2019年度サンダンス映画祭の審査員特別賞『Monos(邦題;猿)』
映画『猿 (原題:Monos)』は、南米の山頂にキャンプを張る少年兵を描いた物語。
上官から猿と呼ばれる彼等の仕事は、人質として拘束したアメリカ人女性の監視です。監督・脚本を担当したのは、ドキュメンタリー『コカレロ』(2007)で監督デビューしたアレハンドロ・ランデスで、本作が長編映画第2作目。
戦争捕虜・サラを演じるのは、『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』のジュリアンヌ・ニコルソン。
映画『猿 (原題:Monos)』の作品情報
【公開】
2019年(コロンビア・アルゼンチン・ウルグアイ・ドイツ・スウェーデン・スイス・デンマーク・オランダ・アメリカ合作映画)
【原題】
Monos
【監督】
アレハンドロ・ランデス
【キャスト】
ジュリアンヌ・ニコルソン、モイセス・アリアス
【作品概要】
監督と脚本を手掛けたアレハンドロ・ランデスは、少年兵達の日常を淡々と描き、それぞれのキャラクターに音で特徴づけるアイデアを使用。
『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』でアカデミー賞にノミネートされたミカ・レヴィが音楽を担当。独特で緊迫感のある音楽は大きな話題を集めました。
本作は、南米の映画祭で数々の賞を受賞した他、2019年度サンダンス映画祭の審査員特別賞、ロンドン映画祭の最優秀作品賞、ウクライナのオデッサ映画祭の監督賞、スペインのサン・セバスチャン国際映画祭の作品賞、イスラエルのハイファ国際映画祭のカーメル賞等多くの賞を受賞。
日本のラテンビート映画祭で11月より上映が決定しています。
映画『猿 (原題:Monos)』のあらすじとネタバレ
雲海を臨む山の頂上で生活する少年・少女達。彼等は、ウォルフ、ビッグフット、ランボー、レディ、スウェード、スマーフ、ブーム・ブーム、ドッグというニックネームで呼ばれる少年兵。
彼等がメッセンジャーと呼ぶ上官がキャンプに到着し、全員の戦闘訓練が始まります。
点呼を取るメッセンジャーを前に機関銃を手にした8人が整列。リーダーのウォルフは、メッセンジャーから何か言うことが無いか訊かれ、レディと付き合いたい意向を述べます。
2人の関係を許可したメッセンジャーは、ゲリラの上層部から借り受けた牛のミルクを絞り、大切に面倒見るよう言い渡した後、戦争捕虜と同様に重要だと訓示して解散。
捕虜として拘束されているアメリカ人女性・サラは湖の畔に座り、レディとスウェードが彼女の髪をとかしています。
誕生日を迎えたランボーを全員が交替にベルトで叩き、サラも加わるよう周りから促され、仕方なくランボーをベルトで打ちます。
その後、全員で泥投げをして遊ぶ子供達。日光を浴びながら、ウォルフ、ランボー、そしてレディは手笛をしながら時間を過ごし、3人で交互にキスをしてふざけ合います。上官から許可を得たウォルフとレディは親密な関係に。
夜、少年兵達はキャンプファイヤーを囲んではしゃぎ、若いカップルの誕生を祝います。
翌日、前夜の乗りのままドッグが銃を乱射していると、流れ弾に当たり牛が死んでしまいます。
怒ったウォルフは、ドッグに穴を掘らせトタンで蓋をしてそこに閉じ込めます。
事態をどう報告すべきか話し合う中、死んだ牛の肉を無駄にせずに食べようということになり、ウォルフは責任を問われると予期して自死。
リーダーのウォルフが牛を殺したことにしようとビッグフットが提案。レディとランボーは最初反対するもののドッグを守る為に仕方なく承諾。ランボーがレディの新しい恋人になり、メッセンジャーはビッグフットにリーダーを任せます。
そんな中、キャンプが攻撃を受けます。サラの監視を任されたスウェードは、敵がサラの救助を試みれば殺すと機関銃を向けます。
スウェードを懐柔しようと、サラは何が望なのか尋ねます。スウェードは、テレビに出演して踊りたいと返答。
翌日、戦闘に勝利したグループは、敵にサラの居場所を知られた為に移動を命じられジャングルへ。
サラは、自分の見張りのスマーフが川遊びをしている仲間に気を取られている隙に、水に潜って逃げ出します。
レディが捕虜の逃走をメッセンジャーに無線で報告しようとすると、ビッグフットがラジオを破壊。
これよりグループは独立した団体となり捕虜も自分達に帰属すると宣言。ビッグフットは、スマーフにサラを発見して拘束するまで戻るなと命令しますが、ルールを曲げるビッグフットに対し、皆反発し始めます。
一方、川を泳ぎながら先を進むサラは、夜1人慣れないジャングルで野宿。翌日、橋を渡ろうとしますが、待ち構えていたスマーフに拘束されてしまいます。
ビッグフットはサラを鎖で縛るようランボーに命令。必死に抵抗するサラの首に鎖を巻くランボーは、苦しむサラを見て涙を流します。
ビッグフットと夜を過ごしたレディが目を覚ますと、目の前にメッセンジャーが立っていました。
ラジオの呼び掛けに誰も応答しなかったことを不審に思ったメッセンジャーは、サラの反発的な態度や許可を与えていないビッグフットとレディが関係を持ったことで更に疑いを深めます。
訓練を通し再度7人の統率を図ろうとするメッセンジャー。1人1人名指しして考えを述べさせます。するとうっぷんを抱えていたメンバーは、お互いを密告。
自分の監視中にサラが逃亡したことをとばらされたスマーフは、ドッグが牛を殺したこと、そして、ビッグフットが独立を宣言しサラが自分達の所有物だと言ったことを告げ口します。
メッセンジャーはビッグフットを連れて上層部が居る場所へボートで向かいますが、道中ビッグフットはメッセンジャーを射殺。
グループの下へ戻ったビッグフットに皆忠誠を誓い、裏切り者としてスマーフは木に縛り付けられます。
夜になり、ランボーはスマーフを助けて一緒に逃げようとしますが、見張りをしていたレディに見つかります。ランボーは、そのまま単独で逃走。皆で後を追いますが、ランボーは川で金を採掘する男性に保護されます。
幼い子供3人と妻と暮らす男性はランボーに食事を与え寝場所を提供。夜、ランボーは、その家族達と一緒にテレビを見ます。
翌日、スウェードは、サラの見張りを命じられます。小さな湖で髪を洗うスウェードをサラは背後から自分が繋がれた鎖で絞殺。岩で鎖を叩いて切断し拘束を解きます。
木に縛られたスマーフは、自分も連れて行って欲しいとサラに涙を流して懇願。しかし、サラは、スマーフが履いていた長靴を奪ってつま先に穴をあけて履き、そのまま後にします。
一方、子供達の戯れる声で目覚めたランボー。しかし、仲間を引きつれたビッグフットが居所を突き止め襲撃。夫婦を射殺して押し入り、ランボーは咄嗟に逃げ出します。
後から入って来たレディは、幼い子供達に冷たい視線を向けます。背後で響くテレビから、捕虜として拘束されていたアメリカ人女性サラ・ワトソンが目撃され軍事作戦が決行されることを伝える報道が流れてきます。
ランボーの後を、ビッグフット、ドッグ、そしてブーム・ブームが追跡。高台から水の中に飛び込むランボーに続き、3人も飛び込みます。
急流に飲み込まれたランボーは、下流で流れ着き軍隊に救助されます。ヘリコプターにランボーを乗せて搬送する兵士は、身元不明の子供を発見したと報告し、今後の指示を要請。
ヘリコプターの中から都会の高層ビルを一瞥したランボーは、涙を溜めて兵士を見つめます。
映画『猿 (原題:Monos)』の感想と評価
コロンビアとエクアドル人の両親を持つブラジル生まれの監督アレハンドロ・ランデス。半世紀を超えて続いたコロンビアの内戦で、多くの少年・少女が兵士として訓練を受けながら生活し戦闘に関与する様子を描いています。
思春期を迎えた子供達は性への関心を膨らませつつ課された戦闘訓練をこなし集団生活。
善も悪も無く、闘いを正当化するイデオロギーも彼等には無縁です。上官から命ぜられる捕虜の面倒を見ることが唯一の仕事である中、いざとなれば銃を手に敵と一戦を交えます。
ランデスは、ヒエラルキーの最下位に在る少年兵達に捕虜の面倒を見させることが一番安上がりだった事実を話し、紛争の時代が続く現代社会に「平和とは何か」について議論の必要性があると話します。
脚本を共同執筆したランデスは、敢えて8人の少年兵に名前をつけず、場所も明示せず、そして、敵にも名前がありません。
コロンビアの内戦をテーマにした本作ですが、世界各地で起きている紛争でも同じことが起きていると観客に伝える為、敢えて明確にしていないのです。
また、秘境とも思えるジャングルの一画に在る青く澄んだ水でサラが泳ぐ連続場面は特筆すべき点。
彼女の首には鎖が巻かれ、その先を監視役の少女が握っていますが、直後に起こる殺人と取り囲む絶景を不均衡なグラデーションの様に描写しています。
ランデスは、実際に捕虜として捉えられ生還した人達の手記を読み、見たことも無いような美しい自然に囲まれた地獄の様な生活を映像にしたかったと説明。
独特の雰囲気を持つメッセンジャー役に扮したウィルソン・サラザールは、実は元ゲリラ兵。ランデスが当初子供達の訓練に雇用したサラザールに魅力を感じてキャストしました。
そして、ビッグフットを演じたモイセス・アリアス以外は、殆ど俳優経験の無い少年・少女達です。
800人の中から選ばれた7人は、“猿”と呼ばれる少年兵役ですが、幼さゆえの無邪気さも純真な瞳も演じたものではないだけに、戦争の中で生きる子供達の現実を想像させます。
まとめ
南米の山岳地帯で集団生活を送る10代の少年兵達。雲の上にそびえる山頂で暮らす猿と呼ばれた彼等の仕事は、人質であるアメリカ人・サラの監視でした。
思春期のウォルフとレディは上官から許可を得て互いの性を探求。周囲はそんな2人を祝福しますが、リーダーのウォルフが自殺し権力がビッグフットへ移行した後、結束に亀裂が生じ始めます。
『猿 (原題:Monos)』は、機関銃を持たされた子供達にとって、戦争が日常の風景であったことを物語るドラマ作品です。