連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第6回
日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を網羅してピックアップする連載コラム、『すべての映画はアクションから始まる』。
第6回は、「イップ・マン」シリーズ(2008~15)、『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』(2016)のドニー・イェンが教師を演じる学園アクション『スーパーティーチャー 熱血格闘』を、ネタバレ有でレビューします。
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CONTENTS
映画『スーパーティーチャー 熱血格闘』の作品情報
【日本公開】
2019年(中国・香港合作映画)
【原題】
大師兄(英題:Big Brother)
【監督】
カム・カーウァイ
【アクション監督】
谷垣健治
【キャスト】
ドニー・イェン、ジョー・チェン、ジャック・ロク、ユー・カン、ブルース・トン、クリス・トン、グラディウス・リー、ゴードン・ラウ、リン・チウナン、ドミニク・ラム
【作品概要】
「イップ・マン」シリーズ、『ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー』のドニー・イェン製作・主演の2018年製作の学園ドラマ。
問題児ばかりのクラスの担任となったドニー扮する熱血教師が、生徒たちと真剣に向き合いつつ、さまざまなトラブルにも対峙します。
主な共演者としては、『モンキー・マジック 孫悟空誕生』(2014)のジョー・チェン、『スペシャルID 特殊身分』(2013)のユー・カン、『ドラゴン×マッハ!』(2015)のドミニク・ラムなど。
監督は、『イップ・マン 序章』、『イップ・マン 葉問』などのドニー主演作で助監督を務めてきたカム・カーウァイ。
アクション監督を、同じく数多くのドニー主演作品に携わり、2018年の『邪不圧正』(日本未公開)で、日本人として初の台湾金馬奨最優秀アクション監督賞を受賞した谷垣健治が担当します。
映画『スーパーティーチャー 熱血格闘』のあらすじとネタバレ
中高一貫のタックチー学園では、ここ数年大学進学者を出しておらず、香港で学力最低の学校として、教育局から補助金を打ち切られる寸前になっていました。
そんな中、アメリカ帰りのチャン・ハップが教師として雇われ、6B組の担任となります。
6Bは、祖母と2人暮らしのレイ・ワイチョン、カイチンとカイインの双子のクワン兄弟、男勝りの女子ウォン・ダッナン、そしてナイジェリア移民のホン・ジョウファの、5人の問題児が集まるクラスでした。
着任早々、生徒たちからのイタズラを軽くあしらったチャンは、レイが持っていたタバコが、いかに人体に害を及ぼすのかを化学的かつ経済的に解説。
そして、「教科書など重要ではない。学校で学ぶべきことは“知識”だ」と説きます。
しかし程なくして、レイたち5人はバスケット部員たちと乱闘騒ぎを起こしてしまい、校長のラム校長は5人を退学させようとします。
チャンは、「ここで彼らを見放すわけにはいかない」と校長を説得し、反省レポートを書かせることで事態を収めます。
学校に行かなくなったレイは、バイト先のレストランで、客として来ていたボクシングジムの経営者ローの高級ライターを盗もうとします。
その窃盗がバレて半殺しの目に遭うレイですが、ローにジムで働くよう促されます。
ローは、自身が主催する総合格闘技の試合で八百長をしており、そこでレイを使って、負けを拒否するチャンピオンに筋肉弛緩剤を飲ませようと企てるのでした。
一方チャンは、6Bの中でもなぜ5人が問題児なのか、個人記録を調べて原因の解決に当たることに。
子どもの頃に母親が家出して以来、父親が酒浸りの生活を送るクワン兄弟一家には、父親を禁酒プログラムに参加させることで、親子同士が真摯に向かい合う場を作ります。
本当はカーレーサーになりたいという夢を持つも、弟を溺愛する父親に反発しているウォンには、ゴーカートで親娘で対決させ、本心を伝えさせます。
ミュージシャン志望ながら、アフリカ系移民だとして周囲からの差別の目に悩んでいたホンには、広場で歌っているストリートミュージシャンの中に参加させ、自信を付けさせるのでした。
そしてレイの家を訪ねたチャンは、祖母との生活が困窮していることを知り、部屋にあった筋肉弛緩剤から、彼がよからぬ事に巻き込まれていると察し、格闘技会場へと向かいます。
弛緩剤を飲ませることに失敗し、ロッカーに閉じ込められていたレイを救出したチャンは、チャンピオンたちと大乱闘を展開。
それがテレビで報じられ一躍香港中の注目を浴びるチャンでしたが、同時に彼の過去の経歴も明かされることに。
実はチャンは、かつてタックチー学園の生徒でしたが、素行不良により退学してアメリカに渡り、その後海兵隊員として活躍。
しかし、一般市民も巻き添えとなる戦況に絶望して退役した後、恩師だった校長の勧めで教師となったのでした。
チャンの存在により学園全体の士気が上がり、5人の問題児たちも来たる学力試験に向けて勉強に励みます。
ところが、多動性障害を抱えるクワン兄弟の兄カイチンが、成績が上がらないことを苦に飛び降り自殺を図ってしまいます。
カイチンは一命を取り留めますが、世間やマスコミから自殺原因を問うバッシングを受けたチャンは、責任を取って学園を去ることにします。
アクション映画にしてストレートな学園ドラマ
荒れた学園を立て直そうとする熱血教師を描いた本作。
そのため、あらすじ展開も単純明快で分かりやすく、101分というランニングタイムからも察せるように、コンパクトにまとめた学園ドラマとなっています。
逆に言うと、普通の学園ドラマでは要となるはずの、「生徒を更生させる」描写がダイジェスト的に扱われているせいか、あらすじとしては深みに欠けるかもしれません。
また、香港映画ならではのベタな喜怒哀楽描写も、シリアスさを求める人には受け入れられないかも。
一方で、大きな見せ場となるアクションシーンは、数こそ少なめですが想像以上の凄まじさ。
中盤での格闘技会場内のロッカールームでのバトルと、クライマックスの教室内でのバトルでは、ロッカーや机やイスといった小道具を破壊しまくるため、観ているだけでも痛々しく迫力あるシーンとなっています。
このあたりは、長きに渡りドニーの作品に関わってきたアクション監督の谷垣健治を筆頭に、アクション指導担当の川本耕史を含む日本人スタントマンたちの活躍が光ります。
ドニー先生の体罰は悪しき者のみに下される
本作『スーパーティーチャー 熱血格闘』は、端的に言えばドニー・イェン版『いまを生きる』(1989)&『GTO』です。
他の俳優がやると大げさに思われそうな熱血教師らしいセリフも、ドニーが喋っても違和感がないのは、やっぱり人格者のアイコンとなったイップ・マンのイメージが強いせいかも。
製作も兼ねるドニーは、いじめや自殺につながる香港の教育問題に関心を持っており、本作のような学園ドラマを長らく構想していたとのこと。
日本でも、昔と違って教師の体罰が問題視されるようになった昨今、我らがドニー先生の体罰は、悪しき者のみに下されます。
とどのつまり本作も、「イップ・マン」シリーズに通底する「罪を憎んで人を憎まず」精神たっぷりな痛快作なのです。
『スーパーティーチャー 熱血格闘』は、2019年11月15日(金)より東京・シネマート新宿、大阪・シネマート心斎橋で全国順次公開。
次回の連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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