自分のお葬式をプロデュースする母親とその息子が織りなすコメディ
余命宣告を受けた73歳の母が、自らお葬式の準備に取りかかる──その時、息子は!?
ロシアを舞台に、母子の家族愛をユーモアに描いた映画『私のちいさなお葬式』が、2019年12月6日(金)よりシネスイッチ銀座ほかで全国ロードショーされます。
主人公のエレーナを演じるのは、本作が8年ぶりの映画出演となる、ロシアの名女優マリーナ・ネヨーロワです。
CONTENTS
映画『私のちいさなお葬式』の作品情報
【日本公開】
2019年(ロシア映画)
【原題】
Karp otmorozhennyy
【監督】
ウラジーミル・コット
【キャスト】
マリーナ・ネヨーロワ、アリーサ・フレインドリフ、エブゲーニイ・ミローノフ、ナタリヤ・スルコワ、セルゲイ・プスケパリス、アントン・シピニコフ、タチアナ・トゥゾワ、オリガ・コジェブニコワ
【作品概要】
突然の余命宣告を受けた女性が“終活”をする姿をコミカルに描いた、ロシア製ヒューマンドラマ。
主人公のエレーナを演じるのは、本国ロシアでは名女優との誉れ高いマリーナ・ネヨーロワで、本作が8年ぶりの映画出演となりました。
ほかに、エレーナの隣人リュドミラ(リューダ)役を、『ストーカー』(1979)や『恋愛小説』(1993)などに出演したアリーサ・フレインドリフが演じます。
本作は、モスクワ国際映画祭観客賞やウラジオストク国際映画祭観客賞といった数々の栄誉に輝くなど、高い評価を得ています。
映画『私のちいさなお葬式』のあらすじとネタバレ
ロシアの小さな村で長らく教師を勤め、定年して一人暮らしをする73歳のエレーナは、ある日の病院の診察で、心臓疾患による余命宣告を受けます。
気落ちしながら帰路に就くエレーナは、その道中で会った元教え子のワレーラから、なぜか彼が釣ったばかりの大きな鯉をもらうことに。
家に戻ったエレーナは、とりあえず鯉を冷蔵庫に入れますが、直後に心臓を押さえて苦しみ、倒れてしまいます。
数日後、病院に駆け付けた一人息子のオレクは、モスクワで事業家として多忙な日を送っており、母とは5年ぶりの再会でした。
退院したエレーナは、久々に会った息子をもてなそうと鯉を解凍しはじめますが、オレクは抱えている仕事の都合から、すぐに出てしまいます。
その夜、エレーナは台所からの騒音で目が覚めますが、音の正体は氷が解けて飛び跳ねる鯉でした。
その生命力に驚いたエレーナは鯉をタライで飼うことにし、早朝すぐに自分のお葬式の準備を始めます。
最初に自分の埋葬許可証を得ようと、エレーナは戸籍登録所に向かいますが、担当者はまともに取り合ってくれません。
それでも、埋葬されるには死亡診断書がいると告げられ、元教え子のセルゲイが勤める遺体安置所へ。
「息子が忙しくて葬儀やお通夜の準備ができないから、自分でやりたい」という恩師の心情を察したセルゲイは、こっそりと死亡診断書を交付。
意気揚々と戸籍登録所に戻ったエレーナは、戸籍を抹消してもらって埋葬許可証を入手し、その足で葬儀屋で棺桶を購入するのでした。
翌日、夫が眠る墓地の隣に自らの埋葬場所を確保したのち、隣りに住む青年パーシャのバイクに乗って食料品店に行くエレーナ。
店内でホームレス同然の暮らしをするアル中女性のナターシャに絡まれるも、エレーナは帰宅してすぐに、お通夜に出す料理の準備を始めます。
ところがそこに、パーシャの祖母リューダをはじめとする友人たちが押し寄せます。
エレーナ宅に棺桶があると孫から聞かされたリューダが、彼女の終活に気づいたのです。
しかしリューダたちはその心情を察し、料理の準備を手伝うのでした。
準備を整えたエレーナは、「恋のバカンス」を聴きながら死化粧を施し、自然死するのを待ちます。
ところが、一向に心臓が止まらないために、外に出て雷に打たれようとしますが、これも上手くいきません。
映画『私のちいさなお葬式』の感想と評価
ウォッカと「恋のバカンス」を愛する者たちのユーモア終活ドラマ
「余命宣告を受けた老人が自ら終活する」というあらすじだけ聞くと、悲壮感ただよう社会派映画なのかと思いがちですが、本作『私のちいさなお葬式』は、いたってポジティブかつユーモアたっぷりな作品です。
知的で聡明な主人公エレーナを筆頭に、口は悪くも友情に厚い隣人リューダや、仕事中なのにチョコをむさぼる戸籍登録所員といったクセのある人物たちの一挙一動が、観る者を和ませてくれます。
もう一つ、和やかな気持ちにさせてくれる要素として、ザ・ピーナッツの「恋のバカンス」のロシア語バージョンが効果的に使われているのもあるでしょう。
エレーナの亡き夫との思い出が詰まったこの曲は、実はロシアでは国民的ソングとして親しまれています。
自由を求めてウォッカを嗜み、「恋のバカンス」を愛する──本作は、そんなロシア人気質が詰まった一本でもあります。
鯉を取り巻く母子の情愛
本作の原題『Karp otmorozhennyy』には、「解凍される鯉」といった意味があります。
最初こそ厄介に感じるも、次第に愛着が沸いて鯉を可愛がるようになるエレーナ。
この鯉は、息子オレクのメタファーにも見えます。
氷漬けになった鯉は、それまで母への本心を“氷”で閉ざしていたオレクであり、解凍されることで生気を取り戻す鯉は、“氷”を溶かして母と接するオレクです。
終盤、オレクは車の鍵を飲み込んだ鯉を解剖しようとするも、エレーナに止められ苛立ちます。
その姿はまるで、母親が自分よりも鯉に愛情を注いでいるのに嫉妬しているようにも見えるのが、面白いです。
そして、最終的にオレクが取る行動によって、ようやく彼と鯉は同化するのです。
まとめ
死んでまで迷惑をかけたくないと自ら終活に勤しむ母と、命あるまで有意義な生活を送ってほしいと願う子。
互いを思いやりすぎてボタンをかけ違える親子間の葛藤と調和を描く本作『私のちいさなお葬式』は、シニア層のみならず、幅広い世代の共感を誘います。
親と離れて暮らしている方や、子どもとの会話が減っている方は、本作が親子の会話の一助となることでしょう。
映画『私のちいさなお葬式』は、2019年12月6日(金)よりシネスイッチ銀座ほかで全国ロードショー。