連載コラム「銀幕の月光遊戯」第48回
オムニバス映画『RUN!-3films-』が2019年11月2日(土)より、東京・池袋シネマロサ他にて全国順次公開されます。
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭、山形国際ムービーフェスティバル、しがショートムービーフェスなど数々の映画祭に招待され、高い評価を受けた3本の短編作品が『RUN!-3films-』という一本の映画となり、ロードショー公開されることとなりました。
新時代を切り裂く新たなオムニバス映画の誕生です!
CONTENTS
映画『RUN! 3films』の作品情報
【公開】
2019年公開(日本映画)
【監督】
「追憶ダンス」、「acor」:土屋哲彦
「VANISH」:畑井雄介
【キャスト】
「追憶ダンス」: 篠田諒、木ノ本嶺浩、津田寛治、青木玄徳、山﨑ケイ(相席スタート)、日下雅貴、古谷佳也、黒岩司
「VANISH」:松林慎司、津田寛治、蟹江アサド、シャア・ハック、山口康智、志村美空
「actor」:黒岩司、須賀貴匡、菅野莉央、川村亮介、松林慎司、佐野大樹、笠原紳司、龍坐
【作品概要】
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭など数々の映画祭で上映され、グランプリなどに輝いた短編作品3本が一本のオムニバス映画に。
「闇金ドッグス」シリーズの土屋哲彦が「追憶ダンス」と「actor」の監督を務め、映画やドラマなどの映像作品に助監督などで参加してきた畑井雄介が「VANISH」の監督を務めている。
映画『RUN! 3films』のあらすじ
「追憶ダンス」:
コンビニでバイトをしている鈴木は、不愉快な客にからまれて不機嫌になっていました。
そこに強盗が現れます。強盗は鈴木の顔を見て驚き、中2まで一緒だった同級生の佐藤だと名乗りますが、鈴木は思い出せません。
「いじめた方は忘れても、いじめられた方は覚えてるんだよ!」 と叫んだ佐藤は、鈴木にナイフをつきつけ、いかにひどいいじめを受けたかをとうとうと述べ始めます。
そこに警官が現れ・・・。
「VANISH」:
年間失踪者数は10万人とも言われて久しいが、その原因はわかっていない――。
「ただ静かに息子と一緒に暮らしたかっただけなんです」と切々と訴える男。その親子が抱える秘密とはなんなのか!?
死体処理が生業のヤクザは、単調な仕事に嫌気が差していました。ある日、彼は驚くべきものを目撃してしまいます。
「actor」:
売れない役者の山田はバイト先のオーナーに映画の仕事がはいったので休みたいと告げます。
オーナーが問いただすと、それはただのスタントインの仕事でした。 オーナーは「それは役者の仕事とはいわないの」と笑い飛ばし、ねちっこく山田をからかい、傷つけます。
翌日、寒空の中、薄着姿でスタンドインをこなす山田。スターが登場してお役済みになった彼に敬意を示す人は誰もいません。
邪険にされて落ち込む山田でしたが、ふと見ると、映画の撮影隊が取り囲み山田にカメラを向けているではありませんか! 戸惑う山田を皆が心配そうに、でも温かい眼差しでみつめています。
山田の役者魂にスイッチがはいり・・・。
映画『RUN! 3films』の感想と評価
爆笑必至の「追憶ダンス」
ゆうばり国際ファンタスティック映画祭、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭、山形国際ムービーフェスティバル、しがショートムービーフェスなど、全国で開催されている映画祭で、3本の短編のうちのいずれかの作品を観たことがあるという方もいらっしゃることでしょう。
筆者は2019年5月の第17回中之島映画祭で、なんの情報もないまま「追憶ダンス」を観て、その完成度に驚いた1人です。
人間の記憶のあやふやさと、負の想い出を題材に、ひとひねりもふたひねりもした池谷雅夫による脚本がまず素晴らしく、「闇金ドッグス」シリーズなどで知られる土屋哲彦監督のスピーディーな演出に思わず引き込まれてしまいました。
主人公2人を演じる篠田諒と木ノ本嶺浩の掛け合いも絶妙なノンストップアクションコメディーです。
短い時間内におさめられた遊び心やインパクト、巧みなストーリーなど、爆笑必至で、短編映画の1つの完成形といっても過言ではない仕上がりを見せています。
切れ味鋭い「VANISH」
畑井雄介監督の「VANISH」は、SFもので、切れ味の鋭い映像で独特の世界観が築かれています。
異端の人間と荒廃した社会の最底辺にいる人間とを交錯させるアイデアも非凡さを感じさせます。
ただ、こちらは短編としてというよりは、来たるべき長編の序曲という感が強く、是非その長編を完成させてほしいという思いが募ります。
現実と非現実の境を描く「actor」
最後を飾る『actor』は、この3作品の中で一番先に製作された作品で、土屋哲彦監督が脚本も担当しています。
黒岩司が扮した売れない俳優の不遇ぶりが痛々しいのですが、やがて、現実と非現実の境がなくなっていきます。
この境がなくなっていく様をどうみせるのかが作品の最大のポイントであり、この短編の勝負どころといってよいでしょう。
拳銃の使い方も含め演出も演技も非凡なものを感じさせます。
まとめ
3つの短編は最初から何か同じテーマやコンセプトで作られたわけではなく、バラバラに製作された作品です。
もしかすると3つ揃えば長編映画と同じくらいの時間になるから、オムニバスとして上映すればどうかくらいのゆるさでまとめられた一本なのかもしれません。
しかし、3作品は、コメディ、SF、虚実入り混じったヒューマンドラマというまったく違ったティストの作品にもかかわらず、どこか共通した空気を持っているようにも感じられます。
現代社会で生きることの息苦しさや理不尽さ、それらに対する怒りや嘆きといったものが根底に流れているのです。
そこにはただ絶望するだけでなく、じたばたともがいたり、したたかに生き延びようとする逞しさが存在しています。逆境に抗って人間が持つ底力のようなものが強く感じられるのです。
さらにこの3作品を1つの大きな力でまとめているものがあります。3作品共に、津田寛治が出演しているのです。
ひたすらパワフルで狂気さえ秘めた圧倒的な存在感を見せています。若手を喰ってしまいそうなノリノリの演技には思わず笑ってしまうほどです。
津田寛治が若い作り手に与えたものは大きかったと想像されます。なぜなら、3つの作品が、いずれも小さくまとまらず、豊かな想像力を伸びやかに大胆に発揮しているからです。
オムニバス映画『RUN!-3films-』は、2019年11月02日(土)より、東京・池袋シネマロサ他にて全国順次公開されます。
次回の銀幕の月光遊戯は…
29歳の若さでこの世を去った新人監督フー・ボーによる渾身のデビュー作にして遺作『象は静かに座っている』を取り上げる予定です。
お楽しみに。