マリオン・コティヤール主演の映画『愛を綴る女』は10月7日(土)より、東京・新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開。
この映画の原作は2006年に出版されたイタリア人作家のミレーネ・アグスの人気ベストセラー小説『祖母の手帖』。
物語で描かれた設定を1950年代のフランス南部プロヴァンスに脚色を変更して、17年に及ぶひとりの女性の自由への希求と、理想の愛のゆくえをストイックかつ官能的に描いた衝撃の問題作!
1.映画『愛を綴る女』の作品情報
【公開】
2017年(フランス・ベルギー・カナダ合作映画)
【原題】
Mal de pierres
【監督】
ニコール・ガルシア
【キャスト】
マリオン・コティヤール、ルイ・ガレル、アレックス・ブレンデミュール、ブリジット・ルアン、ビクトワール・デュボワ
【作品概要】
イタリアの作家ミレーナ・アグスの人気のある恋愛小説である『祖母の手帖』を、『エディット・ピアフ 愛の讃歌』や『サンドラの週末』など、海外映画祭でも熱い注目を浴び続ける女優マリオン・コティヤール主演で映画化。
コティヤールは情熱的な女性ガブリエルを演じ、アンドレ役をルイ・ガレル、夫ジョゼ役をアレックス・ブレンデミュールが共演。監督は女優としても活躍するニコール・ガルシアが勤めています。
2.映画『愛を綴る女』のあらすじ
南仏プロヴァンス地方の小さな村バルジュモンで両親と妹ジャニーヌと暮らす美しい女性ガブリエル。
理想的な愛と結婚に求めて夢見がちなガブリエルは、エミリー・ブロンテの「嵐が丘」を本を貸してくれた地元の教師に官能的な愛の手紙を綴り送ります。
しかし、あまりに彼女の大胆で恐れを知らない表現に教師は拒絶。「正気じゃない」「それが私よ」と恋に破れてしまうガブリエル。
それをきっかけに、彼女はたちまち村の人々からスキャンダラスな視線に晒されてしまいます。
ガブリエルは「愛を与えて、ダメなら死なせて」と、神の前で失恋の痛みに身悶えします。
そんな折、ときどき襲われる腹痛の発作に悩むガブリエルの狂気に、「あの娘は病気でヒステリックなの、男が必要だわ。夫になる男が」と彼女の母親は一方的な考えを押し付けます。
やがてガブリエルの両親は、地元名産のラヴェンダー摘みに従事する、スペインのカタルーニャ地方出身の季節労働者ジョゼに娘の夫に指名。
フランコ独裁政権下でレジスタンスに身を投じたジョゼは、「俺には何もありません」とたじろぎます。
しかし、ガブリエルの母親は「でも手に職があるわ」と勝手に太鼓判を押ながらも、真面目で働き者なジョゼの人柄に目をつけたのです。
母親はガブリエルには「結婚か、精神病院か」を迫り、ジョゼと愛のない結婚を迫りそのようにさせます。
ガブリエルは夫になる男に「愛してないわ。絶対に愛さない」、ジョゼもガブリエルに「俺も愛していない」と言い、2人は同じベットを共にするも両端で身を固くしながら、互いの肌も触れることもありませんでした。
そんな夫婦のジョゼとガブリエルが経営するラバスカル工務店は、ジョゼの勤勉な働きから仕事は繁盛していきます。
ある夜、ジョゼが娼婦を買いに行くことを知ったガブリエルは、漆黒のストッキングにガーターベルトをまとい、深紅のルージュを塗りジョゼを誘惑…。
官能的な夫婦の営みを激しく続け合う彼らでしたが、夫婦関係からよそよそしさが消えることはありませんでした。
ある日、海辺ラ・シオタを訪れたガブリエルは、いつもの発作に襲われた際に流産してしまいます。
医師からはその原因が腎臓にある結石と告げられ、アルプスの山麓にあるホテルのような療養所で6週間の温泉治療を受けることになります。
夫のジョゼは妻ガブリエルに、「一人になれて嬉しいだろう」と言い、一方の気の進まないガブリエルは医師に「治す気はないわ」と言います。
やがて、ある日のこと。ガブリエルは療養所で端正な美貌と、繊細な感受性を併せ持った男性と運命的な出会いで一目惚れ。
彼はインドシナ戦争に従軍した将校で、戦地で腎臓をひとつ失い、尿毒病の治療に訪れた帰還兵のアンドレ・ソヴァージュ。
ガブリエルは献身的にソヴァージュに寄り添い、互いは親密な関係となっていく…。
3.マリオン・コティヤール(ガブリエル役)のプロフィール
マリオン・コティヤールは、1975年9月30日にパリで生まれます。幼い頃から舞台に立ち10代で映画デビューを果たします。
1998年にリュック・ベッソン製作『TAXi』で注目を浴びて、セザール賞有望女優賞にノミネートされ、2004年に映画『ロング・エンゲージメント』で娼婦役を演じ、セザール助演女優賞を受賞。
フランスにとどまらずハリウッドにも進出すると、2007年に『エディット・ピアフ 愛の賛歌』米国アカデミー主演女優賞など数多くの賞を受賞。
2016年には鬼才グザヴィエ・ドラン監督の『たかが、世界の終わり』など、話題作への出演が続く国際派女優です。
マリオン・コティヤールは今作『愛を綴る女』の印象について次のようにインタビューで述べています。
「自分らしく生きられない世界で暮らす女性が、無言で反乱を起こす。それがこの物語ね。親が押しこもうとする箱に、彼女は収まらない。私がこのストーリーで興味を惹かれたのは、人は自分自身でいることを周りから否定されつづけると、気が狂ってしまいかねないというところなの」
マリオンの語るガブリエルという女性は確かに自由奔放な存在かもしれません。一方の男たちは何かに抑圧され過ぎている存在なのでしょう。
自分らしく生きるガブリエルのエロティシズムは、活きる本能や欲動なのではないかと感じたりしました。
では、マリオンはガブリエル役をどのように演じたのでしょう。
「感情の高ぶりが大きな役だったガブリエルという女性は心に情熱を宿しているから、どこで暮らしても、自由と生命力にあふれているの。威圧的な親に抗いながらも、愛してもいない男性との結婚を承諾する。結婚を親から離れて人生を探求していくチャンスだと考えたの。彼女は親から「狂っている、普通の人間じゃない」とみなされ、人格を否定されている。奔放な女性だけど、閉塞感にさいなまれているの」
“親から離れるための結婚”と“人生を探求していくチャンス”は重い言葉ですね。
特に“母と娘”という女性同士の関係や結婚と精神病院の選択も迫られましたので、意味深さを感じます。
マリオンはニコール監督も同じ女優経験があることについて、インタビューでこう答えてくれました。
「ええ、あったわ。俳優が撮影現場で経験するすべてを、監督も経験している。1つのテークが終わって次のテークに入るまでの間、1日の撮影が終わって翌日までの間、私の心の中で何が起こっているか、監督はわかっていて気にかけてくれている。こちらから説明する必要はないの 。
撮影中に経験するすべてを監督がわかってくれていると思うと、本当に心強かったわ」
ニコール監督は自身の女優という経験からや、撮影時の女優マリオンの心の揺れや行動に気を使いながら、悩みを抱えた主人公ガブリエルのキャラクターを組み立てていったのでしょうね。
そのことは2人とも女優同士だからわかる何かがあるのかもしれませんね。
また、ひょっとすると、マリオンもニコールのようになる、そんな日が来るのでしょうか…。
4.ニコール・ガルシア監督のプロフィール
カトリーヌ・ドヌーヴのヴェネチア国際映画祭女優賞作『ヴァンドーム広場』(1998)
ニコール・ガルシアは、1946年4月22日にアルジェリアで生まれ、パリのフランス国立高等演劇学校で演技を学びます。
1981年に女優業の代表作『愛と哀しみのボレロ』など多数の映画、舞台などで活躍をする一方、映画監督としては、1994年に『お気に入りの息子』、1998年に『ヴァンドーム広場』など8作品を制作しています。
ニコール・ガルシアは友人の薦めで書店で原作を買い求め、パリからマルセイユに向かう飛行機内の1時間あまりので、その熟読を終えました。
すっかり原作が気に入ったニコール監督は、飛行機が着陸した後、すぐにプロデューサーへ電話をかけ、原作の映画化権を手に入れられるか要請を出したそうです。
そこまで原作に魅せられたニコール監督でしたが、一度は原作に脚色を加える際に、現実的な構成のなさから表現の仕方に悩んだ時期もあったそうです。
しかし、主演女優にマリオン・コティヤールを迎えたいことだけは、機内で原作を読んだ時から決めていたそうです。
そのことについてニコール監督はインタビューで次のように述べています。
「「この役に他に誰がありえる?」という質問への答えが、私には浮かばなかったの。マリオン・コティヤールはこの役に必要な神秘的雰囲気を備えていて、いっしょに仕事をすれば彼女にはフランス映画にはまれな官能的なところもあることがわかるはず。ラブシーンだけではなくて、ガブリエルはあらゆる場面で官能的なの。歩いているときや自分の部屋で本を読んでいるときもね。彼女の身体はいつもおしゃべりしているの。冒頭のシーンで、ガブリエルが川の水のなかに入り、スカートがめくれて水中で彼女の性器があらわになる。それこそ私が見せたかったことなの。クールベの描いた〝世界の起源〟ね。それが、この映画のテーマなの」
確かにニコール監督が語るように、官能的で魅力ある女性を演じられるのは、マリオン・コティヤールのほかにいないかもしれません。
『ロング・エンゲージメント』や『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』などでその演技力にアカデミー主演女優賞ほか多数の映画賞を獲得したことで、あなたも納得ですね。
また、フランス人は映画をよく絵画に例えることも多いのですが、ニコール監督の引用は、『世界の起源』は刺激的でオシャレですね。
1866年にギュスターヴ・クールベが描いた油彩画『世界の起源』はオルセー美術館にある人気な作品。
ベッドの上で足を開いた裸体の女性の生殖器と腹部をクローズアップにより、写実主義のエロティシズムを表現描写したものです。
しかし、単にエロティシズムというだけではなく、19世紀のアカデミック絵画の中では理想的に記号化されたツルツルとしたヌード画が求められましたが、クールベはそのことを拒否して、フランス第二帝政の偽善的な風潮を批判した作品として美術史的には知られている名画です。
この辺りを深掘りすると確かに『愛を綴る女』のテーマは、そこにあるかもしれませんね。
クルーべの描いた『世界の起源(L’Origine du monde)』は、それまで神話的や夢幻的な絵画のみが許容されていた時代には、あまりに革命的な作品でしたからね。(画像はあえて貼りませんよ)
まとめ
恋する教師に熱烈な愛の手紙を綴る情熱的なヒロインのガブリエルや、家族から“変人”と疎まれ、両親の言いなりの望まない結婚生活を続けながらも、衝動的な愛に身を委ねるガブリエルの自由奔放さ。
この作品の新たなヒロイン像を抑制を利かせた演技で、女性の魅力にリアルさを息づかせた女優マリオン・コティヤール。
見事であると言い切れるものでしょう。『エディット・ピアフ~愛の讃歌』『インセプション』『マリアンヌ』などをご覧いただいたマリオンファンのあなたに、ガブリエルの官能的な生きざまに注目していただきたい1本です。
映画は1950年代という保守的な時代背景で描かれていました。
しかし、現代社会に生き辛さを感じている女性たちにとっては、本能的に赴くままの姿である主人公は影響を与えるに違いないヒロイン像に違いありません。
女性のあなたは必見です。
映画『愛を綴る女』は10月7日(土)より、東京・新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー!
ぜひ、お見逃しなく!