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Entry 2021/08/27
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映画『透明花火』あらすじ感想と評価解説。野本梢監督が描く“不器用な人々”の群像劇と花火大会|インディーズ映画発見伝18

  • Writer :
  • 菅浪瑛子

連載コラム「インディーズ映画発見伝」第18回

日本のインディペンデント映画をメインに、厳選された質の高い秀作を、Cinemarcheのシネマダイバー 菅浪瑛子が厳選する連載コラム「インディーズ映画発見伝」

コラム第18回目では、野本梢監督の映画『透明花火』をご紹介いたします。

第14回田辺・弁慶映画祭コンペティション部門で弁慶グランプリと映画.com賞をダブル受賞した映画『愛のくだらない』(2021)が8月27日(金)から「田辺・弁慶映画祭セレクション2021」で上映される野本梢監督の初長編作『透明花火』(2020)。

不器用に傷ついたり、誤魔化したりしながら生きている人々の日常が交錯し、迎えた花火大会。同じ場所で花火を見上げる人々の心には様々な思いが浮かぶ……。

【連載コラム】『インディーズ映画発見伝』一覧はこちら

映画『透明花火』の作品情報


(C)透明花火

【公開】
2020年(日本映画)

【監督】
野本梢

【脚本】
三浦賢太郎

【キャスト】
高橋雄祐、清水尚弥、安藤輪子、根矢涼香、みひろ、百元夏繪、土山茜、櫻井保幸、東野瑞希、手島実優、古山憲正、道田里羽、仲原由里子、富岡英里子、河合亜由子、橘芽依、笠松七海、木全俊太、鈴木拓真、森累珠、水井章人、山崎まりあ

【作品概要】
野本梢監督は『あたしがパンツを上げたなら』(2012)で監督デビューし、2作目となる『私は渦の底から』(2015)で第24回 東京国際レズビアン&ゲイ映画祭 レインボー・リール・コンペティション グランプリ、福岡インディペンデント映画祭2015 レインボー賞、あいち国際女性映画祭2016 短編部門グランプリ、第10回 田辺・弁慶映画祭 映画.com 賞と数々の賞を受賞します。

第14回田辺・弁慶映画祭コンペティション部門で、弁慶グランプリと映画.com賞をダブル受賞した『愛のくだらない』(2021)が8月27日(金)からテアトル新宿で上映されます。

初長編作となった『透明花火』(2020)の脚本を担当したのは『死んだ目をした少年』(2015)の脚本も手がける三浦賢太郎。

あらののはて』(2021)の高橋雄祐、『きまじめ楽隊のぼんやり戦争』(2021)の清水尚弥、『シュシュシュの娘』(2021)根矢涼香、『赤色彗星倶楽部』(2018)手島実優などインディーズ映画で活躍する俳優陣が勢揃い。

映画『透明花火』のあらすじ


(C)透明花火

ナンパ塾を経営しつつ、認知症の祖母と暮らす淳(高橋雄祐)。そのナンパ塾に友達とやってきたのは女性経験がないことを引け目に感じている圭太(清水尚弥)。

ナンパ塾で少し自信を得た圭太はポスター貼りのアルバイトで知り合った絵美に一目惚れします。

バイト生活に明け暮れる楓(安藤輪子)は、偶然再会した同級生がキャリアウーマンになっていることに焦り、嘘をついてしまいます。

女子高校生の理恵(根矢涼香)は、親友のかおり(手島実優)の恋愛を手伝うことに……。

かおりが気になる達也は父が亡くなり、再婚相手の母親と気まずい2人暮らしを送っています。

どこか不器用な人々。彼らは皆誰かと花火大会に行こうと約束し、それぞれの思いを抱えたまま花火大会当日を迎えます……。

映画『透明花火』の感想と評価


(C)透明花火

本作では、下記のような5つの物語が展開しています。
・認知症の祖母と暮らす淳
・女性経験がないことを引け目に感じている圭太と圭太が恋する絵美
・同級生と再会し見栄をはって嘘をついてしまう楓
・達也に恋するかおりに複雑な思いで協力する理恵
・血の繋がらない母と気まずい生活を送る達也
これらの物語が交錯し、クライマックスの花火大会へと向かっています。

等身大であり、複雑な事情、思いを抱えながらも不器用に誰かのことを思っている登場人物たち。

世代も様々な登場人物たちのどこか上手くいかなかったり、苦しかったりする様は見ている私たちの姿でもあり、それぞれ見る人によって感情移入する登場人物は変わってくるかもしれません。

花火大会と聞くと、夏をイメージするかもしれません。しかし本作で行われる花火大会は夏ではなく秋に行われます。

夏の爽やかさとはまた違う、秋ならではの切なさ、寂しさが登場人物たちが織り成す物語をも、センチメンタルに色付けるかのようです。

登場人物たちは等身大でありながら、その背景を多く語ることはなく、絶妙な距離感で描かれています。

だからこそ、観客は登場人物に共感するとともに、自分も同じ町に住み自分を物語を生きているような感覚にさえなるのかもしれません。

不器用ながらも誰かに思いを寄せ気持ちを伝えようとしたり、見栄を張ったり、上手くいかなくて泣いてしまったり…ふと息詰まった時に、同じように不器用ながらも生きている人々を描いた本作を見て勇気をもらえるかもしれません。

まとめ


野本梢監督(C)Cinema Discoveries

誰かへの思いを抱え人間関係に悩みもがく等身大の人々を描いた群像劇『透明花火』。

『私は渦の底から』(2015)や『次は何に生まれましょうか』(2020)など、性的マイノリティやシングルマザーなどを題材にした短編を撮り、様々な賞を受賞してきた野本梢監督。

本作においても親友の恋愛に複雑な思いを抱える理恵や、再婚相手の子供と上手くいかない母親、認知症の介護をしつつナンパ塾を経営する淳など、登場人物それぞれの背景を語りすぎることなく描き上げます。

誰かの物語であり、私の物語とも思えるような、優しく寄り添う映画になっています。

野本梢Twitter

次回のインディーズ映画発見伝は…

次回の「インディーズ映画発見伝」第19回は、ラッパーの孤火が主演をつとめた鳥皮ささみ監督の『GEEK BEEF BEAT』を紹介します。

次回もお楽しみに!

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