第32回東京国際映画祭・日本映画スプラッシュ『テイクオーバーゾーン』
2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭が2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの10日間をかけて開催されました。
日本のインディペンデント映画を応援する目的にてつくられた「日本映画スプラッシュ」部門。
新鋭監督とベテランが相まみえる布陣となった本年度の作品群の一つが、監督・山嵜晋平による青春映画『テイクオーバーゾーン』です。
レッドカーペットでは山嵜監督とともに映画に出演した吉名莉瑠、内田慈、糸瀬七葉も登場、映画祭のスタートを飾りました。また、本作品で主演を務めた吉名莉瑠は東京ジェムストーン賞を受賞しました。
CONTENTS
映画『テイクオーバーゾーン』の作品情報
【上映】
2019年(日本映画)
【英題】
take over zone
【監督】
山嵜晋平
【キャスト】
吉名莉瑠、内田慈、川瀬陽太、糸瀬七葉、合田雅吏
【作品概要】
親の離婚ですさんだ生活を送っていた一人の少女が、可愛がっていた弟との複雑な再会の経緯の中で揺れ動く様を描きます。
思春期の少年少女を描く映画のために設立されたジュブナイル脚本大賞の第2回受賞シナリオ(岩島朋未作)を映画化した本作。この作品で2本目の長編映画製作となる山嵜晋平が監督を務めます。
キャストには吉名莉瑠、糸瀬七葉ら10代の若手がフレッシュな演技を披露、内田慈、川瀬陽太、合田雅吏らベテランが脇を固めます。
山嵜晋平監督のプロフィール
山嵜晋平(写真・左)
1980年生まれ、奈良県出身。日本映画学校卒業後に三池崇史監督、瀬々敬久監督、三島有紀子監督など多くの監督のもとで活躍。そして2016年に長編勝監督作品『ヴァンパイアナイト』がゆうばり国際ファンタスティック映画祭2017年に出品されました。
映画『テイクオーバーゾーン』のあらすじ
中学校の陸上部で短距離のエースである沙理。彼女は3年前の両親の離婚で母、弟と別れることに。以後父と二人の生活ですさんだ生活を送っていました。
陸上部では練習をサボっても常にトップの成績をとり有頂天となっていた沙理でしたが、陸上で自分より劣りながら、優等生である部長の雪菜の存在を疎ましく思っていました。
そんなある日、陸上部でリレー種目のメンバー発表がおこなわれ、当然自分がアンカーを務めるものと思っていた沙理は、雪菜の前走となると聞かされて逆上、陸上部を辞めると言い出します。
何もかもに嫌気がさした沙理。しかしある時、街中で偶然弟と久々の再開を果たします。弟のことを可愛がっていた沙理の気持ちはつかの間安らぎを得ますが、その再開には沙理の想像しなかった出来事が関係していたのだが…。
映画『テイクオーバーゾーン』の感想と評価
青春の戸惑いを軽やかな空気感で描いたこの物語。その魅力はその雰囲気に合わせた画の作り方にあるようです。
オープニングでのジョギングする主人公・沙理の姿を追った画は、ドローンショットなどを駆使し広角でも人物に動きの出る画を作り上げており、沙理の期待と不安が入り混じった心情をうまく気持ちに投影します。
そして実写のタッチほど重くなく、かつアニメーション的な画ほどに軽くない微妙な色調の中でさまざまな角度から巧みに追った人物のショットは巧みに作られており、場面によって次々に代わるキャラクターの複雑な心情を、取りこぼすことなくスクリーンに映し出しています。
その画作りに対する役者の表情づくりも秀逸。特にメインキャストとなる吉名、糸瀬という両名とも若干14歳の二人は、物語でさまざまに起こる出来事で揺れ動く感情を、表情でダイナミックに、そして的確に表現しています。
総じて表情づくりは出演者の誰もが見事な表現をおこなっていますが、特にその二人の表情づくりは際立っており、幅広い年代の人に共感を呼ぶものとなっています。
第32回東京国際映画祭「東京ジェムストーン賞」受賞コメント
11月5日におこなわれた映画祭のクロージングにて、本作で主演を務めた吉名莉瑠が「東京ジェムストーン賞」を受賞したことが発表され、吉名が受賞の喜びを語りました。
吉名莉瑠:東京国際映画祭には初めて出させて頂いたのですが、レッドカーペットで観る景色や舞台挨拶で見る景色はとてもキラキラして いて、とても新鮮で、初めての主演作品がこのような素晴らしい場所で上映されたことがすごく嬉しく思っています。
これからもいろん なことがあると思いますが、毎日に感謝して素晴らしい女優になれるように、そして沢山の方に「吉名莉瑠」という女優を知ってもらえるようにがんばりたいです。
まとめ
複雑な家庭環境にある一人の少女を、青春の甘酸っぱい色彩感で描いたこの物語。
ライトノベル風の物語をそのまま実写化した感じでもあるその作風には賛否両論あるかもしれません。
しかしその画作りと人物の表情の描き方には並々ならぬこだわりも感じられ、まさしく“青春の一コマ”をぎゅっと凝縮したような作品として仕上がって、瑞々しい魅力にあふれています。