考えたわけではなく、撮りながらいろいろ変化していきました。

それは内容的にもそうですし、僕たちの映画芸術に対する考えも変わっていきました。僕としては自分とこの映画スタッフのチームと一緒に、この後もいっしょに続けていきたいと考えており、自分たちの映画と芸術についての探求も続けていきたいと思っています。なのでもっと自分たちがプロフェッショナルとしてやっていきたいということも踏まえ、引き続き第二部、第三部と新しい作品作りに取り掛かっていきたいと思っています。

この映画では富春江の川の水が東シナ海に流れ込む、という内容の詩を入れたんですが、それは南宋の時代を蜂起させるようなものでもあります。また南宋というとやっぱりもっとも最も有名なのが、清明上河図というとても長い歴史的な絵巻物です。

僕たちはこの映画のことを、映画作品でなく、一枚の絵、絵巻物のように考えています。なのでこれが例えば十年で一つのシリーズというか、一つの作品を実現させるというような構想が今出ていますし、その十年を通して杭州の時代の変化、街の変化を描いていきたいと思います。

そして1巻、2巻、3巻、その後続く作品がまるで南宋時代の清明上河図のように一つの長い絵巻物として見られるようになったらいいなと思います。それはもしかしたら10年後、20年後、そして50年後に過去の人から見ればとても価値があるものになるのではないかと思いますし、また未来の人が見たらとても面白い、何か時代を記録したものになるのではないかと考えています。


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第32回東京国際映画祭「審査委員特別賞」受賞コメント


撮影:吉田(白畑)留美

グー・シャオガン:スケジュールの都合で、会場で賞を受け取れなくてごめんなさい。審査員の皆さんが、この作品に賞を与えてくれると知ったときは、とても光栄でうれしく思いました。

まずは、出資会社に感謝を申し上げます。この映画のエグゼクティブ・プロデューサーのリー・ジャーさん、プロデューサーのホアン・シューホンさん、そしてすべての制作チーム、そして私の家族に感謝します。

それと、この映画をサポートしてくれたすべての人に感謝します。

撮影スタッフの一人ひとりには、とびきりの感謝を伝えたいです。春夏秋冬の季節を一緒に歩んでくれてありがとう。私たちは力を合わせて、この映画を完成させました。みんながいなかったらこの映画も存在しなかったでしょう。だから、本当にみんなに感謝します。

僭越ですが、私がスタッフと映画を代表して、東京フィルメックスの審査員の皆さま方に感謝を申し上げます。私たちの映画を激励し、認めてくれてありがとうございます。最後に、市山さんにも感謝します。この映画を日本に連れてきてくれて、ありがとうございます。

まとめ


(C)Cinemarche

写真で見るとお分かりかと思いますがグー・シャオガン監督は非常にお若い方で、この作品のように深い世界観を構築された方として見るとまた興味深いものであります。

また中国でロック・スタートして知られるドウ・ウェイが音楽を担当していることもまたユニークであります。サウンドはあくまでギラ付いたものではなく自然なテイストで物語のアウトラインを描いており、なにかを主張するまでもなくこの物語の一部を担っているという印象を強く感じられます。

決して特殊な技法がどこかにあるという作品ではありませんが、Q&Aで語られた「絵巻物」というキーワードから連想させるような、新たな映画の見せ方を提唱しているようでもあります。

【連載コラム】『フィルメックス2019の映画たち』記事一覧はこちら

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