FILMINK-vol.30「The Ideal Palace: Build It and They Will Come」
オーストラリアの映画サイト「FILMINK」が配信したコンテンツから「Cinemarche」が連携して海外の映画情報をお届けいたします。
今回お送りするのは、2019年12月13日(金)より日本全国で公開される『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』。
フランスに実在する建築物「シュヴァルの理想宮」を作った郵便局員の奇跡の物語を監督したニルス・タベルニエと、郵便局員の妻を演じたフランスのトップモデル、レティシア・カスタへのインタビューをお楽しみください。
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CONTENTS
古典への回帰を思わせる実話
南フランスで郵便配達の男が、石で真っ白な宮殿を建ててしまった…そんな信じがたい真実の物語に基づいた映画『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』。
本作よりも気分が高揚する物語があるでしょうか。
また『愛と宿命の泉』(1986)『愛と宿命の泉 PART Ⅱ/泉のマノン』(1986)などの古典的なフランス映画、真実が感動を呼ぶ映画群への回帰を思わせる作品でもあります。
33年以上にわたり、南フランスで妻とひっそり暮らしていた郵便配達員のジョゼフ=フェルディナン・シュヴァル(1836-1924)は、郵便配達用の手押車で石を集めて真っ白な宮殿を一人で建設しました。この“シュヴァルの理想宮”は今も存在しています。
シュヴァルはパブロ・ピカソも影響を受けた“ナイーブ・アート”として知られるヒンドゥー教の寺院とスイスのシャレー地方の家に触発されました。
1932年、マックス・エルンストがペギー・グッゲンハイムのコレクションの一部であるコラージュ作品『ポストマン・シュヴァル』を製作しましたが、それでもシュヴァルの作った城はフランス人たちにもあまり知られていません。
ドキュメンタリー畑出身のニルス・タベルニエ監督
本作の監督、ニルス・タベルニエもまた同様で、「シュヴァルの理想宮」を行った時の衝撃を以下のように語ります。
「ロラン・ベルトーニによる脚本を読んだ時ショックを受けました。すぐにインターネットで検索しその城を見ましたが、素晴らしかったです。私たちは本物の城で撮影を試みました。みんな絶対に一度目にするべきです。毎年約17万人もの人々が訪れているそうです」
フランスの名監督ベルトラン・タヴェルニエの息子である、54歳のニルス・タベルニエ監督は脚本にも貢献。
彼は父親の映画で役者として映画業界に入り、その後ドキュメンタリー作家としてキャリアを積みました。
『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』の制作は素晴らしい経験でしたが、彼はそれでもドキュメンタリーでの作品つくりを好むと述べています。
歯に衣着せぬタイプのタベルニエによれば、フランスの俳優の90パーセントは単に作品で“自分バージョン”のキャラクターを演じたいだけだそう。
タベルニエは、内向的で計り知れないニュアンスの主人公、シュヴァル役にジャック・ガンブランを起用しました。
なぜシュヴァルは城を建てたのか
実はなぜシュヴァルが城を建てたのか誰も知りません。映画はその謎の動機をロマンチックに仕上げます。
映画内で描かれるように、彼は3歳半で亡くなった娘アリスのためだったのでしょうか。実際にシュヴァルには3人の子どもがいました。
「アリスは宮殿の建設を開始する半年前に生まれたそうです。私は謎を謎のままにしておくことが好きです。ストーリーを語るためだけに心理的な説明をしたくはありません。何よりも感情を理解したいんです。
本作では、彼は娘や妻への愛、木や鳥などの自然のために作ったと描きました。シュヴァルは強迫観念という動機ではなく、楽しんで建設したのです。
彼は自由を好み、社会は何を考えているか、何が起こっているかなんて気にしませんでした。夢を追う彼のしぶとさ、頑固さは美徳的に映ります。また資本家ではなかったので、お金も稼ぎたくなかったのです」
シュヴァルの妻役はレティシア・カスタ
シュヴァルの妻、フィロメーヌ役を演じたのは、フランスで最も有名なモデルの一人レティシア・カスタ。
都会的なイメージがある彼女が、農民役を演じるというキャスティングは珍しく感じられます。
当初は別の女優を起用することが決まっていましたが、その予定が変更されたため、『ゲンスブールと女たち』(2010)でブリジット・バルドー役を演じセザール賞にノミネートされたカスタが選ばれました。
現在41歳の女優である彼女は、献身的で理解のある妻の役に染まっています。
「レティシアは素晴らしい女優になりました、それは確かです」とタベルニエ監督はカスタを称賛しました。
レティシア・カスタへのインタビュー
本作の前に、夫の俳優ルイ・ガレルの監督/主演作『パリの恋人たち』(2019)への出演が決定していたレティシア・カスタ。
まずは本作の撮影、その後フランス劇場で、イングマール・ベルイマンの『ある結婚の風景』(1973)のあるシーンを演じたのち、『パリの恋人たち』に出演するというハードなスケジュールだったそうです。
──本作で演じられたフィロメーヌはどのような役でしたか。
レティシア・カスタ(以下 カスタ):スクリプトを受け取った時、女性が男性を支え従順に彼の世話をする…そんな古典的な役割として読むことができました。
そして、フィロメーヌは、とても興味深いキャラクターだということが分かりました。彼女の愛、彼女の心の知性は夫を認識し彼の気持ちを理解し、信じることができるということ。
彼女は深い成熟を持ち、夫と一緒にいることに幸福を見出す強い、本物の女性なのです。
──農民役を演じるのはどのような経験でしたか。
カスタ:私は田舎の出身です。昔は森に住んでいて、いつも外にいました。
祖父は森林警備員だったので私も植物や自然について詳しくなり、都市以上に深いつながりを感じます。
シティ・ガールではないんですよ。プロデューサーは監督に「彼女がカントリー・ガール役でいいのか?」と聞いたそうですが、彼らは私の出身を知らなかったんですね。
ですから、演じるのは難しいことではありませんでした。
──いまもカントリー・ガールですか?
カスタ:もちろん!これまでも、これからもよ。
──パリで自然を見つけたい時はどこへ出かけますか?
カスタ:いつも木を見つけて、話しかけているのよ!
──彼らは何と答えるんでしょうか。
カスタ:よく分からないことがあるとき木に尋ねると、彼らは大いに助けてくれるの。
私は郵便配達人のシュヴァルに似ているのかもしれません。彼も鳥や木々に話しかけています。とても詩的ですよね。
FILMINK【The Ideal Palace: Build It and They Will Come】
英文記事/Helen Barlow
翻訳/Moeka Kotaki
監修/Natsuko Yakumaru(Cinemarche)
英文記事所有/Dov Kornits(FilmInk)www.filmink.com.au
*本記事はオーストラリアにある出版社「FILMINK」のサイト掲載された英文記事を、Cinemarcheが翻訳掲載の権利を契約し、再構成したものです。本記事の無断使用や転写は一切禁止です。
映画『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』の作品情報
【日本公開】
2019年12月13日(フランス映画)
【原題】
L’Incroyable histoire du Facteur Cheval(英題:The Ideal Palace)
【監督】
ニルス・タベルニエ
【キャスト】
ジャック・ガンブラン、レティシア・カスタ、ベルナール・ル・コク、フローレンス・トマシン、ナターシャ・リンディンガー、ゼリー・リクソン、エリック・サバン、オレリアン・ウィイク
【作品概要】
19世紀末から20世紀初頭のフランスにて、郵便配達員のジョゼフ=フェルディナン・シュヴァルによる手作りの宮殿「シュヴァルの理想宮」が完成する33年間の月日を映画化。
『グレート デイズ! 夢に挑んだ父と子』(2014)の監督ニルス・タベルニエと主演ジャック・ガンブランが再タッグを組み、ガンブランが主人公シュヴァル役を熱演。
共演に、シュヴァルの妻フィロメーヌを『ゲンズブールと女たち』(2010)『パリの恋人たち』(2019)のレティシア・カスタが、郵便局の上司オーギュストを『記憶の森』(2002)のベルナール・ル・コクがそれぞれ演じます。
映画『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』のあらすじ
19世紀末、フランス南東部の村オートリ―ヴ。
日々、村から村へと手紙を配り歩く郵便配達員シュヴァルは、新しい配達先で未亡人フィロメーヌと運命の出会いを果たします。
結婚したふたりの間には娘が誕生しましたが、寡黙で人付き合いの苦手な彼は、その幼い生命とどう接したらいいのか戸惑っていました。
ある日、配達の途中で石につまずいた彼は、その石の奇妙な形に心奪われ、石を積み上げて壮大な宮殿を作り上げるという奇想天外な挑戦を思いつきます。
そしてそれは同時に、不器用な彼なりの、娘アリスへの愛情表現でもあったんです。
村人たちに変人扱いを受けながらも、作りかけの宮殿を遊び場に育っていくアリスとともに、シュヴァルの幸せな生活は続いて行くかに見えましたが、過酷な運命が容赦なく彼に襲い掛かり…。
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